「・・・あれ?」

清雅の室から抜けた途端周囲は一変していた。
いつの間にか街の中に出ている。しかもここは貴陽じゃなくて・・・・

「・・・茶州!?琥lじゃない?」

久しぶりに見る琥lは、以前見た殺風景な”殺刃賊”がうろついているようなところではなかった。
貴陽に負けないくらい人々の活気が溢れている。
克洵を始め、櫂瑜や影月、燕青達が頑張っている証拠だろう。
自然と笑みがこぼれる。初めて紫州から出てきたところ・・・。
あまり観光する時間はなかったけれど、自分の中ではしっかり記憶されていたのだ。
そして、が振り返るとそこには全商連があった。
やはり金華よりも大きく、圧倒的な存在感がある。
はその中で知り合いの姿を見つけた。

「彰っ!?」
「おや・・・これは殿・・・お久しぶりです」

人ごみの中でも龍蓮とは別の方向で異彩を放っているのが彰であった。
この辺では見られない衣装を身にまとい眼鏡の奥には商人らしい鋭い目があった。
記憶にある通り、彰は全商連の商人として働いている。
彰は人の賑わう建物の中から出てきた。
懐かしさには駆け寄りその勢いで抱きついた。

「なっ・・・・・・殿・・・?」

いきなりのの行動に彰は目を丸くした。
いつもの隙のない顔に少し朱が走る。
は彰の様子も気にせず、ニコリと笑った。

「久しぶりーッッ!!元気そうね」
「貴方も相変らずですね・・・。
以前よりも元気そうですが・・・」
「まぁね。さっき人を二発ぶん殴ってきたし・・・・」
「・・・・え・・・・?」

の言葉に一瞬彰の顔が固まった。

「いやこっちの話!!
勉強の方はどう?まだ全商連で働いてるの?」
「勉強の方は・・・まぁ今のところはなんとも。
国試に受かる自信はありますがね。五割・・・ってところですか?
準試になら八割受かる自信があります。
全商連は先月で辞めました。あとは勉強を頑張るだけです。
父が国試を受けると聞くなり、喜んでしまって毎日色んな差し入れ持ってきて・・・
これならまだ働いていた方が良かったと思う毎日ですよ」

うんざりしながらも、話す彰の声音は明るい。
はそれを笑顔で聞いていた。五割受かる確率のあるのなら大丈夫であろう。
まだ時間はあるし半分の確率があるのなら彰は絶対逃さない。
辞めてでも未だに評される商人の腕は伊達ではない。

「まさか夢にまで出てくるとは・・・。
きっぱり辞めたつもりでしたが、それなりには未練があるようです」
「そりゃそうよ・・・。
ここであったのも多分私の中で彰は商人の印象しかなかったし・・・」

それに彰には商人としての才能があった。
仕事も楽しそうにしていたし、まんざら嫌いでもなかったのだろう。

「戸部の方はどうですか?
貴方を見る限り充実してそうですが・・・」
「戸部は相変らずなんだけど、朝廷がね・・・。
まだ安心して立てる土台もないし、周囲を見れば常に崖っぷち。
小さな事が大きな明暗を分ける日々・・・
まぁ・・・・ちょっとした緊張感があっていいけどね」
「そうですか・・・・秀麗殿の文にも文面では苦労を見せませんが話を聞いていると大変そうですものね」
「そうなのよ・・・。
それとこれとは別になるけど彰、本当に戸部に来てねっ!!絶対よ!!」

勧誘のことになれば目が輝くに、彰は苦笑した。

「・・・それって私が決めることではないでしょう・・・。
せいぜい吏部尚書に賄賂贈っておくことですね」
「それは黄尚書が抜かりなく手回ししてくださってるのでご心配なく。
彰は体一つでくればいいから」

さすがというか何というか・・・
彰は戸部のことを語りだすを見て微笑んだ。
この様子では紫州にいっても楽しそうだ。そんな気がする。

「そういえば、私彰の先輩になるのかー。
頭ごなしにしごいてあげるからよろしく。」
「それはご丁寧に、先輩。
バカなことをしていると後輩から鋭い指摘が入りますよ。
ご注意を」
「やな後輩ね・・・」
「貴方の上司の方々からそのまま返って来ますよ」
「・・・確かに・・・」

