夢と現、過去と現在が入り混じり境界がぼやける五日間。
それはもっとも会いたい人にあえる短い期間・・・。

夢と現の境界線

「・・・鳳珠様・・・この灯籠何ですか?」

はいつの間にか室につるされていた灯籠を不審に思って鳳珠に尋ねた。
鳳珠はの問いに読んでいた書物から顔を上げた。
家で着物を着崩している鳳珠もまた綺麗だな、とは思った。
というか、仮面をつけてないところがいい。
くつろぐ姿も上品でけして不快にみえない。
注意をやれば室には落ち着く香りの香が焚かれていた。
・・・なんでこの人が未だに結婚してないのかが不思議である。

「あぁ御魂御灯だ。
そういえばそんな時期か・・・」

鳳珠は言いながら苦笑した。
中々家に帰らない主であるが、家人が気を利かせて用意してくれたのであろう。

「・・・み・・・御魂御灯?」
「・・・知らないのか?」

鳳珠が眉を潜めて尋ねた。
御魂御灯とやらは世間一般的に皆知っているものらしい。
は想像でなんとか答えてみる。

「・・・何かの祭りですか?」
「祭りというか・・・彩雲国に昔から伝わる伝承事だ。
彼岸と此岸の門が開き、夢と現、過去と現在が混じり境界がぼやけるといわれる」

鳳珠は暦をちらりと見た。

「気付かなかったが今日が最終日だな。
五日前から始まっていた」
「・・・へぇ・・・で、灯籠を点すんですか」
「そうだな。
夢枕や正夢を見ることが多いらしい。
最終日の今日は故人や、会いたくても会えない人に会えるといわれている・・・」

そういって鳳珠は大きなため息をついた。

「いかがなされました?」
「・・・毎年・・・貴陽にきてから少しして・・・今日に限って夢見が悪くてな・・・
正直寝たくない」

何故か毎年この日に限って戸部が暇なのである。
何呪いかと最近本気で思ってきたところである。

「駄目ですよ、鳳珠様。せっかく家で休める日なのですから。
ちゃんと寝ておかないと・・・。
おまけにく会いたい方に会える日なのですから!
このさい黄州に思いを馳せてみては・・・?全く帰っておられないのでしょう?」

鳳珠の目が遠いところに向けられたのには気付かなかった。

「・・・しかし・・・御魂御灯を知らないとは・・・
豊穣祭も知らなかったと聞くが・・・」
「まぁ城の一角に閉じ込められていたようなものですから・・・・。
母は伝承事などは教えてくれませんでしたもので・・・」

・・・特に伝承事については外に出てから知ったことがほとんどだ。
茶州に行き、貴陽が特殊な環境であることは分かったが、それでも伝承事はちゃんと行っているはずである。
母も世間知らずなところはあったがまさか知らなかったということはあるまい。

・・・しかし・・・縹家って”神祇の一族”って呼ばれているくらいだし、伝承事なんて専門分野なのでは・・・

「・・・そうか・・・
ならばこのような母君に会いに行ってみるというのもいいかもしれぬな・・・」
「・・・あぁ・・・なるほど・・・」

そうか、その手があったか。
縹家などの問題など忙しさで頭の隅に追いやられていたがそのことに関して尋ねたいことが山ほどある。
霄太師の説明では物足りなさ過ぎる上、不確定要素が多い。

「では、今日頑張ってみます。
お休みなさい」
「・・・あぁ、いい夢を」

灯籠を持って出て行くを見送って、鳳珠は二度目のため息をつき寝台を眺めた。
ぼんやりと灯籠が周囲を照らす。

『・・・・。』

意を決して鳳珠は寝台に入った。
今年こそ悪夢を見ませんように・・・・



気がつくとは朝廷の庭にいた。
灯籠の光を見ていたらぼんやり眠っていたらしい。

「・・・よっしゃ、朝廷ね。
これが母上の生きていた時代だといいんだけど・・・」

しかし、期待は外れいつもみていた朝廷の庭だった。
は、忌々しげに舌打ちする。

「・・・ちっ・・・これじゃ現実と変わらないじゃない。
いやでも御魂御灯は今回が初体験なわけだし、どうなるか分からないわよね」
「ほぅ、そうなのか。
ではの初体験を記念して一曲。『御魂御灯〜夢と現、過去と現在放浪記〜』」
「・・・りゅっ・・・龍蓮っ!?」

