雑談会もお開きになり皆各自の部屋に移る事になった。
結局彰との対決は、彰の方にお呼びがかかり結局決着はつかなかった。

龍蓮もも新しく室を取り直しここの宿に泊まる事にした。
朔洵と対立してからしばらく眠らされていたは特に体の疲れも無かった。
どうせ無駄に起きているのであれば秀麗の様子でも見ていてあげようかと思い、秀麗の室に向かった。

「・・・あ・・・」

丁度秀麗の部屋から静蘭が出てきた。
予想していなかった事には思わず足を止めて彼を凝視してしまった。

「・・・兄上・・・」

思わず声に出してしまった。
しかし、静蘭はそれに動じなかった。

「どうされました?殿」

静蘭は穏やかな口調でに話しかけた。
は慌てて目線を下げた。

「・・・あっ・・・すいません・・・
秀麗ちゃんの様子は・・・・」
「お嬢様でしたらまだお休みのようです。
香鈴さんが見ていてくれるそうなのでお言葉に甘えましょう。
殿も今日はお疲れ様でした。
ゆっくり休んでください。明日からまた動きますから」

分かっていても複雑な気分だ。
まさかこの人から敬語で話される日が来るなんて思ってもみなかった。
静蘭は会釈しての脇を通っていった。
ふと、脳裏に小さい頃にみた清苑の姿が浮かんだ。
彼との思い出はこれだけ。
なのに、自分の中では大きなことだった。

微かにしか覚えていない兄の記憶。
清苑の評価を述べていた母。
劉輝の自慢話。

清苑に関する昔の記憶が脳裏を巡る。

「兄上」

小声ではあったが力強い声。静蘭は歩みを止めた。

「・・・

強い拒絶を含んだ瞳をこちらに向けられては一瞬怯む。
でも、
なんとなく分かってしまった。
この機会を逃してしまったら兄と妹の会話なんてもうできないような気がする。

嫌われても・・・言わなくてはいけないような気がした。

「清苑兄上。
私は貴方と話がしたい」

あの頃は会話も出来ないくらい小さかった。
でも、今ならまともな会話も出来る。
ずっと、会って話をしてみたかった。
母が唯一認めた二番目の公子・・・

「今夜だけでも・・・お時間をいただけたら光栄です」

静蘭は困った顔で微笑んだ。

「・・・そんな泣きそうな顔で言われたら折れるしかないですね・・・
今夜だけですよ」
「本当ですかっ!?」

の顔がパッと明るくなる。
なんとなく劉輝と通じるものを感じて静蘭は苦笑した。
・・・やはり自分は甘いような気がする。

「近くに飲みにでも行きましょうか。
ここで見られると少し都合が悪いので」

外は雨が降っているからそんなに遠くにはいけないが。



「随分大きくなったな、
王座争いがあって・・・どうなったかと思っていたが・・・」

先走るのは倒れた公子の話題ばかり。
いつの間にか忽然と消えていたとその母。
武官として勤めるようになってからそれとなく調べてみたが、見事に二人の存在は朝廷から、世間から消されていた。
まるで最初からいないものだというように。
静蘭は慣れていないらしい居酒屋の雰囲気に戸惑うを冷静にみていた。

「そうですね・・・。
王座争いの時は良く分からないうちに排除されていたようなものですしね。
清苑兄上・・・
・・・お変わりになられましたねって、言えないところが残念です。
顔・・・あまり覚えていないので」
「私の存在を覚えていてくれた事自体凄いと思うけどね」
「貴方に膝をついたところは凄く印象に残ってます」

母に言われた。
この方は将来王になる。
だから貴方はこの方の右腕になりなさい。と。

「三歳の女の子に礼をとられたのは初めてだったよ。驚いた」
「私も始め何やっているか分からなかったですから・・・。
でも、その意味を理解した頃には、貴方はもういなかった。
凄い・・・悔やみました。
その後霄太師に城を追い出されて、挙句の果てに紫家も名乗れなくなって・・・。
本当にクソジジイです。これで国試受けられない時は殺してやろうかと思いましたもん。
・・・まぁそれは今となってはいい思い出で・・・。
兄上に会えて嬉しかったですよ。記憶の中だけの人でしたから・・・
思ったよりも優しい顔をしておられる・・・」

