夢怪盗★万事屋



この世には『夢』というものが存在する。
睡眠中にもつ幻覚であり、何らかの現象でその世界に入りこみ自分、または他人に成り代わって現実世界とは明らかに違う体験をする。
それを私達は『夢』と呼ぶ。
しかし、その曖昧な『夢』にもちゃんとした世界が存在し、独立して成り立っていた。
そして、時に睡眠中の人間の意識がその『夢世界』稀に入りこんでしまう。
『夢世界』に入った人間の意識は『夢世界』の住人と成り代わってその世界に存在し、その人となって行動する。

『夢世界』

それは、自分が一つ成長できる場所。



夢の始まり



・・・もう嫌だ。

家に帰宅したとたん部屋のベッドに倒れこむ。制服はそのまま。定期考査も終わった直後なので、頭の中は真っ白、眠気はMAX。
成績優秀、顔は中の上。明来私立高校1年の桜井雅は体力的にも精神的にも参っていった。

・・・明日から学校行きたくない・・・。

彼女がそう思う理由はただ一つ。生徒会書記任命。
かなり名誉なことたがこれは彼女が望んだわけでもなんでもない。
ただ成績と帰宅部というだけで祭り上げられたのだ。
ここまでならまだ雅も我慢できた。
問題はそのメンバーだ。六人編成で自分以外全て男。

雅は学年でも有名な男嫌いだった。


事の発端は考査が終わった放課後。
教室内も緊張がほぐれ、皆、気が緩みきっていた。クラスメイトの明るい談笑を背景に雅は黙々と帰りの支度をしていた。
さっさと家に帰って寝よう。
彼女の頭の中にはそれしかなかった。連日の徹夜で今はもう立ったまま寝られそうだ。
一心不乱に帰る事に集中し、席を立ったその時だった。

「おう、桜井。生徒会のメンバーが決まったから教えておくぞ。」

雅はあからさまに嫌な顔をして声のする方に視線をやる。
担任だ。
明るくて面白い人なので生徒からは好評であるが、彼女は性格以前に性別が判断材料となってしまい、男の彼を真っ先に拒絶してしまう。
しかし、無視するわけにもいかないので雅は担任から生徒会のメンバーの書かれた紙をしぶしぶ受け取った。

「・・・・。」

受け取った紙を見て、雅は一瞬思考が飛んだ。

「・・・これって・・・」

雅の紙を持つ手は震えた。興味本位で覗いた隣の席の友人もその中身を見て苦笑した。

「先生・・・あの・・・」
「明日、初顔合わせがあるから放課後に生徒会室な。頑張れよ。」

言葉をさえぎられ、口を開閉させていると。彼は私の肩を叩いて去っていった。

・・・ふざけるな・・・。

そりゃ多少は覚悟していたさ。
でもこれはあからさまにイジメで?
何か私があんたに嫌がらせした?
多少、素っ気無い態度とったりもしたけど、これくらい許容範囲内でしょう。

雅の肩はふるふる震えた。理性のストッパーが一つ外れた。

「何が『頑張れ』よっ。ふざけんじゃないわよ、あのくそオヤジがっ。」

紙を丸めて床に投げつける。いつも大人しい彼女がここまで叫ぶのは高校進学以来初めてだ。
クラス中がシンとなってこちらに注目する。

「・・・あ・・・」

クラス中の視線を感じた雅は、貰った紙を無造作に鞄にしまい、何もなかったようにさっさと教室を出てきた。


会長などの顔や名前は元より覚えてない。
雅にとって興味のないもの=男は名前を聞いても耳に入って逆に抜けている。

雅は、ベッドに寝転んだ。

明日休めないかな・・・。
首を横にすれば、たたまれた写真立てが目に入る。
それももう過去のものだ。捨ててしまえば良いのに・・・。

そう考えながら目を閉じればすぐに瞼は重くなり、開けれなくなる。連日の徹夜で脳は睡眠を欲しがっていた。
彼女は眠りの世界へ旅立った。



摩訶不思議・異世界体験。



夢の中らしきところを歩いていく。
周りには背景はなく、ただ何もない空間をひたすら歩いていった。
頭の隅で何故こんなところにいるのだろう、とそう疑問を持ちつつもそれでも足は休めなかった。
しばらく歩くと目の前に同じ歳くらいの女の子が現れた。初めて見るのにずっと前から知っている人のような感覚に陥る。

