「来たッ!!”龍王降臨”」
「ぎゃーーっっ!!」

朝早くにも関わらず賭場は盛大な盛りあがりを見せていた。
その理由は言わずもがな、最強博打打ちコンビ、と龍蓮が朝っぱらから乗りこんできて一勝負しかけてきたからだ。
その二人が現れた事で徹夜で博打をしていた人達も起きあがって次々勝負を挑んだのだが、彼らの見事な手札の数々に散っていった。
二人の隣にはかなりの金の山が溜まっていた。

「さて、龍蓮。こんなもんで良いかしらねぇ」

満足気に言うに頷く龍蓮。
徹夜明けの彼らは更に追い討ちをかけられて真っ白になっている。
なんの騒ぎかと眠そうに胡蝶が入ってきた。

「・・・おや、藍将軍の弟さんにじゃないか。
こりゃまた沢山稼いだねェ・・・」
「あっ、おはようございます。胡蝶さん。
悪いですけどこれ、旅の資金にするつもり何で渡せませんよ」

・・・どんな豪華な旅をするつもりなのだろうか、彼らは。
ここまできたらどこまで行くかよりも、どんな旅をするのだろうかという事の方が気になってしょうがない。
胡蝶は負けた男達を一瞥してまたたちに向き合った。

もいなくなっちゃうのかい?
秀麗ちゃんもいなくなって寂しいと言うのに・・・」
「大丈夫ですって、私はすぐに帰ってきますよ」

は溜まった金を風呂敷に包んだ。
結構重い。

「半分は紫州で落とすつもりなので返して欲しければ勝ちまくってくださいね。
ではこれで。」

龍蓮を従えて、達は賭場を出た。稼ぎの半分は持っていかれたようだ。

「あんた達、一月茈娥楼立ち入り禁止ね。
さて、今夜は賭場で稼がないと・・・」

男達は止めをさされ、しばらくそこから動けなかった。


かつて龍蓮がここまで物を言わなかった事はあるだろうか。
そう思わせるまでは龍蓮を黙らせた。というか、龍蓮の方が話せなかった。
稼ぎの金や荷物は全て龍蓮に任せはテキパキと買い物に励んでいた。
時間が惜しいので迷っている暇はない。
足りない物があれば、他で買い足せば良い。
手当たり次第に注文をし、購入物を龍蓮に持たせる。

「・・・・・・少しやりすぎではないか・・・」
「もう少し我慢して。
ここでお金はざっと落ちるから」

が入ったのは高級老舗の仕立物屋。

「いらっしゃい・・・」

妙な客人に店主も唖然とした。は龍蓮の懐から”双龍蓮泉”を取り出して、店主に見せた。
それを見た瞬間店主は地べたに跪いた。
・・・そこまでするつもりはなかったのだが。
は苦笑して『私はつかいっぱしりなので楽にしてください』と付け足す。
なんか悪い事をしたようだ。
気を取りなおしては言った。

「あのですね、こちらに来たのは言うまでもなく丁度私の後ろにいる奴くらいの寸法の動きやすい男物の衣装と私くらいの女物の衣装が欲しいんですよ。
改めますが動きやすいものでお願いします。」

は龍蓮から風呂敷いっぱいのお金を差し出した。

「お金はあります。今日の正午きっかりまで二着ともお願いします」

時間的にかなり厳しいだろうが多分やってくれるだろう。
注文したと同時にその下手作業が始まった。
はホッとして龍蓮に木簡を返す。

「ありがとう、役に立ったわ・・・」
「それより、この荷物を何とかして欲しいのだが・・・。
少しあの王達に性格矯正されたか?・・・」
「吏部じゃあるまいし、失礼な。
今から荷物まとめるから置いて」

龍蓮は言われるがままに荷物を降ろす。
はテキパキと小さくまとめた。
そして、もう一つの金の入った風呂敷を持つ。

「龍蓮、もう少し買い物してくるからそこで待ってて。
絶対笛は吹いちゃ駄目よ」

その台詞に龍蓮は不満の色を隠せなかった。

「藍将軍に貴方が見つかれば全て計画は台無しよ。
被害を食い止めるためだと思ってね」
「・・・くそ、愚兄其の四さえいなければ・・・」
「・・・・」

龍蓮、あんたもしばらく見ないうちに口悪くなってない?


