自分をいるその冷たい視線から目が離せない。
の背に冷たい汗がつたう。
退路をふさがれ、動くこともできない。

・・・これは・・・ヤバイ・・・

下手な抵抗をして妙なことを悟られるわけにもいかない。
かといって、正面から対立をすれば、後に自分だけでなく鳳珠にまで害が及んでしまう。
ギリッと歯噛みした。
自分にもう少し力があれば・・・・。地位があれば・・・っ。
璃桜のときとは違う。力によって動きを封じられているわけでもない。
手を、足を動かせば恐らく用意に相手を押しのけることも可能・・・
可能だが・・・
体が全く・・・動かない。
皇毅の指が の顎にかかる。

「・・・・返事は・・・後でもよいか・・・」
「・・・私は・・・ッ」

言いたいことが定まらない。
鳳珠のことを考えると胸が痛む。
どちらをとっても彼を悲しませることにしかならないとは・・・。
情けない・・・
皇毅が軽く口付けした。
の目が見開かれる。
頭で警告がなっている。
目と目が合う。
それは始まりの・・・・

「・・・・ん・・・・ふっ・・・ッ」

皇毅の口付けが深くなる。
咄嗟に抵抗しようと皇毅の肩を掴む。
しかし、時がたつにつれてその力も抜けていく。
の様子を感じ取ったのか、皇毅は首筋に触れ、 の着物を少しずらす。

「・・・ッはっ・・・」

長い口付けから解放された は自分の力の抜け具合に驚いていた。
顔が、体が熱い・・・力が入らない。
皇毅が の首に軽く口づけする。
触れるたびに反応するの体が面白い。
皇毅はふと思った。
・・・この様子を見ると・・・黄奇人はに手を付けてない?
大層気に入っているように見えたが・・・気のせいか・・・。
皇毅はふっと笑って、の鎖骨部分に歯を当てた。

「・・・ッ・・・いた・・・」

の白い肌に赤い痣がつく。

「・・・何を・・・」
「・・・驚いたな、生娘か・・・」
「・・・なっ・・・・」

は耳まで顔を赤くした。その反応がまた面白い。

「まぁ、別に私は気にしないが・・・・」

皇毅がまた首元に軽く口付けをする。
の体がビクリと震えた。
まずい・・・このままじゃ食われ・・・

『・・・・失礼しまーす・・・・
・・・・・・・・』

やる気のない声と一緒に扉が開いた。
と皇毅が同時にそちらを向く。
入ってきた人物もただならぬ雰囲気を感じ取り、その場で立ち止まって固まった。

「・・・あ・・・・あー・・・・
もしかして取り込み中?・・・でしたか?」

は皇毅よりも先に気を取り直しさっと、皇毅の脇を抜けた。

「仕事が残っておりますのでこれで・・・」

は襟元を正して、颯爽と御史台を出て行った。
室内に取り残された二人はなんとも気まずい空気の中沈黙していた。

「・・・何用だ」

皇毅が氷点下以下の声音で言った。
運悪く扉を開いてしまった蘇芳は、えーっと、と苦い顔をして言った。

「紅秀麗が・・・塩のこと調べているらしくて・・・・」

皇毅はフン、と鼻で笑った。

「ではお前は用済みだな」

そういって、皇毅は近くの机案にある書簡をとり、蘇芳に向かって投げた。
蘇芳は、書簡を受け取り中身を見た。
蘇芳の眉がピクリと動いた。
皇毅はそれをみて、にやりと笑う。

「・・・そこにある贋作を見つけて来い」
「りょーか・・・御意」

蘇芳は相変らずやる気のない声で答えた。
皇毅の雰囲気に、触らぬ神は祟りなし、と出て行こうとした蘇芳だがふとあることが脳裏に浮かんだ。

「葵長官・・・」
「何だ?」
「俺は命が惜しいので口が裂けても言いませんけど、茈、口止めしておかなくていいんすか?
こーゆー噂は当人達が何もしなくても尾ひれをつけて流れていくもんですよ」

