絆の誓い


煙を追い、村に辿り着く。
逃げ惑う村人達とは逆に二人は火元に向かって走っていった。
小さな集落になっていて家が密集していないところが幸いして、被害は少ないように見えた。
しかし、木や藁を使った家であるため、その燃える速さは尋常ではなかった。
これ以上火が大きくなると森にも移ってしまう。
そうなってしまったら、自分達の助かる可能性も少なくなってしまう。
すでに火は五件も焼き尽くしていた。その家の住人達は家の前で呆然と膝を突いていた。

雅は村人の肩をつかむ。

「中にもう人はいないのかっ!?」

村人は力なく頷いた。
シンは頷き剣を掲げる。『ウォン』の力ならこの火を一気に消せる。

「『ウォン』力を貸してくれ・・・・」

先ほどのように水が剣の先から溢れてくる。
しかし、まだ自由に操れるようにはなっていなく、水は四方八方好きなところに飛び散っていた。

「・・・まだコントロールが上手くいかないのか・・・」

雅は家の周りにいる人々を非難させた。このままシンの力の巻き添えになっては意味がない。
シンは水を出すことで精一杯のようだ。
雅は水を器用によけながら、シンの元へ辿り着いた。
正直彼の方も限界だと思う。先ほど体力も精神力もかなり使いすぎているから。

「・・・手伝う。
あまりここで風を使うのは得策ではないが・・・
もう少し、頑張れるか・・・?」

シンは頷いた。雅は宝珠を握る。

「『ウィン』・・・・上手く水を誘導してくれ」

風は上手い具合に水と溶け込む。
そして、水を包み込み火元まで誘導した。水の勢いが強いのですぐに火は消えてゆく。

「・・・これならすぐに消えそうだな・・・」

しかし、水の勢いが弱くなっていることはすぐに分かった。
雅はシンの手の上から剣を握った。

「サイ・・・、一応シンに宝珠を渡しているが、私も貴方の力を使うことができるか?」

《勿論。・・・お兄さんには少し宝珠を扱うのは早いみたいだね》

「・・・うっ・・・雅・・・・」
「・・・座っていろ、私も力を貸す」

雅の力は強かった。
ばらばらに拡散していた水が一気にまとまり、龍の形となって火に向かっていく。

すべての火を消化し終えて雅も一息ついた。
眩暈を感じずにはいられない。水の宝珠は威力が強い分、体力、精神力を酷く使うようだ。

火が消えたことを確認して、村人が集まってきた。
異例の事に驚いたのだろう。自分達を見ているが、決して近寄ろうとはしない。
雅は気を失ったシンを支えた。

今日ここに泊まるのは無理かもしれない。

雅は村人の視線を感じ、そう思った。
しかし、シンを一人で運ぶのはかなりの重労働だ。いつ目を覚ますか分からないが、しばらく動けそうもない。
一応、村を助けたわけだし、少しくらい休ませてもらえるだろう。

人ごみを掻き分けて、先ほどあった赤い髪の少女が近寄ってきた。

「・・・村に入るな、といったはずだ。
聞こえなかったか?」


憎々し気な視線を雅は真正面から受け止めた。
雅の目には感情というものがない。ただ、冷めている目だった。

「火事は見過ごせまい。
しかもこのような森の中・・・・。木に移ったらそれこそ大惨事・・・
私もそれくらいの善意はある。」
「・・・私に恩を着せようと?」
「そこまで考えてはいない・・・。
心配するな。こいつが目覚めたらすぐに出て行くつもりだ」

雅の顔色も、先ほど会った時より疲労感が増している。
おそらく『ウォン』の力を使ったのだろう。
男の方は気を失うまで力を使い切ったようだ。
ファイは歯噛みした。

何故・・・ここまで善者を気取れる?
むしろ偽善者ぶっていないところが更に打ち所がなく、癪に障る。
そして、何もできなかった自分にも苛立ってくる。

自分のもつ力は火の力。
火事を抑えるどころか、ますます酷くする力しか持っていない。
とりあえず村人を非難させたが、村が潰れるのをみているしかできなかった。
諦めていたのに、こいつらは・・・

