森の中での修行


サクラと別れ、雅とシンはまた山道を進んでいた。
また適当な道を進んでいれば宝珠に出えるだろう。
宝珠に的を絞って探すのではなく、いろんな場所に行って、そこで宝珠を捜す。
その方が手っ取り早く、いろんな情報が手に入る、と二人は考えた。

「そういえば、雅それそうやって使うんだ?」

シンが横目で雅の胸にかかっている宝珠を見る。

「さてな。
とりあえず、風の魔法が入っているのだろう。実践でないと使えない。
それにサクラの話ではサクラが風に変わって助けてくれるそうじゃないか。
並大抵のことがない限り、呼ぶのはちょっと悪いだろう・・・」
「確かに・・・」

しかし、気になるものは仕方ない。

「それに相当の魔力がいりそうだし、私の魔力でどこまで持つか・・・」
「そんなことまで分かるのか・・・」
「なんとなくな。
洞窟から脱出するとき、確かに宝珠を使った感覚があった。
そのあと、私は眠るように倒れてしまった覚えがある。
・・・今の私では完全には使いこなせそうにないな」

雅がそんなことを言うなど、珍しい。それほど宝珠の力は強いのか。
シンは少し考えた。

・・・もし、宝珠を手に取ったのが雅じゃなくて自分であったら、即返してください。といわれるに違いない、と。

そんな会話をしているうちに正規の道から外れてしまった。
こんなことだから方向音痴は困る。
しかし、これまた困ったことに二人は気づいていない。

「で雅、次の道どこ??」
「・・・左」
「おしっ。」

・・・・目の前に道などあるはずない。
しかし、シンも疑いなく左の方向に歩いていった。
こうして二人はどんどん森の奥に入っていくのであった。
その場所を何回もうろうろしたこともある。
それでも気づかないのが方向音痴。

・・・雅が一年間旅を続けられたこと自体奇跡である。

ザザザザザ・・・・・・・

「・・・・ん?」

シンがある音に気づいた。

「・・・うーん・・・」

シンが立ち止まった。

「どうかしたか??」
「音がする」

雅も耳を済ませてみた。
昔から自然の中で暮らしていたので、身体能力は普通の人よりもずば抜けていい。
すぐに、シンの言う音を雅は感じ取った。

「・・・滝か・・・?」
「なるほど・・・この奥にあるんだな。
寄ってみないか?雅っ!!」
「そうだな・・・。いいだろう。そこで休むことにしよう」

こうして二人は滝の音だけを頼りに森のもっと奥に入っていった。

「っていうか、意外に雅って耳いいな」
「シンもそうだろう・・・・。
やっぱり、森を歩くには敵の位置とかわかってないと戦いにくいし・・・・。
私はもともと森の中で育ったから少しくらいは発達している・・・と思うが・・・」
「へぇ・・・。
・・・・あっ!!川だっ!!」


目の前には川原と大きな川。
そし隣を見ると大きな滝。

「綺麗だな・・・こんなに大きな滝は初めて見た」

雅は初めてみる滝に少し我を忘れていた。
自然とは時に大きな感動を与えてくれる。
自分がとても小さな存在に感じる。

「そうか??俺はもっと大きいやつ見たことあるぞ。」

シンは自慢気に語った。
一度、家族で旅行にいったことがある。
そこにあった滝は小さな村をすっぽり包んでしまうほどの大きさだった。

「でさ、やっぱり滝といったら修行でしょ??」

シンが唐突に言い始めた。
雅は首をかしげる。

「・・・修行??」
「ほらほら、よく仙人がやってるような・・・・」

雅は想像がつかず、少し考えてからボソっといった。

「・・・上から飛び込む・・・とか?」

真顔で言った雅に、シンが突っ込む。

「ちょっと待て。」

どこに修行といって滝壺に飛び込む仙人がいる!?
その前にこんな大きい滝、上から飛び込んだら死ぬぞ。
シンは苦笑しながらも説明した。

「そうじゃなくて、滝壷修行。
滝にあたるんだよ・・・。知らない??」
「・・・・そんな修行法があるのか・・・知らなかった」
「巫女ならやってそうなもんだけどなぁ・・・
ほら、身を清めるときとか・・・」
「生憎私はしてないな」

というか、私は巫女ではない。

「・・・まぁとりあえずやろうぜっ!!」

かなりのりのりのシン。
何がそんなに楽しいのか雅には分からなかったがとりあえず、付き合うことにした。
仙人のやる修行であるなら少しは強くなれるかもしれない。

そして十分後。

「なぁ、シン。かなり冷たくないか??」
「まぁそうだな・・・・。冷たいけど?」
「それに痛い。」
「痛いな・・・」
「なんかやる意味あるのか・・・」
「あんた巫女だろ・・・我慢しろ。」
「私は巫女ではないといっている。
そもそも、巫女といってもこんなことになんの意味もないぞ」
「まぁ・・・気分だよ、気分。
ほら、心頭を滅却すれば火もまた涼し・・・って・・・」
「・・・・シン・・・・
今涼しくしてどうするのだ。
芯まで冷えるぞ」

・・・確かに・・・そうだ。
冷たい水に当たって、シンは身震いした。


「ふぅ、やっぱり滝修行はいいね。動かなくていいから。」
「なんか疲れるなこの修行。でも、肩がよくなったような気がするな」

雅が肩をまわしながら言った。確かに、落ちてくる水が丁度ツボを刺激してくれる感覚だ。
お前幾つだよ・・・・シンは内心突っ込みながら濡れた服を絞った。

昼食を食べ終わって、雅は川をなんとなく眺めていた。
特にすることもなく、特に何を考えているわけでもなく、ただぼーっとしている。
たまには、こうやって時間をもてあますことを必要だ。
師匠がそんなことを昔言っていた。