・・・似ている。

そう、思った。
私と彼女はお互い手を合わせた。自然にからだが動く。

「・・・貴方・・・嫌なのね。」

何の事かと思考を巡らせれば浮かんできたのは生徒会の事。雅はは頷いた。彼女も雅にに合わせてゆっくり頷き、雅の手を取る。

「さぁ、おいでなさい。」

少女に連れられ私は何もない空間を走る。そして目の前に光があることが分かった。
それは近づいていくにつれ強く光り、そして私達は強い光に入っていった。
雅は強い光に包まれて雅の記憶はそこで途切れていった。



窓から強い光が指し込む。狭い部屋の一室でタスクは目を覚ました。
・・・何か変な夢を見たような気がする。
何もない空間を歩いていた。自分と似ている少女がいたような気がする。その後は覚えていない。
タスクは時計を確認し、ノロノロと起き上がる。
着替えを済まし、朝食をとり、ファイルとノートパソコンが入った鞄を持って家をでた。

タスクは晴れ渡った空を見上げた。
初任務には丁度いい天気だ。
ふと、ある事を思い出し、タスクはため息をつく。せっかくの快晴も良い気分もが台無しになってしまった。
晴れない心をそのままにタスクは歩みを進めた。

中世ヨーロッパを思わせる町並み。街には活気が溢れ、人々がそれぞれの仕事場に向かう。
目の前には大きな城が建っている。そこがこの土地を仕切るゼルフ家の城。
タスクはこの『町』で育った。しっかり治安が整った町では子供が町の中を深夜徘徊しても何も心配のないほど安全だ。
王都オスポンド。それが、この王国の名前だ。
この世界には沢山の王国が各地にあり、それぞれの歴史を刻んでいる。オスポンドは長く歴史のある、今では世界の中心都市。

そして、タスクが住んでいる場所は王都から少し離れた位置にあるゼルフ家の持つ敷地内。
それがタスクの育ってきた『町』である。
周囲は高い城壁で囲まれており、他の地とは隔離されている。
出入り口は正面の大門一つ。見た目、城門の中も外も変わりない風景が広がっている。
今では当たり前過ぎて誰も突っ込まなくなった。
ただ、ゼルフの領主が自分の国を持ちたいのだと我が侭を通しているに違いないと皆は思っていた。

しかし、それは表向きの理由でしかなく、城門を一歩くぐるとそこはもう別世界だということを誰も知る事はない。
これから先未来であっても。

タスクは仕事場へ行く前に、教会に寄った。この町の中心に立つ大きな教会。
ここではゼルフ町内ほとんどの式典がここで行われている場所だ。
平日は解放されているので誰でも立ち寄れる。
タスクは何か節目があるごとにこの教会へ立ち寄っていた。

「おはようございます、タスク殿。今日もお祈りですか?」

顔見知りのシスターが声を掛けてくれた。タスクは頷く。

「おはようございます、シスター。
今日は私の初仕事なんです。」
「それはおめでとうございます。
貴方にレイス様のご加護がありますように。仕事の無事を願っております」

シスターは胸に下げた逆十字のロザリオを包み込むように祈った。タスクも同じように祈りのポーズを取る。

「ありがとうございます」

彼女と別れ、忙しく動くシスターや教主達と会釈を交わしながら、タスクは大きな十字架の下まできた。
上には大きな天使のステンドグラスがある。

タスクは目を閉じ、逆十字のロザリオを手の中に包む込むようにして祈りを捧げた。

『レイス・ゼルフのご加護がありますように』

神として祭られているのは、昔、国を絶望から救い出した少女。
名はレイス・ゼルフ。
ほんの二年で世界に名をとどろかせ、世界の危機を救った大怪盗である。

始まりは数百年前のオスポンド。
当時王都を始め、各国では貴族と貧民の貧富の差が広がり、最悪の時代を迎えた。
貴族達は更に華やかな生活を求め、貧民達は路地に倒れ、飢え苦しんだ。
一歩町に出ると、殺しや盗みは当たり前。人食いまで出てきた。

