始まりの宝珠


光り輝く宝珠を目の前にして、シンの目も輝いた。
雅も、意外な光景に息を呑んでいる。

「あそこにあるのかっ!?
あれが、宝珠か!?」
「あぁ、おそらく。あそこから強い魔力を感じる・・・・」

それに近づこうとした瞬間、強い風が二人を空間から押し出した。

「・・・・風?」

見えないものにシンは少し戸惑った。
雅は手をかざして様子を見る。
なるほど、中には強い風が吹き荒れているのか・・・。

「しかし、何故こんなところに風が吹いている?」

どうみても締め切られた空間で、外に通じるところはどこにもないと見える。
しかし、風はこの空間を吹き荒れている。
どういう原理か考えてみるが、現実的にそんなことはありえない。
だとすると、考えられるのはただ一つ。
あの宝珠が何らかの強い力を発揮しているのだ。
さて、どうしたものかと雅は思案した。
とりあえず、風の動きが分からないと行動も出来ない。

「・・・シン・・・その辺の石をその部屋に投げ込んでみてくれ」
「分かった」

手のひらほどの石をシンが部屋に向かって投げた。
風の抵抗もあり、部屋の中に入った瞬間石はすぐに横に流された。

「・・・・風はこの部屋の中を回っているのか・・・・」

石はこの部屋の中を何度も何度も回っている。
落ちないということは、それほど風も強いのであろう。人間だったらどうなるのだろうか。
・・・やはり、適当に流されて、岩の壁にぶつかってしまうのだろうか。

雅とは対照的にシンは面白そうに石の様子を眺めていた。

「へー、すっげー!!
この中って本当面白いんだなー。」
「・・・シン・・・間違っても安易に中に入ろうとするなよ」
「大丈夫だって、俺が風ごときに流されると思う?」

そういって、シンは風に手をかざそうと腕一本部屋の中にいれた。
風の力は二人の予想をはるかに超える威力を持っていた。
中にいれたシンの手からシンは体ごと風にさらわれたのである。

「・・・シンッ!?」
「・・・雅ぃ〜〜〜っっ!!」

情けない声を上げシンは中に吸い込まれていった。
そして円状の空間をくるくると回っている。
雅は予想以上の風の強さに絶句していた。
壁に当たって終わりかと思っていたが、そうでもないらしい。

そう、考えている間にもシンは部屋の中を流されている。

「雅ぃ〜〜・・・・助けてくれ・・・・」
「気をつけろ忠告したばかりだというのに・・・・」

あいつは阿呆の子か?
雅はため息をつかずにはいられなかった。
あまりにもシンが阿呆すぎて、無視して帰りたい衝動を抑え、雅は部屋の中に入ろうと一歩踏み出した。
もしかしたら、この流れにそって、中心まで辿り着けるかもしれない。

雅は思い切って風の中に入っていった。

「・・・なっ・・・」

自分が吹き飛ばされるほどの強風にあったことはこれが初めてだ。
最初はなれないものであったが、それも部屋の中を数回回っているうちに、風の乗り方も自然と慣れていった。
そしてシンが近くに来たのでとりあえず彼の肩に捕まった。離れるよりも一緒にいた方がいいだろう。


「・・・さて、これからどうするかなのだが・・・」
「・・・この調子で回って少しずつ宝珠に近寄れるんじゃないか?」
「あぁ私もそう考えた。
この分だと、しばらく我慢していれば真ん中までいけそうだし・・・」
「痛っ!?」

シンの頬に赤い筋が走った。

「・・・どうした、シン・・・?」
「さぁ、多分さっき流した石が顔に当たったんだな・・・。
いてて・・・血が出てるかも・・・」
「まぁそれくらいならすぐに消える・・・・
・・・・・・!?」

雅はシンの頬の傷を見て瞠目した。
風が一方方向に流れているのであれば、顔の傷は横になるはず。
しかし、彼の顔には縦に真っ直ぐに傷ができている。
・・・ということは・・・・。

風というものは、目に見えない。おかげでまったく気づかなかった。
雅は上をみる。
天井は真ん中を囲むように大きなくぼみが出来ていた。

・・・もし・・・
もし、宝珠の周りにある風だけ、縦方向に流れているのであれば・・・。
私達を宙に浮かせ、運ぶ威力のある風である
このまま、縦に流れる風に乗れば天井の壁にぶち当たる。
しかも、よく見ればくぼみには鋭いとげが出ていた。

