すれ違いの日々


「『ライ』に会わせてくれ」

「『ダクト』に・・・会わせて欲しいのです」

龍達の要請をとりあえず承諾した二人は、洞窟から出て別れた石の場所まで向かうことにする。
『ライ』の言うには唯一龍の中で『ダクト』とだけ話せない。ということだ。
他の四人とは宝珠を通じて話が出来たという。
お互い、顔も名前も知らない。それでも強い絆はそこにあった。
一番近くにいるのに、顔すら見ることが出来ない。

何故ならば、『ライ』は朝に、『ダクト』は夜にしか外に出られないから。
太陽と月が大いに関係しているのだという。


洞窟を抜けて外に出た。
太陽の光が眩しい。
長い時間戦っていたように思ったが、まだ昼過ぎらしい。
結界はなくなり、ミコトのいた村もはっきりと見えた。
悪しき魔力も全て消えていて逆に違和感がある。

事後処理が大変になるかも・・・・
ミコトの苦労を察しながらも、雅は坂を下っていった。
とりあえず、シンの様子が気になった。

「おー、雅っ!!」

石の前でシンが手を振っている。
とりあえず、彼の元気そうな顔を確認して、雅は安堵した。
怪我は向こうで治されているから自分が心配するようなことは何もないだろう。

「・・・よかった・・・・無事のようだな」
「雅こそ元気そうでよかったよ。
・・・宝珠のほうは?」

雅の首から新しく手に入れた光の宝珠が光っていた。

「・・・お前の方はどうなんだ?」

茶化すようにきいてみたら、シンは腰から剣を抜いた。
剣には黒曜石のような鈍い光をはなった、黒い宝珠が見えた。
ずっとみていたら吸い込まれてしまいそうな、それでも雅は綺麗な黒だと思う。

「・・・・で、どうだったんだ?」
「別に・・・・そっちは・・・・?」
『・・・・・・。』

沈黙。
お互い戦いの内容には触れたくないらしい。
完全に傷は治されて戦いのすさまじさは見た目では分からない。

雅が咳払いをして話題を変える。
そういえば、大切な用事を預かってきたのだ。

「光の主・・・・『ライ』が『ダクト』に会いたがっている」
「へぇ・・・・
『ライ』ってその光の宝珠の主か・・・・。
『ダクト』も会いたいってよ」
「それは都合がいい。
しかし、それには問題がある。
二人が同時に存在出来る空間はこの世にはない」

光と闇は表裏一体。消して交わることはない。

「・・・まいったな・・・」

雅は真剣に悩み出す。

「いっそのこと、ここで同時に宝珠の力を使うってのは・・・?」
「今は昼間だ。『ダクト』はこちらに来ることは出来ない」

雅の意見でシンの考えは一瞬にして却下される。
しばらく二人は考えていたが、結局良い考えが浮かばなかった。
時だけがむなしく過ぎていく。

「・・・雅・・・」
「・・・・なんだ・・・・」
「腹減った・・・」
「・・・・お前な・・・」

確かにもう昼は過ぎている。
たくさん動いたし、そろそろエネルギー補給することも必要だろう。
雅はシンにパンと果物を渡す。雅も自分も分を取り出した。

「・・・しかし、お前は会ったときから飯の事しか言わないな・・・」
「だって、ご飯は重要だよ。
これないと動けないし、考えられない。
雅ももっと糖分取った方がいいんじゃない??
今から眉間にしわを寄せているとあとが残るよ」
「五月蝿い。」



「・・・・それにしても、なにがあったんだろな・・・・。
あの二人・・・・。
凄い人間嫌ってたけど・・・」

シンがポツリと呟く。

「・・・大体は『アス』が言ったとおりなんだろうな。
あとは・・・やはり『ダクト』と『ライ』が会えない事が何か問題なのだろうな。
この二人にある制約は・・・何というか異様だ」
「・・・・確かに。
じゃなくて、今はどうやって二人を会わせるか、だった」
「・・・・そういえば、龍達は元々は人間の精神体だと言っていたな」
「うん、そうだねぇ」
「たまに悪魔がやるように、憑依なんてことは出来ないか?
あれだけ力があれば出来ないことはないと思うのだが・・・」

