それはまだ見ぬ挑戦者



あまりにも久しぶりだったので始めは見間違いだと思っていた。

しかしそれは見間違いなんかではなく・・・。

彼は私の顔を見つけると少し笑んだ。
周囲の人達を他へやって彼はこちらへ向かってきた。

「・・・・お久しぶりですね。殿」
「・・・彰だよねっ!!・・・え・・・本物!?」

その言葉に彰は苦笑した。

「なんですか、私の偽者がいるとでも・・・?
・・・あぁ、そういえば姉さんも紫州にいましたね」

彰は書簡を丸めながら言った。
はその書簡を見て首を傾げた。

「・・・えっと・・・それは?
あとなんで紫州に?」

書簡にはたくさんの文字が連ねてあった。
彰は書簡をみて、あぁと息をついた。

「・・・これですか?
・・・まぁ、商人辞める前に紫州の本部を見ておこうと思って来てみたのですが、見学のつもりだったのに何故か手伝わされてしまって・・・。
私の方もこちらの市場に用があったので、仕方なく二束三文で引き受けました・・・・が。
やはり、規模と歴史がある分ちょっと厳しいですね・・・。私でも少し骨が折れました。
全く・・・ただ規模のでかいだけなのに地方人を雑用に使うなんて・・・。
王都の古くからの嫌がらせですか?
・・・・まぁ私の手にかかればこれくらいは簡単に出来ますけどね。
先ほど数点落としてきたのですが、ふふ・・・王都の方もまだまだ商人としてなっていませんねぇ。
無駄が多くに散らばっている」

・・・わぁ・・・この鬼畜めが。
鳳珠と気が合いそうだな・・・・と思いながらは不敵に笑う彰を見た。
この先朝廷の仕事が更に楽しくなりそうだ。
ニコニコ笑っているを見て、次は彰が顔をしかめた。

「・・・・で貴方は?
朝廷で働いているはずの貴方がなんでここにいるのですか?
・・・まさかクビになったとか・・・」

彰の台詞には顔を青くした。

「何不吉な事言っているんですかっ!私はクビのなってません。
今日は黄尚書に頼まれた文を持ってきたんです」

はビシッと戸部の印が押された文を突き出した。

「・・・あぁ・・・茶州の件で色々全商連とありましたからね・・・
・・・・で貴方が朝廷官吏として礼をしに?」

彰の表情からひしひしと『役不足だ』と伝わってきた。
は気に入らないと彰を睨みつけた。

「・・・私もまだ下官だしそんなに家柄も凄くないんだけど・・・一応官吏ですから。
正直今朝廷から下に降りてこられる人なんて私達下官くらいしか今はいないんですよね」
「そんなに仕事は大変なんですか?」
「茶州の全商連に一日体験させてもらったけど、あの情景が常の戸部だから・・・。
大変といえば大変かもしれないわね。
今は色んな行事の決算報告が重なっているから本当てんてこまい・・・」

仕事の感覚が麻痺してきているにとって茶州全商連の修羅場など日常茶飯事なこととして認識されている。
勿論、一般人が使う忙しさとはかけ離れているため一日で辞表を叩きつけにくる官吏は多い。
は鳳珠から渡された全商連への文を見て微笑んだ。

『昼過ぎまでには帰って来い』・・・鳳珠はそういった。

「・・・それに多分休憩時間も入っていると思うんです」

昼間であと半刻以上ある。
半刻あれば朝廷と全商連を往復できる。
のそんな様子を見て彰は馬鹿馬鹿しいという風に眼鏡を上げた。

「休憩時間ですか。朝廷も大分甘いですね・・・。
誰の金で雇われていると思っているんだか・・・」
「・・・その台詞・・・あんたが朝廷にきて戸部で雑用一ヵ月してから言ってみなさいよ!」

彰は笑顔での喧嘩を買った。

「縁がありましたら・・・是非」

かかった、とは微笑した。

「縁はなくとも彰は戸部行き決定よ。
・・・あの方が彰ほど優秀な官吏をほっておくわけないからねぇ・・・裏でもう手を回してるかも・・・」
「・・・は?」

彰は何故がこんなことをいう訳が分からなかった。
この言いようでは、私が官吏になるのを知って・・・
確信する前に、が言った。

「頑張って勉強しなさいよ〜。少しでもお金に強い人がいてくれたらこっちだって楽になるし・・・」

・・・というか官吏が一人増えるだけでもこちらとしては嬉しい。
肩をポンと叩かれ、彰は一瞬思考回路が停止した。

「ちょっと・・・なんでそんな事知ってるんです!?
私はそんな事一言も・・・」

焦る彰を珍しく思いながらはいった。

「・・・だって、凜さんが・・・」

・・・姉さん・・・。
彰は頭を抱えたくなった。
この分だと知り合いほとんどが自分達兄弟が商人になった理由を知っている事になる。
隠していた訳ではないがあまり知られるのも嫌なので黙っていた。
こういう中途半端な隠し事は下手なところからばれるものだ。