皇毅の絶対零度の視線が蘇芳を射た。
蘇芳は内心、ヤベと焦った。また自分の悪い癖がでてしまったようだ。
しかし、皇毅は何も言わず退出を命じられた。
蘇芳は安堵しつつも首を傾げた。
・・・逆に怖いんですけど。


は御史台から離れたところで、回廊の柱にもたれかかった。
・・・あれは・・・なんだったんだ・・・。
跳ね上がる心臓を何とか押さえる。どっと汗がでてきた。
今でも信じられない。
微かに痛みの残る首元を押さえた。

「・・・危なかった・・・」

知識としては知っているが、いざ本番となるととてつもない緊張だ。
無理だ・・・と は思った。
体を張っての駆け引きは自分には無理らしい。
蘇芳には激しく悪い事をしたと思うが、入ってきてくれてよかった・・・

「危なかったね」

後ろからかけられた声にはビクリと肩を震わせた。
しかし、見えた顔にはほっと息をついた。

「・・・・すっ・・・蘇芳・・・
驚かせないでよ・・・・」
「あぁ、ごめん、ごめん。
・・・その様子だと意外に堪えてないみたいだな。ちょっとがっかり」
「・・・悪かったわね。可愛げがなくて・・・
・・・秀麗ちゃんみたいに・・・」
「別に、そういうわけじゃなくて・・・」

はふらりと足を踏み出し、蘇芳の胸にとん、と頭をぶつけた。
突然のことに蘇芳は持っていた書簡を思わず落とした。

「・・・え・・・なに・・・?」
「・・・ちょっとだけ・・・安心した・・・
あんまり落ち込んではないけど、それでも少しは堪えてる・・・・」
「いいの?俺男だけど・・・?」

トン、と の背が回廊の柱に当たった。
は、しばらく考えたが蘇芳の顔を見た。

「・・・・・・」

の黒い瞳に吸い込まれるよう、蘇芳は直感的にそう感じた。
そして、自然と顔を近づける。
の手が蘇芳の首筋に触れる。
あとわずかな距離で唇が触れるところで、 が口を開いた。

「・・・このうなじの部分、強く叩かれたら軽く失神するのよ。
・・・で・・・例えば・・・」

蘇芳の首筋に細く冷たい物が当たった。

「この串、ここに刺すとどうなると思う?」

目の前にいたのが、いたいけな少女から悪魔に変わった瞬間であった。
蘇芳はうっ、と固まった。

「・・・俺には容赦ないのね。
別に襲うつもりはなかったんだけどー。君狙ってた?狙ってたよね」

は片手で串を持て余しながら微笑した。

「まぁ・・・冗官一人いなくなったところで朝廷が変わるわけでもなし?
私の地位が危ぶまれるわけでもなし?」
「・・・さいですか・・・・」

蘇芳はすぐに身を引いた。

「なんかまだよくあんたの事分かってないけどさー。おっかないことだけは分かったよ」
「綺麗な薔薇には棘がある、ってね」
「自分で言うかー」

二人は同時に噴出した。

「ともあれ、今日は助かった。
ありがとう」
「・・・おかげで御史台抜けてきても寒気が取れないんですけど・・・」

久しぶりに見た蘇芳は相変らずのようだ。

「・・・ねぇ、そういえば冗官の仕事場ではみないけど、何してんの?
御史台にいるくらいだから・・・、もう雇ってもらえたの?」
「ん〜。別件・・・ってやつかな。詳しくはいえないけど。
あっ、今日見たこと・・・秀麗には絶対言うなよ」
「・・・・なんで?」
「なんか、厄介事引き連れてきそうだから嫌なの。
あと、彼女に何とか言って、戸部でもどこでも入れてあげて。
あのままじゃ・・・本当にクビにされるから」

は蘇芳の言ったことにどう返事をしていいか迷った。
秀麗は今別件で動いている。蘇芳は今朝廷にいないから知らないのだろうか。
・・・それとも・・・また別に裏があって・・・

