かなった願い


それは深い眠りから覚めるような感覚であった。
雅は重い瞼を開く。
しばらく動いていなかったのか体のふしぶしが痛い。

・・・・ここはどこだろう。

始めに思ったのがそれだった。

「あぁ、雅っ。
よかった、ちゃんと目覚ましたか!!」

視界にシンが映った。
・・・別に私が起きたからといってそこまで騒ぎ立てることはあるまい。
頭の隅でそう思う。

雅は布団から起きだした。途端に背中に激痛が走る。

「・・・・つっ・・・・」
「うわっ!!
まだ完全に治ったわけじゃないから寝てろって!!
全く・・・・・自分がどれだけ酷い怪我をしているか分かってんのか?」
「・・・怪我・・・」

そういえば、故郷に帰ってきたことを思い出した。
今となれば、記憶が無くなった以前のこともその後のことも当然のように思い出せる。
そして自分は悪魔と戦った。
・・・・それからの記憶がない。

「・・・悪魔は・・・無事封印されたのだな・・・」

念を押すようにシンに問う。
シンは親指を立てて頷いた。

「ばっちり。
ほら、宝珠はここにある」

雅の枕元にあった宝珠を雅に見せる。
見たときよりも濁っていた。雅は顔を歪める。

「・・・・龍達は・・・大丈夫か?」
「多分ね。
洞窟から脱出したときに力を貸してくれたし・・・」
「・・・そうか・・・早く人間に戻して上げなければな・・・」
「そのことなんだけど、村の人に頼んだらすんなりOKしてもらたぜ」
「・・・本当か?
この村はそのような術に対してはかなりのレベルがある。
・・・多分このような日が来ると分かっていたのかもしれないな・・・。
・・・私も長く寝てはいられないな・・・・」
「なっ、雅っ!!」

背中の痛みを堪えて起き上がる。
ここは村長の家だった。数日間寝ていたらしく、まだ回復していない体のふしぶしが悲鳴を上げている。

「・・・・背中・・・刺されたのだったな・・・・」
「・・・ごめん・・・俺がもっと早く気づいて悪魔の爪を抜いていればそこまで酷い傷にはならなかったんだけど・・・」

悪魔の爪に残っていた邪気が雅の体を徐々に侵食していったのである。
シンが意識を失ってからすぐに様子を見に来た村の人達によってすぐに二人の治療が始まった。
気功術や魔術で体力や体の機能は回復はしたもののやはり傷は取れなかったという。

「・・・まぁ、あの悪魔の因縁ってところか・・・。
別に気にしていない。むしろ生かしてくれたことに感謝だな・・・」

雅の顔に自然と笑顔が戻っていた。
一時は記憶が戻って混乱していたものの、眠っているうちに上手く処理できたみたいだ。

「・・・大丈夫か?雅・・・。
無理しない方が・・・」
「歩ける。
色々世話になったし、私も村の人に礼を言いたい。
・・・記憶も戻ったしな・・・。改めて・・・挨拶をしようと思う」

シンは雅に手を貸した。

「なんなら横抱きしましょうか?姫」
「・・・傷口を開かせるつもりか、お前は・・・・」



雅が目覚めたという報告を受け村一同中央の広場に集まってきた。
あまりの話の広がりと、興味の対象になっていて雅は少し戸惑ったが、すぐに笑顔を見せた。

「・・・この度は本当にお世話になりました。
そして・・・この村にもう一度帰って来られたことを嬉しく思います」

雅の記憶が戻ったことを受けて村はお祭り騒ぎとなる。
今夜は宴じゃ!!とどこかで叫び声があがった。

「・・・・別に・・・・そこまでしなくても・・・・」

雅は困惑気味に呟くがシンが肩を叩く。

「いいんじゃねぇの?
少しくらい羽目を外しても」
「・・・そういうものなのか・・・?」

雅の記憶のうちにでもこのような例外の宴は無かったように思える。
何故、自分が助かっただけでこのようにみんな笑って、泣いてくれるのだろう。

雅は思い出したように、山を見上げた。

「・・・・シン・・・・」
「どうした?雅」
「・・・・少し手を貸してくれ。行きたいところがある」


以前は十五分も掛からずいけたが、やはり怪我がたたって倍近く掛かってしまった。
そこは村人達が弔ってある墓地だった。
以前経はあげておいたが、今となってはそれだけでは足りない。
雅は家の墓を見つけて、道端で摘んできた花を墓の前に置いた。
墓にはちゃんと両親の名が刻まれている。

雅はしゃがんで手を合わせた。

・・・・今まで忘れていてごめんなさい。
・・・・そして私を助けてくれてありがとう・・・・。
私は今、立派に生きています。
たくさんの大切な人に出会い、多分・・・世界一有意義な人生を送るでしょう。