・・・これは準備周到なことで・・・。

雅の顔が険しくなった。

「・・・・シン・・・・。
ここの風はもしかしなくてもこの部屋をくるくると回っているだけじゃなさそうだ・・・・」

雅の声音と表情からそれはあまりよいことではないとシンは悟った。

「・・・どういうことだ・・・?」
「この風は、中心に近づくと下から上に向けて吹き上がっているんだ!!」
「・・・だからなんなんだ??」
「上を見ろっ!!」

シンは雅の言いたいことを察知した。
確かにこの調子では岩の壁に激突、とかいうまだましな痛さではすまされないらしい。

「・・・最後の賭けに出る。
上昇する風に乗ったら、一瞬だけ無風の空間を作ることができる。
内側にいるお前は無風の空間を渡りあの宝珠のところまで行き、私も引っ張ってくれ。
・・・チャンスは一度。失敗すると・・・・死ぬぞ」

特に私が。
今まで一人で旅をしてきたため、自分の命を人に預けることはなかった。
記憶のある限り、雅ずっと師匠と二人で暮らしてきた。
心の底から信じられるのは師匠だけ。
・・・正直この出会って間もない男に、しかもかなり単純さで出来ている男に自分の命を預けるにはかなり不満があるのだが、この際仕方がない。
自然とシンに捕まる手に力がこもった。
シンはそれに気づいたのか、雅の方を向いて微笑んだ。

「・・・大丈夫だって。
雅は絶対に守るから」

・・・この男は・・・。
言葉にしなくても、私の気持ちが分かるのか?
不意を疲れたようにシンの体が上に持ちあがる。
シンは雅の腕を握った。
雅は懐から札を出した。対魔物用の攻撃の札。

「・・・・『破』っっ!!」

札の中に封じ込められていた通力が一気に噴出される。
その力と風の威力が相殺し合って、一瞬だけ無風の空間が生まれた。
シンはそれを見逃すことなく、中心に体重を動かした。
シンが抜けたすぐ後に、また風が吹き上がる。
雅の体は軽々上に吹き飛ばされる。

「・・・・きゃっ」
「雅っ!!」

握っていた腕を強く引っ張った。
いきなり無風の空間に入った雅はそのままシンの元へ倒れこむ。

「・・・助かった・・・」

一瞬、嫌な汗をかいた。

「・・・あー、よかった・・・。
このまま雅が死んでいたら末代まで祟られそうだし・・・」
「・・・貴様、離す気だったのか・・・?
だいたい末代までというが、私がいなければこの先宝珠を手に入れられたとしてもどうやって戻る気だったのだ?
RPGゲームじゃあるまいし、宝珠を手に入れたら、村までワープなんてそんな都合のいいことはあるまい」

・・・確かに、そうだ。と素直にシンは思った。
・・・しかし・・・・雅の口からRPGゲームなんて言葉が出てくるとは思わなかった。
まったく、この偽巫女は意外な人物の塊だ。

そして二人は中央においてある、光を放っている宝珠を見つめた。
雅が一歩前にでる。

「・・・一応龍神の珠・・・といわれてあるからな・・・
このまま持ち去るわけにも行くまい・・・」

雅は、宝珠の前に座った。
そして、首から提げていた数珠を手に提げ、経を唱え始めた。
その姿は、本物の巫女同然であった。
おそらく、雅の天性は巫女であるのだろう。強い通力を持っており、唱える経にも力がある。
神に対している彼女は、普段とかけ離れた印象をシンは持った。
シンは何できないながらも立っているのは場違いだと思い、とりあえず、雅の後ろに正座で座り事が終わるのを待っていた。

それから約一時間ほどが経ち、やっと雅は顔を上げた。
今まで感じた、神々しい背中はもうない。

「・・・さて。
ここまでやったんだから・・・・祟るのはやめていただきたいものだな」

シンはすでに足の痺れは限界にきていてすぐには立てない状態だった。

「・・・・雅・・・手ぇ貸して・・・」
「・・・まったくだらしのない・・・
これくらい常識であろう」
「うちは、椅子が主流で正座したことほとんどないんだよ。俺は」
「・・・そんな感じがするよ」

