闇の住むとこ


雅は洞窟の中を進んでいった。
暗い、そう思えるのも、ほんの少しの間だった。
奥に進むにつれて光が強くなっていく。
出口かと思ったがそれは違っていた。

「・・・・なっ・・・・」

雅を待っていたのは、洞窟の中でも眩しいくらいに光り輝いた空間であった。
空間の広さも分からないくらいそこは光に満ちていた。
床も天井も壁もすべて光っている。
ダイヤモンド並みの輝く成分を持った鉱物が覆っているんだろう。

目が開けられない。明るいところは正直苦手であった。

「・・・きたか・・・・」

奥から声が聞こえた。
女の声だった。姿は見えない。

「闇の巫女か・・・・。
選択を間違えたな、どの道貴様はここで死ぬが・・・」

部屋の中心に誰かいるということくらいしか雅には分からない。
ここでは目はあまり重要ではない。
雅は戦闘体制をとる。

「・・・私は、死ねと言われて死ぬ奴ではない・・・・。
貴様こそ、覚悟しておくのだな。
戦えと言われたら私はその通りにする」
「・・・・フッ。
私の姿も見えないのにそうほざくか・・・・。
いいだろう・・・。
この光の中で殺してやるっ」

雅は中に踏み込む。大体のこの空間の大きさを知っておきたい。
恐らく円形状の空間だろう。
自分の周囲に何かの衝撃が当たる。
向こうにはこちらが見えているのか。
少々こちらが不利になるが、相手の位置の特定はそれほど難しいことではない。

「・・・・死ねっ!!」

前方から強い光と共に衝撃波がきた。
空気を割いているのか、物体は飛んでこない。

「・・・・ちっ」

雅は大きく跳躍した。攻撃の軌道が見えないので頼りになるのは反射神経と勘のみだ。
宙にいる雅に攻撃が集中する。
このままでは体制を変えられない。

「・・・『ウィン』ッ・・・」

敵の攻撃も弾き、雅は風に乗った。
こっちの方が早く移動できるかもしれない。
雅は地面に降りた。
予想以上に光に慣れるのが遅かった。
このままほっておくと仕舞いには目に支障が出来るかも知れない。
雅は黒い布を取り出して目を覆う。
見えないのであれば仕方ない。

周囲の様子はサクラに見てもらえばいい。
早速空間内に風を流させ、彼女にこの空間の大きさを調べさせる。

戦うには十分な広さ。飛ばされても、壁まで距離があるからウィンで何とかすることもできるだろう。
こういうときに風の力は役立つ。

「・・・・ほう・・・・目隠しとは余裕だな。
『ウィン』を目の代わりとして使うのもなかなかの考えだ」
「見えないものは仕方がない。
光の強いところは苦手なのだ・・・・」

相手が笑んだ。

「・・・・以前来た奴よりは、少しだけ手応えはありそうだがな・・・。」
「それは光栄なことだ」

雅は札を短剣に触れさせ強化した。
たかが人間の作った短剣では、すぐに折れてしまうだろう。

雅は短剣を構えた。

「・・・・貴方達が持っている深い人間への恨みとやらは私には良く分からない。
とりあえず、大変な目にあっているというくらいしか・・・。
私にとってはどうして解決する方法があるのに何故その道を進まないのかが不思議でならないな。
拒むことよりも受け入れた方が簡単なのに・・・」
「そんな私達に都合のいいニンゲンなどいるものか」

返ってきたのは冷たい言葉。
雅もそう思う。いや、思ってきた。
だけど、自分は知っている。

「・・・・それがいるんだ。
力はないけど、気持ちだけが強い奴が・・・。
初めからそんな奴に巡り合えていれば、こんなに苦しい思いもしなくて済んだかもしれないのにな」

雅は自分で言って苦笑した。
本当に・・・影響力とは恐ろしいことかもしれない。

「・・・お前がその善者とでも?」
「まさか。
私はそこまで『良い人』にはなれない」

それでも今はこの龍達を救いたいと思う。
今対峙している相手は心の中でかなり強い感情が渦巻いている。
目が見えていない今、相手の顔よりも心が見えてくる。
ひしひしとその怒りと恨みと、そして悲しみと辛さが伝わってくる。
それは理解しようとしても自分の理解の範疇を超えている。

「・・・そんな私でも助けてやろうという気になったんだ。
こんな機会、滅多にないぞ」
「同情しているつもりか!?」
「・・・・貴方の心の深さは私の理解の範疇を超えている。
そもそも私ははなから同情などという感情は持ち合わせていなくてな」