静蘭は目を丸くした。
正直のことは始めから気にかけてはいなかった。
むしろ、恨む存在にまでなっていたかもしれない。
彼女の母親がきたせいで、今まで自分に向けられていた視線がその女に向かっていった。
全てを手にしたかった自分にとってそれは腹立だしいことでしかなかった。
しかも彼女は周囲から恐れられていた自分を見下すような目で見、その才能を吟味しているようだった。
誰をも屈させてきた自分の自尊心が彼女を酷く憎ませた。
その女の子供だ。ろくな奴ではない。
が屈してきた時も、何も思わなかった。むしろ、遠ざけたかった。
全てがあの女の思惑通りにはいかせないと思った。
自分がこのまま王になっていたらは藍家でも紅家でもとにかく権力に手の届かないところに飛ばしていただろう。
紫家から離せば後は勝手に向こうでやってくれ。と思っていたし。
今となってみれば、奇妙な縁だ。
もし仮に、今の状態で自分が王でを藍家か紅家に飛ばす場合少し考えていたかもしれない。

「・・・・・・・。
良い子に育ってくれていて嬉しいよ。
一時はどうなる事かと思っていた」

はその言葉に首を傾げた。

「・・・そんなに悪ガキでしたか?私・・・。
覚えてないんですけど何か失礼なことしましたかっ!?
・・・した覚えがないと言い切れないところが悲しいのですが」

もし、礼をとった後に文句でも言っていて聞かれたのであろうか。
あの清苑から怒りを買うという事は死を意味すると同じ。

「いや・・・君の母上・・・あまり好きじゃなかったから・・・」
「あぁ・・・母繋がりですか・・・。
本当に敵の多い人で困ります。・・・母がいなければ今日だって文句つけられずにすんだ・・・。
全く人間関係修復してから死んでくれ・・・って思いましたね」

そう言って、はため息をついた。
自分も今思っても好ましくはない母親だったと思う。
氷のような冷たい存在であった。
それでも自分は幸せなのだろう。
母は自分に全てを教えてくれた。
一人で生きていけるように。
自分の願いを叶えてもらうために。

「国試を受けたのはあの人の遺言を少しでも実行しようと思ったからです。
そういえば、あの人が私に王になれといい始めたのは丁度兄上が流罪になってからですね。確か」
「・・・君が・・・王に?」
「はい。だから霄太師は私と母を王座争いから遠ざけたのかもしれませんね。
私は他の兄上、さらに劉輝兄上くらい造作もなく手にかけられますから・・・」

静蘭の目が細められた。
少し混じった殺気には苦笑した。

「勿論今はそんな事を考えておりませんよ。
王は劉輝兄上が一番相応しい。兄上を越えられる王なんていないでしょう。
だから私は劉輝兄上に忠誠を誓いました。

・・・それに今が一番楽しいですしね。
しばらく出世する気にもなりません。」

全ては彼女の手の内で。
しかし、はその手の中から抜け出した。

「よく気づいたね。
あの人、私よりも手ごわいのに・・・」

あまり思い出したくもないが、丁度朔洵のようだ。
演技して演技し通して最後にほしいものを手に入れる。
焦らず百に近い確率で確実に狙ってくる。
自分は力任せなところもあるがあの人にはそれがない。

獲物が罠の中に入ったところを捕まえるのではない。
獲物が罠の中に住み付いた所で捕まえるのだ。
性質が悪すぎる。

「・・・勉強する事が遊びだと思っていました。
戦う事が遊びだと思ってました。
毒を見分け、無効化する。それが遊びだと思っていました。
それを違うと気づかせてくれたのは・・・劉輝兄上」
「・・・あぁ、劉輝にはかなり救われたね」

あの闇が渦巻く朝廷の中で唯一劉輝が光の存在だったかもしれない。

「・・・

酒も残りわずかになってきた。
最後の一滴を静蘭がつんだ。

「・・・何でしょう?兄上」
「・・・劉輝をよろしく頼むよ。
私はもう紫家とは関わる気はない。本当のところで支えてあげられるのはしかいない」
「はい、そのつもりです」

瞼が一気に重たくなった。
はどさっと机に突っ伏した。
静蘭は最後の一口を飲んで苦笑した。

「・・・本当に良い子に育ってくれて嬉しいですよ。

自分を兄と慕ってくれて嬉しかった。
自分は遠ざけていたというのに。
今日だって、軽い睡眠薬を入れてみた。
もし、疑いがかけられていたらその時は目をつけておこうと思ったのだが、その心配もないようだ。

規則的な寝息が聞こえてきた。
多分彼女をここに寄越したのは劉輝だろう。
秀麗を助けるためもあるだろうが・・・。
多分、本当のところは色んな経験をさせるためだろう。

静蘭は外を見た。自分も少し考えるべきだった。
外は未だに土砂降りだった。



翌日、秀麗は目を覚まし、すぐに元気な顔を見せてくれた。
本当に丸一日寝たいたのが嘘のようで一同ホッとしていたところだ。
秀麗の回復祝いにまた宴会でもしようとしていた一同に秀麗が一喝した。