・・・・もしかしたらこの場所にはもう来ないかもしれません。
それでも・・・私を見守ってくれていたら・・・・私は嬉しいです。

雅は顔を上げた。
以前まで家族や親のありがたさが分からなかったことが今となってはどんなに愚かなことかを実感した。
そして、以前まで分からなかった人の気持ちが今となってはとても、自分自身のものとして分かる。
強引にシンに引っ張られてきて良かったと思う。
宝珠がなければ今の私はなかったのだから。

「・・・さて・・・戻るぞ」
「え、もう良いのか・・・?」

いやにあっさりした雅の墓参りにシンは驚いた。

「以前来たときちゃんと経もあげてきた。
感謝の気持ちははるかに今の方が強いが、あまりやりすぎると、眠っている者たちにとっても迷惑であろう・・・」
「・・・・まぁ、そうかもしれないけど」

シンは雅に手を貸し、来た道を戻っていく。
相変わらずの方向音痴であるが、なんとか雅の道案内のおかげで村に戻ることが出来た。


雅の治癒力は高かった。
その二日後には傷の痛みも治まり、全くもとの状態にまで回復したのである。
それには村人全員が驚いた。
そして、雅はすぐに村の若い人達を集めた。
ほとんどが顔見知りで、すぐに打ちとけあえた。
シンに限っては雅が寝込んでいる間、ちょくちょくと遊びにいって、かなり交友を深めていたらしい。

雅は長老から借りた資料を一読して、最善の方法を見つけていた。
みんな円になり、雅が図解を中心において説明する。

「・・・恐らく、この方法で龍達を人間に戻せるはずだ。
彼らには自分の肉体を作る力をもっている。
あとは魂を元の輪に戻すだけ」

魂は輪廻の輪を通り、また生まれ変わると信じられている。
神はその輪廻の輪から外れていると考えられれていて、命は永遠にある。
その考えでいけば、龍の魂は輪廻から外れている。
その魂を輪廻の輪の流れに入れてしまえば人間として生きていける・・・と思う。

昔から隠れ里というのは魔物退治術と共に禁術なども取り扱われていた。
この里に関しては最大の禁術、人の魂を扱う術を昔から伝えられていた。
たまたま里一番になるだろう雅は昔からこの類の術にも知識程度に教えられていたのだ。

「・・・この術は知識だけのもので実際使われることはない。
しかし・・・これが本当ならば、龍達をもとに戻せる。
・・・皆の力は昔から私がよく知っている。
これくらい・・・・知識があれば出来るであろう?」

雅の隣にいた少女が答えた。

「・・・でも・・・これにはかなりの魔力がいる。
こんな魔力どこから・・・。
少なくとも私達はそんなに強くないし・・・」
「魔力は私とあと龍達のを使えば何とかなるだろう。
あと皆の魔力を合わせればひと時だけとはいえ神に近い力を出すことが出来る」

雅の淡々とした語り方に一同は静かに耳を傾けていた。
昔みたいな優しい声音は感じられない。
しかし、リーダー性というか、周囲の能力を把握できているというか、その辺の観察眼は全く衰えていないようだ。
だから皆雅についていく。

「・・・で、準備はしてもらえたとシンから聞いているが・・・」
「あぁ、もうばっちりだ。
しかし、あまりこういうことを表に出したらまずいと思って他には隠してある」

禁術を使った例など百年に一度あるかないかだ。
それを、村の若者達だけでするなど聞いたことが無い。
シンが始めに自分達に相談してきてくれてよかった。
大人たちならきっとこのようなことは許してくれない・・・。

「しかし、よくこんな禁術の書なんて貸してくれたな・・・」
「少しこの村の術についての知識を知りたいといったら書庫を開放してくれた。
禁術の書がここにあることは知っていたし・・・」

・・・あまりの雅の大胆な行動に皆苦笑した。

まさか当時小さな雅がこの書庫の書物をこっそり読んでたことなど村長は知らないだろう。
ここまでくればあとはその書を探せばいいだけだ。

「・・・さて、明日・・・頼む」

皆は静かに頷いた。



時刻は早朝。まだ太陽は昇っていない。
何とか『ダクト』と『ライ』を同時に呼べそうなのはこの時だ。
周囲に念入りに結界を張り、魔力がもれないようにする。
・・・まぁ気づかれるとは思うが・・・怒られるのは一人ではない。

滅多に出来ない術を使うため皆真剣で楽しそうだ。
場所は以前皆で遊び場にしていた滝。
滝つぼに広がる泉は丁度魔方陣を描くのに適していた。

見えない空気に魔力をためるより、波紋が見やすい水上の方が皆で力を合わせやすい。
そのため、昔から儀式はこの場所で行われてきた。
水上に魔方陣を書くのは今更始まったことではない。