雅が動いた。
真っ直ぐに相手向かって走っていく。

「・・・何っ!?」
「見えてない、と思ったか?
貴方のその激しく渦巻く感情はどう頑張っても隠しきれないぞ」

風の波動が雅向かって発せられる。
雅はそれも感じ取っていた。
少々会話しただけで相手の動きがさらに読みやすくなった。
「『ウィン』攻撃の軌道を変えて・・・。
・・・『ファイ』・・・光を・・・」

タイミングはこれ以上ないくらいにあっていた。
相手の懐に踏み込む瞬間小さな目くらましの爆発が起きた。相手は一瞬隙が出来る。
雅が短剣を振り上げる。

キン・・・

相手の息が感じられる。
近くにいる。

雅は目隠しをしながらも手ごたえはあった。
シンとは違ってあまり動くのは得意ではない。
それでも・・・・今は。

雅は間合いを取る。
まずは動きを封じるのが先か?それとも相手にダメージを負わせた方が・・・・。
さまざまな思考が頭の中をめぐる。
札を使うことは出来ない。その間に攻撃を仕掛けられる。

かなり敵を挑発してしまったらしい。
彼女の魔力はここに来たときの倍くらいに膨らんでいる。
雅は苦笑した。
・・・少しやる気を出させすぎたかもしれない。

「・・・・『闇の巫女』よ。
お前は私を説得できると思っているようだが、そのような甘い考えはここに来る前から捨てておいた方が良かった。
お前を待つのは死のみ。
それ以外の選択肢はない」
「お互い、ぼろぼろになるまで戦うことはあるまい。
あまり傷を負うのが私は嫌いでな。
出来れば、話し合いで解決したかったのだが、貴方はそれをお望みではない。
・・・貴方みたいな綺麗な方を傷つけるのは少々心が痛むが・・・」

相手のはっとする表情が浮かぶ。
しばらく、注意して気をめぐらせてみれば外見などもちゃんと見えてくるものだ。

「・・・流石だな・・・。
ここまで宝珠を分けて挑みに来た奴はいなかった。
『ウィン』と『ファイ』では私には勝てぬことは分かっているだろう?」
「・・・えぇ。
それに、二人に姉を倒させるなんてあまりしたくない」
「それは素敵なご配慮だ。
でもその選択をしたことを後悔するが良い!!」

相手の気配が空間内に散った。
光に溶け込むことが出来るのか?

「・・・何っ!?」
「・・・私がどこにいるか分からないだろう?」

四方八方から風を切る気配がした。
しかし、それは不規則で発信源が分からない。そしてそれを避けるだけの身体能力はまだ雅にはない。

「『ウィン』・・・」

耳元で風を切る、かまいたちの音が聞こえた。
サクラの風でも防げないのか。
とっさのことに雅の足はとまった。そのまま風は雅の体を切り裂く。

さらに動けなくなった雅に大きな衝撃波が襲う。
そのまま体は後方に飛ばされた。
硬い壁にぶつかる。

鈍い痛みと鋭い痛みが体中をめぐる。

「・・・・・っ」

さらに追い討ちをかけるように、一つの剣が体を貫く。
心臓ではないのが良かったがそれでも死を招くだけの威力はそれにある。

目の前に彼女がいる気配は読めた。
広がる生ぬるい血の感覚を感じながら、雅はぼんやりした意識の間にあった。
体はもう動かせない。
剣で地面に縫いとめられて動くにはこの剣を抜かなければいけない。

「・・・ニンゲンの分際で・・・。
私たちを救うなんぞ・・・馬鹿げたことを言う・・・・」

雅の目隠しが外れた。
眩しくて目が開けられない。
しかし、その小さな視界に相手の顔が映った。
やっぱり・・・感じるだけでは分からない。

女神のようだった。
金髪の流れるような髪。肌は白くて、本当にどこかの国の姫のよう。
しかしその表情には、怒りよりも後悔の方が色濃く映っていた。
雅は苦笑した。

「・・・素直になれば・・・・
案外・・・・上手くいくこともある。
・・・いや・・・・その方が上手くいく・・・」

血が喉に詰まりかけて激しく咳き込む。体を動かすだけで体全体に痛みが走った。
なんて、人間は脆いのだろう。
雅は頭の奥でそんなことを考えた。
そしてもう一度相手の顔を見る。
死ぬとき、このような女神に見取られるのもいいかもしれない。

・・・・・?

