目の前をふっと横切ったあの人は
消したくても消えない印象をを私の網膜に植え付けて人ごみの中に消えていった。
一瞬幻かと思ったが、遠くから聞こえる怪奇音がそれを現実へとした。
ここまで来てしまったらもう他人の振りという選択肢は残されていなかった。
怪奇音に悩まされる人々を少なくするため、はその音源向かって走り出した。


笛と羽根と珠と


怪奇音の中心は直ぐに特定できた。
理由もなくその周辺には人がいないからだ。
どんなに混雑した町の中であろうとも、その周囲は円状に人がいなかった。

「龍蓮っ!!」

なんとか怪音をを止めようとは人ごみを掻き分け、龍蓮の前へと出る。
関係者と思われてもこの際仕方がない。
・・・というかもう慣れた。

の登場によって龍蓮の笛の音はやんだ。
周囲に安堵の空気が流れる。
これでやっと元通りの商店街に戻る。

ではないか、久しいな」

周囲の視線など気にせず、龍蓮は笑顔での元へ歩いてきた。
服もどこで仕入れてきたか分からない頓珍漢なものだが、それも見慣れてしまったは今更突っ込むところもなかった。
むしろ、今では普通の格好している龍蓮に突っ込むくらいだ。

・・・自分も大分おかしくなったものだ・・・。とは内心苦笑した。

「貴陽にいたんならこんなところで笛なんか吹いてないで連絡くれたら良かったのに・・・」

というかここで怪音を響かされたら朝廷に苦情が来て困るのはこっちだ。

「いや、今日は色々衣装を購入しようと思いここに来たのだ」
「・・・衣装って・・・。その服とか・・・その良く分からないけど頭につけてる羽根とか?」
「あぁ」

の好奇心は龍蓮の言葉に動かされた。
この衣装や良く分からない髪飾りとかはどこで仕入れているのか前々から気になっていたのだ。

「ねぇ、ついていってもいい?」

今日は非番で暇をしていたところだ。
ちょっと精神的に疲れるかもしれないが、龍蓮に付き合うのも悪くはない。

龍蓮が向かったのは異国の物品を扱う商店だった。
噂では彩雲国より外、外国のものや、彩雲国内でも交流の少ない土地で独自に育った文化があるところの物が集まっている商店だ。
商店にいる人達も町ではちょっと見かけない格好をしている人物達ばかりだ。
このような場所にいると何か自分がおかしいような気がしてきた。
はこのような店があるとは知らなかった。
場所的にも人目につきにくい場所にあり、ちょっと入り辛い雰囲気がある。
は周囲を見渡しながら龍蓮の袖を引いた。

「・・・ねぇ、ここ本当に大丈夫なの?
なんか視線が怖いんだけど・・・」
「大丈夫だ、
私は昔からここにいるからな。
・・・む、この彫り物・・・珍しいな・・・・」
「・・・え??」

龍蓮が出店の中から見つけた彫り物を手にとって眺めた。
は龍蓮の手に取ったものを見て、複雑な表情を浮かべた。

「私の笛の音を聞いて、感動しているもの達の顔にそっくりだ」
「・・・・・・。」

・・・なんだろう・・・。
から見れば、地獄に落ちていく人が叫んでいるようにしか思えない。
龍蓮は満足してみているが、はどこが良いのかさっぱり分からない。

「よし、これをいただこう。
幸運がやってきそうだ」
「・・・はっ!?
ちょっ・・・まっ・・・こんなの持ってたら幸せどころか不幸に・・・」

の静止も聞かず龍蓮はその彫り物を買い上げてしまった。
・・・後の世界でそれは『ムンクの叫び』と呼ばれる絵画で有名になる。
その他、入手不可能と思われていた大きな羽根もここで手に入れていたり、珍しい首飾りもあって、もそれなりには楽しめた。

「・・・凄い・・・こんな石珍しい・・・。
龍蓮、そんなへんてこな奴つけてないでこういうのにしたらどう?
彰みたいにちょっと変わった・・・それでいて別におかしくない格好に・・・
・・・何それ・・・」

振りむたら丁度目の前に何かが干からびたものを龍蓮が持っていた。
は思わず後退さった。

「さぁ?なんたら鳥の木乃伊(ミイラ)と聞いた。
いい薬になるそうだぞ」
「・・・へぇ・・・」

確かに体には良さそうだが、あまり飲みたくない。
は鳥の木乃伊を持って笑顔でいる龍蓮を見て変わった石を勧める気が失せてしまった。
この価値観の差はなんだろう・・・・。
改めて龍蓮という存在が違う意味で大きく見えた。

