恐るべし瞳の力



山の中を歩いている若者が二人。
名前は雅とシン。
気が合っているのかあっていないのかは別として何とか順調に旅を進めていた。

「ねぇ・・雅・・・・この道で本当あってんの??
昨日から地図を一回もも見ていないんだけど・・・・。
確か昨日山は初めて入ったとかいったよね?」

シンの心配そうな問いかけに、雅はさして問題のないように答えた。

「私は地図は持ってない」
「へ?なんで?」
「持っていたところで役に立つものでもないからな」
「・・・なんでだよ。あれば次どこに行くかわかるじゃん。
迷うぞ??」
「・・・そういえば言っていなかったが・・・。
私は方向音痴だ。」

自信満々に言う雅にシンは脱力しかけた。
しばらく一緒にいて思ったのだが彼女はどこか変なところがある。

「・・・そうか・・・」
「今まで山に入ったことはない上に街道でさえ、遭難しかけたし、餓死寸前のときもあった」

あの時は、辛かったな・・・・と、雅は頷きながら呟く。
シンはそんな雅を横目にみて、言い難そうに告白した。

「あの・・・実は俺も方向音痴・・・だったりして・・・」

雅とシンは顔を見合わせた。
二人の顔には張り付いたような笑顔がある。

ちーーーん・・・・・・。


「はぁ・・・。せっかくまともな人に会えたと思ったのに・・・。
通りすがりの立派な巫女さんだと思ったのに・・・。
・・・なんでよりにもよって方向音痴・・・」

シンの周りにはかなり落ち込みモードが漂っている。
雅はその反応に少しムッとした。

「立派な巫女ではなくて悪かったな。
だからついてくるなといったのに・・・。それに私は旅をしてまだ一年だ」
「まぁ、俺よりいいよ。俺なんかある村を出たら一ヶ月後また同じ村に戻ってきてしまうんだ・・・。
それから、かれこれ一年。この森を出たことがないんだよなぁ・・・。
まぁ、それより方向音痴のほうがいいか・・・。どうせどっかに行くんだろ。
俺はとりあえず、この森から出たい」

雅は大変な人物に出会ってしまった。と今更ながら後悔した。
彼の言う通りに進めば出られないというわけか。
同じ天秤に乗せたら・・・。私の方がまだいいかもしれない。

「しかし、私の場合も、いつ人里につくか分からないぞ・・・」
「まぁいいよ。なんとかなるし・・・」

どうやら奇妙な部類の意味方向音痴と出会ってしまったらしい。
人のことは言えないが・・・。
雅は歩きながら隣にいるシンを横目で見た。
こいつは本当によくわからない奴だ。
人見知りはしないし、無視してもけらけらしてるし、人を疑うことを知らないのか・・・?
取り付かれていたときの剣の腕も中々だったが、実際彼の腕はかなりのものらしい。
だだ一つ困ることは・・・。

「雅ぃー。腹減った・・・」
「朝に食べたばかりだろう??」
「えっ、だってもう、昼過ぎてるじゃんか。雅、昼飯食べないの・・・?」
「お腹が減ったら食べる」
「・・・なにそれ・・・。雅基準?」
「当然だ」

そういって雅はすたすた歩いていく。
シンはそんなぁ・・・、と力なく呟いた。
そんなシンを見て、雅は大きなため息を吐いた。
捨て犬を拾ったような気分になる。

「・・・あっ・・・」

前からシンの元へ丸いものが投げられた。
シンが受け止めると、それは美味しそうな林檎であった。

「さっさといくぞ」

雅はまた歩く速度を速めた。
照れ隠しなのか、シンには顔を見せない。

「サンキュー♪雅っ!!」

シンはりんごを服でこすって、半分に割った。
みずみずしくて美味しそうだ。
先に行く雅に追いついて、シンは半分の林檎を差し出した。

「はい。おすそわけ」
「別に私は・・・」
「食べとけよ。お肌にいいよ」

シンはそう言って雅の頬を突っついた。
雅はこれまでにない素早さでシンの手を払った。

「触るなっっ」
「・・・あっ、ごめん・・・」

あからさまな拒絶反応にシンは、言葉に詰まった。
雅は自分のした事に気づき、咳払いをした。

「・・・その・・・こちらこそ・・・・。
突然のことで驚いたから・・・その」

実際のところ、人付き合いがほとんどない雅はこのような事に慣れていなかった。
男に触られたのなんて、実は初めてのような気がする。
人と話していて弁解したこともほとんどない。
こういう時どう言えば良いのか・・・・雅は久しぶりに混乱した。