雅は手をシンに差し出した。
しかし、シンがちゃんと立ち上がれたのはそれから数分がしっかりかかった。

「・・・無理をするからだ。
辛いなら崩していればいいものを・・・」
「だって祟られるのは嫌だし?」

・・・雅の背中を見ていると姿勢なんて崩せない雰囲気だった。というのが本音なのだが。
雅はシンの言い分に納得いっていない表情だった。
・・・さっきまで龍神なんてくそ食らえ、とか言っていなかっただろうか。

気を取り直し、二人は宝珠に向き合う。
雅の経のおかげだろうか。宝珠から放たれる力も和らいでいるように思えた。
雅は宝珠に手を伸ばし、自分の手のひらで見つめた。シンも覗き込んでみる。

「・・・へぇ、綺麗だな」

緑色をした宝珠は雅の手の上で光を放っていた。

「・・・さて、これで戻れるな。
この中に入って結構経つ。サクラも心配しているだろうし・・・」

ゴゴゴゴゴ・・・・

どこからか地響きが聞こえてきた。
地面が揺れている、そしてそれは徐々に大きさを増していった。

「・・・しまった・・・。
この宝珠がこの洞窟の解除スイッチだということか・・・」
「侵入者徹底排除するってやつ?
いやー、ガードが固いねぇ・・・」
「呑気なことを言っている場合かっ!!
崩れるぞっ!!」

天井にはひびが入り今にも落ちてきそうな勢いだ。
この空間もあと少ししか持つまい。

シンはあることを思いついた。

「・・・なぁ、この天井が壊れたらさっきの上昇する風に乗って外へ出ればいいんじゃない?」
「なるほどな・・・・少し賭けにもなるが、潰されるのを待つよりもずっといい」」

しかし、先ほどまでこの部屋を吹き荒れていた風はいつの間にかなくなっていた。
二人の間に緊張が走った。
天井の崩壊が始まった。大きな岩石が上から降ってくる。

雅は宝珠を強く握った。
・・・風さえあれば・・・

次の瞬間、強い風が吹き荒れた。
雅とシンの体をさらい、上に吹き上げる。
そして自分達の前の障害となるもろとも吹き上げ、そして数秒のうちに雅とシン外に出ていた。

風は収まった。
しかし二人は宙に浮いている。
何が起こったのか二人には分からなかった。ただ、宙に浮いているという現実がある。
下を見れば地面にぽっかりと穴が開いていた。あそこから抜けてきたのだろう。
向こうには大きな谷が見えた。
あそこからここまで歩いてきたことが分かる。あそこにサクラは待っている。
雅は自分の手のひらで光っている宝珠を眺めた。

「・・・これのおかげか・・・」

奉ってあったのは龍神ではなく、風神なのかもしれない。
雅はなんとなくそう思った。

空はもう暗くなり、月が地上を照らしている。
宙に浮きながら月見というものはなかなか趣があっていいかもしれない。
二人は今の異常な状態を忘れ、しばらく月を眺めていた。



始まってしまった運命はもう止めることの出来ないものである。
たとえ・・・どんなに力を持つ神であっても。


《なんて人たちなの・・・・?宝珠まで辿り着き挙句の果てにこの私を・・・》

サクラはただただ驚愕するしかなかった。
始め出会ったときは、ただ力のある退治屋くらいにしか思っていなかったのに・・・・。
特に、この巫女の方は見た目以上に強い力を持っている。
自分の許可無しに、宝珠の力を引き出すなんて、今まで考えもしなかった。
サクラは目を閉じた。遠く昔に散り散りになった兄姉達にの顔を思い浮かべた。

・・・決めた・・・・私はこの人達を信じる。

《兄上、姉上。私はもう決めました。
この人たちを信じます。
後は・・・・貴方方でご判断ください》

ざわり、と背筋が震える。兄姉達の怒りが伝わる。

でも・・・サクラは前を向いた。

後悔はない。


雅とシンの体が急に動いた。
どちらかというと風に流されているといった方がこの場合は正しいのだろうが。
そして、清流の麓で二人は下ろされた。
まるで、今日はここで休め。とでも言われているようだ。

