七日後、秀麗がの元に訪ねて来た。
秀麗の回復は皇毅からの文で聞いていたが、意外に接触してくるのが遅かったように思える。
この件は御史台が主となっているため、秀麗が目を覚ませば秀麗に舵を任せようと動かなかったのだが、秀麗の文はには届かなかった。
秀麗の元気そうな姿をみて、は少し安心した。清雅がまだ目覚めてないのか少し笑顔がないように思える。

・・・良かった・・・」
「大丈夫、秀麗ちゃん?」
「私はばっちり寝て元気回復したわよ!
もうバリバリ働けるわ。・・・ただ清雅が・・・」
「フン、あそこまでしてあげたんだから目覚めてくれないと困るわ。
それに葵長官第二号なんだし、刺されたくらいじゃくたばってくれないわよ」

肺に致命傷を受けての回復と皇毅第二号の接点が見当たらないが、なんとなく説得力があった。
秀麗派頷いて、のあけた空間に秀麗は座った。
相変らず本が片付けられない室だ。秀麗は何も言わないが内心驚いていることだろう。
・・・まだ読んでないものもあって、片付けられないというのも正直なところであるが・・・。

「うん、そうよね」

秀麗は、の机案の開いた部分に肉まんを置いた。
は手の届く範囲にある茶器に手を伸ばす。
・・・熱い湯が足りない。
内心チッと舌打ちをしながら立ち上がった。
せっかくの秀麗の来訪だ。美味しい茶をあげたい。


肉まんと茶を飲み少し早いお茶の時間は終わった。
何か話しにくい雰囲気が室に満ちているのは気のせいだろうか。
秀麗はをチラッとみて覚悟を決めたようにいった。

「・・・ねぇ、。あの時・・・助けてくれたのよね?」

はきょとんとした。
あの時とは勿論秀麗と清雅を兇手から助けた時のことだ。

「・・・覚えてるの?」
「・・・清雅が刺されて、どうしようもなかったときが駆けつけてくれたのはなんとなく覚えている。
でもあのときのこと本当に良く覚えてなくて・・・夢かもしれないんだけれど・・・」

夢にしてしまおうか、は悩んだ。
隠し通すにもそろそろ限界がある。
この前絳攸にも違和感を持たれていた。
聡い秀麗もそろそろ何かに気付いているはずだ。

「・・・あー、まぁ・・・そうね。
もう少し早く行けば良かったのだけれど・・・」
「燕青からと囚人の稲刈りをしていたって話を聞いたわ」
「あぁ、あれ秀麗ちゃんが考えたのよね。
本当良い案だと思うわ。人件費も今の食料難を少しでも改善するためにね。
良い労働力を牢に閉じ込めてご飯だけ食べさせておくってのも勿体無いしね〜」
「・・・なんで、私達が襲われたって分かったの?
急に帰ったそうじゃない」
「・・・え・・・」

あらぬ事を疑いを掛けられている気がする。
そういえば、秀麗には自分の正体を一つも見せていない。
・・・が藍州でも突然会っている上、今回の襲撃事件に偶然立ち会ったこと。
そう思えば全てが怪しく見えてくるのも分かる。
これからどんどん色んなことが起こる。
全てを隠していけるのも難しい。

「・・・朝廷に急ぎの仕事を残してきたことを思い出してね。
走っていったら十字路で秀麗ちゃんが走っていったのが見えたから何事かと・・・」
「馬で急いで行くほどの案件だったの?」
「・・・歩いて戻るのが面倒くさかったのよ。それだけ・・・」
「あそこには兇手がいたのよ。よく無傷でいられたわね」

清雅も手こずっていたのに、あの人数を一人でこなせるわけがない。
は秀麗の目をじっと見た。

「・・・・・。
よし、秀麗ちゃん。結論から聞こうか」
「・・・が、『鳳麟』じゃないという証拠が欲しい」

は目を丸くした。
数日自分に接触がなかったのは一人で鳳麟の候補を絞っていたからか。
味方にも目をつけたということは大分頭が回るようになってきた証拠だ。
秀麗の前では一応一般人として振舞っていたが、・・・良く考えればどう見ても異端だ・・・。
は腹を括った。