そのとき視界に黒い部分が移った。
恐らく先ほど壁にぶつかった時に、その衝撃で壁ごとはがれてしまったのだろう。
この部屋は壁だけ金剛石で覆い、その後ろはやはり岩なのだ。
雅はふっと笑みを浮かべた。

「・・・・見つけた・・・・」
「・・・まだ喋るのか・・・・。
とっととくたばればいいものを・・・・」
「・・・あと少しのところまできてくたばれるか・・・」
「言っておくが、お前と一緒に来た男は既に死んでいるだろうな」

・・・一緒にいた男?・・・あぁシンのことか・・・・。
血が足りなくなってきているのであろうか、思考回路が上手くつながらない。
そういえば、自分が男を連れて旅をしていること事態、ありえないような気がしてくる。
もう一人自分がいたら冷笑しているであろう。

・・・本当に・・・人生というものは分からない。

「・・・『ウィン』『ファイ』・・・
壁を全て壊せ・・・・」
「・・・なっ・・・」

連れのことを話せば少しでも動揺するかと思っていたが全くそのような様子はない。
むしろ、穏やかに微笑んでいるところをみれば逆にやる気を引き起こさせてしまったのかも。
すぐに、雅から離れた。
風と火はすぐに雅の言ったことを実行した。
壁にある鉱物は全て床に落ちてゆく。
そして部屋は闇に包まれていく。

雅は自分を貫いている剣に手をかけた。
周りが暗くなっていくと同時に、頭がさえてきた。
とりあえず、ここから脱出しなければ。
剣を握り躊躇いなく抜いた。
大量に出る血も、そのときに感じた苦痛もどうでもよかった。
とにかくこの機会を逃してはいけない。
もう少しで宝珠が全てそろう。

「・・・これは・・・・」

空間の中に一つの光が浮かび上がった。

「・・・貴方は光の力を使うのか・・・。
それが仇となったな。
普通の人間でもこの状態で貴方を狙うのはたやすい。」

雅は懐から拳銃を取り出した。
簡単に命を奪えるために雅はあまり好きではないが。
それでも、護身用ともしものために取っておいた。

「・・・・貴方はこの洞窟にずっといたようだ。
『拳銃』というものはご存知か?
引き金を引くだけで人の命を奪えるという・・・最悪の代物だ」

一度雅は引き金を引く。
それは闇を裂き、相手の髪をすれていった。
相手がかなり驚いている。

「・・・・当たれば、腕くらいは貫通する。
貴方のその細身の体では・・・どうか分からないが・・・
・・・・私もそろそろ決着をつけたい。
宝珠を渡すか否か。
否といえば即引き金を引いて無理矢理にでも宝珠をいただく」

静寂が洞窟内におりた。

そして、また光の空間が満ちた。
いつの間にか雅は長椅子の上に寝かせられていた。

「・・・大丈夫か・・・」

彼女は雅の元きて、特に酷い胸の部分に手をかざす。
すぐに傷はふさがり、全身の痛みが消えていった。

「私は『ライ』と申します。主人。
そしてこれが光の宝珠。
お好きなときにお呼びください、いつでも力を貸します」

『ライ』は雅の手に宝珠を乗せた。それはどの宝珠よりも光り輝いていた。
雅は起き上がって体を確かめる。
傷は全て消えていて、元の綺麗な肌だ。
いつ見ても、この回復する術は凄いと思う。

雅は改めて『ライ』の顔を見た。
彼女も雅の視線を感じて微笑み返してくる。

「・・・いやに、素直だな・・・・。
あんなに拒んでいたのに・・・・」
「・・・もう吹っ切れた・・・・。
貴方を見ている限り・・・・悪いことはないと思う。
その飾り気のない言葉こそ、信じるに値すると、私は思ったから」
「・・・・悪かったな・・・・。
私は生憎言葉を飾るすべなど持ち合わせていないからな・・・。
・・・そうだ。
シンの様子が分かるのだったな。
・・・その・・・・奴は生きているか・・・?
・・・別に・・・心配しているわけじゃないが・・・・」

言葉にしたとたん、照れくさくなる。
雅が顔を背けたのをみて『ライ』が苦笑した。

「・・・・彼は無事よ。
『ダクト』に傷を癒してもらっているから、怪我もないはず」
「シンも宝珠を手に入れたのか。」
「・・・えぇ。」

ほっとしたが、何か面白くない。
向こうの方が早く宝珠を手に入れたことになる。
ここに来る前シンからもらった十字架を見た。かなり血で汚れてしまっている。
・・・・早くふき取っておかなくては・・・。

「・・・あの・・・」
「なんだ?」
「・・・宝珠とは全く関係のないことなのですが・・・・」

雅に負けて、怒りも恨みも、悲しさも全ての感情が『ライ』から消えた。
しかし、次に沸いてきたのが、今まで心の奥にしまわれ続けた感情。
これが、全てを狂わせた元凶・・・

『ライ』は一瞬躊躇ったが、それでもはっきりといった。

「『ダクト』に会わせて欲しいのです」


    

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析