春も過ぎ、初夏に向かう季節。
また朝廷に新たな事件が幕をあける。


壊れゆく夢の中で


・・・最近・・・物凄いがたくましく見えるのは気のせいだろうか。
というか、この状況はなんなんだ。

夜も遅いし、そろそろ休めとに声をかけたのは良かった。
そうですね、と納得してくれたのも良かった。
問題はそれからだった。

「鳳珠様も勿論お休みになるんですよねー。
寝台用意してきますのでー」

「鳳珠様、人に休めって言っておいてまさか仕事するわけじゃないですよね?
ここは私が片付けておきますので鳳珠様は先にお休みくださいませ」

別にいいといったのだが、はそれでは諦めてくれなかった。

「・・・鳳珠様。実力行使にうつらせていただきますがよろしいですか?」

の目が光った。
鳳珠の腕を引き寝台に座らせ、着物を剥ぎにかかってきたのだ。
流石にまずいと思い、そこで正気に戻らせたのだが。

鳳珠はなんか情けなくなってきた。
柚梨にしれたら軽く一月はその話題で弄られる。黎深も悠舜も飛翔も以下同文。
・・・敵ばかりだチクショウ。

「・・・・・・」
「なんでしょう?」
「私にも・・・否があったのかもしれないが・・・。
流石に男の着物を剥ぎにかかるのはやめた方がいいと思うぞ・・・。
というかやめろ」

も、自分のしたことにやっと気付いたようだ。

「・・・ハッ!!
もっ・・・申し訳ありませんでしたっっ!!!
鳳珠様が動いてくれないものですからついうっかり実力行使に・・・」

何も言わずじっとこちらをみている鳳珠にはなんとか視線をそらした。
その視線が痛い。痛すぎる。
悪気や下心があってしたわけではないのは真実だし、ここはどうか信じていただきたい。
はおずおずと答えた。

「クビとか・・・考えてらっしゃいます?」
「・・・それはないが、部署を変えてしまおうかと一瞬・・・。
お前なら引き取り手ありそうだし・・・」
「私は戸部がいいですっっ。
まだまだ鳳珠様に仕事教えていただきたいです!!」

鳳珠は苦笑した。
真剣なところがまた嬉しくなる。

「・・・そうだな、がいなければ戸部は潰れる。
・・・さて・・・休むからもさがっていい」
「はい、お休みなさいませ。
・・・本当に休んでくださいよ」
「・・・分かっている」

が出て行こうとした時、鳳珠に腕をつかまれた。
腕を掴んだ鳳珠は一瞬怪訝な顔をした。

「すまん、ちょっと待て」
「・・・なんでしょう?」

次はの顔をじっとみる。
絶世の美貌で見つめられたはその場に突っ立っているしか出来なかった。
頭の中はすでに真っ白だ。

「・・・あの・・・」
、お前痩せたんじゃないか?」
「・・・は?」
「目の下の隈、流石に化粧では隠せないところまできているだろう。
化粧を落して私の前に来いとまでは、いわないが事実、かなり酷い顔ではないのか?
休むべきはお前だの方だ。
それに最近妙に言動がおかしい・・・気がする。
・・・ちゃんと睡眠はとれているのか?食事は食べているか?体は辛くないか?」

いつも鳳珠に問うていることを逆に問われ、は虚を衝かれた。

「・・・それなりには睡眠とってますし、ご飯ももりもり食べてます。
体もこれといって異変はありませんが・・・?」
「少し・・・休みを与えた方がいいか?」

鳳珠の目は本気だ。
も真面目に答える。

「いえ、働かせてください。
自分の健康は自分で何とかします。
下手に机案仕事だけではそれこそ自分の体がおかしくなるのでいつものようにこき使ってください」

・・・別に被虐性愛嗜好はない。
素直な要望だ。
鳳珠はそれを聞いて頷いた。
が、・・・こき使って・・・って・・・。
やっぱりそのように思われていたのか。いや、思われてもしょうがないのだが。
事実こき使っている。

