光を抜けると周囲は闇に包まれていた。
何も見えず視界に写るは黒一色。

「何ここ・・・」

何もない黒の世界に は目を細めた。
意識がはっきりするにつれて異変に気付いた。
周囲を囲むように人の気配。
そして殺気。
の手は腰にある短剣を扇に手を伸ばした。
朔洵を追ってきたつもりなのになんなのこれは・・・。
しかも同じ囲まれて敵意をもたれているにしても燕青の時とはまるで違う。
人の気配も、感じる殺気も本物以上に現実だ。

その時いきなり後ろから誰かに抱き締めされた。
全身が粟立つような衝撃が走る。

「・・・っ、きゃゃゃぁぁああ・・・むぐっ」

とりあえず逃げようともがくが相手の方が体格も力も上らしく体はビクとも動かない。
・・・何なのよ、こいつ・・・。
もう実力行使しか・・・。
短剣を持つ手に力を入れた。

その時背後の人物が の耳元で囁いた。

「久しぶりに会うけど相変わらず血の気が多いね。
君らしくて良いけど」

この猫のじゃれるような甘い話し方・・・。
耳に馴染むような低音ヴォイス・・・。

「朔じ・・・っ!?」

また口を塞がれた。

「静かに・・・見つかっちゃうから・・・」

朔洵の言葉に は周囲に意識をやった。
気配も殺気も先ほどとは変わらない。
は暴れるのをやめた。
多分彼らは朔洵よりも問題だ。

「・・・なんなの・・・ここは・・・
っていうかなんで朔洵がここに・・・。
こんな空間が好みなの?」

も状況を把握し、彼に合わせて声を小さくした。

「うーん・・・影月と一緒にいて、色んなところを回って・・・」
「影月くん?・・・なんで貴方が影月くんと・・・??」

特に接点はない気がするが・・・。
知らないところで何かあったのだろうか。

「うん、ちょっと前に彼にお茶に誘われてね」
「・・・影月くんが?朔洵に?」

信じられない。
胡散臭そうな目で朔洵を見上げると(暗くて顔は分からないが)朔洵が小さく笑うのが分かった。

「これは本当の話だよ。
彼の初めての相手が私らしいから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・は??」

一瞬何もかもがぶっ飛んだ。
流石に恋愛に疎いといってもそれの意味することは分かる。
影月くんの・・・初めて・・・
少し脳内でいけない絵が浮かんでしまった。・・・消去。
朔洵は の反応を見て楽しそうに笑っている。

「・・・いや、いやいやまさかそんな・・・」
「本人に聞いてみるといいんじゃないかな?
嘘は言ってないから」
「・・・なんか妙な男に好かれるのね、影月くんって・・・」

香鈴あたりは苦労しそうだ。
宿敵が・・・よりによって男(しかも、ダメダメ)

・・・龍蓮しかり・・・朔洵しかり・・・・
考えてみたら嫌な事実に思い当たった。

「・・・私もじゃん・・・」

なんだろう、凄い脱力する。
はこれ以上落ち込むのは嫌なので話題を変えることにした。

「・・・朔洵・・・会って聞いておきたいことがあったんだけど・・・」
「何?彼女の枠なら空いてるよ。
なら大歓迎」
「阿呆な事言ってんじゃないわよ。
・・・貴方って本当に生きてるの?」

朔洵はニヤリと笑った。

「春一歩手前くらいに会いに行かなかったっけ・・・?
合鍵渡してくれたの覚えてるよね。
それに、妙な男から守ってあげたのも覚えてるよね?」
「・・・えぇ・・・覚えてるけど・・・」
「それでも信じられない?
・・・いっそのこと忘れられないように、抱いておけば良かったかなぁ・・・」
「殴るよ。一発その綺麗な顔に拳入れておくよ。
・・・さっき一人犠牲者がでたけど・・・」

朔洵はくすくすと笑った。
彼女と話をしていると飽きが来ない。

「そういえば、君のお兄様に会ってきたよ・・・」
「清苑兄上?」
「いや・・・」
「・・・劉輝・・・兄上か・・・。
良い人でしょう?自慢の兄上よ。
・・・誰よりも・・・愛してる」

自分が人形になる前に闇の底から引き出してくれた、優しい優しい兄。
心から忠誠を誓えるほどに、成長した彼。
自分の命を懸けるに値する。

「・・・ふーん・・・。
まぁ面白いとは感じたけど・・・
君が命を懸けるには足りないと思うよ」
「いいわよ。価値観は人それぞれだから気にしてない」

朔洵は の頭を軽く撫でた。

「さて、また時がくれば会いに行くよ。御魂御灯はそろそろ終わりそうだし・・・
君も帰らないと駄目なんじゃないかな?」
「・・・この中からどうやって帰ればいいのよ・・・」
「やっぱりこの人達を倒してからかなぁ・・・?」