そんな絶望の世界を救ったのがスラム出身のレイス・ゼルフ。
彼女は、二百年続いた最悪の時期を人離れした盗みと変装の技術を駆使し、ほんの十年で世の中を改善した。
その後彼女の影響は全ての国に広がり、彼女の死後わずか百年で世界は平和と呼ばれる時期に突入した。
レイスは若くして、仲間の友人に遺言を残して死亡。
その英雄話も今では都市伝説となった。未だに語り継がれるのはゼルフ家の敷地内のみ。
子供の頃は童話の代わりにレイス・ゼルフの逸話を良く話してもらったものだ。


「おや、ヒメ?」

目を開けた私の背後から聞き覚えのある声がした。タスクは嫌なものでも見るように後ろを振りかえる。
ほら、やっぱり嫌なもの。

「おはよう、朝からお祈りとは感心だねぇ。」
「・・・おはようございます、シークル。」

タスクは祈りに来たことを少し後悔する。そういえば、彼はここの牧師の息子だった。
牧師服を着ているから、正統派な青年と見えるが、脱げば、その辺にいそうなかっこいい兄ちゃんだ。髪と瞳は綺麗な茶色。
彼はタスクの顔を覗きこみ笑う。

「今から仕事だよね?一緒に行こう」
「・・・えぇ、いいですけど・・・」

同じ場所に行くのだ。断るわけにもいかない。
タスクは盛大にため息をついて教会を出ていった。
嫌いなものは男。

公式プロフィールに書いてしまうほど彼女は男嫌いだった。


何故朝からこんな事態になってしまったのであろうか。タスクはベンチに座って今日三度目のため息をつく。

「・・・なんで男ばかりのチームに入っちゃったのかな・・・。」

仕事は六人で一チーム。
今年の生徒はかなり優秀だったため、上の気まぐれで何をどうしてこうなったのか知らないがくじ引きを行った。
結果、こんな事態になってしまったのである。これほど自分のくじ運の悪さを呪った事はない。
ふとタスクは妙な違和感を感じた。周りが全て男。そんな状態になったことが他にもあったような気がする。

・・・私はタスク?

今日見た夢を思い出すかのようにタスクは思案する。

私は誰?桜井雅。
職業は?学生。

明らかおかしい点に気付き、タスクもとい雅は頭を抱えた。
・・・記憶が色々と混ざっている?
タスクははっきりと夢を思い出した。そして結論を出す。
違う、雅として生きてきた事が全て夢になっているんだ。
桜井雅として最後に覚えているのが疲れてベッドに転がり寝てしまった事だ。
それなのに私はタスクという別の人になっている。
これは本当に夢なのか。夢にしては鮮明で現実としては受け入れ難い。
肌をつねってみると、しっかり痛みは感じる。
自分の中ではタスクとしても雅としても今までやって来たことがはっきり思い出せる。
感覚としては雅として歩んできた人生は夢で見たものということになっている。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私はこれから何をしていけば良いのだろう。
どうやったら元の雅に戻れるのだろう・・・

「お待たせ、ヒメ。」
「きゃっっ」

混乱している最中に掛けられた声に、タスクは過敏に反応した。
複雑そうな顔でこちらを見ているのは牧師の服から私服に着替えてきたシークル。

「・・・ごっごめん、びっくりさせた?」
「いえ、少し考え事をしていたもので・・・。」

タスクは平常心を必死に保って立ちあがる。
そして、ずっと気になっていたことを口に出してみる。

「一つ物申してもよろしいでしょうか?」
「何?」
「・・・『ヒメ』って言うの止めていただけますか?
一応それ今回のコードネームってのは認めますから、その・・・ここで使うのは少し・・・」