は反射的に龍蓮の笛をつかんだ。
初めての御魂御礼が悪夢に変わるところであった。

「むっ、どうして止める。
伝説に残るかもしれない一曲がふけそうだったのに・・・」
「既にあんたの笛の音は私にとってある意味伝説よ!
それ以上伝説を更新させないでっっ」

笛を取り上げたに龍蓮は肩をすくませた。
鉄で出来ていて重いのだが、夢の中らしくには重みが伝わっていないらしい。

「久しいな、
「本当に。朝賀以来ね・・・。
その分だと元気そう・・・安心した」
「・・・も綺麗になった」

久しぶりに会う龍蓮なのだが何か違和感を感じる。
普通にかっこよく感じるのは何故?
夢だから現実と少しずれているのだろうか?

「どうした、?・・・あぁこの衣装か・・・。
全くもって意にそぐわない話だが先ほど愚弟其の一、二、三に遭遇して無理矢理着せ替えられたのだ・
せっかく新衣装を見繕ったのに・・・」

龍蓮の方は残念そうだが、私的にはこちらの方が似合っていていい男だと思う。
衣装の派手さも藍家ならではというか・・・しかしいつもの龍蓮の衣装とは別の印象を受ける。
派手だが、綺麗に収まっているというか・・・
こう見ればしっかりとした藍家直系だ。

「じゃあ、その新衣装はまた貴陽に来たときみせてよ。
私はこっちの方が好きだけどね・・・、お兄様達趣味がいい。
龍蓮や藍将軍に似てかっこいいんでしょうね。歳は黎深様と同じだっけ・・・」

渋みも出てきていい年頃だ。それに三人いるというところがミソだ。
同じ顔でも性格が違う三人を一気に堪能できるとはおいしすぎる。
龍蓮はその言葉にムッとした。
龍蓮の着物の袖や布を見ていたの肩をがっと掴んで向きなおさせた。

「兄上達はただの鬼畜だ。
会わない方がいい」
「・・・へ?・・・そう?
でも龍蓮に衣装見繕ってくれたのなら優しいんじゃない?
それに今日は会いたくても会えない人に会う日なんでしょ?
・・・きっとずっと旅に出ていた弟が恋しくて会いに来てくれたんじゃない?」

その台詞に龍蓮が少し黙った。
あの鬼畜の兄上達が・・・そんなこと・・・。
でも夢であった彼らは本当に嬉しそうで。文句一つ言えず着せ替えられてしまった。
現に着替えずにここにいる。

「それより聞いてくれ」

龍蓮がいきなり抱きしめてきた。
はその体重を支えきれず後ろによろめいた。
丁度いいところに木があり、そこに背中をつく。

「龍蓮、どうしたのよ一体・・・」
「・・・それが・・・・
旅が楽しくなくなってきたのだ・・・」

今までは何度見た風景でも飽きなかった。
自然に同じものはなく毎回違う感動を与えてくれる。
自然に寄り添い、感動し、また次の場所へ移動する。
一生こうやって、果てには仙人になり伝説を作ろうと思っていたのだが・・・
・・・いや、一生こうやって生きていかなくてはいけないと思っていたのだが・・・。

「心の友達に出会い、と旅をして、救ったり、笑ったり、傷つけたり・・・
それを知ってしまってから・・・もう一人は耐えられない」
「・・・龍・・・蓮・・・」

は目を伏せた。
誰もが龍蓮の特異さに甘んじていたところがあるのだろう。
彼だって人間だ。一生一人で生きていくのは辛すぎる。
はぎゅっと龍蓮の着物を握った。

「・・・私は・・・その一緒に行くのは無理・・・なんだけど・・・
今だけ・・・一緒にいることはできるから・・・」
「・・・・・・」

龍蓮の腕に力がこもる。
も慣れないことを言ったため顔がかなり熱くなってきたその瞬間、後ろから声がした。

「全く、夢の中までその怪奇音を撒き散らすな、藍龍蓮!!」
「おお!心の友其の三!」
「あれ、珀明・・・?」

勇ましく出てきた珀明だが、龍蓮の影にいたの存在を確認した瞬間、体が固まった。
・・・もしかしなくても、入ってきてはいけないところに入ってしまったようである。
珀明がそっと退散しようかと回れ右をしたところで、後ろから衝撃が襲ってきた。