周囲は未だに殺気が満ちている。
簡単に見逃してはくれなさそうだ。

「・・・この人たち何者?」
「・・・さぁ?御魂御灯だからね。
力がある人はその力が最大限発揮される日だと聞いた事がある。その類いの人じゃないかな?」
「・・・縹家か・・・」

その時周囲の空気が騒ぎ出した。

「見つかったかな・・・」
「・・・言霊ってやつ・・・?
ごめん・・・うっかりしてた・・・」
「私は興味の対象外だろうけど・・・君はもしかして・・・」
「知らないわよ、あんな恐ろしい人達の事なんて・・・っ」
「やっぱり知り合いなんじゃ・・・」
「・・・チッ・・・こっちに向かってきてる・・・。
何とかならないの!?
朔洵!私御魂御灯初心者なのよ!」

朔洵は首を傾げた。

「初心者?君面白い事いうね・・・」
「冗談ではなく!
・・・っていうかいつまでくっついているのよ!
敵来てるじゃないのっ!!
いい加減離して・・・っ」
「い・やvv」

さらに力を込めて抱き締められた。
の中で何かがプツンと切れた。

「いい歳こいて何調子乗ってんのよ、ふざけんな―!」
「だって物凄い居心地がいいし・・・。
やっぱり離れるのは嫌だな・・・。本体なくてもつれて帰れるかな・・・」
「ちょっと待てーッ!!
何恐ろしい事考えてるのよっっ」

見つかってしまったなら騒ごうが静かにしようが関係ないと判断した二人はノリに任せて騒ぎまくった。
周囲の敵は襲いかかってくる様子はない。
気配と殺気はそのままだが一度騒いでしまうと恐怖も薄れてきた。
敵もこの奇妙な二人に襲う気も削がれたか・・・?

「・・・楽しそうだね。闇姫・・・?」

急に下がる周囲の空気に二人の動きは止まった。

「・・・縹・・・璃桜・・・」

暗闇にぼんやり縹家の当主が浮かびあがる。
は目を細めた。
以前より恐怖はない。
誰かが側にいるからだろうか・・・それとも騒いでいたのが原因か、はたまた夢だから・・・。

「報告があったから来てみたけど・・・。
薔薇姫じゃないね、その代わり面白いのに会えたけれど・・・」
「面白いものじゃありませんっ!!
見てるくらいならこの後ろの性質の悪い背後霊なんとかしてくださいっっ」
「・・・こちら側にきてくれるのなら手伝うよ。闇姫」
「いきませんっ!!
あーもー四面楚歌ーーっ」

まさに文字通りといった感じだ。
はなんかもうどうでも良くなった。
朔洵と騒いだせいで以前璃桜と対峙した時の緊張感はまるでない。
璃桜も・・・少しだけ性格変わってきていないだろうか。そんな気がする。

「・・・でもそんな事もいってられない。
つれて帰るよ、闇姫」
「・・・な・・・っ」
「ここで会えたのも何かの縁。
姉上が動き出している今様子見てるだけではうるさいんだよ。
とりあえず闇姫を献上すればしばらく機嫌を直してくれるだろう・・・」
「ちょっ・・・私生贄デスカーッ!?
・・・ん・・・?でも私の体は貴陽に・・・」
「問題ないよ。
縹家なら魂だけでも保存可能だ。
入れる器も作ろうと思えばいくらでも作れるし・・・」

笑顔で恐ろしいことをのたまう璃桜に は背筋がぞっとした。

「器って・・・勿論人間ですよね・・・」
「ん?動物に入りたい?
あっ、それはそれで可愛いかも・・・」
「ちょ・・・っ。
この人本気なんですけど・・・本気で動物に入れそう・・・っ!!」
「リスなんか・・・いいんじゃないかな」

後ろから朔洵も乗ってきた。
本当やめて欲しい。

「朔洵、あんたは黙ってて!!」
「いいじゃない。言うだけタダなんだから・・・」
「入れられるのはこっちなのよー!
朔洵なんてナマケモノに入ればいいんだわっっ。一日中動かなくてもいいからね!」
「ナマケモノでも本気になれば凄いらしいよ」
「どうでもいいわよ、そんな事っ!!」

暗闇の中どうでもいい言い争いが木霊する。
人が真剣に突っ込んでいるのに、余裕そうな璃桜と朔洵にさらに腹が立ってきた。
お互い妙に気が合っているところも微妙にムカつく・・・。

「・・・動物はまぁ冗談として・・・。
君の中に流れている血は最高だからね。
縹家直系よりもはるかに・・・。
彩雲国を作った蒼玄とその妹の蒼遙姫の血を持っている・・・」