「・・・あまり気にしないでくれ。
林檎は・・・もらっておく・・・」

雅はシンの手から林檎を奪うように受け取って、また早足で歩き出した。
シンは雅の反応をみてふっと笑った。

「そうか、そうか。
まぁ慣れてくれればいいから」
「触るなと言っている!!」

雅に触れる前に手で阻まれた。
これはガードが固いと見た。
シンは苦笑した。



「それにしても・・・。食糧の減りがここまで早いとは・・・」

雅は一気に軽くなった荷物をみてため息を吐いた。
これは一番の予想外のことだった。

「うっ・・・ごめん・・・」
「いや、それはもらえばいい話で・・・。
・・・あった・・・」
「・・・・もらう?」

シンは雅の言葉に首をかしげた。
この山奥で誰に食料を分けてもらえるのだろう。
雅は手ごろな木の幹を触る。
シンは覗き込んでみる。

「これは・・・。何かの縄張りか・・・?」
「猿だ。多分この奥にいる」
「猿にどうするんだ?」
「だから食べ物を分けてもらう」
「・・・・・・はい??」

猿に・・・・??
雅は真剣に頷いた。
そして、道を脱線して山の奥へ進んでいく。

「・・・ちょっ・・・おい、雅・・・」

シンが半信半疑で後をついていくと、彼女の言うとおりと猿が何匹かいた。

キィィィィィ・・・

「お、おい・・・。何威嚇してるぞ・・・」

シンは思わず雅の後ろに隠れてしまう。
それと対照的に雅は堂々とした態度である。

「まぁ、それはそうだな。何せ縄張りに入ってるし・・・」
「いいのか・・・?こんなことしていて・・・・」
「とりあえずボスに会わないと・・・・」

人の話聞けよ・・・。
猿に威嚇されながらどんどん前に進んでいく。
一匹サルが攻撃してきた。

キィィィィーーッ

「雅っ!!危ないっ!!」

しかしシンの予想に反して彼女の反応は見事なものであった。
猿の攻撃をすっとかわし、その上ネコ掴みにした。

・・・・・・キッ(滝汗!?

「ねぇ、痛い目合いたくなかったらボスのところまで案内しなさい」

・・・・(こくこく)・・・・。

「(・・・・すげぇ・・・・。サルを手懐けた・・・・。)」

シンはまた新たに雅の凄い面を見てしまったような気がした。
こうしてどんどん奥に入っていく。
しばらくして岩の山が現れた。そこには多くの猿達がいるようだった。

雅はボスを見つけ、言った。

「あなたがボスね・・・・。食べ物を少し分けていただきたい。
できれば果物とか、保存の効くもの・・・」
「おいおい・・・・。そんなんで猿が分かるわけないだろう?」

シンの忠告を無視して雅とボス猿の睨み合いがしばらく続いた。

そして、沈黙を破ったのは猿の方だった。
背後にいる猿に目配せで指示をした。
雅の目が鋭くなる。

キキィィィィィッ!!

四方八方から五匹の猿が雅に一気に攻撃してきた。

次の瞬間、空気が張り詰めたように冷えた。

シンは何が起こったのか事態の把握に数秒かかった。
まるで、何か恐ろしいものでもあるかのようにサルの動きが止まる。
猿達の視線の先には雅があった。

・・・雅?