あたりに怪しい気配はない。
雅は簡単に周囲に結界を張った。
そして、二人はその場に倒れこんだ。
緊張の糸が切れたみたいだ。

食事をするのも忘れて、二人はその場で眠り込んだ。


翌日、身支度をすませ、今から出発しよう、そんな時に丁度サクラが現れた。

「あぁ、おはよう。サクラ。
よくこの場所が分かったな・・・」

雅の声にサクラは会釈をした。

「・・・これだろう?お前が欲しがっていた宝珠というのは・・・」

雅は懐から昨日取ってきた宝珠を取り出した。
それは雅の手のひらできらきらと輝いていた。
サクラは頷いた。

「まったく、あの洞窟本当おっかなかったぜ。
なんでサクラの村の人達はサクラに取りに行かせたんだろうな。
絶対サクラじゃ無理だって」

シンも陽気な声でこちらにやってきた。
サクラは二人の表情を交互に見た。どうみても、怒っているようには思えない。
勘の鋭そうな雅のことだから、自分が仕掛けたことだと気づいていてもよさそうなのに・・・。

「・・・どうしたサクラ?
この宝珠受け取らないのか?」

サクラの態度に疑問を持ったのか、雅がしゃがみこんでサクラの前に宝珠を差し出した。
サクラは覚悟を決めて、二人に深く礼をした。

《ごめんなさいっ!!》

突然謝られて、二人は呆然となった。
どうして彼女が謝るのかまったく検討がつかない。

「・・・・サクラ?」

《二人に、こんな危険な目にあわせてまで試そうとした私を許してください。
・・・もし・・・そんな私を許してくださるのであれば、そして大事なお願いを聞いてくださるのであれば・・・・
私についてきてもらえますか?》

「・・・私達を試した?」

サクラは頷いた。表情からちゃんと反省の色が伺える。
好きでやったのではなさそうだ。何か訳ありとみえる。

「・・・シン、願いとやらを聞いて欲しいそうだが、どうする?」
「・・・俺は雅についていくぜ。
受けるも受けないも雅が決めてくれ」

雅はサクラに向き直った。

「では、その願いとやら・・・話だけでも聞こうではないか。
返事はその後でも構わないか?」

サクラは頷いた。
そして自分の後ろに別の空間へと通じる空間を呼ぶ。
陽炎のようにゆらゆら揺れる空間がサクラの後ろにあった。

《この中でお話しましょう。
・・・・大丈夫、危険なことはありません。》

雅とシンがその結界をくぐると、そこは綺麗な泉が広がっている空間であった。
木もたくさんあるが、無限に広がる空間とは言いがたそうだ。
奥行きはたしかにあるが、壁のようなものが存在するように見える。
外であるのに八畳ほどの広さに感じられた。

《今回のことは本当に申し訳ありませんでした。
今までの罠も私がすべてやったことです・・・。

しかし、お二方の活躍を目にして私はある確信が持てました。
・・・貴方方なら私達の呪いを解いてくださるかもしれないと。》

「・・・呪い?」

その言葉に二人共、眉を寄せた。

《雅殿が持っている宝珠はあと五つあります。
それをすべて集め、私達にかけられた呪いを解いて欲しいのです》

「・・・サクラが頼みたいことは私達に宝珠を六つ集めろといことか」

《・・・・はい。
本当に酷い目に合わせたことは承知の上です。
それでも・・・私と・・・兄と姉たちを救ってくださるのであれば・・・・》

「それは具体的にどのような呪いなのだ?
そして宝珠はどこにあるのだ?」

サクラは首を横に振った。

《・・・私達はこの地から出ることができないのです。
何千年も私はこの土地に縛られていました。そして、あのような姿で助けてくださる人を求めていたのです。
私の呪いはこのようなものだけなのですが・・・兄や姉達はもっと辛い呪いを受けているのです。
・・・実際彼らがどこにいるのかは私は知りません・・・・。

ですが・・・どうか・・・・どうか、勝手とは承知しております。
私達を・・・助けてください・・・》

サクラは土下座した。
雅はすぐに顔を上げさせた。

「・・・私はそこまでされる人間ではない。
宝珠を集めろ、というのであれば別に集めてあげても構わない・・・。
その代わり、集められると言う保障はない。いつになるかも分からない。
それでもいいというのであれば・・・その頼み、引き受けよう」

《・・・本当ですかっ!?》


サクラに歓喜の表情が戻った。

《・・・おそらく雅殿は気づいておられるだろうと思いますが、その宝珠には風の力が入っております。
その宝珠は私自身。
『ウィン』とお呼びください。その宝珠があるところ、私はいつでも馳せ参じ、貴方の力となります》