シークルは少し考えたようだが、それでもはっきり言いきった。

「それはできないねぇ。皆これに慣れちゃったし。可愛いじゃん。」

チームの中ではタスクはヒメと呼ばれ、親しまれている。
その名の由来は、今回の仕事が『アルファーノ家の姫の身代わり』で、その姫役をタスクがすることになったのでそれで『ヒメ』とつけられた。
紅一点という事もあって、反対する者は本人しかいない。

タスクは反論できずそのまま歩き出した。
何も言えない自分が情けない。

「今日が現場入りか・・・
簡単な仕事だけど頑張ろうな」

シークルがそういってこっちに笑いかける。その笑顔にタスクは少し戸惑いながらも答える。

「でも、なめてかからない方がいいです。あっ汽車のチケット取っておいてくれました?」

人が良いシークルはタスクがどんなに冷たい反応を返そうが、笑顔で話しかけてくる。
さすがに無視しては男と言えども罪悪感が湧くのでタスクは適当な返事を返すことにした。
これも数日一緒にいたので大分慣れてきた。

始めは、話す時はよく噛んでしまい、このように並んで歩く時はずっと俯いたまま相手の顔すら見れなかった。
それほど、男と共に行動するのが嫌だった。


歩いて数分で仕事場につく。
社名は『ゼルフ』。毎年厳しい試験に合格した『怪盗』と呼ばれる人達がここで拠点に働いている。
タスクもシルバもその試験を突破し見事今年から『怪盗』としての任務についている。
古い洋館のような仕事場は、外見は歴史を感じられるが、中身は最新の設備が整えられている。
外から覗けそうな窓ガラスには全てマジックミラーのような外から覗けない仕組みになっている。
この町内で重要機密を扱う場所ベスト三には入っている場所だ。

会議室と呼ばれている各チームに振り分けられた部屋に入ると、中には二人が既にいた。
パスランにカイ。
二人はいつも私よりも早く会議室にきている。
ざっと見てあと二人が揃っていないようだ。

「おはよう、ヒメ。」
「・・・。」

奥に座っていたパスランが挨拶をしてくれた。
年下の彼は、この野郎共の中ではまだ可愛い癒し系。
才能があったため、二年早く私達と一緒に卒業したのだ。
雅よりほんの数センチくらいしか背は違わない。少し癖のある銀というより青みがかった髪が綺麗だ。瞳もそれと同じ。

「おは・・・・・・!?」

挨拶しようと一歩踏み出した瞬間タスクは足がもつれてそのまま床に盛大に倒れた。

「・・・いたぁ・・・」

ちなみに床には何も障害物はない。
鞄はギリギリでシークルが支えてくれ、パソコンは無事だったが、少しカバンが傾いたため、中に入っていてたファイルが落ち見事に雅の脳天直撃。
中身がまわりに散らばった。

最悪。

突然のことに皆反応できず無言がその場を包んだ。滅茶苦茶気まずい。

「・・・大丈夫?ヒメ。っていうかごめん。」

シークルは鞄を机に置き、すぐに書類を拾うのを手伝う。
パスランもそれに参加した。
カイは何をするわけでもなく、そのまま椅子に座ったままだ。
白い髪は無造作に伸びており、表情どころか顔もよくみえない。
無口なのでどんな人かも想像できない少し不思議な人である。

「大丈夫ですか?初仕事直前にしてこけないでくださいよ。縁起悪い・・・。」
「・・・すいません。」

年下に謝っている自分ってなんなんんだろう・・・、そう少し虚しい気分になりながら雅は二人の作業を手伝う。
その時、残りの二人がやってくる気配がした。

部屋で足音が止まったな、と感じると同時に思いっきり入り口の扉が開かれた。

「遅れましたぁ 〜っっ!!」

ガンッ

「・・・〜っ。」

盛大に開かれたその扉がタスクの頭にあたり、痛そうな音を出す。
タスクはというと、声にならない叫びをあげながら頭を抑えていた。
目には涙がたまっている。
事を起こしてしまったシルバはその扉の前で固まった。
後ろにいた相棒のコルトは事の状況の察しがついたようで、大きなため息をついた。

