光を抜けた先は、朝廷の中らしい。
清雅の室からどこに移動したのだろう。距離としてはそんなに変わらないのだが・・・
は周囲を見渡した。

「・・・ここは・・・工部?」
「おや、殿ではありませんか?戸部に何の用ですか?
夢の中まで仕事をするとはなんとまぁ熱心なことですね」

後ろを振り返ると、いつもの倍着飾った玉がいた。
背景が朝廷なので違和感があったが、玉自身には全く変な印象は受けない。
この人の普通がこれなのだろう。

「・・・いえ、別に仕事をしたくてきたわけでもないのですが・・・」
「まぁそれはそうですよね。
誰が好きでこんなところにくるかって感じなんですけど・・・。
チッ、あの飲んだくれまた散らかして・・・」

床に転がっていた酒の瓶を玉が持ち上げる。
夢の中なので片付ける必要もないのだが、もう癖なのであろう。

「欧陽侍郎こそ、何で朝廷に・・・?」
「勿論黄尚書に会うために決まっているじゃないですか。
夢の中ならあの仮面を剥ぐことくらい容易だと思っているのですが、肝心の本人がいなくて・・・」

確かに夢の中なら自分の意思一つで身体能力が上がる事はある。
は苦笑しながら玉の話を聞いていた。
寝る前しっかり素顔を拝見しまってすいません。
何か悪いことをしてしまったように感じるのは気のせいだろうか。

「黄尚書は・・・いつもこの時期悪夢を見るから・・・と言ってましたが・・・」
「・・・悪夢ですか・・・。あの人が?」

皮肉なことである。
鳳珠が夢の中に出ていて苦しんでいる人が今でもいるというのに・・・。

「えぇ・・・。なんなんでしょうね。詳しくは教えてくれなかったのですが・・・」
「・・・そうですか・・・。
殿、せっかくですから少し飲んでいきますか?夢の中ですから飲み放題です」

そういって、玉は侍郎室から高級な酒瓶を一本取り出した。

「それは・・・っ、藍仙酒・・・っ!?
そんなものどこで手に入れたのですかっ!?」
「ふふふ・・・ちょっと飲んだくれの伝手を使って、幻の仙人酒を全てそろえたのですよ。
そう考えればあの鳥頭も少しは使いようがありますね。
本物もちゃんとありますので、また私の室にきてくだされば見せてあげますよ」

飛翔は凄い言われようである。
普段から玉の気に触ることをしまくっているに違いない。
幻の仙人酒というのは、八つの州で一番美味い酒に付けられる名前のことで、八種類ある。
生産数がわずかでほとんど彩家の者しか口に出来ないというが・・・さすが玉だ。
ちなみにの家にも数本保管してある。
飲んだこともあるが、どの州も独特な美味さがあり、どれが一番美味いか判定は難しい。

「藍州の酒は甘みがありますから、丁度いいでしょう」
「甘いの好きですー。」

二人で軽く乾杯をして、一杯目をぐっと飲んだ。
久しぶりにお酒もいいものだ。
口解けも最高。味も最高。文句なし。自然と笑みがこぼれた。

「流石ですね・・・。夢の中なので少し味覚に影響があるとは思いますが見事です」

玉も最高級の酒を目にして、いつもの嫌味も出てこない。
もう一杯ついで、飲もうとしたところに後ろから手が伸びた。

「・・・え?」

いきなりなくなった杯にが驚いていたら、後ろから声がした。

「・・・へぇ・・・・藍仙酒か・・・。いいもん持ってんじゃねぇか。陽玉」
「・・・かっ・・・管尚書・・・ッ!!それ私の杯・・・」
「固ぇこと言ってんじゃねぇよ。
おい、陽玉その酒瓶俺によこしな」

酒瓶に手が伸びる前に、玉が酒瓶を死守した。

「冗談じゃないですよ。これ手に入れるのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。
あんたみたいな飲んだくれ二束三文で買えるお酒で十分ですよ」
「あぁ?よく言ってくれたな、誰のお陰でその藍仙酒買えたと思ってんだよ!!」
「一重に、酒造に関わった人々とありがたくも譲ってくれた人に決まってるじゃないですか」
「その前に俺がそいつ紹介してやったんだろうが。
感謝の証に飲ませやがれ!」
「あんただってちゃっかり尚書室に隠し持ってるでしょうが!!
自分の飲んでくださいよ。
これは私と殿の分です!あんたにあげる酒など一滴もないです!」