シンの方から雅の顔は見れないのだが、それでも彼女からいつもと違うオーラが出ていることを感じた。

「・・・・・・・・」

ボスザルでさえ顔が青くなって震えている。

「・・・・みっ、雅・・・?」

思わず、声をかけてみた。
シンも様々な妖怪にあって戦ってきたがこんなに強い、そして冷たい魔力を放っているのはいなかった。
興味と好奇心でシンは少し横顔を覗いてみた。

「・・・・・・!?」

いつもは漆黒の瞳の色が金色に変わっているのだ。
その瞳は冷たく何も感じていないようだった。
このまま見ているだけでも、自分の心臓が握られているような・・・・。
そんな感覚に襲われた。

キッ・・・キキッキッッ!!

ボス猿が何かを命令した。
それを合図に猿たちが散らばる。
冷たい空気も消えた。

「・・・・・雅・・・・・・」

シンも金縛りから解けたような感覚になった。
先ほどまでの空気はここのは微塵も感じられない。

「・・・・どうした??」

彼女は何事もなかったようにシンの顔を見返した。

「今の・・・。なんだったんだ・・・?」
「・・・私・・・なにかしていたか?」
「なにって・・・さっき瞳が金色に・・・」

今はまた黒に戻っている。

「・・・またか・・・」

シンの発言を受けて、雅は目を伏せた。

「・・・また・・・?
どういうことだ?」
「昔からなんか知らないが記憶が飛ぶときが何回があってな・・・・。
そうすると、なんか周りがシンとしてしまうんだ。
先ほどももなんか記憶が飛んでいたようだな・・・・。
以前も今のように猿と対峙して・・・気がつけば食べ物を備えられていたことがある」
「ちなみに記憶が飛んだのはどこから・・・?」
「・・・このボス猿の前にきたときから・・・・・かな?」

キキィ・・・・・・。

『・・・・ん・・・・?』

ビクゥッ!!

猿達全員一歩引いた。
目の前には新鮮な果物や木の実が多く並んでいた。
雅の言葉が通じたらしい。

「・・・なっ・・・なんだよ・・・。俺たちがそんなに怖いか・・・」

シンは自分まで猿に恐れられていることに少しショックを隠しきれなかったらしい。
雅は十分に礼を言ってその献上品を受け取った。


「・・・・さて、これでなんとか数日もつだろう。
本当にありがとう、おサルさん」
「・・・・・??」


キキィッ!!

一匹に小猿こっちにやってきた。
雅は顔を緩ませた。シンは初めてこの時雅の笑顔を見た。

「・・・・・ほれ」

雅は袋の中から果物を出して、小猿に向けて投げた。
器用に小猿はそれを受け取る。

雅はそれを確認して、歩き出した。

「行くぞ・・・」
「おっ、おう・・・」


猿のつけた印によって、何とか元の道に戻ってこられた。
そして二人はまた前に進み始める。

「なぁ・・・・。なんで全部果物持ってこなかったんだ・・・?
もっと袋に入っただろう?」
「そんなに猿から貰うのもずうずうしいというものだろう・・・。
それに・・・・あまり人間を嫌いになってもらうのは遠慮してもらいたい・・・。
かなり脅迫じみてしまったからな」
「へぇ・・・それなりに考えてるんだ・・・」
「まぁ・・・・大体お前が付いてきたせいでこんなことをする羽目に・・・」
「えっ・・・・俺のせいっ!?
・・・・・・・・・あっ、雅っ!!蛇っ!!」
「・・・えっ!?」

シンが雅の足元を指す。
雅はすぐに飛びのき、シンにしがみ付く。

しばしの沈黙が降りた。
蛇などどこにも見当たらない。

「・・・へぇ・・・。蛇怖いんだ・・・」
「・・・騙したな・・・」
「だって、俺ばっかり責めるしさぁ・・・。
まぁいっか。なんか抱き着いてもらえたし・・・」
「・・・馬鹿・・・。
行くぞ・・・・」
「あっ、照れてる照れてる♪」
「・・・・五月蝿い。」

ここまで雅をからかって、シンは後悔した。

「雅ぃーーーっ・・・・。腹減った・・・・」
『・・・・・・・・』

冷たい視線がシンを刺す。
シンは思わず言葉に詰まってしまった。
雅は、今度は何も渡さず早足で歩いていった。

「ちょっ・・・・雅・・・・待って・・・・」

自業自得である。


    

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析