「・・・全く・・・あの人は余計な事を・・・」
「・・・あっそうだ。凜さんでもう一つ・・・」

・・・まだあるのか・・・。
あまり自分の知らない所で問題をつくらないで欲しい。
が口を開いた瞬間、中から声が掛かった。
一方はを、一方は彰を呼ぶ声だ。

「・・・じゃ、また後で。
美味しくて値段手頃な店知ってるからそこで一緒にご飯食べましょ」

は彰の肩をポンと叩いて中に入っていった。
・・・姉さん・・・一体に何を言ったんだ・・・?
彼女の様子からしてあまり良いことではなさそうだ。
ひそかにそっちが気になってしまい午前の仕事に集中出来ない彰であった。

「彰〜!」

文を渡すだけだったのでやはりの方が早く終わっていた。
彰の姿を見ては立ち上がって手を振る。

「・・・いかがでしたか?
全商連も中身は朝廷みたいなもんですし、女性にはちょっと辛いでしょう」

茶州は少し例外だ。
凜が特区長をやっていたし、政でも英妃が大きな力を持っていた。
凜も最初は苦労していたようだが秀麗から聞いた進士の時より全然ましだった。
歩きながらは少し考えた。

「そうですね・・・。
秀麗ちゃんが先に色々かましてくれたのではなから馬鹿にはされませんでしたけどやはりあまりいい顔はされませんでした。
私の方にも非がないわけでもないんですけどねー。
まぁ、今回の件については誰が行ってもそれなりに煙たがられます」

大体、朝廷と全商連が手を合わせるなんて前例が無い。

「・・・なるほどね・・・・確かに」
「でも、もうこんな雰囲気進士の時に慣れましたから・・・。
今ではこれくらい嫌味の一つにもなりませんよ。
・・・あっ・・・ここですよ」

素朴な作りであったが、しっかりとした小さな店であった。
と彰はそれぞれの料理を注文して待つ。

「・・・で姉さんが何を言ったか教えて頂けますか?
・・・どうせろくな事じゃないと思いますが・・・」

あの人は欲しい物を手に入れるためなら少々やり方が荒い。
自分も人の事は言えないが・・・。
は顎に手をやり、少し考えているようだ。
彰は苦笑するしかなかった。全く予想がつかない・・・。

「その・・・私と彰をくっつけたいらしくて・・・」
「・・・なっ」

何も飲んでなくて良かった。
久しぶりに彰の心拍数が上がった。
ここまで動揺したのは久しぶりだ。
・・・ってか姉さん・・・なんて事を・・・。
彰は大きく溜息を吐いた。

「・・・えっと・・・何言われても無視して下さい。
あの人かなり強引ですが・・・」
「・・・まぁ・・・そうするつもりですけどね」
「・・・はぁ・・・姉さんったら余計な事を・・・」
「・・・彰?」
「・・・いや・・・なんでも・・・」

その時料理が届いた。ここで一旦話は切れた。


「・・・値段の割には美味しかったですね」
「でしょ?こんな時しか滅多に外食できないから・・・」

は大きな伸びをした。
太陽は真上にあり地上を照らし続けている。
そろそろ戻った方がいいだろうか。

「・・・さて、戻りましょうか。
流石にここまでサボってチクられでもしようものなら大変だし・・・。
・・・あっ、紫州に来たなら秀麗ちゃんの家寄ってくと良いわよ」

彰は首を傾げた。
何故、秀麗の家・・・・?