買い物もそこそこに珍しい動物などもこの辺には置いてあった。
世界は広いものだ。大きな鬣のついた猫や話をする鳥がいる。

「わぁ・・・この鳥凄いね・・・。
綺麗・・・」

鮮やかな色のそれは向こうでは『オウム』といわれているらしい。
龍蓮もその鳥には興味を持ったらしくじっと眺めている。

「よし、決めた。
こいつをもらおう」
「・・・え・・・」

別に、オウムを飼うことには異論はなかったが、はオウムを背に歩いている龍蓮の姿を見て非常に複雑な気分になった。
・・・更に目立つではないか。
そしてこれからの、龍蓮の旅にこいつがついていけるか妙に不安になった。
龍蓮といるにはあの快音と始終付き合わなくてはならない。
それに耐えられる精神力がこのオウムにあるのか。否。。
秀麗曰く、行く先々で鳥(鶏、鳩など)を笛の音で撃沈させた実力の持ち主だ。
このオウムも例外なく撃沈させられるだろう。
龍蓮は既に交渉を始めており、もう止められそうにもなかった。
はオウムの未来に幸あれと心の中で願っていた。

「・・・しっかし・・・ここにいる動物達はやたら凶暴そうなものが多くない?」

は自分達が横を通るたびうなり声をあげる動物達に苦笑しながら通路を歩いていく。
龍蓮は先ほど購入したオウムを肩に乗せそちらの方に気がいっているらしくあまり反応がない。

「なんか、ここ商店とは違うんじゃない?
店の中なんていつの間にか入ったのかしら・・・。
龍蓮戻ろ・・・」

人の気配に、と龍蓮の足が止まった。
龍蓮は腰に挿した笛に手を伸ばす。
一人の男が動物の檻の上に座っていた。

「よぅ、どこから入ったのか知らねぇが歓迎するぜ?」

囲まれている事に気づいたは内心舌打ちした。
何か大変なところに入ってきたらしい。

「・・・そっちの男の方は中々良い体格をしてるじゃねぇか?
武術の心得は?」
「愚問だ。自然は強く美しい・・・」
「ほぅ、じゃあ俺達と賭けをするか。
勝ったらいいもんをやるぜ?
そこの嬢ちゃんは危ないから下がってな」

いきなりは後ろの男に腕をつかまれ強く引かれる。

「・・・ちょっ・・・何するのよっ」

箱の中に突き落とされ、ガチャン、と鍵のかかる音が聞こえた。
が身を起こすとそこは檻の中であった。周囲には先ほどいた獰猛な動物達がうろついている。

「・・・・は・・・?」

はざっと冷や汗が流れた。
ちょっ・・・私・・・餌?

っ!?」

龍蓮の笛が動く。が、それも他の男に阻まれた。

「勝ったら、その嬢ちゃんと欲しいものをくれてやるぜ。
大丈夫だ。そいつらはさっき餌を食ったばかりで嬢ちゃんに手を出すことはねぇ
・・・俺達との賭け、受けてくれるな」

龍蓮はしぶしぶ頷いた。

「・・・で賭け事とはなんだ?」

賭場であれば龍蓮に敵う者などほとんどいないに等しいが雰囲気的にそうでもない。
目の前にあった垂れ幕がばっと開かれた。
その瞬間歓声が聞こえる。
は目の前にある光景に絶句した。

「初めて見るだろう、西の大国にある賭場の一種『コロシアム』っていうんだ」

円状に作られた会場には客がところ狭しと入っている。そして、会場の中心には先ほどいた鬣のある大猫がいた。

「・・・ねぇ・・・もしかしなくても龍蓮とあの動物を戦わせようとしているわけ?」
「ご名答だ。賢いな嬢ちゃん」

・・・そりゃどうも。
は心の中で毒づいた。周囲にいる人はいわずもがな猛獣と龍蓮どちらが勝つかに賭けている者たちであろう。
こりゃ・・・取締り決定かな。
はたまたま懐に紙があることに気づいた。
・・・確か今日は羽林軍の大稽古やってるって聞いたっけ・・・。
龍蓮もいるし丁度いいや。
は龍蓮が置いていったオウムの羽根を一本拝借し、哀れ、鬣をもつ大猫の餌食となった人か動物か分からないがまだ乾いてない血を羽根の先につけて文字を書き始めた。
そしてその紙をオウムの足に括りつけた。

「・・・お城までお願い。
・・・道分かるかしら?」

オウムはそのまま羽ばたいていった。
丁度、舞台で龍蓮が何かしているらしく視線が向こうにいっていたことが幸いだった。

「・・・猛獣対龍蓮ねぇ・・・。
どんな生き物もどう頑張っても龍なんかに勝てるわけがないのよ・・・」

龍蓮は興味なさそうに舞台に出て行った。
そして放たれた動物達を笛一本で倒していっている。
長年旅をしていた龍蓮にとって、獰猛な動物は今日のご飯の対象だった。
よって、龍蓮にとってある意味人間より倒しやすい相手だった。