「・・・何をもって証拠にできる?」
「例えば、家系図。を生後から今までどうやって生きてきたか証明できる物、人。
・・・貴族、大官・・・色々鳳麟が誰かについて考えてみたわ。
・・・身元が分からないのは他にもいるのだけれど・・・」
「私が一番怪しいの?」
「・・・ごめん、ずっと傍にいるわけじゃないからはっきりと違うとはいえなくて・・・。
これから捜査するに当たってを頼りにしたい。
だから、無実とはっきりさせておきたいの」

残念ながら自分を証明できるものはこの世に存在しないかもしれない。
ずっと一緒にいた人は死んでしまった。
後見となる霄太師とはほとんど顔を合わせていない。
鳳珠にも色々秘密に行動している。

「・・・それは無理かもしれないわね。
母はもう死んでしまったし、黄尚書とは国試を受けるちょっと前に会ったばかり・・・」
「じゃあ、国試はどうやって受けたの?
私達厳選な審査を受けて入ってきているわ。・・・身分が証明できないと・・・受けられないわよね」

鋭い。
御史台はその権限ですべてを調べることができる。
の正体が世間にバレたらこの騒動をさらに大きくしかねない。
は降参の意として手を上げた。

「分かったわ・・・。
でもこれは秀麗ちゃんと私だけの秘密。
清雅や葵長官に何があっても話さないこと。これを条件になら話してもいいわ。
・・・約束できる?」

秀麗は口を引きつらせた。

「凄く・・・嫌な取引ね」
「それほど重要なことなのよ。
あの清雅が掴めないほど情報が隠されてるってことだし・・・。
私自身あまり外に出てないから今更聞き込みをしたって無駄だしね。
大丈夫、私は主上の味方よ。
・・・これだけで信じてくれるなら嬉しいんだけれどな」
「・・・信じられないからわざわざこうやって話をしてるんじゃない」
「ですよねー。
聞く?びっくりするとは思うけど・・・。
あー、でも秀麗ちゃんならふーん、そう。で終わっちゃうかもしれないわ」

清雅が調べても掴めなかった正体。
秀麗も腹を括った。

「・・・分かったわ、話を・・・聞くわ」

は周囲の気配を探った。
特にこちらに向けての視線はない。
は腰にあった、扇と短剣を秀麗の前に置いた。

「これが私の身分を証明できる唯一のもの。
家にいけば着物とかもないわけじゃないけれど・・・。
これは私が父上と母上から頂いた護身道具」

見事な細工の扇と短剣だった。
しかし扇はずっしりと重くいくらか傷もついていた。
短剣も同様に使い込まれた後がある。
これでが誰なのか分かるのだろうか。
造りがとても細かいものであるので、高い身分であるということは分かった。
扇と短剣の両方についている宝玉を見つけた。
その色は紫。
秀麗は目を細めた。

の過去をすべて隠せた理由。

「・・・・・・黄尚書だけじゃ国試のときの身分証明は無理よね・・・」
「えぇ、国試の身分証明は霄太師に任せたわ」

霄太師・・・。
でも、ありえない。
彼女がここにいることは普通、ありえないはずだ。

秀麗はを見た。
黒い瞳に綺麗な銀色の髪。
・・・昔はもっと癖のある髪だったような気がする。
・・・劉輝のような。
気付けばの容姿も少しずつ変わってきている。
その黒い瞳がリオウのそれを重なった。

「・・・、貴方・・・もしかして・・・」

秀麗の確信めいた目つきには正解の判子をポンと押した。
秀麗から扇と短剣をさらい、元の場所に戻す。

「そのもしかして、だったらどうする?
・・・未来の義姉上」

劉輝と秀麗の婚約の話は風の噂で聞いていた。
まだ決まったわけではないが・・・今の状況をみるとそうならざるえないだろう。
もう少し幸せな形でそれが決まって欲しかったが・・・仕方ない。

「・・・な、・・・」

少し顔が赤くなる秀麗にはニマリと笑んだ。
なんだ、まんざらでもないじゃないか。
こういう反応をしてくれればお互い少しは報われるのではないだろうか。
・・・秀麗の体が長くもってくれればさらにいうことがないのだが。

「多分、秀麗ちゃんの思っていることは正解よ。
父は紫戩華、母は・・・風雅といわれている。元は名がなかったみたいね。
生まれは縹家。・・・父が・・・私から見れば祖父が現縹家当主縹璃桜って事になるわね」
「・・・ちょっと待って・・・
それって・・・」