シンは最後の一欠けらのパンを飲み込んだ。

「悪くはないと思うけど・・・
何に憑依させるの?」
「私達に決まっているだろう?」

・・・やっぱり?
シンは少し悩む。
一度憑依されたことある身で、落ち着いてからは憑依される寸前のことを思い出した。
あまり感じのいいものではない。

しかし、二人の会う方法はそれしかなさそうだし・・・・・。

「仕方ないか・・・。
長い間会えなかったんだし・・・・」
「あまりノリ気ではないようだな・・・・」
「・・・正直憑依されるのはもうこりごりだ・・・」

雅が苦笑する。
嫌いなものがなさそうに思えたが、それでもやはり嫌なものはあったらしい。

早速シンは洞窟に戻った。それが一番手っ取り早い。
『ダクト』が活動できる夜まで待つのは時間がもったいないから。

雅は石の前で『ライ』を呼んだ。

「人間に憑依することは出来るな。
私の体を使うといい。
向こうも今交渉をしているところだから、しばらく待てばシンに憑依した『ダクト』がこっちにくるだろう」

《そんな方法があったなんて・・・》

「シンが一度憑依されたことがあってな・・・。
まぁ偶然だ。

私も奴も体力、精神力共に結構あるつもりだが・・・欲を出して憑依しすぎるとせっかく集めた宝珠が無駄になってしまう。
・・・明日の日の出まで体を貸そう。
・・・あまり人には会わないでくれるか?
この辺に私の知り合いがいるのだ。中身が私ではなければ驚かせてしまうから」

《・・・はい。
本当にありがとうございます・・・》

「気にすることはない。
向こうも『ライ』に会いたがっているようだったし・・・」

《・・・本当ですか?》

「・・・あぁ・・・。
でなければこんなに話は早く進まない」

向こうからシンの姿が見えた。早くもあちらは話をつけてきたらしい。



「あいつがシンだ。
既に『ダクス』を憑依させているらしいから、そのまま話すと良いだろう」

・・・・本当に・・・ありがとうございます

頭に直接言葉が響く。
雅の意識はどんどん沈んでゆく。
そして、深い眠りに陥った。

見知らぬ青年が自分の前までやってきた。
『ライ』は立ち上がる。そして雅にシンと教えられた青年を見た。

「・・・『ダクト』・・・?」

恐る恐る名前を呼んでみる。
相手は不意を突かれたように驚いたが、すぐにそれは微笑に変わる。
そして相手を強く抱きしめた。

「・・・ずっと会いたかった・・・『ライ』・・・・」



「・・・・ん・・・あ?」
「・・・・?」

気がついたのは、本当に日の出だった。
空が赤くなっていて綺麗だ。地平線の向こうから日が昇るというのもまたいいものだ。
あの二人は本当に時間いっぱい楽しんだらしい。
雅は隣に目をやる。
シンも今目覚めたようだ。

「・・・・ん??
どうした雅」
「・・・何故私の肩に手が回っているのだ・・・・?
・・・・シン・・・」
「・・・は?
あっ、ごめん。」

っていうか、手を回したのは俺じゃねぇ・・・・。
反射的に謝ってしまった自分に悲しくなる。

「・・・何もしてないだろうな・・・」
「・・・してないっ。っていうか俺が覚えているわけないだろ!」

・・・っていうか、あの二人何してた・・・・?

面会時間が長すぎたかもしれない・・・と雅は少し後悔した。
しかし、ちゃんと体が戻ってきていてよかったと思う。
憑依されたのならば、相手の意思か自分以外の相手に無理矢理払ってもらうしか助かる道はない。

「・・・・とりあえず・・・・満足できたならそれでいいか・・・」

諦めて雅がいった。
今更どうこう言おうとももう遅い。

「・・・そういうこと。
・・・で、宝珠集めたはいいんだけどこれから何をすればいいんだよ・・・」
「確かに・・・。
色々な文献を読んでみたが、魂魄を肉体に戻すことなんて、憑依くらいの方法でしか無理だぞ」

・・・出来る。と言ってしまったが、具体的な方法を考えていなかった。
雅はまた頭を悩ませた。

「蘇生術に近いものかもしれないな・・・。
そうなると禁術に値する。
・・・流石に巫女で通してもその辺の文献は読めないだろうな」
「・・・じゃ、本人達に聞いてみればいいじゃん。
・・・・っとその前に・・・・」
「飯か。
お前の行動パターンは大体読めてきた」
「流石、雅。。
憑依されていたし、いつもにまして腹が減っている感じ」
「・・・最悪だな、それ」