また村の希望を残した。

ファイは胸に下げている赤い宝珠を雅に投げてよこした。

「・・・・やる。」

雅はそれを受け取って、ファイを見た。
彼女はまだ納得していないようだったが、それでも一応感謝の念はあるらしい。

「・・・部屋を用意する。
その男はなかなか目覚めないだろう。回復するまでここにいろ。
お前達は村の恩人だ」

そういって、ファイは歩いていった。

「まて・・・・。
貴方の名前を聞いていない」
「『ファイ』と、そう呼べばいつでも力を貸してやる」

雅は首を振った。

「そうではない。
お前はこの村でなんと呼ばれているか聞いた」

ファイは目を見開いた。
そのようなこと聞かれたこともない。
自分達と宝珠の主との関係は、ただ力を使うときの名前だけのつながりであった。

雅は続ける。

「『ファイ』では暇つぶしに呼んだときに都合が悪いであろう?」

・・・暇つぶし・・・?
ファイはまた怒りがこみ上げてきた。この女は丁度自分の怒りのポイントを上手い具合についてくる。
自分達をまったくなんだと思っているのだ・・・・。
ファイはぶっきらぼうにいった。

「カイラだ・・・
他のものはそう呼んでいる」

そういって、カイラは村人の元へ行ってしまった。
カイラは村人に命じて二人を部屋へと案内させた。
そして、火事の始末を言いつけていく。
彼女はこの村の中心人物のようだ。
やはり長く生きているのか、リーダーシップを取るのが上手い。

部屋に案内され、とりあえずシンを寝かせた。
そしてそのままになっていた剣を鞘にしまう。
雅は剣を持って思った。

・・・重い・・・。
よくこのようなものを振り回していたようだ。見ているかぎりでは、軽々振り回していたように思える。
やはり自分にはこの剣はあわない。
しかし、サイが言うようにシンが宝珠を使うのはまだ早いかもしれない。
このように毎回毎回倒れてもらうのも困るし・・・。
少しずつ訓練が必要か・・・。

雅は先ほどカイラからもらった赤い宝珠を見た。
彼女の意思の強さを表しているように、強く光り輝いていた。
雅は緑の宝珠と一緒の紐に通した。
これで三つの宝珠がそろった。あと半分・・・。

カイラに言ったことを思い出した。
自分はいったいどうしたいのか・・・。それがはっきりしない。
成り行きに任せられるのもここまでかもしれない。
強い意志を持つことが出来なければ、この後にあっけなく命を落としてしまう。

シンを見る。

・・・彼のように信じることが出来ればいいのに・・・・。
いつも思うが、彼の寝顔はいつも幸せそうだ。
自分もこのようにできれば・・・・もっと・・・・
部屋の戸が開いた。

雅が視線を上げると、そこにはカイラがいた。

「・・・今時間はあるか?」
「あぁ・・・丁度暇をしていたところだ」
「お前は体の方はいいのか?」
「・・・こいつと違って、そこそこの力があるからな。
滅多なことで倒れない」
「・・・そうか・・・」

しばらくの間があった。おもむろに雅が立ち上った。

「・・・話がある、といった顔だな。
付き合おう。
私もあいつの顔ばかり見ているのは飽きていたところだ」

しっかりと作られた和室の部屋に雅は招かれた。カイラがお茶を出した。

「・・・先ほどはすまなかった。
そしてこの村を救ってくれてありがとう。
村長として礼を言う」
「私も口が過ぎた。気にしてはいないから・・・。
火事の件についてはあいつにいってやってくれ。
あいつが一番頑張っていたから」

雅がお茶に口をつけた。あまり味わったことのない味だった。
この辺特有のものなのだろう。

「・・・まだ宝珠を集める気でいるのであれば、聞いてくれ。
この辺の山はかなり連なっていて抜けるのはかなり骨が折れる。
戻るのならば今のうちだ。しばらく抜けられないからな。
しかし、宝珠を集めるのならばここから五つほど山を越えたところにある滝まで行かなくてはいけない。
兄の気分次第で宝珠が手に入る。
・・・まぁ集める気があればの話だな」

皮肉にもとれるが、雅はあまり気にしていないようだ。

「・・・その滝まで行く気も予定もないが、おそらく辿り着いてしまうだろうな。
少なくとも、山から抜け出すことは不可能なような気がする。
自慢ではないが、私もシンも方向音痴という部類に入ってな。
一度山に入れば平気で数日間迷い続ける。
滝か・・・。
私はともかく、シンは宝珠を集める気でいる。
滝があればぜひ寄らせていただこう。いい情報助かります」
「・・・あまり認めたくはないが、正直あんた達ならできそうな気がするよ」
「・・・・・・・・」