二人共顔を見合わせて苦笑した。
生意気で、動けて、書類の処理速度も官吏暦数年の者達よりもはるかに早い。
黄尚書付きの後輩。
・・・確かに私が先輩の立場だと嫌味の一つもいいたくなるかも。
夢の中から先輩方に謝罪。勿論反省はしていないが。

「・・・そういえば・・・つけてくださっているのですね、その簪・・・」

いつぞや紫州に来た時に渡した物のことだろう。
は首を髪に差している簪に手を触れた。確かに彰のものだ。
つけた記憶はないのだが・・・。
夢の中なら衣装も自分の好きなようになるのかも。少し勉強。

「えぇ、この綺麗な簪も気に入っているわよ」
「別にお世辞はいらないですよ。
彩家のものにはかないません」

彰は息をつきながら手を上げた。

「そんなことないよ。
私はこういうのも好きだし・・・
彩家の派手なのも勿論好きだけど、こっちの方が今の私にはしっくりくるっていうか・・・」
「・・・今の・・・ですか・・・」
「・・・何か?」
「何も・・・。
いずれは彩家の方がしっくりくるんでしょうね、と思いまして。」
「・・・それでも・・・」

は鮮やかに笑った。

「私は、この簪をつけるわよ。
貴方は世間一般的な物の価値にこだわり過ぎてる。
本当に良いものは、安いものでも、その辺に落ちてるものでも、良いものよ。
そのことを忘れないで」

真っ直ぐに彰の目を見る。
彰はしばらく沈黙していたが、ふぅ、と息をつき肩の力を抜いた

「正論ですね。
商人になってから忘れていた心です」
「官吏になれば大事なことよ」
「もっともです・・・。勉強になりましたよ、先輩」

先輩、という言葉に嫌味が込められているような気がしてはむっとして彰を睨みつけたが、彰はさらっとその視線を流す。
交渉に関して百戦錬磨の男に口で勝とうとは十年早いってか。

「・・・貴方と仕事ができたら面白いと思う。
本当に・・・まってるから」

が彰の手をぎゅっと握った。

「・・・えぇ、私もそう思ってますよ。あと黄尚書も気になってますし。
必ず及第してあなたの元に参りますよ・・・殿」

そういって、彰はの手を取り手の甲に軽く口付けした。

「・・・えっと・・・・」

の瞳が揺れる。彰は微笑して言った。

「挨拶ですよ。親しみを込めまして」
「・・・抱きつくのが挨拶だと思ってた・・・」

んな馬鹿な。
しかし、そうして考えてみると先程のあれも挨拶だったのか・・・期待してちょっと損した。
しかし、不特定多数の男にそんな事をすると危ない気がするのでの常識を少し訂正しておくことにする。
見ているこちらも不快極まりない。

「流石に抱きつくのはどうかと・・・。誰に教わったのですか」
「教わったというか龍蓮がやってた。親しみを込めて。」
「・・・いや・・・あの方は特別でしょう・・・。
今度からは軽率な行動しないように。
襲われても知りませんよ、貴方ならすぐに撃退できる気もしないでもないですが・・・」
「・・・・気をつけます」

なにやら身に覚えがあるようなないような・・・。
自分の身を守るためにもやはり行動も十分に控えた方がいいのかもしれない。

その時、遠くの方で何か騒ぎが起きた。人々の悲鳴が上がる。
その中には歓声も混じっていた。

「・・・何・・・?あれ・・・」
「さぁ?不貞な輩が暴れているのでしょう。
巻き込まれない前に中に入りますか・・・ほら人がこちらに逃げてく・・・」

混乱はすぐに周囲に広がり人々が逃げ惑う。
誰かがに思い切りぶつかった。つないでいた手が離れる。

「・・・殿・・・ッ!」
「彰・・・・っ
・・・紫州でまってるから!!」

彰との夢の終わりを感じたは彼の顔が見えるうちに叫んだ。
最後に見えた彰の顔は呆れたような顔だった。
次に会うときもそんな顔されるんだろうな・・・と人の波に流されながら頭の隅で思う。