今までけして交わる事のなかったその二つの血は、 が持っている。
彼女の母がしたことは気に食わなかったが、そのお陰で最も濃い蒼家の血がここに・・・。
まだ目覚めていない彼女の力はどれほどなのだろうか。
血が濃いことによって、その効果は数倍にも跳ね上がるであろう。
同時に闇姫の能力も・・・・
・・・今後紫家の血を永遠に絶やせる程に。

「君の体はこの先ずっと重宝されるだろうね・・・。
なるほど・・・若いまま残しておいた方が今後便利だ・・・。
やっぱり、今のうちに他の体に乗り移っておく?
綺麗な娘なら直に用意できるし・・・。
好みの子選んでくれれば答えられる。男でも勿論構わないよ。
力が欲しければ縹家の誰かのを渡しても なら文句は言われまい。
なんならご希望通り、リスでもいいよ」
「希望してない!!
それに・・・私は縹家にはいかない。
私の居場所は朝廷だと、前に言ったはずよ!」
「・・・違う。
君のいるべき場所は縹家だ・・・。
君はまだ気付いていないかもしれないけれど・・・。
・・・力・・・微妙に出現してるよ」

璃桜がうっすら微笑した。
力が完全に目覚めるのも時間の問題となってきた。
璃桜とは対照的に の顔から表情が消えた。
力というのは何を示しているかは分からない。
彼らの言う、闇姫の力なのか、縹家の女系に現れる特殊な力なのか・・・
とんでもない力という事だけは確かだ。

「・・・朝廷にいたいというならそうすればいい。
でも悲しむのは自分だよ。
王だけならまだいいね。
下手をすれば、他の君の大切な人たちにも被害が及ぶかもしれない・・・。
長く歴史のある縹家だけれど君の力は未知数だ。どうなるかは私達でも分からない・・・。
だから・・・まだ制御できる環境にある縹家にこない?」
「・・・・・」

流石に心が揺れた。
ただ、純粋に朝廷にいたいというだけなのに・・・。
自分の存在が他人を傷つける。
そこにいるだけで、罪?
存在自体が罪?

色んな人の笑顔が脳内に溢れる。

自分がその笑顔を失くしてしまう?
望んでない事が起こってしまう。
自分のせいで・・・全てが・・・壊れる・・・

「・・・私は・・・存在自体が・・・罪?」
「いいや。
希望だよ。私達にとってね」

璃桜が に手を伸ばす。

「最高の居場所を提供しよう。
約束する」

魔法がかかったようだ。
意識化で の足が動く。
しかし体は前に進まなかった。
後ろから抱きしめている、朔洵が邪魔だった。
璃桜は不快を露にした。

「・・・邪魔するか?
この死にぞこないが・・・」

璃桜の氷のような視線にも、朔洵はいつもの笑顔で答える。

「勿論。
他の手にいるのはまだ我慢するけど、貴方に渡したら一生会えなくなっちゃうからね。
それは絶対に嫌・・・」
「・・・生かしておいたこちらが馬鹿だったかな・・・
これだけの兇手・・・闇姫を止めながらどう戦う?」

一斉に囲んでいた兇手が朔洵に向かって襲ってきた。

「ふぅ、参ったねぇ・・・。
逃げさせてくれそうにもないし・・・
面倒臭いのは嫌いなんだけど」

それに誰かのために頑張る事は今でも好きになれない。
さっき秀麗を助けるために、同じような奴と戦った。
次は か・・・

自分と対照的だと評された、王を思い出す。
・・・大切なものなら直接守りにくればいいのに・・・

その時、 の足元から光が漏れた。

「・・・これはっ・・・」

まさか、と璃桜の顔が歪む。
朔洵は軽く眉を動かした。
彼女に別のお迎えが来たようだ。
本当にモテるというか何というか・・・

朔洵は諦めて手を離した。彼女が自分にくれた時間は終わったのだ。
・・・短くても、来てくれた事が嬉しい。
まさか自分がこんな事を思うようになるなんて、以前の自分が見れば驚くだろう。
光に包まれていく を朔洵はもう一度抱きしめた。
名残惜しい・・・

「・・・また会おうか。
それまで誰にも捕まっちゃ駄目だよ」

の髪に軽く口付けを落す。
はやっと正気に戻ったか、振り返った。

「・・・朔洵、何を・・・」
「じゃあね」

朔洵はにこやかに手を振った。
は苦笑した。

・・・悔しいが・・・前もその前も助けられた。
何かお返しが必要かな、と思ったかすぐにその考えは捨てた。
するだけ調子乗りそうだ。

光を抜け、目の前にある光景に は絶句した。
ここは・・・

そして目の前にいる人物達にさらに息を呑んだ。


ーあとがきー

結構難産だったんですがこの回・・・(orz)
朔洵が以前どこで出て何をしたのか全く覚えてなくて自分の小説を何度も振り返りました。
無計画に進めると駄目ですね。かといってまとめる気力もないので、微妙に変なところがあったらご指摘ください。

   

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