「久しいな、心の友其の三!!
会いたかったぞ。ええと・・・国試以来だったか?」
「ぐあっっ!!!」

龍蓮が後ろから思い切り抱きついてきたのである。
珀明はその体重を支えきれず、前によろめいてそのまま二人で倒れてしまった。

「・・・大丈夫?二人共・・・」
「珀明も少し大きくなった気がする。」
「こらっ、肩に顎を乗せるな。僕は顎置きかっっ!!
久しぶりにまともな恰好で現れたと思えば中身は全然変わってないようだな」
「珀明も変わってないようで嬉しいぞ」

龍蓮の方が一回り大きい上力もあるので珀明がどれだけもがこうが離れない。
は微笑ましい二人を見守りながら周囲を見つめた。

・・・珀明と龍蓮・・・。
龍蓮は別の場所にいるが今を生きているはず・・・・。
どうすれば昔に戻れるのだろう・・・
ふと、庭の木と木の間に光る何かを見つけた。
その中には先日会った清雅の姿があった。

「・・・陸・・・清雅・・・?」

何故彼を見るのだろう。
の呟きに珀明が反応した。

「陸・・・清雅だと?」
「知ってるの?」
「・・・知ってるというか・・・ほら陸家は有名だろう。
旧紫家門四家のうちの一つ・・・。
まさかお前まで知らないとはいわないだろうな・・・」

初の女性官吏が退官に追い込もうとする動きがある今そんなことを知らないようでは本当に堕とされてしまう。

「・・・しっ、知ってるわよ。
ただうっかりしていただけで・・・
ん?・・・陸家・・・」

たしか陸家って当主候補は銀の腕輪をはめる習慣があるって・・・・
の脳裏に清雅ではなく、別の人物がの頭をよぎった。
・・・陸清雅・・・・御史台・・・

「・・・あの時の・・・・ッッ」

蘇芳の家を取り締まった御史台の役人。
確かに背恰好、そして銀の腕輪が清雅を連想させる。というか彼しかいない。
何故かの中で怒りが込み上げてきた。
もしかしなくても、彼が秀麗と蘇芳に近づいた理由が今繋がった。

「・・・陸・・・清雅・・・・」

改めて口に出すと怒りがこもる。
は拳をぎゅっと握り締めた。

「・・・?」

明らかに様子のおかしいに珀明がおそるおそる声をかける。

「・・・別になんでもない・・・」
「・・・・・・。別にお前のことだから・・・その・・・心配はないと思うが・・・」

彼らしくもない歯切れの悪い口調で珀明はいった。

「何かあったら・・・言ってくれ。
一応碧家の名は持っているから・・・少しくらいは役に立てる・・・と思う・・・・。
本当に別に心配はしてないからなっ」
「でも、女だからとか、家柄が低いだとかそんなことでいじめとか差別とかは最悪だと思う。
の有能さは僕が一番知ってる。自信を持っていい」
「・・・うん、ありがとう。珀明。
また色々愚痴らせてもらうから・・・」

珀明の優しさには自然と笑みがこぼれた。
少しだけ心が安らいだ。
珀明も自分で言ったことが恥ずかしくなったのか目をそらしながらも頷いた。

でもこの闘争心を押さえるまでにはいかなかった。

「ねぇ、二人共。ちょっと私の頬つねってみてくれる?」

の言うとおり二人はの頬を思いっきりつねった。
その思い切りに少しカチンと来ても二人の頬をつねってみた。
何故か頬をつりあう、というおかしな光景に気付くのには三人とも結構時間がかかってからであった。

「・・・まっ、まぁ痛くないってことね。
よしちょっくら行って来るわ」

は胸の前でパンと拳をあわせる。
気合十分のに男二人はただ眺めているだけだった。
は清雅のいる光の中に向かって走っていく。
そしてが光の中に入った瞬間、その光は消えてしまった。