約束通り正午きっかりに着物は仕立てあがった。代金を支払いと龍蓮は店を出た。
そして歩く事少し。城門に城の武官がいてその手には軍馬が二頭携えられていた。

「主上から伺っております」
「うん、ありがとう」

はそういって馬二頭の手綱を引く。

「龍蓮、当前の事聞くけど・・・馬は乗れるわよね」
「あぁ、あの派手派手しい屋敷を出る前に乗ったことが・・・」
「じゃ、大丈夫ね。仮にも天才が乗れないはずないし・・・」

妙な理論だ。
は誰の手も借りずにひょいと馬にまたがった。
それには近くで見ていた武官も目を丸くした。
は誰に引っ張ってもらうつもりもないらしい。慣れた手つきで軽く馬を歩かせている。
龍蓮も軽々馬にまたがった。

「・・・では、『いってきます』って主上に伝えておいていただけますか?」

は武官にそう言った。武官は返事の変わりに敬礼を取った。

「・・・では、行きましょうか。龍蓮」
「あぁ」

二人は馬を走らせた。
見送る武官は絶句した。見る見るうちに二人の姿が小さくなっていく。
とりあえず、龍蓮はまだしもあの娘は一体何者なのだろうか。


「きゃっほうっっ!!
朝廷追い出されてから馬なんて乗ったことなかったから大丈夫かと思ったけどやっぱり楽しいもんよねぇ」

徐々に馬の速度を加速させながらは言った。
龍蓮もそれにぴたりとついてくる。

「そうか?やはり私はゆっくり変わり行く景色を眺めながら徒歩での旅が好きなのだが・・・」
「まぁ今回の件が終わったらそうして頂戴。
私は生憎景色なんて見ている余裕がないから・・・」

頭の中はこれからどうやって秀麗達と合流するか。
そして上手く茶家の中に入り、新当主、および敬愛する縹英姫に会うか。
前者は隣にいる紙一重に任せておくとして問題は後者だ。これだけは彼に任せられない。
急に馬の速度が落ちたような気がした。
妙な音が耳に入ってくる。
嫌な予感がして隣を見れば龍蓮が笛を吹いているではないか。
貴陽滞在時なにも吹けなかった事が原因だろうか。音はいつにも増して酷い。

「・・・ちょっ、龍蓮!!器用な事してんじゃないわよ。
止めなさい。馬が可哀想っっ!!」

龍蓮の乗っている馬は心なしか涙目になっている。
本人ときたら手放しで馬に乗りながら笛を吹いていた。
これで笛の音が綺麗だったら器用なもんだとむしろ褒めるところだが笛の音が音なので止めるしかない。

「ったく、馬の速度も下がったじゃない。
せっかく羽林軍に行って最高の馬借りてきたっていうのに何してんのよ」
「だってつまらないではないか。
ただ走っているだけじゃ風流に欠ける」
「馬に乗りながら風流を求めないでっっ!!」

このような会話を続けているから忘れると思うが、二人はかなりの速度で走っている馬の上にいる。
普通なら下を噛んでもおかしくないところだ。

「で、龍蓮。これからどこ行くの?
私生まれて十八年経つけど一度も紫州どころか貴陽から出た事ないのよ」

ちなみに十六過ぎるまで城の外にも出た事がなかった。
龍蓮はふむ、と思案した。

「この先には美しい湖があるのだ」
「・・・へぇ・・・で?」
の初貴陽脱出を記念して見に行かないか?」

は彼の言葉に思わず馬から落ちそうになった。
何故、秀麗達に会いに行くのに湖観光なんてしに行かなくてはならないのだろうか。
龍蓮の顔を見ると楽しそうにその湖の事を話している。
は眉を潜めた。

彼の瞳の先には明確な未来が映っている。
彼は約束をきちんと守る男だ。秀麗達の邪魔をしたいなど思うはずなく。
そして、私に対しても一番安全な道を選んでくれるはず・・・。
ちゃんとした未来があるなら少しくらい寄り道をしてもいいかもしれない。