「・・・何をしている。」

タスクの痛さは相当なものらしく、頭を抱えながら震えている。

「あっ、ごめんヒメ・・・。大丈夫?頭・・・。」

女の涙には誰でも弱い。
シルバは困り果てながらタスクの介抱に移る。
コルトは室内に入り、まだ床に散らばっている書類の撤収にかかった。

「だっ、大丈夫・・・です。」

タスクはなんとか答えたが、あまりにも声が痛々しかったので、何の気休めにもならなかった。
シルバがますます困った顔になる。彼の方も泣きそうだ。

「ホント・・・大丈夫?」
「・・・えぇ、大丈・・・」

何とか顔を上げた彼女の前に三方向から書類が差し出された。

『ヒメ。』
「・・・・」

シークルとコルトが両端から、パスランが前方から。斜め後ろにはシルバが心配そうに見ている。
ちなみに彼らの顔立ちは揃いも揃って上の上。
 余談だが、ここで働く人達は基本的に顔の容姿がが中の上以上。
怪盗として働くためには容姿がいいのは絶対条件である。
そんな素敵男子に囲まれたタスクは一瞬固まってからすぐに我を取り戻した。
心臓の動きが早くなってきている事が容易く感じられた。

「あっ、ありがとうございますっ。」

テキパキ書類を受け取ってタスクは立ち上がる。これ以上密着してもらっては、心臓が持たない。
必要以上に男に関わらないタスクは今まで男と話したこともなければ近くに寄ったこともない。
頬が熱くなることを感じながらタスクは、即机に向かい書類を入れ直した。


それぞれが席につきチーム全員がそろう。

「では、最終打ち合わせするので座ってください。」

タスクの言葉に皆、耳を傾ける。扉に頭を打ってから数分立つが、まだ目に涙がたまっているのは痛みが引いてない証拠だろう。
今回身代わりを頼まれたアルファーノ家は令嬢が暗殺される疑いがあることや、どうしても出席しなければいけないパーティが二つ重なってしまった。とかいう普通の理由ではなかった。
何でも令嬢が身分が違う男と恋に落ちてしまい、手紙や電話で交流を深めていたが、思いきって二泊三日、二人で旅行に行きたい。という本人から直接依頼されたものである。
なんとまぁ凄いことを実行なさる姫様か。

そもそも『怪盗』と呼ばれているのにどっかの令嬢の身代わりなんかしているのだろうか。
実はここ数百年世界は平和になり、ゼルフが手を出さなくても金回りが良くなった。
昔は金持ちから宝石や金品を盗み、それを金に代えて、人為的にゼルフがいろんな所に回していた。
しかし、今ではほとんどその必要がなくなった。

現在では、時代も変わりゼルフは、『怪盗』という職業を残しながらも実際は万事屋として裏世界で好評大活躍。
仕事内容は、身代わり、ボディーガード、仕事の助っ人、探偵、果てには暗殺まで幅広い。
勿論期間限定。金さえ払えばどんなくだらないことでも、悪事にでもゼルフは首を縦に振る。
その他ゼルフの本来の仕事。
核に迫る方面の仕事になると、世界の安定のために邪魔な組織を排除したり、機密情報を盗んだりとこちらは闇の部分。

勿論、そんな万事屋を仕切るゼルフを世界の核だなんて気づいているものは誰もいない。


タスクは今まで立ててきた計画とまとめてざっと話したあと時計をみた。

「以上。何か質問はありますか?」
「アルファーノ家に行けば後はもう自由にしていていいんですか?」

シルバが手を上げていった。

「派手に動かないのであればいいですけど・・・。」

怪盗採用試験を合格したメンバーだ。変なヘマはしないだろう。
しかも個人的能力で言えばここは最高のチームと言える。タスクは彼らの能力に付いては信頼していた。
が、次彼の口から飛び出したのは予想もしない自由行動だった。

「じゃ、ついたらヒメんとこでゲームしよっか。」

・・・は?