次々と倒されていく動物達に主催者側は絶句した。
奴は何者だっ、と叫ぶ声も、客達の歓声の中ちらりと聞こえた。
は檻の中で一緒に入っている動物を見た。
・・・凶暴そうに見えても結構可愛いものね・・・。
鋭い牙も爪も持っていたが、それより好奇心が勝ってそろそろと手を伸ばしてみた。
鬣を持った大猫と目が合った。

「・・・・こんにちは・・・・」

心の中ではどうようしながらもはとりあえず挨拶してみた。笑顔がぎこちないのは勘弁してくれ。
とりあえず言葉は通じなくても心で通じ合えるはずだ。
獣はのっしのっし歩いての隣にごろんと転がり、また寝始めた。
はその鬣や胴を撫でてみる。
大きいけどなんか可愛い・・・・。
龍蓮が戦っている間暇なのでは檻に入れられた動物と遊んでいることに決めた。


「・・・藍将軍・・・。
あの鮮やかな鳥はなんでしょう?」

その頃朝廷で大将軍達に扱きを受けていた皐武官が上空の鳥に気づき隣の楸瑛に言った。

「・・・・?見たことはないが・・・。
ちょっと落としてくれるかい?
中々珍しいからあまり傷つけない程度に・・・。
貴重なものだったら家で飼おうかな・・・」
「はい、お任せください」

弓に自身のある皐武官は弓を三本番えて一気に放った。
それはオウムの行く手を次々阻み、そしてオウムの平衡感覚を失わせた。
後はそのままボテっとおちてきた。
楸瑛は落ちたオウムをみてほぅ、と感嘆の声を上げた。
羽根の色とかあまり思い出したくもないが弟を連想させる。

「こんな鳥私でもみたことないよ・・・。
一体なんでこんなところに・・・。
・・・・・?」

オウムの足に括りつけてあった紙を楸瑛は開いた。
皐武官もそれを覗き込む。
表は普通朝廷で使われている書類の一部のようだ。どうやら戸部関係のものだが・・・。
何故オウムがこんなものを・・・とその紙を裏返した瞬間二人は目を見張った。

「・・・これは・・・・」
「ちょっと稽古は中断かな・・・。
今すぐ大将軍に伝えろ」
「はっ」

楸瑛は泣きたくなった。
詳しくは書いてなかったが背後関係はなんとなく読める。
・・・どうしてうちの弟はこんなに騒ぎを起こすのだろうか・・・。

「・・・・ふん、これで終わりか。
今日これをもっていけば肉々しい鍋が食せるな。
貴陽の真ん中で狩りが出来るとは驚きだ」

ほとんどの猛獣を一人で倒してのけた龍蓮の言った台詞がこれだった。
周囲の人はぽかんとその光景を眺めるしかなかった。
どう考えても凶暴な動物よりも龍蓮の方が恐ろしい。
龍蓮が全て勝ってしまい賭けの方もまったく成立しない。

「・・・くそ・・・っこっちも上がったりだ!!
野郎共そいつをやっちまえ!!」

刃物を構える男達が龍蓮の周りに群がった。
はその様子を見て頭にあった簪を取った。

「・・・確かこれで鍵が開けられるはず・・・・」

流石にこのような大人数相手では龍蓮も分が悪いだろう。
羽林軍ももう少しかかるようだし自分も手伝わなければ・・・・。
しかし、そのの行動も周囲に群がる男達の動きも、檻の中に入っている猛獣達も次の瞬間動きが止まった。
一拍の後、周囲から叫び声が聞こえた。

「ぎゃぁぁぁっっ〜〜〜。。何だこの音は・・・っ頭が割れるっっ」
「呪いの怪音か〜っっ。畜生耳栓をしても頭に響く・・・っっ」
「助けてくれ・・・っ、誰かこいつを止めてくれ・・・っっ」

この音にはまだ慣れていただが、今のは特に酷かった。
思わず耳を押さえたくなるほどに・・・

「・・・くっ、龍蓮・・・何なのこの音・・・。
ここまでくれば笛の音じゃないわよ・・・」

男達はもがき苦しみながら龍蓮を見た。
そのとき龍蓮の懐からぽとりと、先ほど購入した彫り物と木乃伊が落ちてきた。

『・・・・っ!?!?』

その彫り物はまさに龍蓮の怪音を聞いて叫んでいるかのような顔をしている。
木乃伊もまさにこの音を聞いて枯れたようだ。
自分達もこのようになるのか・・・
これがとどめだった。