「・・・じゃ、案内お願いするわ。龍蓮」
「決まりだな。
湖の辺で私の笛の調を聞けばきっとにとって永遠の思い出となるだろう」

それを聞いての口元が引きつった。

「・・・いや・・・それは遠慮しておこうかしら・・・」

別の意味で永遠の思い出になりそうだから。


丁度日も傾いて来たところに、一つの集落があった。
後半刻もあればあたりは暗くなるだろう。
そこは貴陽とまではいかないが結構大きなところだった。
今日はそこに泊まるらしい。

町に入った達は馬を預けて街の中に入る。
は街の様子を見て龍蓮にいった。

「じゃ、どこか適当に宿とっておいてくれる?
私は何か情報掴んでくるから」

暗くなりかけている街に繰り出そうとするに龍蓮は何か言おうかと思ったが止めた。
ここは貴陽とは違う。というか、貴陽が特別なのだ。
貴陽で通じる常識がここは通じない事もある。
しかし、龍蓮はフッと笑みを浮かべた。
危なければ助けに行けばいい事だ。彼女は順応性が高く、頭がいい。
とりあえず、やらなければいけない事はやっておかないと後でうるさいので龍蓮はふらりと宿に足を向けた。

「はー、崔里関塞まで行くと大変な事になってるんですねぇ」
「そうなんだよ、嬢ちゃん」

とりあえず、は手ごろな宿を探し、その近くで休んでいる旅人を見つけて話しかけていた。
目には目を。旅には旅人を。(意味不明)
そんなわけでは聞き込み調査を開始したのである。
それが以外にも当たりでいろんな情報が聞けた。

「・・・そういえば、手配書が回っているんだよ。
この辺にはいないらしいんだけど、若い男二人組が賞金首になってるって。」

旅人のおっちゃんは丁寧に手配書を見せてくれた。
はその顔を見て固まった。
なんとなく予想はついていた。
ついていたが・・・これはやや酷すぎるのではないだろうか。
っていうか顔似てねぇ・・・。

「それがよぅ、結構美形らしいんだこれが。
嬢ちゃんも気をつけろよ」

何を。
ここで『実は知り合いです』やら『実は片方は兄貴です』なんてどういえるものか。
全く似てない似顔絵を見ながらはなんと言っていいか激しく迷った。

「いや、美形はこっちだったかな最近荒稼ぎしているっていう賞金稼ぎ。
なんでも名も名乗らず去っていくんだとよ。」
「・・・えっと、その賞金首っていうのはまだ捕まってないんですか?」
「らしいな」

多分、同一人物だろうなそれ。そう思わずにはいられなかった。
とりあえず、わかった事は静蘭と燕青両方無事という事だ。賞金稼ぎしているっことは元気な証拠だ。

・・・しかし。
二人が一緒に、しかもこんなに派手に行動しているって事はおそらく秀麗達は一緒にいないのだろう。
その辺の事を知りたい。

「私今から茶州に行こうと思ってるんですよ。
やっぱり大変ですか」
「族がかなりうろついているって話だからね。
しかも嬢ちゃん新しい州牧と同じ位の歳だし・・・無事につけるといいね」
「・・・そう・・・ですね」

が沈黙した後、どこからか酷い笛の音が聞こえてきた。
人々はその音に皆足を止める。
人々が不思議そうにその音の元を探す中、だけは冷や汗かいて立ち上がった。

「あっ、ありがとうございました。
私はこれで・・・」

は音の元に向かって一目散に走り出した。
早くこの音を止めなければこの街がおかしくなってしまう。

「龍蓮っっ!!」

笛の音がぴたりと止まった。その瞬間龍蓮の周りに群がっていた人々の視線はへと突き刺さる。
・・・うっ・・・。
は思わず後退ってしまった。
覚悟はしていたが彼と一緒に旅をするということはこういうことなのだ。
着替えたのか更に衣装は派手さを増している。
おそらく貴陽で出来るだけ目立たないようにとの彼なりの気遣いだったらしいがその鬱憤がここまでたまっていたようだ。
これは湖の辺で立派な演奏を聞かせていただかないと彼の鬱憤は発散できないみたいだ。
は大きなため息を付いた。