「・・・最後の最後。本当に駄目だったら黄尚書に頼んでみる。
頼む前にこちらは門開けっ放しだから秀麗ちゃんくるだけでいいんだけどね」

むしろ、すぐにでも欲しいぐらいだ。彼女が来ればまた戸部も楽になる。・・・と思う。
蘇芳なら、平気なのになー。とは苦笑しながら思った。
やはり、年の差が大きな壁となる。

「じゃ、私これでいくから・・・・
お仕事頑張ってね」
「おー。あんたも気をつけてね。色々」

色々の中に何が含まれているか悟ったは苦い顔をした。

「・・・失言?」
「別に・・・正論よ。
少しだけ・・・気の緩んでいた自分に気付けたわ・・・」

そういっては回廊を歩いていった。

「・・・気の緩んでいた・・・ねぇ・・・」

蘇芳は落とした書簡を拾って、ポリポリと頭をかいた。
御史台にいたころ、茈関連の噂は黄奇人とか・・・・同期の碧珀明・・・王、李侍郎、藍将軍・・・あと工部の管尚書に欧陽侍郎・・・
その辺の人達との噂が流れていたっけ・・・
自分でも聞き流していたくせに結構覚えているものだ。
見てきたところ、秀麗もそちら関連の伝手はあるから、秀麗といたことで知り合いになったのかも。
初めは面白半分で適当にいったいたものだから、恋愛関係の噂はすぐになくなった。
当然だ、そのような事実どこにもないのだから。
中身が無い噂はすぐに消えていく。逆に中身のあるものは内容を濃くしながらいつまでも残っている。
・・・朝廷の中で何年も過ごしてきて・・・もしや男に迫られたのが今日が初めて・・・とでもいうのだろうか。
あの動揺のしかたは尋常じゃないし・・・。
蘇芳は少し考えた後結論を出した。
、危険、触るべからず。


戸部に戻ったは、設置してあった長椅子に腰を下ろした。
蘇芳のおかげで大分落ち着いたが、それでももやもやとした気分が取れなかった。
最近とことん御史台に縁がないらしい。
頑張っているのに空回りしている。

「・・・鳳珠様の言うとおり・・・大人しくしていた方がいいのかもしれない」

・・・鳳珠様・・・

『黄鳳珠のこともいじらずにしておこう・・・』

皇毅の言葉が脳裏に浮かぶ。
がガバッっと起き上がった。

「・・・そうだ・・・鳳珠様・・・・どうしよう・・・
あの人絶対何か仕掛けてくるし・・・」

鳳珠にまで目を付けられてしまっては大変だ。
自分のことに必死で逃げてきてしまったのだが・・・大切な事は明言していない。
そういえば・・・・
は鎖骨の上を押さえた。
そういえば・・・・何されたんだろう・・・・
あの時は半ば混乱していてよく分からなかったのだが・・・・
そんなに痛くないし、今は痛みも消えている。
は周囲の気配を探った。
こんな夜中に・・・誰も来ないよね・・・。

そう思い鏡をとりだし、鎖骨辺りを見てみる。
白い皮膚に赤い痣ができていた。

「・・・うーん・・・・これくらいならすぐに消えるかな・・・・」

色事に疎い の知識では、この痣が何を意味するか知る由もない。
皇毅が気まぐれにつけたものであろうと、思い込んでいた。

「・・・ ・・・?
まだいた・・・・・・」

背後からの声には文字通り飛び上がった。
その反動で長椅子から見事に落ちてしまった。
鏡が音をたてて床に落ちる。

「・・・すっ・・・すまない・・・
驚かせるつもりはなかったのだが・・・」

すぐに手を差し出してくれたのは、久しぶりに見る、素顔の上司。
帰ったのかと思いきや、まだ残っていたらしい。どこにいたのだろう。
今日はなにかと驚かされることが多い。