「そうか・・・。
がよければそれでいいのだが・・・。
その・・・」

鳳珠の歯切れが悪くなった。
は内心首を傾げる。

「辛くなったらいつでも言ってくれ・・・。
そのように・・・配慮はするから・・・」
「・・・はぁ・・・。分かりました」


先日、悠舜の家で同期のみ食事会に招かれたのだが・・・。
その席ではっきり凛に言われてしまった。

『鳳珠殿、男女差別をしないという貴方の考えは物凄く男性社会に進出していく私達にとってとても嬉しい心遣いなのですが。
ですが。
聞くところによると殿をかなり、こき使っているようじゃありませんかっ!?
一応分かってると思いますが、男と女には越えられない壁があってどうしても女の方がか弱くなってしまうのです。
統計によると女の方がしぶとく生き残るって話ですがまぁそれはそこに置いておいて。
分かっていると思いますが、女ってのは男よりも遥かに繊細に出来ています。
貴方方男と同じ尺度で測らないでいただきたい。
初の女性官吏だといわれ、殿も秀麗殿も結果を出そうと無理をしている節があります。
知らないうちに疲れがたまり、後に取り返しのつかないことになってしまったら貴方のせいですよ』

少し酒を飲んで酔っていたのか気迫もそれに比例して強い。
鳳珠は「・・・善処する」とその場で答えた。それ以外何も反論は出来なかった。
その通りだと思ったし、反論する言葉も浮かんでこないし、素直に凛が怖かった。
流石の悠舜も黎深も飛翔も黙っていた。
・・・凛の意見は鳳珠だけではなく朝廷全体の男官吏に対して言われているような気がして・・・


「言いたい事はそれだけだ。引き止めてすまなかった」

は一瞬迷った。
言わなければいけないような気がした。
『そのまま闇姫の力を放つと確実に王だけではない、周囲の人まで巻き込んでしまうでしょう』
夢で出会った母の言葉が蘇る。
鳳珠は全くの無関係だ。
しかし、璃桜に出会っている。現在自分と一番関係が深いのは鳳珠だ。
多分・・・巻き込まれてしまう。

「・・・あの・・・鳳珠様・・・」
「なんだ?」
「御魂御灯のとき・・・両親に会いました。
他にも誰かに会った気がしたのですが・・・まぁそれはそうとして」

寝起きすぐに鳳珠の顔をみてしまったせいだろう。
思い出そうとしても思い出せるのは両親のことのみであった。
これだけでも十分だと思ったけれど。

「どうやら、私の中に眠る縹家の異能の力が目覚め始めているようです。
母はこの力必ず周囲の人を巻き込み被害を大きくする、といいました。
この先私はどうなるか分かりません。
もしかしたらこの朝廷自体を狂わせてしまう存在になるかもしれない・・・」

鳳珠は以前縹家の当主に会った時のことを思い出した。
彼はのことを『闇姫』と呼んでいた。
多分その事と関係があるのだろう。

「・・・私に何かできることがあるのか?」

縹家の異能の力は徒人では太刀打ちできない。
自分の出来る事などたかが知れている。
それでも黙ってみているより、役割があった方が気が楽だった。
は少し考えてから言った。

「・・・面倒事を押し付けてしまってもいいですか?」
「私に出来ることであれば、なんでも」
「・・・私が妙な事をしだす前に止めてください。
手段は問いません。
殴るなり、気功でぶっ飛ばすなり、羽林軍に要請を頼むなりお好きな手段でドウゾ」

なんで止める手段が体育会系なのだろうか。
彼女の頭の中には説得とかいう安全な手段は無いのだろうか。

「・・・分かった。
その頼み請けよう・・・」
「ありがとうございます。
多分・・・一番傍にいてくださる鳳珠様が適任かと思ったので・・・。
面倒事を押し付けてしまってごめんなさい」
「謝るな。さして面倒な事でもあるまい。
さて、私は休む事にする。
、さがっていい」
「あっ。はい、お休みなさいませ」

が出て行ったあと、鳳珠は険しい顔をした。
の影響がどんなものか知らないが、既に彼女の知らないところで崩壊は始まっている。
仕事が多忙で見えない振りをしてきたが・・・おそらく自分も選択を迫られる時が近い将来に来る。
分かっている。
既に崩壊は始まっていて早く決断をしなければ、自分の首を絞めることになる。
は迷わず王のところに行くだろう。
勿論止める気はさらさらない。むしろ、勧めたいくらいだ。
の後ろには霄太師もいるし、話を聞くところによると縹英姫もいる。
何より王の傍には悠舜がいる。
どこに転がろうが多分、彼女の身は安全だ。