「・・・目印ありがとうね・・・龍蓮。
お陰で迷子になる事はなかったわ」

突き刺さる人々の視線を背には勇気を振り絞って龍蓮に近づいた。

「そうか、それは良かった。
私の演奏を聞こうとこんなにも沢山の人が集まってくれたので宿に行く前にもう一曲・・・」

見事なまでの統一っぷりで人々は龍蓮から目をそらし離れていった。
は苦笑して龍蓮に言った。

「くだらない事言ってんじゃないわよ。
むしろここは謝るところよ。
・・・じゃ、宿に案内させていただきましょうか」

龍蓮はいつもどんなところに泊まっているのだろう・・・。
秀麗の家をたいそう気に入っていたため、まさかボロ宿なんてことはないはず・・・。

「ここだ」
「・・・え?」

は予想外の宿に驚いた。
目の前にあるのはこの街一の超高級宿。
一泊金十両くらいはいくはずだ。

「・・・まぁお金は無くもないから良いんだけど・・・
それにしても豪華なところ選んだわね」

今日は安心して寝られそうだ。
しかも相当豪華な宿で、何から何まで至りつくせり。帰りにはお土産までついてくるという心意気。
久しぶりに食べる高級料理に舌鼓を打ち、ゆっくりとお風呂に入ってあとは寝るだけと寝室に入った。

「・・・あれ?」

はパタンと寝室の扉を閉めた。
そして室でくつろいでいる龍蓮に言う。

「・・・ちょっと、ここ広いから気づかなかったけど・・・
ここ一人部屋じゃない?」

龍蓮は夜酒を飲みながら頷いた。

「そうだが?何か問題でもあったか」
「寝台が一つしかないんだけど」
「・・・そうだな」

『・・・・』

的には別に一つの室で寝る事は構わなかった。
そこまでお金を使う必要はないだろうと、思っていたからだ。
万が一という事もあるだろうが・・・まぁ相手も相手だし、自分の周りの気配を感じる能力にも自信があった。
・・・あるが・・・。
流石に一つの寝台で寝るとなるとどうだろうか。
全て龍蓮に任せておいたのが間違いだったかもしれない。
とりあえず、よい事は寝台がかなり広い事だけだが。

・・・まぁいっか。

「じゃ、私寝るから」
「もう寝るのか?早いな」
「うん、まぁ色々体力は温存しておいた方が良いと思うし。
久しぶりに馬に乗ったから体痛いし・・・」


・・・でまさかこんなことになるとは思わなかった。
それはが寝てから一刻経とうとしていた頃。

「・・・ん〜・・・
・・・龍蓮?」
「・・・あぁ起こしてしまったか悪いな」

別に、と返してまた眠りの世界に行こうとしていただがふと状況を考えて飛び起きた。

「何一緒に寝ようとしてんのよっっ!!」
「何って、寝台が一つしかないんだしここ寝るのは当然だろう」
「・・・当然って・・・あんたねぇ。
普通気を使うってことはしないわけ。例えば向こうの長椅子で寝るとかさぁ・・・」

龍蓮は眉を寄せて少し不機嫌そうに言った。

「何故私が長椅子で寝なくてはいけない」

・・・妙なところだけお坊ちゃま育ちだ。
は考えた。
一緒に寝るのは嫌だと言えども、自分はここで寝たい。
劉輝や影月(Not陽月)あたりなら構わないのだが・・・龍蓮は・・・どうだろう。
なんか、微妙な位置にいると思う。
楸瑛なら即出て行ってもらうところだが・・・。(それもどうだろう)
そうこう考えているうちに龍蓮はすでに布団の中に納まって寝る準備万端だ。
そんな龍蓮を見て、言い返す気力もうせてもそのまま寝ることにした。
龍蓮に背を向けてポツリと呟く。