「・・・いえ・・・こちらこそ・・・すいません・・・」

心臓を落ち着かせ、ふっと顔を上げた。
目の前に鳳珠の顔があり、先ほどのことが思い出される。

「・・・・・ッ」
「・・・・・・・・?」

急に身を引いたに鳳珠は一瞬驚いたが、すぐに眉を潜めた。
先ほどの独り言といい・・・偶然、鏡で見てしまった鎖骨部分の痣といい・・・一瞬瞳に写った怯えといい・・・
何もない方がおかしい。
は自分の無意識にとった行動について、疑問を持っているようだ。

・・・?」
「あっ、すいません・・・・」
「・・・いや、大事無ければそれでいい・・・」

鳳珠は内心ため息をついた。
本当に大事が無かったのか気になるところだが、話題が話題だけに聞き辛い。
気遣いがなく何事にも率直に物事をいう黎深の無神経さや遠回しにさり気なく聞きたい事を聞きだせる悠舜の性格が羨ましくなった。
は戸惑いながらも、鳳珠を見た。

「何か・・・あったのか?」
「・・・あの・・・えーっと・・・」

も遠回しに伝えようと言葉を捜す。
しかし、いい言葉が中々思い浮かばす歯切れの悪い言葉が口から出る。

「・・・そのー・・・個人的なお伺いをしたいのですが・・・」
「構わんが・・・・」
「・・・えっと例えば・・・例えば・・・その・・・
上司から夜伽を命じられた時ってどうしたら穏便に断れるものでしょう?」
「・・・・なっ・・・・」

言ってからは思った。
・・・・変化球どころか直球だ。
結果として同じことだとは思うが・・・別に夜伽を命じられたわけでもない・・・。そういえば。
何か大変なことをのたまってしまったとは内心頭を抱えたくなった。
鳳珠は内容は予想していたが、直球で来るとは思わず気の抜けた返事を返してしまった。
は鳳珠の面食らった顔を見て、血の気が引いた。
やはりまずいことを聞いてしまったか・・・・っていうかこういうのって鳳珠様じゃなくて胡蝶姉さんとかそっち方面の人に相談するのが普通じゃない!?(遅)
あまりにも顔が綺麗なもんだから、男といえどもそういうお誘いの一つや二つきてるだろうな・・・と思っていたが、そういう次元の問題でもなかった。
場に重い沈黙が流れた。

『一発殴って埋めておけ』と喉まで出かかったが、鳳珠はぐっと堪えた。
の立場からいって彼女の地位に大きく影響するし、自分を人間性を問われかねない。(今更だ)
過去にその気を持った人たちに絡まれたときは高下関係なく平等に容赦なく気功でぶっとばしていたからいい対処法なんて知るわけもない。
黄姓のおかげで問題になることはなかったし、大概の人は目があうだけで自我を失っていたようなので嫌がらせも何もなかった。
の事を考えれば考えるとど苛立ちしか沸いてこない。
本当は早く帰宅するはずだったが、飛翔に捕まり玉と三人で酒を飲んでいたのが悪かった。
すっきりとした予定だったが、まだ酒の酔いは残っていたようだ。
どこかで、理性がプチンと切れた。
少し間をおいて鳳珠は言った。

「・・・・・・
・・・誰だ?」

先ほどとは別人のように鳳珠の目が据わっている。

「・・・・え?」
「そのような戯けた命をいいつけたのは誰だと聞いている」
「・・・えっと・・・」

鳳珠の迫力に気おされては白状するしかなかった。

「・・・葵皇毅・・・殿です・・・」
「・・・ほぅ・・・」

・・・なんか怖い。
鳳珠が凄く怖い。
皇毅の名前を出してから、更に怖くなった。
度迫力の顔のせいでもあるが、眉を寄せ目を細め、何か思案している姿はそれだけで周囲に誰も近寄らせない威圧感がある。
その威圧を真正面から受けて、は倒れたくなった。

「・・・葵・・・皇毅・・・・」

ずっと、ずっと前から気に食わなかった御史台の長官。
先日軽く(?)お気に入りを虐めてやったのが悪かったのだろうか。
いや、そもそも人の心配をする良心などあいつにはあるか?