「・・・ほう・・・それはありがたい」

《・・・その代わり、兄姉達に会ったときはお気をつけください。
私みたいにきっと貴方達を試してくるでしょう。
・・・私の風の力は他の力に比べて少々劣るところがあります。
しかし・・・私も力の限り貴方達をお守りします》

雅とシンはふっと、笑みを漏らした。

「・・・これはこれは力強い」

《では・・・貴方方の御武運を願っております》

サクラと空間はこの言葉を境に消えた。
また森の中についたようだ。

「・・・夢・・・か??」

シンが辺りを見回しながら言った。

「・・・・いやそんなはずはない。
だってこの宝珠がある・・・・」

雅の手のひらには淡い光を発している緑の珠があった。

「夢じゃないのか・・・。
なんかたいそうな仕事を預かってきたって感じしないか?」

二人は歩き出した。

「・・・で、どうするんだ?この先」
「・・・・別に・・・」
「は?何か考えがあってこの依頼を受けたんじゃ・・・」

シンの焦りとは対照的に雅は落ち着いて答えた。

「別に。
旅のついでに宝珠があれば集める。
大体、どこにあるか聞いてもないのに、集められるか。
・・・まぁ私達の場合どこにあるか聞いても集められるかどうか保証もないけどな。
・・・もし、本当に宝珠が私達を本当に必要としているのなら、運命とやらが私たちを導いてくれるだろう・・・」
「へぇ・・・・雅がそんな曖昧なものを信じるなんて意外だな」
「別に信じてなどいない・・・おい、シン・・・・」
「・・・なに・・・うごっ!!」

シンの顔に木の枝があたった。

「いってぇ・・・・知ってたならいってよ・・・」
「・・・一応言おうとしたが・・・。
遅かったな・・・」
「・・・遅いよ・・・」


偶然先ほどの村についた。
シンはまた果物を売っているオヤジの姿を見つけ声をかけた。

「あぁ二、三日見ないと思ったら・・・
もしかして、本当に宝珠探しに行ってきたのか?」

オヤジは冗談で言ったつもりだったが、シンが笑顔で頷くと、本気で固まった。

「うん、まったく本当におっかないところだったぜ。
見てみて、この傷」

もう消えかかっていはいたが、シンの頬には縦に一筋の傷が走っている。

「で、その宝珠とやらは?」
「・・・あぁ雅がもってる。ほら首に提げているだろう」

オヤジは雅の宝珠をまじまじと見つめてから笑った。

「確かに綺麗な宝珠だが、偽者だろう。
大体あの洞窟は悪霊が人間を殺すためにこしらえられた洞窟で宝珠なんてものはないはずだぞ」
「・・・悪霊?」

雅がその単語に目を細めた。

「あぁ、ついでにその悪霊ってやつも浄化してきてから安心していいよ。
なんか悪霊ってのもなんかわけありってやつらしくてさぁ・・・
って雅・・・・っ!?」

雅は先に歩いていった。
シンはオヤジに別れを告げるとすぐに雅の後についていく。

また雅は不機嫌そうな顔をしていた。

「どうしたんだよ、雅・・・」
「お前、どうしてサクラが『悪霊』と呼ばれているのを私に告げなかった?」
「あぁ、別にサクラは悪霊っぽくなかったからね。
実際悪霊じゃなかったし」

確かにシンの言うとおりだ。
しかし、雅の言いたいところはそこではなかった。

「・・・サクラが悪霊でなくても、そういうことはちゃんと言ってくれ。
もし、悪霊だったらどうするつもりだ!?
私達はもっと酷い目にあっていたかもしれない、それに今も生きているという保障はないのだぞ!?
・・・大体、そうやって見かけだけで敵を惑わせるものだっているのだからな」
「・・・はいはい・・・
じゃ、・・・俺がサクラは悪霊だって言ったら雅はどうした?
宝珠を取りに行く気になった?サクラを助ける気になった?」
「・・・それは・・・」

多分、見切りをつけたところで排除していたかもしれない。
雅は言葉に詰まった。
そのようなこと考えたこともない。
まず、疑うことから始めないと自分の身を守ることが出来ないから。
特に・・・人外については・・・

答えられない雅をシンはそれ以上責めることはしなかった。
またいつもの鼻歌を歌いながら周りの景色を眺めている。
外に出て色々悩め。
そう、師匠に言われた気がする。
・・・これがそうなのかもしれない。

雅は首から提げた宝珠を見た。
・・・少しだけ、宝珠を集めようという気になった。


    

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