雅とシンが泉の真ん中に行く。
そして首に提げた宝珠を魔方陣の中心においた。
既に宝珠は光を放っていた。
そしてその中心にサイからもらった剣をさした。
これも龍達の力の一部だろう。

魔方陣の周囲には村の術者がそろっている。
準備は全て整った。

「・・・・私が、合図をしたら魔方陣に魔力を注いでくれ。
それと一緒に龍達をここに呼んで人間に変える。
タイミングと強調が重要になってくる・・・・」

辺りに静寂が満ちる。雅は瞳を閉じタイミングをうかがった。
木の葉が揺れた。

「・・・・今だっ!!」

雅の合図で魔力が魔方陣の中に注ぎこまれる。
強い魔力が宙に渦巻いた。

「『ウィン』、『ファイ』、『ライ』!」
「『ウォン』、『アス』、『ダクト』!」

雅とシンが同時に叫ぶ。
周囲の魔力もまし、強い光を出し、宝珠から六つの力が溢れ出した。

「六つの魂よ・・・・全てをあるべき姿へ・・・・」

そこらにあふれていた魔力が吸い込まれていった。
雅もシンも自分の魔力が吸い取られていくのが分かる。

そして、強い魔力がはじけた瞬間、大きな水飛沫が上がった。

「・・・・っ・・・」
「・・・・つめて・・・
・・・・あ・・・・」

シンが目の前にいる人達をみて絶句した。
魔力を吸い取られその場でしゃがみこんでいた術者も目の前の光景に唖然とした。
泉に六人の知らない人間がいる。

「・・・嘘・・・・。
実体が・・・ある・・・?」

自分の手をみて、サクラがいった。

「・・・いつの間に・・・こんなところに・・・?」

サイがあたりを見ていった。

「・・・ここ・・・どこだ・・・?」

カイラが立ち上がりながらいう。

「・・・久しぶりだな。
約束は守ったぞ」

雅が六人に告げた。

「・・・ということは・・・兄上・・・姉上達・・・・?」
「・・・ライ・・・か・・・・」
「・・・ダクト・・・・なの・・・・?」

この六人は、声は通じてもお互いの姿をみたことがなかったらしい。
今まで不便な生活をしていたに違いない。

新しい体を手に入れ六人の歓喜は並ならぬものであった。
事情を大体聞いていた村人達も術の成功と共に、手を叩いて喜んだ。
朝日が昇る。
ここから皆で見る景色は最高なものだった。
多分自分はこの景色絶対に忘れない。


「・・・では・・・皆本当にお世話になった・・・」

雅は深く礼をする。
騒ぎが一瞬にして静まった。

「本当世話になったな。
力貸してくれてありがとう」
「・・・雅・・・シン・・・?」

二人はいつの間にか旅支度をし終えていた。
そしてもう買える準備が整っていた。

一瞬にして動揺が走る。

「村長にも村の人達にもたくさん礼を言った。
墓にもまいれたし、龍達もこうして人間に戻すことができた。
・・・私には、もうこの村に残る理由は無い」
「・・・そんな・・・・ずっといても・・・構わないのに・・・。
そこにいる龍さん達だって・・・」

雅は首を振る。

「・・・彼らも帰るべき場所があるのだ。
・・・そして私にも行くべき場所がある。
そこに戻るまで・・・私は旅をやめることが出来ないのだ」

―――自分が一人前だと思えるようになったら戻ってきなさい。

師匠の声が蘇る。
師匠はこの村に来たことがあるくせに自分には何も教えてくれなかった。
要するに、私はここにいるべき存在ではない。

―――私が雅を立派な人になったと認めたとき、お前は初めて自分の好きな道を進め・・・
―――はい、必ず貴方の元に帰ってきます。

約束した。
だから、守らなくてはいけない。

「・・・この近くを通ったら・・・というかまたよる機会があったらここに来る」
「せめて・・・皆に一言・・・・」
「・・・良い・・・。
最後に皆で龍を元に戻せたし、素晴らしい日の出を見ることが出来たし・・・
私にはもう何もいらない・・・」
「・・・というわけで、俺達はこれで」

龍達はいつの間にか消えていた。
先に行ってしまったのだろう。
二人は村人達の間を抜け、走り出した。

「じゃーなー!!」
「・・・ちょっ・・・そこは崖・・・・」

二人は躊躇わず跳躍する。

そしてすぐに村人達の前から姿を消したのであった。

騒ぎを聞きつけ村の大人達がやってきた。

「・・・・もしかして・・・逃げたか?あの二人・・・・」

一人の台詞が強く心に響いた。


    

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