五色の光が、宝珠から漏れた。
今は朝なので『ダクト』は呼べなかった。

《・・・・おめでとうございます、雅さんっ。シンさんっ。》
《お疲れ様。見事だったよ、お兄さん、お姉さん。》
《・・・結構頑張ったじゃん、あんたたち》
《・・・よくやってのけたな。たいしたもんだぜ》
《・・・で・・・何用かしら?雅、シン・・・》

皆分かりやすいように、霊の形でその場で漂っている。
雅は姿を確認して、口を開いた。

「・・・助ける、と大口を叩いたは良いが、今のところどうすれば人間に戻るのかが分からないことに気づいた。
私は魔力と体力くらいは人並み以上にある。
術も訓練すれば大抵のものは扱える自信がある。
・・・何か心あたりはないか?」

サクラが言った。

《あの・・・方法はあります。
雅さんの魔力はニンゲンの力以上のものを感じます。
あと足りないのは、場所です》

「・・・・・場所?」

《・・・・はい。
二人が神になった場所。
そこに宝珠をそろえれば、私達に肉体が与えられ、人間として生きることが出来ます。
・・・・確か・・・そこには今は集落が出来ているはずです。》

各地方には各地方なりの伝説がある。
そんなのどこの集落にも伝説はあるもので、しかも龍神となればそれこそ数え切れないだろう。
場所が分かったとしても雅とシンでは辿り着くことは難しいかもしれない。

「・・・分かった・・・・ならば、その地を見つければよいのだな?」

雅が難しい顔をしながらも頷いた。
シンも楽しそうな顔をしている。

《・・・お願いします》

話は終わった、と龍達を戻そうとしたときだった。
『ライ』が雅の顔を見て言った。

《・・・・雅・・・・その目・・・》

「・・・私の目がどうかしたか?」

《昔悪魔に襲われなかったか・・・?》

雅は過去を思い出してみる。悪魔になら数え切れないくらい襲われている。
勿論全て追い払ったが・・・・。

「・・・・全て封印したぞ」

《・・・違う・・・。
雅の力でも倒せないくらい大きくて凶暴な・・・・。
私達のもう一つの兄弟・・・・》

「・・・・は?」

これはまだ聞いていなかった。

「・・・兄弟とは・・・どういうことだ?」

《・・・私達はニンゲンの『表』の感情が三つに分かれたものなんです。
私達が出来たとき、本当は十二の魂に別れていました。
私達は、宝珠を得て各地に散らばりました。
『裏』の感情もそうされる予定でした。
しかし、その『裏』の感情の力はあまりにも大きく引き合って一つになってしまったのです》

カイラが続けた。

《龍神はすぐにそれを封印した。一度まとまってしまうとまた分解するのが難しいからな。
集落がその場所にあるのは、その『裏』の感情が集まって出来た悪魔の封印を守るため。
姉上が言いたいのは雅が、その悪魔に出会っているということだ》

「・・・でもそのような悪魔・・・出会った事がない。
これでも命がけで戦ったのは貴方達くらいだ」

《・・・恐らく・・・・記憶にないのだろう。
強い衝撃で忘れてしまったということもある。
・・・・そして雅のニンゲン離れした力にも納得がいく》

「・・・そういえば、雅。
昔の記憶ないって言っていたっけ・・・・」
「・・・・逆に言えば・・・。
私が生まれた土地がたまたまその悪魔を封印している集落だったと・・・」

《そう考えるのが一番適当だね》


しばらく沈黙が降りた。
そのような恐ろしい目にあったことなど全くの記憶にない。
この力にも恐ろしさを持ったことはなかった。

「まぁ丁度良いじゃん。
雅の故郷探しってことで・・・」
「・・・・しかし・・・・私は何も覚えていない・・・・」

《・・・大丈夫・・・・。同じものは引き合います。
きっとその場所に辿り着けるでしょう》


そして光は消えていった。
シンは立ち上がった。

「・・・・とりあえず一段落だな」

「・・・そうだな・・・では早速出発するか・・・」

なんだか、今までの日々が幻のようだ。
そう思わせるほど、天気は良かったし、景色も最高だ。
二人は軽い足取りで、歩みを進めた。


    

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