最後の選択


広い広い草原の中で、二人は途方にくれていた。
雲はゆっくり動き、形を変える。
太陽もゆっくり、弧を描いている。
悩み事なんかも全て小さいことに思える大自然の中でも、二人は途方にくれていた。
むしろ、その大自然が悩みを大きくさせているのかもしれない。

雅はため息を一回つき、隣のシンに言った。

「・・・さて、どうする?シン。」
「何がだ?雅・・・・」

あれから一年が経った。
今でも信じられないが、シンの家までたどり着いて、挙句の果てに師匠のところまでにも帰ることができたのである。
この方向音痴の二人がだ。

「お前の家についた。
師匠に会った。
一人前と認められた。
さて・・・・これから、どうするか・・・・」

―――お前はもう立派に生きていける。
これからのことは自分で決めなさい。

縛られた鎖が完全に解けた瞬間だった。
それと同時に目の前の道がすべて消えてしまった瞬間だった。


正直ここまでは早く終わるとは思わなかった。
一ヶ月前まで考えることのなかった『これからのこと』を考えないといけなくなってしまった。

「・・・シンはどうするんだ・・・?
また家に戻るか??」
「そうだなぁ・・・・。
雅もみただろ??あの家のかたくるっしさ。
もう、最悪・・・」

シンの家には一応招かれはしたが、その時点でもうそこから出て行きたかった。
いってみれば、城だった。
更に言えばにシンは一国の王子だった。
初めてそれを認識したとき言葉がでなかった。
・・・何故この男はそういう大事なことを言わないのだ。

「絶対、帰りたくないね。」
「あっそう・・・・
私は・・・・どうしようか。
このまま巫女でもなろうか・・・・
適当な村に落ち着くのも良いかも・・・・」

ミコトみたいになれないとは思うが、災難くらいから助けることはできる。
老後のことを考えると、やはり家に落ち着いたほうがいい。

「・・・どう思う?シン。」
「・・・・お前が巫女になったら俺はどうすりゃいんだよ。」
「好きにすればいいだろう?」
「そんな無責任な・・・・」
「お前の将来までなんで私が考えないといけない・・・・。
自分のことで精一杯だ」

でも正直、その場所に留まってしまえるかどうか不安だった。
巫女なら一日中、外に出ても村の中だけになってしまうだろう。
今まで平気で世界各地を走り回っていたものにとっては苦痛でしかない。

「・・・雅、本当に巫女になる気か?」
「あぁ・・・これ以上方法がなければな・・・。
将来安定、老後も安心」
「雅はそれでいいのか?」

シンが心配そうにこっちをみた。
むしろ、悲しそうだ。

「さぁ?
もっと色々したい・・・かも・・・しれないが。
私に向いているのはそれくらいしかないし・・・」

昔から魔術などの戦闘法しか教わってない自分が社会についていけるはずがない。
きっと、巫女は天職であろう。
でもそれは同時にシンとの別れがついてくる。
神の妻になるのだ。男と一緒にいられるわけがない。

「・・・シン・・・どうする?
お前についていく方が面白そうだったら私はそれについていってもいいが・・・・」

シンは驚いて雅を見る。

「勿論将来の保障があって、一生、飽きない・・・が条件だが・・・」

そこまで言って雅は後悔した。
・・・何故、自分がそこまで言う必要がある?

シンは何かを真剣に考えているようだ。
雅は黙って彼の答えを待っている。

「まず、金が問題だな・・・。
しゃあねぇ・・・・家戻るか」
「・・・・は??」

家??

あんなに嫌がっていたシンが、何故急に家に戻ると言い出したのか雅には良く分からない。
確かに・・・将来は安定だ。

「そういや、思い出した。
あのうちが収める都市なんだが・・・無宗教であまり魔よけとかそういうプロの人がいないんだよ・・・。
あっても、その辺の自衛隊。
雅もわかると思うけど、人を退治するのは一流の騎士でもいいけど妖怪を退治するのは、一般人には無理だ。
だから、雅・・・・」
「・・・・まさか・・・・お前の家の治めている都市の巫女をしろと??」

シンは笑う。

「別に巫女に限定しなくてもいい。
退治屋みたいなもので。
だったら、神様じゃなくて、俺の彼女」
『・・・・・・・。』

雅は絶句する。

「うちの治めている土地はかなり広いんだぞ。
全ての町を周るにしても一年は掛かるし、都市にはかなり悪い気が集まるらしくて魔物とかが絶えないんだ。
親には適当にいって、援助してもらって・・・・
勿論、別居。
こういう理由ならきっとわかってくれるし、家は兄貴がいるからそのままついでもらって・・・・。
どうだ??
暮らしも困らない上に、仕事もできる。
・・・・で、また面倒くさくなったらトンズラしようぜ」
「・・・・いいのか?そんな適当で・・・・」
「いままでなんどかやってきたし、大丈夫だって。
そうと決まれば早速出発だ!」

シンは立ち上がって大きな伸びをする。
風が自分達を後押しするように強く吹いた。

二人は歩き出す。

「・・・雅」
「・・・なんだ?」
「・・・・絶対、俺は雅を手放さないからな」
「・・・・・?」

もう、絶対に手放したくなくなったんだ。
何かの弾みでそう思った。



時間は経った。
あの出会ったころとの戦闘力、魔力ともに比ではない。
お互いいろいろ成長したかもしれない。

たまに、自分達の魔力を察知して、龍達が訪ねにきてくれるときもあった。
龍達も変わっていた。

サクラは結局、サイの家で暮らしているらしい。
二人共背が伸びて立派な青年と少女になっていた。
一応、将来はその家を継ぐらしい。
それが、サイとその家の本当の子供からの願いだったから・・・・。

アスもカイラの村に落ち着いているらしい。
アスも村の人になれて、まぁ今は平和な暮らしをしているらしい。

ライとダクトは、今も魔物退治の旅をしている。
自分達が人間に対して償いの意味もこめて。
人間の体になり、魔力もかなりなくなったが、それでも人以上は持っている。
悪しき者を退治するには十分であった。
あの、とげとげした性格がかなり丸くなり、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの馬鹿ップル(死語)ぷりである。
一度、『あんたたち誰・・・・?』と問いたくなるほどだった。


ミコトは順調に巫女の仕事を続けているらしい。
一応、シンの住所を教えておいたら、手紙が届いていた。
いつか手紙でも書こうと思う。

みんな変わっていく。


「さて、帰ったら頼まないとな・・・・。
一ヶ月以上あの家に住むことになるが覚悟しておけよ。」
「・・・・わかっている。
別に、急ぐことはない。
これからは縛られるものもないし、ゆっくり行こうか?」

雅の柔らかい笑顔が見られた。
シンもつられて笑みがもれる。
ずっとこんな日が来るのを待っていたのかもしれない。
大自然の中大好きな人と歩く日を・・・。

改めて家を飛び出してきて良かった。とシンは思った。

これは誰にも語られることの無い伝説。


    

ーあとがきー

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もう、そのままその後。って感じですね。。

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