秀麗は自分のことを棚上げしてをまじまじとみた。

「父が先王、母が現縹家当主の娘・・・」

ということは・・・
目の前に埃だらけの書物に囲まれて仕事している少女は・・・
劉輝や藍紅家当主を差し置いてこの世で一番高貴な人物となるのではないだろうか。
当のは全く気にした様子もないが。

「・・・でも紫家の姫は縹家に行く決まりじゃ・・・」
「私も小さくて何故そうならなかったのかは知らないんだけれど・・・。
それも朝廷に入って初めて知った事実だしね。
あまり縹家とウマが合わなかったてのもあるみたいだけれど。
・・・まぁ、そんな驚くことはないわよ。
だって、そうでしょ。
紅家の第一長子の一人娘がこうやって官吏やってるんだし。
貴方だって私みたいに隠れ姫様がいない限り、この国で確実に三位にはいる超高貴な姫なのよ。
藍家の十三番目の姫なんて全く目じゃないわ。自覚持ったらどう?」

秀麗も改めて言われて驚いた。
紅家直系の姫というだけでも凄いのに、この国で三位には入る超高貴な姫・・・。自分が?
超高貴な姫の頂点が目の前にいるだなんて世の中狭すぎる。

「本当は、官吏になって名を馳せてまた『紫姓』を戻して・・・兄上の手伝いができれば良いと思っていたのだけれど・・・。
・・・なんか大変な世の中になってきたわね」
「でも、なんで紫家の姫が路頭に迷っていたのよ・・・おかしいでしょっ!?
普通後宮で過ごしているはずじゃ・・・」

劉輝だって母親がいなくなっても後宮でなんとか暮らしていた。

「一応私も出来た子だったから知らないところでうっすら王候補に期待されていたみたいだからね。
父上も私に王座を譲ることは否定しなかった。
清苑公子がいなくなって、後宮は相当荒れたみたい。
劉輝兄上以外、朝廷を巻き込み王座を争って皆がおかしくなっていった。
・・・あのクソ狸、公子全員が共倒れしたら最後の保険として私を選んだみたい。
争いが酷くなる前に私を別の場所に移して、・・・結局いらなくなったらポイよ。
多分記録として私は死んでいるかなかったことにされているわ。
酷くないっ!?」

・・・も壮絶な人生を送ってきたらしい。
でもまた新たな疑惑が出てきた。

「・・・は王になりたいと思ったことはないの?」
「まさか?劉輝兄上以外ありえないわ」

そうでなくても今劉輝を王座から下ろそうとしている動きがある。
その者達がを担ぎ上げている可能性もある。
旺季が自分に接近してきたのはその可能性もなきにしもあらず。ないとは思うけど。

「・・・私にその気がなくても、見えないところででそうなっていることはあかるかもしれない。
私は味方だけれど・・・味方ができないこともあるかもしれない。
その時は見捨ててくれて構わないわよ」
「・・・・・・」

そうでなくても自分は闇姫だ。
劉輝に迷惑をかけないだけで精一杯だ。

「まぁ色々心配事はあるけど、お互い今出来ることを頑張りましょう。
これを抜けると少しくらいゆっくりできる時間があるわよ・・・多分」

は秀麗の肩をポンと叩いた。
その瞬間、物凄い寒気がした。

「・・・ッ!?」

何・・・今のは・・・。

「・・・どうしたの?」

秀麗の体が、自分を拒絶している。
自分の持っている石のせいだろう。これは異物を排除する力も持つ。
あまり秀麗にも近付かない方がいいかもしれない。

「・・・ごめん、なんでもないわ・・・。
調べ物があったら何でも頼んでね。とにかく今は・・・えっと『鳳麟』探さないといけないんでしょ?」
「・・・なんでが『鳳麟』を知ってるの?」

