記憶の破片


雅と別れ、シンはその辺をぶらぶら歩くことにした。
この辺の人達は魔力が強いのだと言う。
そういう人達に少し興味があったのだ。

やはり暇つぶしは人と話すのが一番だ。
が、村の人たちはシンを奇異の目でしか見てこれない。
とても話しかけられる雰囲気ではなかった。
シンは仕方なく人のいない村はずれまでいった。

「・・・ったくよぉー・・・。
本当みせもんって感じだよなぁ・・・・。
この村・・・・なんもねえし・・・・」

かといって、雅についていくわけにはいかない。
自分がいっても邪魔になるだけだろう。
ずっと一緒にいたし、少し一人になる時間も必要だ。

「・・・すいません・・・田舎の山奥で」
「うわっっ。」

いきなり後ろから声をかけられた。

「シン・・・さんですよね?」

尋ねられてシンは頷く。
後ろには村の娘数人がいた。先ほどの人達なのかはいまいち覚えてないが。
まぁ、いい暇つぶしにはなりそうだ。
シンはいつもどおりの人懐っこい笑顔に戻る。

「・・・・なんか用・・・?」
「旅のお話聞かせてください。」
「私達、あまり外に出ないから・・・。
いろんなこと教えてくださいっ。」

急に言い寄られて、シンは内心首をかしげた。
話しかけられることはいつもだが、話しかけられることは少ない。

「・・・・別にいいけど?
そうだな・・・・旅っつっても宝珠集める旅なんだな・・・これが・・・。
話せば長いことになるが・・・・」

やはり、退治屋の娘達だと街道にいる魔物たちの苦労は分かってくれる。
宝珠の話も楽しそうに聞いてくれた。
そういえば、この土地に伝わっていたのだから想像しやすいのだろう。
一応、これから悪魔退治に出るなど、詳しいことは話さなかったが、それでかなり盛り上がった。
久しぶりにこんなに話したかもしれない。
雅は元々口数が少ないので、会話もなかなか続かない。

「・・・やっぱり外は凄いですね。
憧れちゃうなぁ・・・」
「なれるとかなり楽しいよ。
見聞も広がるからね」

シンは少女達の表情に違和感を感じた。
昔から、ちょっとした仕草でもシンは違和感を感じるタイプだった。
深くは探らないが、人の心理を読むのは得意だった。

この少女達は・・・何か隠している?

「ねぇ、他に聞きたいことあるんじゃない?」

相手を刺激しない程度にシンは尋ねてみる。

「・・・え?」
「俺ねぇ・・・・。昔っから人と話すのが好きなんだ。
だから生まれた町では暇があるとその辺の人といろんな話をしたんだ。
だから・・・なんとなく人の考えていることが読めちゃうんだよね?
差し支えなかったら教えて?」
『・・・・・・・。』

静まった。
そして、各自顔を見合わせていった。

「あの・・・雅・・・ですよね・・・・。
あの巫女・・・」
「あぁ、うん。
もしかして知り合い?
・・・・って言うか・・・・友達?」

皆頷いた。
シンは心中複雑だった。
雅確かこの村にいたこと全て忘れているんだもんな・・・。
それを言おうか迷っていたとき、一人の少女が口を開いた。

「・・・雅に何があったんですか?
シンさんなりか知りませんか・・・?」
「・・・・何かって何・・・?
俺、まだ雅と会って一年も経ってないんですけど・・・」
「雅は、昔明るい子でした。
今はなんか笑顔が消えているようですが・・・・。
もっと、優しい言葉使いだったし・・・・」

シンは彼女達が話す昔の雅像に口が引きつるのを隠せなかった。
・・・・笑顔?優しい言葉遣い?
・・・・どこが。

「雅はかなり優秀な退治屋として皆から期待されていたんです。
覚えも早いし、魔力はあるし、運動神経も抜群で。
・・・でも、私たちを見下さず、アドバイスしてくれたり・・・・一緒に出来るまで練習してくれた・・・・。
たまにやんちゃして、いたずらしたり・・・・。
私達のリーダー的な存在でした。
ご存知だと思いますが、悪魔退治のときに大人についていって・・・それから行方不明・・・・・」