あんなやつにを取られるなぞ、とんでもない。

「・・・・ふっ」

鳳珠は微笑した。

「分かった。後日話をつけてきてやる。
心配いらない」
「え・・・でも相手は・・・」
「関係ない。
前々から気に食わなかったし、いい機会だ・・・・」

絶好の弱みもあるし・・・

「・・・して、どうやって逃げてきた?あと何か言われたか?」

いきなり、視線を向けられての背かピンと伸びる。

「人が・・・入ってきたので・・・その隙にささっと・・・」

顔には出さないが鳳珠は安堵した。
とりあえず、深いところまではいっていないらしい。

「あと・・・その・・・御史台にこいと・・・あと・・・・その・・・鳳珠様・・・」

先ほどの独り言は、そのことだったのか。
話の展開が読めてきた。
自分をダシに を御史台に入れようと・・・まぁそりゃ当然か。
の有能さを知れば、誰だってそうしたくなる。
葵皇毅に目を付けられたことが厄介だった。
ついでに、自分もはめて地位を落とそうというのか・・・全く・・・無駄に頭のいい奴は恐ろしい。
悠舜からも頼まれている。自分が今揺らげば国は大変なことになる。
一度土台を崩せば、大きな影響がでてしまう。
・・・これは、賭け・・・かもしれない
それでも・・・・

「・・・・・・」
「はい」
「心配はないと思うが・・・・今国は少し大変なことになっている。
何か不振な動きがあったら口止めされていても私に伝えろ。
御史台でもだ。このさいバレなきゃ関係ない。手遅れになるよりマシだ。
あと一応周囲に気をつけていろ、あと男に気を許すな」

最後私的事が混じっているのに鳳珠は気付いていなかった。

「・・・・はい」

今朝廷がおかしくなっていることは塩や贋作の一件でも感じ取っていた。
贋金がでたことで、戸部としても気を張らなければいけない。
そんな大事な時期に・・・妙な騒ぎなど本当は起こしてはいけなかったのに・・・・

「・・・鳳珠様・・・その・・・・」
「なんだ?」
「迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「・・・気にするな。私とて・・・を手放すわけにはいかない・・・」
「・・・え・・・」

先ほどとは一変。穏やかな顔を見せた鳳珠に は見惚れてしまった。
何度も見ているはずなのに、全然慣れないその笑顔。
すっと腰をとられ、長椅子に座らされる。
あまりの自然な流れに、抵抗する間も疑問を覚える間もなかった。
気付けば鳳珠に口づけをされていた。

「・・・・ん・・・っ」

鳳珠の手がの着物に触れる。
されるがままになっていた でも、しばらくすると思考能力がまた戻ってきた。
・・・あれ・・・これ・・・どこかでデジャヴ・・・・
しかし、皇毅とは全然違う。
顔のせいか、慣れ・・・てはないけどまだ少し抵抗力のあるせいか、鳳珠だと抵抗する気も起きない。
九割顔だと思う。あとは声?
さっきの皇毅の、鳳珠じゃなくて良かったなー。とは微かに思った。
鳳珠だとそのまま全てをゆだねてしまいそうで・・・・
・・・・あれ?それって駄目じゃね?