鳳珠は久しぶりに故郷を思った。
また王座争いのように混沌に巻き込まれるのか・・・
黄家の決断には従おうとは思っているが、もう絶対に王座争いの時みたいにはさせない。
朝廷の官吏の中での問題が国民にまで影響するのはもうたくさんだ。
鳳珠は机の上に置いた仮面を眺めた。

「・・・仮面がいらない日が来るかもしれないな」

自分が無理にでも終わらせる日が来るかもしれない。
多分、悠舜辺りは怒るだろうが。



まさか、こんな事をいわれるなんて・・・。
自分の顔はそれほどに酷かったのか。頬に手をあては心の中で嘆息した。
鳳珠の顔に比べれば自分なんてカスなのだが・・・。
・・・ちょっと凹んだ。心配してくれて嬉しかったけど。

凛の口添えがあったなんて知る由もない。

仮眠室を出ては頭を抱えた。
また自分はとんでもない事をしてしまった。
最近自分の行動が理解できない。
どうなっている自分・・・っっ。

『力は目覚めかけている。』

何を焦っているのだ。
ギリ、とは歯噛みした。
自分の事なのに何も分からない。
どうすればいいのかも分からない。
不安だけが胸をよぎる。無意味に苦しくなる。

この嫌な予感はなんなんだ・・・?

丁度・・・楸瑛が劉輝から休暇を貰い始めた時からだ。
これが・・・力?これが・・・異変?
じわじわと何かが壊れていく音が今にも聞こえてきそうで・・・。
その音が最近どんどん近づいてくるように感じる。
崩壊は・・・近い?

は仮眠室に戻り化粧を落した。
今時の若い娘にはあるまじき目の下の隈。
・・・眠れない。
悪夢ばかり見る・・・。
先ほどの鳳珠の指摘もあったが・・・頭のネジも軽く数本とんでいっているかもしれない。
上司を押し倒すなんて奇行に及ばなければいいが・・・。

単純な疲れを感じはバサバサと適当に着物を脱いでいった。
綺麗に畳むのも億劫だ。
誰も入ってこないだろうし、適当に目覚めたら片付けるとして・・・
普段からの不眠と、日々の労働のお陰で体が休息を求めている。
戸部官吏で良かったと、改めて思った。
後宮なぞに仕えていたら一睡もできないところであった。
この不安を抱えながら夜を過ごすのは一種の恐怖に近い。
悪夢を見た方が百倍マシだ。

母が死ぬまで夢なんて見たこと無かったのに・・・。
はそのような事を考えながら寝台に倒れこんだ。
最近は夜も暖かいので布団を重ねなくても震えるほどでもない。
はその辺の布団を手探りで引き、適当に体にかけ眠気に身をゆだねた。



大きな螺子が目の前にあった。
かちん、かちん、と規則正しく音をたてて動いている。
はただその螺子をみているだけであった。
何を意図するかは全く分からない。

ただ、その螺子をみているだけ・・・

かちん、かちん・・・・

永遠に続くと思われたその場所に変化が起きた。
いつぞや府庫でみた叔父―――リオウが上から降りてきて螺子の上にトンと立った。

かち、ん

螺子が大きな音を立てて回った。


かちん―――

螺子は動かなくなった。

それが何を意味するか分からない。
しかし、何かが終わるのを告げた。

そして、全てが崩れ始める。
砂のようにさらさらと
地割れのように大きなヒビが入りガラガラと。
また・・・崩壊が始まる。

はただそこに立つことしか出来なかった。
自分は崩壊を止める術をしらない。
崩れたところから闇に変わっていった。
思い出す。御魂御灯の時、璃桜に出会った時の、あの闇広がっていく。

―――役目ヲ 果タセ・・・命ニ 従エ―――

誰の声・・・?

遠くから誰かの悲鳴が聞こえた気がした。


   

++++

あとがき

『青嵐に揺れる月草』の長編始まりましたー。
予告よりも1ヶ月遅いぞコノヤロウ。。
色々絡めにくさもましましたが頑張ります。本編と話それつつも頑張ります。

・・・鳳珠様との絡みで1話が完成してしまった事にビックリです。
これも愛。全て愛。


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