誰かに強く背中を押された。
息をつく間もなく、は人が開けた場所に倒れる。

「・・・いた・・・・い・・・気がするだけか・・・。
夢だし」
「派手にこけたなー。嬢ちゃん」

顔を上げると、太陽を思わせるような燕青が手を差し出していた。

「・・・燕青・・・」
「ちょっと俺の夢に巻き込んじまったみてぇだなー。
悪いな、常に暴れてなきゃいけないの、俺の夢」

片腕だけでを起こし、燕青は前方を見た。
着物についた砂を払い落とす暇もなく、と燕青は反射的に離れた。

「・・・えっとー・・・戦闘の経験はあるよね」

の動きをみて、燕青もをかなりの使い手と見たらしい。
朔洵とやりあったって聞くぐらいだから腕は相当のものとみた。

「任せて。残念ながら守られるようなお嬢様ではないのよ私」

そういいながら、は襲い掛かってきた男に肘を食らわせ、怯んだところに蹴りを一発。

「かっこいいとこ見せたかったんだけどなー」

燕青も棍棒で面白いように敵を殴り倒していく。

「燕青は常にかっこいいわよー。
あっ黄尚書もそのかっこよさに気付いて是非戸部に、と言っていたんだけどどう?
国試受けるんでしょ?」
「国試は受けるつもりだけど黄尚書はパス。
俺絶対ぶっ倒れるまでこき使われて捨てられる可能盛大だから」
「悠舜さんも『あの燕青を使ってくれるといってくれる人なんて貴方しかいませんよ。どうぞお好きに使ってやってください』
って言ってたけど・・・」
「悠舜の裏切り者ーっ!!俺を売るな!!」
「肥溜めに落されたこと根に持ってるんじゃない?」
「・・・俺・・・なんでこんなにいじめられなきゃいけないんだろ・・・」

会話しながらも二人は順序良く出てくる敵を倒していった。
無限に出てくる敵。
しかしこちらも疲れる事はない。夢だから。
燕青とが背中合わせに並ぶ。
周囲を敵が囲み、じりじりとこちらとの間合いを詰めていっている。

「・・・っていうかもっとまともな夢見れないわけ?
例えば甘い恋の展開とか・・・」
「俺に言うなよ・・・。
俺だって見れるもんならみてぇな。
そういうはどうよ」
「・・・さぁ・・・?
恋と言うには程遠いというかなんというか・・・
とりあえず、いろんな人には出会ってる」

・・・一応頑張ってはいるのに、には伝わっていない心・・・。

「へぇ、誰と会った?」
「龍蓮に珀明に・・・清雅?あと彰!!」
「結構会ってんじゃん」

・・・それで恋愛的展開がないって逆におかしくね??夢だろコレ。
知らない名前もあったが明らかに男だろう。

「でも夢で会えるって羨ましいよなー」
「なんで?」

燕青はニッと笑った。
視線が合う。

「だって、会えるって事はそいつものこと想ってんだろ?」

逆に言えばも相手のこと想っていると言うことだが・・・。
御魂御灯は一方的でも通用するっぽいので、あえてそれだけにした。

「・・・え・・・?」

の手が止まった。
好機とばかりに敵が三人同時に襲い掛かる。
気付いたときには目の前にいて、反射的に腕で顔をかばう。
やられるっ。。背筋に冷たいものが走った。
キン、と男達の刃物が途中で止まる。

「・・・燕青・・・・」
「少しは動揺した?
少しは可愛いところあるんじゃねぇの。嬢ちゃん」

恐る恐る声のした、方向、上を見ると燕青の笑顔があった。
先ほどまでの恐怖が嘘のようになくなる。
燕青がの後ろから棍棒で男達を突き飛ばした。

「・・・それ本当なの?燕青・・・」
「普通そうだろ。
相手のこと考えてなきゃ会いようもねぇ・・・」

確かにそうだ。
・・・そうだとしたら・・・

「燕青も私に会いたかったわけ?」
「・・・なっ・・・」

初めて燕青の焦る顔が見えた。
・・・図星・・・だったのか・・・?