「・・・あっ、そういえば今日は夕飯の日じゃない。
丁度良かった」
「・・・夕飯の日・・・?」

彰は聞き慣れない単語に首を傾げた。
そういえば、秀麗といえば紅家のお嬢様ではないか。一応あれでも。
見て行けというのはそういう理由か?
そう考えた彰であったがの言うことは少し違っていた。

「夕飯の日っていうのはね。秀麗ちゃん家に皆で集まってご飯食べるのよ。
どうせだし、彰も。
朝廷の高官とも出会える良い機会だし、是非。
多分凜さんも来るから一緒に来てね。じゃ私はこれで」

彰の想像の紅家としては豪華絢爛な大きな建物がどーんとあり、そこには百人以上の家人達が働いている感じだ。
そこに集まる高官達。
・・・その中に自分や姉さんが入っても良いのだろうか?
後に、その想像は綺麗に打ち砕かれることになることをまだ彰は知らなかった。
人ごみに紛れていくを見送っていたが、まだ渡さなくてはいけないものがあると気づき彰は急いでを追った。

「・・・殿・・・」

歩いていくにやっと追いつき彰は思わず腕をつかんだ

「・・・うわっ・・・
・・・・あぁ彰・・・どうしたの?」
「すいません、驚かせるつもりは無かったのですが、少し忘れていたので・・・・。
・・・なんか・・・そのよく分からないですが・・・・」
「・・・・?」

彰は懐から箱を取り出した。

「・・・これを、貴方に」

は首を傾げて彰から箱を受け取った。

「・・・これは・・・」
「開けてみてください。
見たところ貴方には必要なさそうなんですけどね・・・」

箱の中身は簪だった。
確かには最近これでもかってくらい簪をもらっている。
しかも揃いも揃って高価なものばかり。彰の物もかなりの値の張るものだった。

「・・・えっと・・・これ・・・高いですよね?」

おそるおそる顔を上げると、そこには彰の綺麗な笑顔があった。

「えぇ、かなり高かったんですよ。
本当苦労しました。・・・落とすのに」

その台詞には苦笑した。
彰の事だ。元値の半額以下で手に入れているのであろう。

「手放すのは少々惜しいですがまぁいいでしょう。
この私が苦労して手に入れたのですからちゃんと使って下さいね」

は返答に迷ったが、ありがたく受け取ることにした。
人のせっかくの行為を無駄にしてはいけない。

「ありがとうございます。
じゃ、またあとで。秀麗ちゃん家で会いましょう」

は一礼をして人込みの中に消えていった。
彰は大きく息を吐いて背後を見た。
とりあえず、自分の仕事はこれで終わった。

「・・・これでいいんでしょう?姉さん・・・・」
「五十点」

頭に被っていた綾布を取り凜は不服そうな顔をした。

「押しがたりん。それでは殿を落とせんぞ」
「・・・全く・・・紫州に呼び付けて『最高級の簪を落として来い』なんていうから結婚祝いに持って来い、って言うのかと思えば・・・。
何故殿に?
彼女の頭を見れば私があげるまでもないと思いますが・・・。むしろ見劣るのではないですか?
一流の流通の中から一番の物を落としても彩家のものの足下にも及びませんよ」

彰らしい・・・というか商人らしい考えだ。
凜は首を振った。

「甘い。甘すぎるぞ彰。我が弟ながら情けない。
・・・まぁ・・・今日昨日紫州に来たお前じゃ状況はまだ分からないだろうがな・・・。
でも次の国試で受からなくては離縁するぞ。
簪の意味はそれからつかめ。
・・・少し言うと何故彼女が藍家の簪を持っているか・・・」
「離縁だなんて大袈裟ですね。
任せて下さい。
義兄上の名に傷をつけたくありませんし、なにより私の自尊心が許しませんよ」

凜は満足そうに頷いた。

「・・・私も早く可愛い義妹がみたいしな・・・」

・・・彰は大きな溜め息を吐いた。
期待されているベクトルが違うような気がする。
・・・これでは嫁を貰いに国試をうけるようなものではないか。
彰はふとから言われた事を思い出した。

「あの・・・秀麗殿の家に行けと言われたのですが・・・?」

凜は心辺りがあるらしく、頷いた。

「そういえば、そうだったな。
旦那様も行きたいといっておられたし、では一緒に・・・。
これは忙しくなってきた・・・・」
「姉さん・・・貴方何をたくらんでいるか知りませんが(というか知りたくない)、私のことはほっておいて、
自分の幸せだけを考えてください。
・・・全く、殿が困られていたではないですか」
「・・・その焦りようもまた可愛いのだよ。
お前とてあまり対応は変わらないだろう・・・。
では、夕方我が新居へ来てくれ。秀麗殿の家まで案内しよう。
李侍郎と藍将軍もいらっしゃるから、面白い話もきけるだろうよ」

そういって、颯爽と凛は踵を返していってしまった。
去り際も鮮やかな双子の姉に彰は言葉も無かった。

「・・・しかし思ったより厄介なことになりそうですね・・・」

自分のいない間に凛がどんなことをに吹き込んでいるか分からない。
とっとと国試に受かってしまおうと心に決めた彰であった。

   

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