は激しい酒の攻防戦をぼんやりと眺めていた。
本当に酒が好きなんだな・・・と思うしかない。
そして舌戦は終わりを見せる様子がない。
は勝手に玉が持ってきてくれた他の州の酒に手をつけた。

「うーん・・・やっぱり黄仙酒は鳳珠様みたいな綺麗な味がするー。
金箔も入ってるし、最高ーvv」
「ちょっ・・・!何勝手に飲んでるんですかっ!?
しかもそれ私の杯でしょう!」

の行動にいち早く気付いた玉が叫ぶ。

「え?夢だからいいかな・・・と思って・・・。
美味しいですよvv黄仙酒」

いや、そこにも突っ込みたかったが・・・杯・・・。
は気にせずもう一杯呑んだ。

「当然でしょうが!!黄尚書の生まれた土地で作られたものですよ。
美味しくないわけがないじゃないですかっ!!」
「おっ、こんなところにあったのか・・・」
「ぎゃーっ!!
汚い手で私の収集品に触らないでください!この鳥頭ーっっ」
「うるせぇよ、ケチケチすんなって」
「ふざけんじゃないですよ!
っていうかなんで夢でまであんたと口喧嘩しなくちゃいけないんですかっ!!
この酒は本来黄尚書と飲む予定だったのに!!」

・・・そうだったのか・・・。
取っ組み合ってる二人を無視して色々な州の酒をは飲み比べていたは少し申し訳ない気がした。

「・・・えーっと・・・なら鳳珠様に言っておきましょうか?
夢でなくてもきてくださると思うのですが・・・
・・・暇があれば・・・」

最後に紫仙酒を飲んではニコリと笑った。
やはり地元の酒が一番しっくりくる。
玉は目を輝かせた。

「本当ですかっ!?」
「・・・暇があれば・・・の話ですが・・・。
吏部にでも殴りこんで戸部人員を増やしてくれればなんとか・・・」

今日は普通に仕事を終わることができたが、明日からまた忙しくなるであろう。
玉は一応考えてみたが、どう吏部と掛け合っても人員は出してくれない事は目に見えている。
ならば・・・・

「分かりました。工部から二人生贄を差し上げましょう」
「三人でお願いします。」

図太くが人数を追加した。
鳳珠大好きの玉なら少しくらいの我が侭聞いてもらえるような気がした。

「・・・三人・・・分かりました・・・」
「じゃ、奇人に変わりにいい酒回せといっとけや」
「それじゃあ今の生贄の意味がないでしょうがっ!!
黄尚書には手ぶらでいいとお伝えください。全てこちらで用意しますので!!」
「・・・あ・・・はい・・・」

ノリノリの玉になんか夢であっても誤魔化せないような気がしてきた。
鳳珠様には申し訳ないが一晩彼らに付き合ってもらうことにしよう・・・。
人員も三人くれるわけだし・・・。

の手は玉と話していても止まらなかった。
いつの間にか部屋の中に酒瓶が溢れている。世界中の酒が揃っていそうだ。

「・・・ほぅ・・・御魂御灯ってのも悪くねぇなぁ・・・。酒飲み放題」

飛翔が手短な酒からつまんで蓋を開ける。
そして杯無しでそのまま口をつけた。

「何が悲しくて夢の中まで酒にまみれなくちゃいけないですかーっっ。
この馬鹿尚書ー!!
どうせなら宝石にまみれたい・・・」

そういいつつ、玉も手短な酒瓶の封をきった。

「あっ、これ胡蝶姐さんお勧めの酒だーvv飲んじゃお」

も近くにある手ごろな酒を開けていった。
どれだけ時間が経っただろうか。
部屋の酒はたちまちなくなり、残り茅炎白酒のみとなった。

「うわー、最後の難関って感じですねー」
「茅炎白酒如きが私を酔わせられますか」
「よっしゃ、やっぱり締めはこれでないとな。
飲み比べすっぞ!!」

飛翔が大きな杯になみなみと茅炎白酒を注ぎ、二人の前にドンと置いた。
普通の人なら一口でぶっ倒れる代物なのだが、ここにいる三人は人並み外れた酒の体性をもっている。
現実ではこの量を飲めばいくら強いとはいえ三人ともぶっ倒れるほどの量なのだが・・・・