本当に秀麗はしばらく見ない間に賢くなったと思う。

「・・・二日経っても二人共目覚めないから気になって少しだけ調べて見ようと思ったのよ。
十三姫通して百合姫に『鳳麟』って言葉をきいてあとは絳攸様に。
あとは進展ないけれどね。
・・・どう?なんか怪しい人は・・・?・・・私以外に・・・」
「・・・うーん・・・もそうなんだけれど・・・考えれば考えるほどみんな怪しく見えて・・・。
証拠がないのよね、証拠が・・・」
「鳳麟の使う判子でしょう?
あれさえあればなんとかなるかしら・・・ならないわよね。
現行犯で捕まればそれでいいけど、そんなこと敵さんがさせてくれるわけがないし・・・。
・・・・・。
・・・あ、時に秀麗ちゃん、鳳麟についてもう少し詳しく教えてくれない?
絳攸様も『紅家の救世主』やら判子がどうたらしか教えてくれなかったのよ。
紅家のお偉い様なら私昔に会っているかもしれないし・・・。
もう少し詳しく教えてくれる?」
「百合叔母様は紅家のお抱え軍師『姫家』の人間だって言っていたわ。
叔父様の当主就任式には鳳麟の席は空席で今鳳麟を知ってる人はいないんですって」

姫家・・・?
は眉をしかめた。
自分の記憶が正しければ・・・その家は・・・。

「姫家は・・・・今はもうないわよ」
「・・・え?」
「乱世に・・・父上に滅ぼされていたはずだわ。
れい・・・今の紅家当主様の就任式に出れないのもしょうがないわ。だって誰もいないんだもの」
「なんでがそのことを・・・」
「・・・父上は覇王として名が高かったからね。
表沙汰にならない裏の事件なんて、いっぱいあるわよ。
結構評判良かった父も物凄い犠牲の上に立っている。
・・・子供である私達はそれを知らなければいけないわ・・・。
・・・後に恨み辛みもついてくるからね。知らないでは済まされない。
・・・姫家もその犠牲の一つよね。
でも紅家お抱え軍師なら、紅家が守ってあげてもいいものだけれど・・・。
表立った紅家の動きはなかった・・・はず」
「・・・それじゃ・・・」
「父上の性格は気まぐれなところもあったし・・・。
姫家の生き残りをひょいと持ち帰ってきてどこかでこっそり育てていたりしたら・・・
今回のことがあるかもしれない」

そうだとしたら恐ろしいことだ。
先王が中途半端な者を生かしておくわけがない。
きっと姫家の中でも曲者中の曲者だろう。
それが敵側にいるというだけで恐ろしくなった。

「・・・・・・頭が痛くなってきた・・・」
「私もよ・・・。
清雅叩き起こして数日分の凝縮された知識搾り出してとっとと『鳳麟』捕まえないと・・・。
・・・これだけじゃ終わらないわ」

復讐対象は紫家と紅家。
清雅と秀麗が命を狙われた理由が分かった。

「・・・ごめん、・・・何か貴方まで大変なことに・・・」
「私はなんかもう・・・既に色々巻き込まれてるから気にしないで」

旺季様・・・下準備が長い分完璧すぎる采配です。
それを王様歴数年の兄上にふっかけるなんて・・・どれだけ鬼畜なんですかっ!?

秀麗は立ち上がった。

「長居してごめんね、でもまた少し進めた気がしたわ」
「私も個別に調べてみることにする。
とりあえず調べものなら私に頼んで。
あと外に出る時は必ず私か燕青を付けること。分かったわね」
「・・・ありがとう・・・」
「・・・秀麗ちゃんは凄い良くしてくれているわよ。
・・・私こそお礼を言いたいわ。・・・身体まだ本調子じゃなさそうだし無理は禁物だからね」
「・・・え、うんそうね」

秀麗は笑って出て行った。も笑顔で手を振った。

「・・・旺季派の誰かの中に『鳳麟』が・・・」

晏樹様・・・?それにしては何か整いすぎている。
これでは晏樹様を怪しんでくれといっているようなもの。
はうっすら浮かんだ顔を消した。
・・・まさか・・・それではあまりにも悲しすぎる。


    

ーあとがきー

なんか色々苦戦したのですが・・・なんとかまとまりました。
・・・まとまりましたかね?
秀麗と推理編!・・・ただ疑われているが書きたかったのですが・・・。
秀麗は旺季が劉輝と王座争いをしているって知らないんですよね。うん。
それも教えるべきかな・・・とも思ったのですが・・・またややこしくなりそうだったので辞めました。
さて、まだこの件は終わってないのですが、予告通り新刊まで続きはちとお休みします。


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