カイラが頭を提げた。

「兄上と姉上をよろしく頼む」
「・・・あぁ無事命があれば」

そうだ、と雅は顔を上げた。

「一つ聞いてもよろしいか?
貴方達は何を基準に主人を決めているのか?」
「あぁ・・・・。
下の二人はとりあえず主人の力量を測る。
試練をクリアした者に宝珠を渡すのだ。ほとんどの候補の者がそこで脱落するけどな。
私達からになると、人柄をみて宝珠を渡す。
・・・・上の二人は有無もなく殺し合いだろうな」

今まで上の二人に会った人達は指で数える程しかない。
自分達が認めた人物であったが、彼らの前では塵同然とばかりにあっけなく散っていった。
それを自分達は目の当たりにしている。
上の兄姉達の恨みや怒りは果てしなく深い。
彼らのニンゲン嫌いは自分達と比ではない。
本当に完璧な者しか勝てない・・・・。
いや完璧でも勝てない・・・。

「・・・殺し合いか・・・。
それは避けられないのか」
「無理だ。」

雅はしばらく考えたが結局答えは出なかった。
ここまできたらなるようにしかならないと思う。
考えても無駄だと思う。だってこの運命からは死ぬ以外に離れられないのだから。

「・・・決めた。
出来るかぎり宝珠を集めよう」

雅はそう言って立ち上がった。

「・・・どういう心境の変化だ?」
「この運命から逃げられないと悟った。
ならば早く終わらせてしまうのが得策だとは思わないか?
貴方達を助け、おまけに自分も成長できる。
いい機会だ。
お茶美味しかった。ありがとう」
「・・・何かあったら言ってくれ。
食事は部屋まで運ばせる」

雅は礼をして部屋を出て行った。

「・・・さて・・・
私もまだ修行が足りないかもしれないな・・・」

シンと出会ってから向上心という言葉を忘れていたような気がする。


結局次の朝までシンは目覚めなかった。
起きたら起きたで五月蝿いが。
雅は黙って朝食を食べた。

「あ〜、なんかよく寝たって感じかな?」
「実際よく寝ていたではないか。
ここ最近にない快眠だったな」

シンは雅の胸に下がっている赤の宝珠を見つけた。
それは確か昨日までカイラの胸にあったもの。

「・・・あれ、宝珠もらったの?」
「あぁ・・・」
「やっぱり雅にも集める気あったんじゃん。」
「半ば諦めているようなもんだ。
宝珠を持っているかぎり、逃れられないことを知っただけ。
次の宝珠はこの山奥の滝にあるらしい」
「へぇ・・・じゃさっさと出発しようぜ。」

意気込むシンを雅はたしなめた。

「宝珠を力いっぱい使って倒れるやつがどこにいる。
もう少し修行をしないとお前絶対途中で死ぬぞ」
「・・・そっか・・・・
なんかいい方法ない?」
「とりあえず、なれることだな。
お前みたいにタフならば、だんだん体の方が慣れていくだろう・・・」
「そっかぁ・・・
じゃ、早速修行か!」
「阿呆。病み上がりがぬかしたこと言うな。
今日は安静に休んでいろ」
「えぇ〜っ!?
そういって雅。雅は他に修行しにいくんだろう?」

雅の箸が止まった。

「・・・また倒れたら困るだろう・・・・。
誰がここまで運んでやったと思っている」

・・・村の人だったが・・・。
心の中で思いながらも、雅はすました顔で食事を続ける。

「体力作るだけなら別に大丈夫!!
疲れたらちゃんと休むから・・・・ね?」
「・・・勝手にしろ」

シンと話していると疲れてくるのは自分だけであろうか。
雅はそっとため息をついた。
様子をみて、三泊も村に泊めてもらった。
二人は丁寧に礼をいって、先の道を進む。


《・・・『ファイ』も落ちたか・・・・》

水面に響くは闇から聞こえてくる静かな言葉。

《・・・『アス』・・・必ず殺せ。お前なら出来るであろう?》

その言葉をアスは最後まで聞かなかった。
別にニンゲンなんてどうでもよかった。
それにしても久しぶりにここにニンゲンが来るというので高揚感はあった。
挑戦者は拒まない。

青年は笑みを浮かべて洞窟から出ていった。


    

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