「龍蓮」
「何だ?」
「・・・もし変な事しようとするんだったらその綺麗な顔に容赦なく拳ぶち込むつもりだから」
「・・・変な事とは?」
「んなっ!?」

耳元で呟かれた声には体を強張らせた。
言う前に龍蓮が既に自分の後ろまで来ている事に気づかなかった。これは自分でも失態だ。
少し首を動かすとそこに龍蓮の顔がある。

「・・・なな何で寄ってきてるのよ馬鹿」
「話をする時は人の顔を見て話すものだ。良く聞こえない」
「・・・そっ・・・それは悪かったわね」

仕方なく彼の方を向こうと寝返ると、とんと龍蓮の胸に肩があたった。
・・・近っっ。

「・・・あの、龍蓮少し向こう行ってもらえる?」

不敵な笑みを浮かべて龍蓮はそのままを組み伏した。
は驚きを隠せず、対処に困った。
これは殴るべきだろうか。っていうか、・・・この展開は何。

「・・・・・・」

すっと頬に手が添えられた。
窓から入ってくる月明かりで龍蓮の顔が良く見える。
その澄んだ目には何が映っているのだろうか。
危険なはずなのに彼の美しさに見とれてしまう。
しかし、龍蓮から出た言葉は全くの予想範囲外の言葉だった。

「そなたもやはり驚く表情はするのだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

たっぷりと間を置いては間の抜けた返事を返した。
しげしげとの顔を見てから龍蓮はあっさりと身を引いた。

「りゅっ・・・龍蓮?」
「少し面白かった。少々狭くなるが誰かと寝るのも悪くはない」
「・・・あのー・・・」
「さぁ、。今夜は互いに良い夢を見ようぞ」
「・・・えっと・・・」

ニコリと笑顔で肩を叩かれた挙句、そのまま抱き枕のように抱かれて龍蓮は目を閉じてしまった。
多分これ以上のことはないのだろう。
は心中かなり複雑な気持ちになった。
っていうかあそこまでいっておいて普通引かずにそのままいくだろうが。・・・別に期待はしてないが。
そういえば秀麗から聞いた話、劉輝にもこのような事があったそうで、何かの繋がりだろうか。
そんなこんなで夜は更けていった。
結局安眠できたのは最初の一刻だった。


勿論、目覚めた時も大変だった。
何せ抱きしめられているので体は動かせず、顔をずらせば目の前に彼の素肌が見えたり、少し上を見上げると整った綺麗な顔で無防備に寝てるし。

「・・・うわー、なんなのよ、この顔は・・・・。
そんぐりそのまま絵に描いて売ればその手の人には高く売れ・・・コホン」

・・・いかんいかん。
しかし襲いたくなるような綺麗さだ。
昨日のお返しで逆に押し倒してみようかと思ったが止めた。
あまり妙な行動は今後のために避けておく。
そんな感じで龍蓮の寝顔を見ていたら突然彼の目が開いた。
目が合った。

「・・・おっ・・・おはよう」

寝顔見られていて不快感もあるんじゃないかとあたり障りなくぎこちない笑顔で挨拶する。

「・・・あぁ」

龍蓮は少しをきつく抱きしめる。

「・・・ちょっと・・・何っ!?」
「いや・・・少しだけ愚兄其の四の気持ちが分かったような気がする」
「・・・え?」

一夜の添い寝で楸瑛のどこをどう分かったのだろうか?
そんな疑問を持ちながらは何とか腕を解く。
なんだろう、疲れを取るために寝たはずなのに逆に疲れているような気がしないでもない。

「・・・はぁ、やっぱり龍蓮今度から二人部屋とって・・・。
あんたと寝るのは精神的に駄目だわ・・・」
「失敬な、どこが駄目って言うのだ」
「普通に寝てくれない?なんか逆にくっつかれると体動かせなくって窮屈なのよね」
「・・・考えておこう」

・・・次からもするつもりだったのあんたは。


流石鍛えられた軍馬だけあり、少しずつ休憩を取りながらでも一日一日しっかり走ってくれた。
追手に会いながらも何とか振りきったり捕まえたりして、何とか過ごせた。
そして今日は森の入り口で野宿する事にした。
持参の携帯食料を食べる。