シンにいたっては朝から御機嫌のようで、ずっと愛用の剣を振っている。
シンを眺めていると目が合った。

「なぁ、雅ってどんなところに住んでたんだ??」

唐突だった。雅は一瞬言葉に詰まる。
剣を納めてシンは雅の隣にきた。

そういえば師匠と住んでいたところはこのような山の中だった。
そんなことを思い出して、雅は懐かしさがこみ上げてきた。

「・・・こんな感じの山だな。この山よりも安全だ。
なんかこの風景を見ていると懐かしいな・・・」
「へぇ、いいなぁ・・・こんなところに住んでたのか・・・
毎日が楽しかっただろう?
俺は町の真ん中だぜ・・・・。いつも同じことばっかで飽き飽きしていたんだよな。
特に勉強とかが最悪だったな」

雅はシンが学問をしていることに、意外な感覚を持った。

「・・・一応、学があるのか・・・」
「学っていっても・・・雅の思っているほど、ちゃんとしたものでもないさ。
俺の住んでいたところには『学校』っていうちゃんと勉強する場所があって、ほとんどの子供は強制的に通わされて、勉強させられていたってことだ。
・・・そっか・・・雅の住んでいたところはそんなところなかったんだな・・・」

それはそれで羨ましいと思う。
自分の好きなことを学び、好きなことが出き、とことん打ち込める。
自分は、そんな生活を望んでいた。

「・・・学問は師匠に教えてもらっていた。
しかし、近くの村にも寺で読み書きを教えてもらっていたくらいだ・・・
シンは大層裕福なところで育ったのだな・・・」

特に羨ましいと思うことはないが、そんなところで育っていたら自分は今何をしていたのだろう。
雅はそう思い、少しシンの住んでいたところに興味を持った。
いつか旅を続けているとそんなところに辿り着けるだろうか。

「裕福ね・・・・。
贅沢な悩みだと思うけど・・・そんな半ば強制的な世界が嫌だったんだ。
だから家を飛び出してきたんだ。
・・・旅に出て思ったけど、まったく学校で習ってきたことが無駄なものって感じたよ。
読み書きと、多少の知識があれば十分生きていける。
・・・家を出たことは後悔していないけどな。
多分・・・親父とかはカンカンだと思うけど・・・」
「私は追い出されたといったほうが正しいな。
十六になったからって師匠に近くの町まで連れて行かれた」
「・・・そういえば、雅は師匠っていうけど、親とかはどうしているんだ?」
「・・・あぁ・・・」

雅は言葉を切った。
雅は人と付き合っていて、少し学んだことがある。
自分の生い立ちを言うときは、少し言葉を選んだ方が良い・・・らしい。
シンは不思議そうにこっちを見ている。

「・・・どうした??」
「・・・いや、私は昔の記憶がないらしくて・・・。
親の顔は知らないし、気がついたときには師匠がいた。」

記憶喪失・・・?
シンは雅の意外な過去について知った。

「そっ・・・そうなんだ・・・。
もしかして、悪いこと聞いた!?」

ほら、こうやって皆、申し訳なさそうな顔をするんだ。
雅は苦笑した。また自分は悪いことを言ってしまったのかもしれない。

「シンが気にすることは何もない。
大体・・・・恥ずかしい話だが、ほんの一年前まで親という言葉は知らなかったんだ・・・・。
私は、師匠と山の中で二人で暮らしていたんだ。
山の中ではほとんど、誰にも会わなかったし。師匠を暮らしているのが当たり前で、だから寂しいとか思わなかった。
・・・事実、親や家族という存在がどういうものなのか私は未だに良く分かっていないのだ」

師匠とは、初めから師匠と弟子、という関係で育てられてきた。
彼女と自分は赤の他人なのだ。
人と人との関係というものはこういうものだと思っていた。
・・・しかし、実際はそうでもないらしい。
世間に出るようになってから、雅の世界は急速に広がり始めた。
それをまだすべて雅は理解していない。そして理解していないのに世界はさらに広くなっていく。
シンと出会った事で雅の世界はさらに加速して広がっていっている。

シンは雅の話を聞いて、確信した。
普通とは違う、何か別の生活をしてきたのだな・・・。巫女だからそんなものか・・・そう思っていたが・・・
彼女は、本当に普通とはかけ離れたところで育ってきたのか。

「・・・・会いたいとか、思わないのか・・・?」
「親にか?
正直、思わない。
会ったとしても、記憶がない上、何を話していいかわからない。
どう付き合えばいいかも私には理解できていない。
だから・・・・別に・・・。
私には師匠がいたし・・・それでいいのだ。
それよりシンは・・・?親には会いたくないのか?」
「・・・別に・・・
今は会いたくない。
・・・・もしかしたら会いたくなるかもしれないけど、今はそのときじゃないような気がする・・・・」
「・・・そうだな・・・」

雅はシンの言うことがなんとなく分かった。
私も今の状態ではまだ師匠に会えない。
・・・まだ自分は、変われていないような気がするから。
きっと・・・・会ってくれないだろう。

自然に会話が途切れた。
二人は目の前に広がる美しい景色を眺めた。
自然というものは、いつ見ても飽きない魅力を持っている。
水は何を思って流れていくのだろう・・・・。
葉はどこまで流れていくのだろう・・・・。

まだ日が落ちるには時間が早かった。
しかし先を進む気にもなれず、今日はここで過ごすことにした。

また、一つ世界が広がった。
雅はそんなことを頭の隅で思った。


    

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