「まずはトランプから始まりテレビゲーム。あと何がいる?」
「ボードゲーム」

シルバとシークルが主に盛りあがっている。
それにパスランとコルトも入り『アルファーノ家でお泊り会』というノリになっている。
止められそうもない展開にタスクは汗をかくばかりだった。

何考えてんのよ、この人達・・・っ。というか私の部屋って私絶対参加っ!?
黙っていたままでは動揺を隠しきれないので、タスクは思いきって意見してみる。

「あの・・・一応、パスランはここに残って、シークルはアリスについて行って頂きたいのですが・・・。」

会話はタスクの声でピタリと止む。
そして気づいたかのように四人は頷いた。
やっと真面目にしてくれると安堵したタスクの安らぎはほんの数秒であった。

「じゃ、オンラインゲームだな。通信対戦のトーナメント。」

ああ言えば、こう言う。
この人達に何を言っても勝てそうにないとタスクは悟った。
これから本当にこの人達をまとめていけるのだろうかとそう考えると少し先が暗い。
タスクは時計を見て気持ちを切り替えた。一番に優先すべきは仕事。

「・・・皆さん、時間なので行きましょう。
今日の午後にアリス姫と接触。入れ替わります。
その際私の護衛はコルト。
そして、アリス姫にはシークル貴方がついてください。
シルバとカイは先に城に潜入。
パスランは悪いけど、ここで雑務をお願いします。

一応、調べて欲しいこととかあるかもしれないですから、会議室にはずっといてください」

『了解。』


タスクは立ち上がってファイルを鞄の中に入れる。他の四人も立ち上がりタスクに続く。

「パスラン。留守番頼みます」
「はい、いってらっしゃい」

パスランは立ち上がって礼をする。
彼はここに残って、彼等の指示係を担当する。
これは主に敵の所に侵入する際の指令部なのだが、今回などの身代わりなのではほとんど意味のない仕事である。
パスランは一人になった部屋でこれからどう時間を潰すか思案し始めた。


タスク達は、荷物をもって、城門に向かった。
ゼルフ家の敷地を出る前には必ず審査をしなくてはいけない。
この城門は作った当初、王都の中央から反発があったが、裏の方でゼルフがしっかり城を支えていたのでいつしか黙視される事になった。
この任務にあたる指令書と自分のナンバーを門番に言う。
ここを抜けるには少し時間がかかるのだ。
タスクはふと町に目をやるとこちらにやってくる見知れた二人を見つけた。

「フロート!!」

向こうもこっちに気づいたようだ。フロートと呼ばれた少女がこっちに向かって走ってくる。
ふわふわのウェーブのかかった薄青の髪に丸くて大きな瞳。
にこりと笑えばまるで天使、女神様のよう。そんなフロートとはタスクの昔からの友達である。
彼女は現世のレイス・ゼルフとも呼ばれ、稀にみない才子なのだ。彼女は思いっきりタスクに抱きついた。

「きゃーvvなんか抱きつくのも久しぶり。
大分チームにはなれた?男ばっかだから変なことされてない?」

昔から彼女はタスクに過保護である。それは傍から見れば一目瞭然。
だが、タスクの方はというと全く気づいていない。
久しぶりに会った親友に嬉しく思いながらも、今までの日々を思い出してタスクは顔を渋らせる。

「・・・別に皆優しいよ。良くしてくれるし、頭いいし」
「本当に?本人達の前だからって別に嘘言わなくたっていいのよ」
『・・・オイ』

タスクの後ろにいた四人の青年が同時に突っ込む。
彼女ら天才と呼ばれる人達だが、その多大なる才能のつけとして多重人格が備わってしまったらしい。
味方にすると天使だが、敵にすると悪魔だ。
彼女はいつも猫を被っているらしく、タスクとあと偶然にも本性を知ってしまった人達の前でしか本音を出さないのだ。
ばれていると思ったのだろうか、タスクのチームの人と過ごす時は素で接している。

フロートの天使の笑顔は人々を癒し、もはや彼女は学園のアイドルでファンもたくさんいる。
今もそれは変わらないが何故か私のチームの皆はフロートには全く目もくれない人たちだった。
そんな人種は珍しい。というか、多分私達のチーム以外は全てフロートかもう一人の天才に憧れを持っている人達だろう。
フロートは私を抱きしめながら、唖然とその光景を見ていた男達に鋭い視線を向けた。