「・・・え・・・ちょっ・・・・っ!?」

珀明は焦った。この訳の分からない男と二人きりなんてゴメンだ。
・・・が、周囲に人がいる気配はなくただ背中に龍蓮を感じるだけ・・・

「・・・嘘だろ・・・」

珀明は大きなため息をついた。
ここにまた厄介な人物と二人取り残されてしまった青年がいた。



清雅は人の気配を感じ、振り返った。
そこには意外な人物がいて目を見張る。しかし、すぐにいつもの笑顔を取り繕った。

「おや、が私の夢にいるとは・・・。奇遇ですね。
何かの縁でしょうか?」
「そうであれば、嬉しいですね。
丁度貴方の顔が見えたもので伺ったのです。
お邪魔でしたでしょうか?」

周囲の空気は氷点下になる。静かな闘志が水面下でぶつかり合った。

「夢の中ですし・・・・少しの無礼は許してくださいましね?」

やけに敬語なが怖い。
見れば容姿に似合わず指をパキパキならしている。
相手が戦闘体制に入っている、と考えた時には遅かった。
構える前にが目の前までやってきていた。

「・・・え・・・あの・・・」
「これは蘇芳の分っ!」

腹部に渾身の一撃、そして体制を立て直す間もなくもう一撃。

「・・・・ッ」

痛みは感じなかったが、清雅の体は後方まで飛んでいった。

「・・・何を・・・」

起き上がった清雅の表情にも怒りが見える。

「最後は秀麗ちゃんの分よ。
流石に二人共実力行使は無理そうだったから!」
「・・・普通どれだけの怒りがあっても自ら体現する人なんて少ないよ。
何?あんたも俺に虐めて欲しいわけ?」
「私は私で今の防衛戦に精一杯よ。
敵が少なくなったら」
「・・・宣戦布告と取るけど・・・いいかな?」

清雅が傲慢に笑む。
もそれと同じ笑みを返した。
二人の視線が混じりあう。

「・・・・ご自由に。
ただ、私に気を取られているときっと他の事が疎かになって自滅するわよ」

はばっと、腰にある扇を取り開いた。
清雅が目を見張る。
いつも朝廷でみる下官の装いのが大貴族の令嬢にみえる。
しかし深窓のそれではなく、すべてにおいて百戦錬磨の貴族の頭に。
自分の方が上の立場のはずなのに、圧倒されるその威圧感。

は自分の後ろに次の部屋に繋がる光を見た。

「・・・私は貴方なんかに堕とされない」
「どこからその自身が沸いてくるのか知りたいよ」
「私の生きてきた軌跡から・・・かな。
・・・じゃ、また朝廷でお会いしましょう」

は次の光に入って消えていった。

「おや、新しい恋人かい?」

突然後ろから声がして清雅は飛び上がるほど驚いた。
後ろには晏樹が面白そうに笑っている。

「・・・いつからいらしたのですか・・・」
「さっき。彼女とすれ違いかな?
・・・若いっていいね。気が多くて羨ましいよ」
「別にそんなわけではないですよ。
堕とす楽しみが増えただけです」

清雅が苦々し気にこたえる。
その様子を見て晏樹はまた微笑んだ。

「今回の彼女はまた別の強敵になるかもね。
秀麗ちゃんとは違って・・・」
「まぁそうですね。
息もつかせぬ騙し合いになりそうです。
それもそれで暇つぶしにはなりそうかな・・・」

何しろ向こうはこっちを堕とす気はないみえるので面白さは半減するが仕方ない。
清雅はクツクツと喉で笑った。

「女性官吏などすぐにいなくなりますよ・・・」

そしてまた、醜い男共の足の引っ張り合いが起こる。
それもまたつまらないな、と清雅は思った。
ふと横を見ると晏樹の楽しそうな顔がある。
これ以上弄られても困るので清雅は晏樹の相手をすることに努めた。

か・・・
何故ここで会ったのかは分からない。
でも、何か嫌な縁で繋がれている気がする。


   

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