「・・・私外で寝るの始めてなんだよね」
「外で寝るのはいいぞ。
星は見えるし、虫の声は聞こえるし、それに私の笛で完璧だ」
「・・・・いや、あんたの笛は結構よ」

はそう断ってふとあたりに気を配らせた。
自然と手が短剣に伸びる。
・・・そう、自分が茶州へ行くにあたってもう一つの目的があった。

「龍蓮」
「ああ・・・」

二人が座っているところに何本もの短剣が突き刺さった。
それを避け、は短剣を抜いた。
周囲に感じるのは数十人の人の気配。

「聞くところによると貴方凄い強いんだってね」
「・・・ああ、風流を解すに鍛錬は必要だからな」

龍蓮の黒髪が夜風になびく。

「紅・・・秀麗だな」
「・・・人違いです」
「隣にいるのは杜影月か」
「それも違うな」

間。
そして風は切られた。
次々に襲ってくる刺客を倒していきながらは龍蓮をみた。
何とかやってくれているようだ。

「・・・え・・・」

ゴンという鈍い音と共に人が倒れていく。
何かと思えば龍蓮がいつも吹いている笛だった。
あれ・・・武器だったんだ・・・。
っていうか、人倒した笛をいつも鳴らしていくわけ?
・・・だからあんなに音が悪いのか・・・?なんかの怨念がこもっていたり?
そんな事を考えながらは舞う。
勿論刃物を使っているわけで血も一緒に舞った。
極力着物は汚さないように素早い動きで敵をなぎ倒していった。
数分後。辺りにはうめき声だけが聞こえ、立っているのはニ人だけ。

「・・・龍蓮、私貴方の笛が唐突に聞きたくなったんだけど・・・聞かせてくれる?」
「ほぅ、やっと私の笛の素晴らしさに気づいてくれたか

では早速・・・
突然鳴り出した不協和音に辛うじて意識のあった刺客も気を失った。
止めもさしたし、これでしばらくは動けないだろう。
は手早く荷物をまとめ馬につける。

「龍蓮、行くわよ」
「あぁ・・・一刻ほど走るが・・・」

龍蓮の言葉には首を傾げた。一刻走ってどうなるんだろう。

「・・・この先に湖がある」


彼の予告通り暗い森を抜けた中に大きな湖があった。
月の光を浴びてキラキラ光る湖は絵で見るより何倍も綺麗だ。
池よりも大きく、波動もなく静かなその景色は幻想的なものだった。
まるで時間が止まったかのように動かない。

「・・・凄い・・・貴陽をでたらこんなところがあるのね」

確かにこの美しさは見たものしか分からない。
どんな言葉で形容してあっても、どんなに美しい絵で描かれていても、この感動の前にはどれも劣ってしまう。

「龍蓮、ありがとう・・・
私、ここまで自然に感動したのはじめてよ」

今まで歯牙にもかけなかった。
確かに花は綺麗だ。でも朝廷にあるものは全て美しく見えるように咲いている。
ここにはその人工的なものは何もない。
・・・多分、彼も自然のそこに引かれたのであろう。
誰の手も加えられず、長い年月を掛け形成されてきたものは何よりも魅了する力がある。
龍蓮も満足そうにその景色を眺めていた。

「・・・本当は、心の友らにも見せたかった」

ポツリと呟かれた龍蓮の言葉には切実な思いが込められていた。

「見れるよ、きっと。
秀麗ちゃん達だってきっと見たいと思っているはず」

龍蓮は珍しく無言でを見た。
はしっかりこの景色を目に焼き付けた。
多分・・・多分だか、この湖にくる事はこれが最初で最後かもしれない。
この茶州への旅が終われば、秀麗達が無事に州牧に着くことが出来たら私はまた朝廷に戻り、国のため王の溜ために働く。
そうすれば、外に出ている時間など多分ない。
これが、兄がくれた最高の休暇なのだろう。