「いや・・・別に俺は・・・」
「何?私のこと忘れたとでも言いたいわけ?」
「そうじゃなくて・・・えっと・・・」

いつの間にか周囲に敵はいなくなっていた。
燕青が言葉を捜す。久しぶりの苦戦だ。まだ国試の勉強をしていた方がマシかもしれない。
先ほど朔洵にあったが・・・少しはこういう時の対応でも教えてもらえばよかったかもしれない。

「・・・御魂御灯の今日は毎年夢見が悪くてよ・・・。
だから、嬢ちゃんが茶州に来た時のこととか少し思い出してたんだ。
・・・特別な意味はないけど・・・」

そういえば鳳珠も嫌がっていた気がする。
そんなに悪夢を見るものなのだろうか。

「そうなのー。私は父上と母上のことしか考えてなかったんだけどな・・・。
いつも見当はずれなところにいっちゃうのよねー」
「そうなんだ・・・」

皆撃沈。
燕青としても苦笑するしかなかった。
あの中で本気の人は何人いたのだろう。

「でも燕青に会えてよかったわ。
彰と一緒に国試合格しなさいよ。紫州でまってるから」
「あぁ、そのつもりだ。静蘭に切られるのも悠舜から嫌味言われるのも勘弁だしな・・・。
あと彰から授業料取られそうな・・・櫂瑜殿にも苦笑いされそうだし・・・。
影月は何とか慰めてくれそうだけど、そのあと香鈴嬢ちゃんからきつい一言が・・・」

相当周囲からいじられているのであろう。合掌。

「なんか、会いたく無い奴にも会っちゃったけど今回の御魂御灯はなんか良かった気がする。
俺は紫州に行くぜ、
「・・・うん。秀麗ちゃんも・・・皆期待してる。
・・・えっと・・・
言いたくなければ言わなくていいんだけど、会いたく無い人って誰?」

燕青の言葉に引っかかる何かを感じた。
の勘は正しいかった。
燕青は、苦笑していった。

「・・・朔だよ。
なんでか知らねぇけど俺の夢に出てきた」
「朔洵ですってっ!?」

は、燕青に掴みかかかった。
朔洵のことが禁句なのは秀麗だけかと思っていたが・・・。
にも手を出しやがったか、あいつ・・・

は、鳳珠の言葉を思い出した。
故人や会いたくても会えない人に会える・・・
これでは生きているかどうか分からない。
夢のようなそうでないような記憶はあるのだが・・・

掴みかかった途端、真剣に考え込むに燕青はどうしていいか分からなかった。

「・・・え・・・?」
「朔洵は生きてるの!?」
「さぁ・・・死んでるんじゃねぇの?
まぁ・・・生き返りそうな気はしないでもないがな・・・」
「・・・そう・・・」

『・・・呼んだ・・・?』

「・・・朔洵っ!?」

の頭の中に直接響いてくる声。
周囲を見ても彼の姿はなかった。しかし、人のいなくなった空間に光が一つだけ宿る。

「・・・ごめん、燕青・・・。
私これで行くわ・・・」
「そーみたいだな。
なんかヤバそうだけど・・・行くのか?」

光といってもその奥は黒い光がある。
は苦笑した。

「私にはあっちの方があってるみたいなのよ。
・・・じゃ、また会いましょう」
「あぁ、元気でな、

燕青はの頭を軽く二回叩いた。
は頭を押さえながら苦笑して、光に向かって走っていった。

「・・・本当朔って我が侭し放題している割りに人集めるよなー。
俺もちょっとグレてみたいかも・・・」

そういい残して燕青は自分の光に入っていった。
自分の夢の時間はもう終わりだろうけれど。


   


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