笛の音が止まった時その場はまさに戦が終わった後の大地であった。
全ての獣や人間達が突っ伏してもがいている。
もなんとか起き上がった。
頭が痛い・・・・。

その中龍蓮がすがすがしく、汗をぬぐっていた。

「『肉々しい鍋と猛者の調べ〜幸せを求めて〜』・・・・今ここに完成。
フッ、我ながらまた名曲を作ってしまったな・・・」

・・・本気で心の底から良いと思ってるの?
は心の突っ込むしかなかった。
猛者ではなく亡者。名曲というより冥曲だ。
そして奥から騒がしい声が聞こえた。

「羽林軍であるっ!!道を開けろ」

一応、あのオウムに気づいてくれたようだ。
は見慣れた兵士の顔を見てほっとした。
とりあえず、ここから抜け出せそうだ。

羽林軍にコロシアムの主催者達は取り締まられた。
はやっと檻から出て体をほぐす。

「あー、窮屈だった・・・。
本当動物もかわいそうね、こんな狭いところに入れられて・・・」
「どうやら、密輸ってことらしいね・・・。
刑部で後々明らかになると思うけど」

周囲の指示に周っていた楸瑛がこちらにやってきた。

「あっ、藍将軍。お疲れ様です。
オウムに気づいてくれてよかったです」
「・・・殿・・・・。
本当うちの龍蓮が妙なことに巻き込んでしまってすまない・・・・。
怪我はないですか?血とか・・・」

そういえば手紙は血で書いたんだっけ・・・
そのことを思い出しては首を振った。

「大丈夫ですよ、血はそこに溜まっているもので書きましたから。
私に怪我はないです」
「愚兄其の四・・・。何故こんなところに・・・・を離せ」

屍となった者達を潜り抜けて龍蓮がこちらにやってきた。

「龍蓮・・・全く殿をこんな目に合わせて・・・。
謝りもしないのか。というか謝りなさい」
「いえー・・・龍蓮に興味本位でついていった私も私ですし、怪我もないですし、丁度悪い人たちも捕まえられたので別にいいですよ」
「・・・しかし・・・」
「気にしないでください」

楸瑛の気の毒そうな顔には微笑みかけた。

「愚兄、に気を使わせるなんて最低だな」

楸瑛はこめかみをピクリと動かした。

「・・・お前にだけは言われたくないよ、龍蓮・・・」
「さて、。いくぞ。
騒々しいところは嫌いだ」
「・・・あっ・・・うん・・・。
では、失礼します」
「・・・ちょっ・・・殿・・・・」

龍蓮についていくは嫌そうな顔はしていなかったので楸瑛は止めなかった。
が、まだ胸の中に申し訳なさが残る。
もう何も起こしてくれなければ良いのだが・・・

龍蓮は先ほど買い付けたらしい新しい衣装に身を包み、ご満悦気味で歩いていた。
は更に目立つことになってしまった龍蓮にもはや返す言葉もなかった。
自分達を奇異に見る人々の視線にももう慣れてしまった。

、今日は肉々しい鍋を所望する」
「そうねぇ・・・っていうかうち来る気満々ですか・・・。
分かったわよ。市場で買い物していきましょう」
「それは助かる。
・・・あっ、先ほど市場で見つけたのだが・・・・」

今度は何が出るのだろうか・・・。
はあまり期待しないで龍蓮の方を見た。
目の前に出されたものに絶句した。

「・・・確か・・・これだったな・・・」

夕日に照らされ光るのは先ほど綺麗だと思って見ていた石の簪。

「龍蓮・・・・これ・・・・」
「遠慮することはないぞ。受け取れ」

少し奇抜な感じがするが、それも変わっていて良いかもしれない。
はまともに感動した。

「・・・ありがとう・・・。
たまには・・・いい事してくれるじゃない。」
「ふっ、のためなら火の中水の中猛獣の中だ」

なんか冗談に聞こえなくては苦笑した。
そして龍蓮にもらった簪を頭に挿してみた。

「どう?・・・・似合う?」

龍蓮はじっとの頭を見た。
そして、すっと自分の頭から羽根を取りに付け出した。

「・・・はっ!?
ちょっ・・・羽根はいらないから・・・・っ。何してんのよっ!!」

羽根をつけたことにより龍蓮とお揃いの頭になってしまった。
は脱力した。

「・・・龍蓮・・・羽根は勘弁・・・」
「それで、も流行の最先端だな!」

羽根が流行の最先端だと思っているわけ、この人っ!?
しかし行為でしてくれたものを無下にとるわけにもいかずは泣く泣く家に変えるまでその頭でいた。
龍蓮は始終満足そうな顔をしていた。


   

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