涙ぐむ子もいた。

・・・・ちょっと待て。
今とまったく違うじゃねぇか・・・。

今のどこに社交的な雅がある?
恐らく、この村で何事もなく成長していたら雅も第二のミコトのような存在になっていたのかもしれない。
シンは少し考えてみたが、それは忘れることにした。

・・・・ない。というかありえない。

「・・・お二人がここに来たとき・・・。
私たち・・・本当に驚きました。
一瞬雅が神隠しみたいなものから戻ってきた・・・そんな気さえしました。」
「あぁー・・・・神隠しじゃないなぁ・・・。
聞いた話によると雅はあのあと師匠と二人山にこもってみっちり修行したあと旅に出たんだってさ」
「・・・・そうなんですか・・・・」

とりあえず、雅の身が安全なことが分かった少女達はふぅ・・・と息をついた。
シンはまた彼女の意外な一面を見つけて整理しきれないところだ。

「・・・・で、実のところ、どこまで雅といってんの?」
「・・・・・は??」

しおらしい雰囲気とは一変、いい笑顔で少女達はシンに寄って来た。

「・・・半年一緒に旅してきたんでしょ?
なら、進展はあったはずですよね??」
「・・・進展?
いやっていうか、無いから。悪いけど、そっち方面は面白い話ないから」

シンは日暮れまで少女達の詰問にあう羽目になる。



雅は軽い足取りで山に入っていった。
慣れない道であるが、目的地までの道のりは頭に入っている。
十五分くらい歩くとその場所にでた。

そこにはたくさんの石が並べられていた。
ここが、退治屋として亡くなった人たちの墓。

流石に家の墓がどこにあるかまでは雅には分からなかった。
雅はその場でしゃがみこみ、数珠を出した。
ここには両親だけではない。
あの悪魔のせいで命を落とした人も埋まっている。
もしかしたら自分をかばって死んだ人がいるかもしれない。
人の死にも興味が無かった。
両親の死ときいても複雑な気分だが、それでも涙を流すまでには至らなかった。

血のつながりがあろうが無かろうが、自分をかばって死んでいった人達に礼を言う義務が私にある。
雅は静かに黙祷して、経を唱えた。



まだ帰るのは早いと思い、雅は気の向くままに足を進めた。
いつものように適当に行くわけではない。体が道を覚えている。
獣道をくだっていくと、そこには滝があった。
なんども使われたようなあとがある。祠がその奥にある。
この辺では儀式が行われるようだ。
雅は初めてではないが、初めてのような妙な感覚を持ちながらその辺を眺めていた。

過去の自分がどのような人物だったかにも興味が無かった。
別にこの村など思い出さなくても良かった。
両親の死も知ってても知らなくても良かった。

ただ、自分を見る村人達の視線が辛かった。
何も思い出せないでいるのに、あの暖かく迎えられる視線。
昔から人の笑顔が苦手だった。
どう反応していいか分からなくなる。

村長はこの村に留まって欲しそうな顔はしていた。
しかし、自分にその気は今のところ全く無い。
シンは、多分好きなようにすればいいというだろう。
シンもかなり強くなっている。世界を一人で回ったとしても全く問題が無いくらいに。

故郷とは・・・こんなにも自分を弱くさせるものなのだろうか・・・・。
故郷はいい、と聞いたことがあるが、それは本当なのだろうか。

どちらかというと・・・・辛い。


滝がオレンジ色に染まる。
振り返れば夕日が落ちるところだった。
いつも見慣れた光景なのに、今日はなんだか違って見える。

自然と涙がこぼれた。

「・・・・なっ・・・・」

脳裏に一瞬この滝で友達と遊んだ光景が浮かんだ。
ドクン、と心臓が大きく響く。

雅は走り出した。
ここにいてはいけない・・・・そう本能が警告していた。


    

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