先ほど鏡でみた鎖骨の痣を鳳珠は悪意を隠さず眺めた。
とてつもなく不愉快だ。
鳳珠はそのまま、皇毅の痣の上に歯を立てた。

「・・・ッ・・・鳳珠・・・様・・・っ?」
「・・・皇毅だけには・・・渡すか・・・
は私が守る・・・」

皇毅だけじゃない。誰にも渡さない。
こちらはずっと我慢していたのに、あっさり横から攫っていくとは・・・

「・・・え?」

鳳珠の微かな呟きはの耳までは届かなかった。

「消毒だ」

あっさり鳳珠はそうのたまった。
そう消毒ですか、とが疑問を持たずに納得してしまうほどのあっさり感があった。
鳳珠は微笑してを眺めた。

「・・・あと・・・首か・・・」
「・・・鳳珠様・・・?
ちょっ・・・くすぐった・・・・」

の首に軽く舌を這わせる。
の方はくすぐったいのかいちいち体を震わせるのが可愛らしい。
このまま、襲ってしまおうかな・・・と、そんな考えが一瞬鳳珠の脳裏を掠めた。
が、その後にずん、と重い衝撃が鳳珠の頭を襲った。
・・・これは・・・・
鳳珠の脳裏に飛翔の言葉が浮かんでくる。

『おー、奇人いいとこに。
珍しい酒手に入ったから一緒に飲まねぇ?』
『何が珍しいかって、初めなんともないんだけど後から酔いが一気に来るって代物よ。
飲み比べの時長期戦になると、後半一気に酔いがくる・・・。
これに負けず飲めるかってのが面白くね?』

・・・で、その効果が・・・これ・・・か・・・・
これ以上意識を保っているのも億劫になり、そのまま鳳珠は目を閉じた。
いきなり意識を失った鳳珠には焦った。

「鳳珠様っ!?
どう、なさいました・・・・?」

まさか日頃の疲れがたまって、悪い病気にでも・・・・?
嫌な考えが脳裏を巡る。
まだまだ戸部もこれからだというのに・・・
すぐに医者を呼ぼうと鳳珠の体を動かした時、鼻に付く臭いがあった。

「・・・酒・・・」

そういえば、飛翔に珍しいやつが手に入ったから飲まないか、と誘いを受けていたような気がする。
自分は断ったが、鳳珠が捕まってしまったらしい。
「・・・はぁ・・・本当困った尚書だ・・・。
鳳珠様も真面目に付きあわなければよかったのに・・・。せっかくの休みが・・・」

そのまま寝てしまった鳳珠にが苦笑した。

「・・・ということは・・・今までのって・・・酒の勢い・・・?」

・・・怖っ。お酒って怖っ。
こんな顔に酔わせて襲われたら十割の確率で落とされること間違い無しだ。
そして、大事なことに気付いた。
さっきの会話はどこまで有効なのだろう。
はしばらく悩んだが、結局答えは出なかった。
鳳珠が全て忘れていたら、自分でなんとかすればいいだけの話。
それだけだ。
色々思うこともあったが、そろそろ吹っ切れてきた。
というか、どうでも良くなってきた。
自分の脳も力も劣っては無いはずだ。
紫家を名乗っていた時の自尊心も忘れてはいない。
この朝廷の中で戦っていける自信はある。
拳を胸の前で合わせては気合を入れた。
そして、傍で眠っている鳳珠の顔を見る。
相変らず、美しい寝顔だ。
顔にかかる髪を後ろにすかし、中途半端な体制から楽な体制に動かした。
最後に布団をかけて出来上がり。
室を出て行こうとしたはふと、足を止めた。
寝ている鳳珠を振り返る。

「・・・・・・。」

は鳳珠の元に座って、手をとった。
大きく、すらりと長い綺麗な手。
これくらいなら許されるだろう。
は鳳珠の手の甲に額をつけた。

「・・・ずっと守ってくださってありがとうございます」

自分のできる限り事を鳳珠にしてきたつもりだ。
それが、どこまで鳳珠のためになっているか分からないが・・・・
むしろ、迷惑ばかりかけてしまって・・・鳳珠がどれだけ苦労しているか分からない・・・
自分がいることで、鳳珠にどれだけの枷となっているか・・・
それでも、いつも守るといってくれた。
今日も、守ると・・・いってくれた。
昔から一人で生きてきた感覚があるので、こんなに自分に真摯になってくれる人は初めてだった。

「心から感謝を・・・貴方に私の全てを・・・・」

言葉だけでは伝えきれない。
この想い
どうしたら全て貴方に伝えられるでしょう?

   

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