「夢だしな。ここはどんと大きく。
死ぬわけじゃないんだし、絶対飲めよ」

未知なる挑戦に飛翔の目が輝く。

「当然じゃないですか。茅炎白酒これくらい飲みきってしまいますよ。余裕です」

ちょっと酔いが回ってきたのか目が据わっている玉。

「うわー・・・胸焼けしそう・・・。
っていうか二人共飲む気満々ですか。
そもそも茅炎白酒で飲み比べするってこと自体無謀・・・」

の呟きは飛翔の声にかき消された。

「では、乾杯!!」

三人は同時にぐっと大きな杯に口をつけた。
口の中に入れた瞬間強い衝撃が体を襲う。喉が熱い。
頭の中でくだらない、と思いながらも飲みきってしまおうという自分がいた。
これを飲みきらないと駄目な気がして・・・・。

「・・・っぷは・・・っ」

は何とか一気に飲みきり杯を机にどんと置いた。
二人も同時に飲み終わったらしい。流石に息が荒い。

「・・・どーですか。飲みきりましたよ・・・」
「それくらいなんですか。私まだまだいけますよ」
「あめぇな、お前ら。これからだぜ」

その時の頭がぐらりと揺れた。
目の前が真っ暗になる。
そして遠くから光が見えた。

「・・・あぁ・・・まだ飲み比べの最中なんだけど・・・」
「なっ・・・、逃げる気ですかっ!?」
「逃げるのは許さないぜ」

二人の手がを引き戻した。

「・・・えと・・・」

両腕を飛翔と玉に握られ、は固まった。
玉も飛翔も咄嗟に出てしまった腕に驚いているようだ。

「・・・まだ起きるのは早ぇな。
この程度で俺が返すと思ったか」
「そうですよ。こんなムサい鳥頭と二人きりなんて最悪です」
「・・・仕事では常に二人きりじゃないですか。何言ってるんです」

玉の目がくわっ、と大きくなった。

「夢の中まで二人きりだとただの悪夢じゃないですかっ!!
好きで一緒にいるわけじゃないですよ。
仕事じゃなければとっくにこんなおっさんと縁切ってます!!
貴方や景侍郎がどれだけ羨ましいと思ったか!!」
「・・・オイ・・流石に言いすぎ・・・」
「それに・・・・」

玉はずいっと前に出てを抱きしめた。
先程まで酒を飲んでいたはずなのに、玉から酒の臭いは全くせず、代わりに甘い香りを感じる。

「・・・最近忙しくて貴方ともゆっくりお話も出来ませんでしたしね。
夢でいいですから貴方と話がしたい」

思わぬ玉の発言には玉を見る。
酔っているのか本気なのか夢なのか全く分からないが・・・
は小さく笑んだ。

「・・・欧陽・・・・侍郎・・・。
時間などいくらでも作ろうと思えば作れるものです・・・。
私も貴方とお話できなくてちょっと色々溜まってました・・・」

二人の意外な展開に飛翔は口を挟むことができなくなった。
仕方ないのでその成り行きを見守った。

「・・・是非、今度鳳珠様語りをしましょう。
徹夜してもいいです」
「そうだね・・・あの方は素晴らしい・・・」

二人の気持ちが通った雰囲気があたりに充満する。
色んな意味でやりきれなくなった飛翔は切れた。

「結局奇人オチかよ、お前ら!!
とっとと離れろ、目障りだ!!」
「なんですかー。私達の絆を引き裂くものなどありませんよー」
「そうですよー。ムサいおっさんは黙っててください。
そもそも貴方と黄尚書が同じ国試を合格したなんて絶対認めませんよ。
というか貴方みたいな大酒飲み黄尚書のお陰で合格できたようなもんじゃないですか」
「・・・テメェら・・・」

ひくひくと飛翔の口が引きつる。
酔いなのか本音なのか冗談なのか・・・どちらにしても不愉快極まりない。
相手は歳下の侍郎と下官だ。なんで自分がここまでコケにされなくてはいけない?

「テメェら少し酒に溺れて反省しやがれー!!」

飛翔の掛け声と共に背後から酒と思われる水が洪水のように二人に襲い掛かった。

「・・・・はぁッ!?御魂御灯ってこんな非現実的なこともありなのッ!?」
「所詮夢ですからね。
上等じゃないですか。心理的な問題ですよッ!!」

心構えが出来ていた玉に対し、御魂御灯初心者のはあっけなく酒の洪水に流された。
遠くに光が見える。
溺れながらもはその光に入っていった。

・・・とりあえず命だけは助かりそうだ。


   

ーあとがきー

月城酒ブランド:仙人酒。各州で一番美味い酒に送られる称号。


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