「・・・・・・」
「・・・何?龍蓮・・・」
「私と旅に出ないか?」

は黙って龍蓮の顔を見た。
彼の顔はいつになく真剣だった。

「・・・流石に五歳から旅に出ていれば素晴らしい自然がある場所を沢山見つけた。
そしてこの広い彩雲国にはまだまだそんな場所は沢山ある。
も分かったであろう、自然の美しさを」
「・・・えぇ・・・」

なんとなく龍蓮の言いたい事に察しはついた。

「ごめんなさい。
私は行けないわ」

ずっとずっと小さい頃からの夢があった。
母に洗脳されてきたのかもしれない。でも今は確実に自分の意思だということが分かる。
龍蓮は黙って目を閉じた。
分かっていたはずなのに聞いてしまうのはやはり諦めきれないからなのであろうか。
こういうとき、自分の才が嫌になる。
全てを見通す千里眼。時としてそれは本人にとって残酷な未来を映し出す。
それを全て受け入れられるから『真性の天才』なのだろう。

龍蓮は徐に笛を吹き出した。
は何も言わずに静かに笛の音を聞いていた。
いつも耳障りなその音は今に限ってそんなに悪くもなくなっている。
・・・聞きすぎて相当きているのだろうか。
は苦笑した。


翌日、達は金華目の前まで来ていた。
森を抜ければあら不思議。貴陽ほどではないが大きな城門と街が目の前に見える。
その道の選び様には驚いた。

「・・・どういう事よ、龍蓮・・・」
「心の友らに会うのではなかったのか?
彼らも直ここに来るだろう」

いや、それは分かっているよ。

「私が言いたいのは崔里関塞はどうしたってことよ」
「崔里関塞?
別に通らなくても問題はないだろう」

・・・とりあえず、妙な道を通ってきたため過ぎてしまったのだろう。
これ以上言っても話にならないと思い、はため息を付いた。
せっかく用意した着物が・・・。
・・・いや。
は荷物の中を探った。
そして一つの風呂敷を龍蓮に投げつけた。

「その辺な衣装脱いでそれに着替えて」
「・・・なんだこの服は」

龍蓮が中に入っている服を取り出して眉を潜めている。
の目がキラリと光った。

「名づけて『藍家の息子と身分違いの娘の笑いあり涙ありの駆け落ち大作戦』
まぁ名の通り、あんたと私が駆け落ち者に扮して金華内に入るのよ。
・・・もしかしたら”双龍蓮泉”だけじゃ威力足らないかもしれないから・・・」

だから、龍蓮を藍家直属の息子に見せれば茶家直下の命令であろうが藍家には手は出せまい。
・・・・多分、今のままで茶州に入ればせいぜい藍家の馬鹿息子とそのお付き。だろう。
幸いにも紅家と藍家は仲悪いし(実際悪いのは当主同士だけだが)普通に見て紅家の娘が藍家の息子と一緒にいるなんて思うまい。
・・・まぁ最終手段も残っているけど・・・
茶州に行く前に劉輝に渡された紫家の紋章。
これがあれば王の権限だって使えるはずだ。でもこれは本当に最終手段。
秀麗と影月の命が奪われる、他に何も手段がないそう言う時に使うためだ。
はっ、と我に返り、は別の風呂敷を持って茂みに入った。
自分もそれなりの格好をしないといけない。

戻ってきた時には二人とも見違えっていた。。
自然と背景にキラキラと光が入るくらいの美男美女恋人が完成していた。
これで同じ馬に乗れば完璧。

「・・・いやー、やっぱり龍蓮そのままでいてよ。
凄いかっこいいよ」
「あまり、このような服は好きではない」
「ここまで着こなしといてその台詞はないと思うけどなぁ・・・」
の方こそ大分似合っているが・・・」
「ほぅ、あんたもマシなこというのね」

いつもは妙なところにしか好感を持たない彼が珍しい。

「まぁ私も一応深窓の姫だったからねぇ・・・。
しょっちゅうこんな服着ていたものよ。
確かに動きにくいけど嫌いじゃない」

この正装している時の気の引き締まる感じがは気に入っていた。
これを着ていると何事にも注意力が増す。

金華の門が大分大きく見えてきた。
ここから今まで以上に凄い体験をすることになろうとはは知らなかった。

   

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