「貴方達。タスクに何かあったらただじゃ済まされないですからね。心して置くように」

ビシっと決められたセリフに四人は口を引きつらせた。
いくら自分達に才能があろうが、やはり根からの天才には勝てそうにもない。タスクもこれには苦笑。

「大丈夫だよ、むしろ私の方がへましてしまいそうで・・・」
「タスクは完璧よ。自信を持って行ってらっしゃい」

どこぞの馬鹿親子か畜生。

そしてそうこうしているうちにもう一人の方が追いついてきた。
こちらがもう一人の才子グレーブ。
イケメン代表の彼はフロートと並べば、この世に一つとない超お似合いカップルなのだ。
世間体ではお互い才子同士成績を張り合い不仲・・・となっているが、実際のところは

「全く・・・いきなり走っているから驚いたぞ」
「ごめんなさい。タスクがいたものだからつい・・・」
「これから街に出るんだし、勝手な行動はしないでくれ。心配する」
「分かってるわ。もう絶対グレーブから離れない」

・・・ごちそうさまでした。

ブラックコーヒーも激甘になってしまうほどの会話を繰り広げられる馬鹿ップル。
ここまで堂々としていて、二人の仲に気づかない彼らの信者達の目は節穴だろうか。
タスクはそう思いため息をついてから反論に出る。

「はい、その辺でいいかしら、逆仮面夫婦?」

ほっておくと永遠とやっていそうなので。逆仮面夫婦とは通常の仮面夫婦の逆なのでそうつけさせてもらった。

「そういえば、・・・貴方達も今から出発ですか?」
「そうよ。何せ、場所は観光名所のディアマンテ!海あり山あり、娯楽あり。これは楽しんでこなくては損でしょ。」

仕事しに行くんですよね。貴方達。
何も言えなくなったタスクを可愛く感じながらフロートは続ける。

「まぁそれは冗談として、私達がチーム一緒に揃っちゃったから初めからSランク任務押し付けられちゃったわけ。
流石に普通の人には行かせられないでしょ?だから始めに私達が下見に行くわけ。
・・・メンバー考えろっつーの馬鹿上司共が」

チームをくじで決めてしまったためこの二人が揃って同じチームになってしまった。
彼等は『運命』と言って喜んでいたがその結果がこれだ。
その戦力が高すぎるため上の方も期待しすぎてSランクのものを押し付けてしまったのである。
しかし、彼ら以外は普通の人達。レベルはそこそこ高いがいきなりSというのは酷だろう。余談だが、私達のところはC〜Bと初級レベル。

「・・・気をつけてね・・・。フロート」

流石に、いきなりSというのはいくら天才であろうと少しきつ過ぎるのではないだろうか。信じてはいるが胸に不安の陰がよぎる。

「大丈夫よ、私は心配ない。いざとなったらグレーブが助けに来てくれるから」
「・・・それはまた素敵な王子様で」

皮肉の一つも言ってやろうとしたとき、許可が下りたらしくシルバが許可書を持ってきた。

「ヒメ、許可が下りましたぜ」
「あっ、ありがとうございます」

シルバが渡した許可書を丁寧に受け取りお礼を言う。
フロートはそれを面白そうに見ていた。タスクは置いておいたキャリーバックに手を掛ける。

「では、いきましょうか」
「あぁ・・・じゃ、向こうにいるカイとシークルを呼んでくるから」
「ありがとうございます。
じゃ、フロート。これで。本当に気をつけてね。絶対無理しちゃ駄目だからね」
「分かってる。タスクも良いお姫様演じなさいよ。後で写真見せてね」
「それは無理」

そういって、タスクはフロートに手を振り四人と一緒に門を出た。
フロートはそれを見送ってグレーブを見た。

「俺だけを見てくれるんじゃなかったけ?」
「タスクは私が一番に認めた子よ。グレーブも同じだけの評価をしているけど。
それにしても結構良い王子様達が揃っているじゃないの。少し妬いちゃうなぁ・・・」
「俺の方が妬けてくるよ」

フロートはニコリとグレーブに微笑んで彼の腕をとった。

「さぁ、こんな狭苦しいところはおさらばして外の世界を満喫しましょう」


   

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