「全く何やってんのよ!!
本当は今日からでも仕事したいのにーっっ」
「秀麗ちゃん、はりきってるわね」
「っていうか何でがいるのよっ!!
貴方戸部で働いていたんじゃないの?良く抜けられたわね
クビには・・・なってないわよね。」
「・・・あっ、当たり前じゃない。
一応尚書にも許可でてるから。
・・・あぁ・・・でもどうしよう。帰った途端『君、明日からこなくていいから』とか言われたら・・・」

または『君の机案、この部署にないから』とか・・・
・・・あの仮面に言われても、あの美貌の顔に言われても・・・どっちも嫌だな。
凄く頭抱え始めたをみて、秀麗は言ったことを後悔した。

「あっ、大丈夫よ。黄尚書・・・仕事では厳しいけど本当は優しいし・・・」
「仕事なんですけど・・・」
「えっ・・・えっと。うん、本人了解の上だから大丈夫よ。きっと」
「その際は全商連で雇いましょうか?
地位も上がっていくにつれて収入もガッポガポです。
これは通常官吏並ですよ。
貴方の目は確かですから、短期出世も夢ではありません」
「コラコラ勧誘しない」

燕青と彰のやりとりには慣れてしまっているがいつ聞いても飽きないくらい面白い。

とりあえず、秀麗達の仕事復帰は明日から。
燕青と静蘭は金華城の官吏達の様子を見てくるらしい。
影月と香鈴は一応安静にしているように秀麗の世話。彰は全商連にいってくるそうだ。

「・・・殿はどうします?」

静蘭の問いには考えた。
せっかく金華にきたのだ。少し紫州ではできない事をしてみたい。

「えっと・・・金華城のところで色々と手伝いに回っても良いけど・・・。
別に正式な官吏だから雑用くらいはしても良いよね。」

その台詞に燕青が少し考える。

「そうだな・・・まぁ大変なのは大変なんだけどなぁ・・・
とりあえず、今日は血なまぐさい部屋の始末とかそのごたごたの事後処理で一日終わると思うし・・・。
流石に女の子にそんなところに行かせるってのも気が引けるかな?
明日嬢ちゃん達も行く事になってるし、その時雑用でよければ手伝わせてやるよ。
むしろ、手伝って」
「そう言うことなら・・・今日一日暇ねぇ」

秀麗には二人ついているし、龍蓮は朝からどこかに行ってしまった。
金華の街を観光しても良いがもし殺刃賊など不逞な輩に会ってしまうのも頂けない。

「そんなに働きたいのであれば、私と一緒に全商連に来ますか?
その様子では動いてないと落ち着かないって様子ですし」
「それいいですね。帳簿の計算くらいなら出来ますよ。
・・・っていうかそれくらいしか出来ないですが。
んじゃ、今日は一日賃仕事させていただきます。
・・・勿論、禄の方期待してますよ」

彰が目を細めての方を見た。

「そういえば、昨日の決着がまだついてませんね。
いいでしょう。貴方の働き振りによって決めてあげましょう。
おまけはしませんよ」
「上等!!
このまま残ってください、って言われても私は朝廷の方に行きますからね」

「・・・何か、仲良さそうね。二人共・・・」

ただ単に、気があうだけなのか。
盛り上がってきた二人の会話に、甘露茶をすすりながら秀麗が言った。
昨日会ったばっかりだと思うのに見事なまでの言い争いっぷり。
金銭に目がない秀麗でさえ、彰に押され気味だったのに・・・。

「おっと、時は金なり。
この場で言い争いなど時間の無駄ですね。行きましょうか」
「そうね。じゃっ、いってきまーすっ」

元気よく出発した二人を一同は見送った。
扉の向こうではまだ値切り論争が続いていた。


閉まった扉を見て秀麗が一息ついた。

「さて、これから何しようか。
本当は私もついていきたかったわ」

自分も一度は全商連を夢見ていた時もある。
気にならないわけがない。

「しゅっ、秀麗さん駄目ですよ。
今日はしっかり休んでもらわないと」
「そうですわよ、秀麗様。
また倒れられたらどうするのですか」

影月と香鈴の静止にあって秀麗は苦笑する。

「・・・でも・・・本当もう元気なのよね。
私も動いてないと落ち着かないっていうか・・・。
血なまぐさくてもいいから金華城いっちゃ駄目?」
「お嬢様、今日くらいは安静にしていてください。
明日には必ず出られるので・・・」
「・・・そう・・・?
じゃ、料理くらいはいいかしら。
晩御飯楽しみにしていてね」
「はい。
久しぶりのお嬢様の料理楽しみにしています」

静蘭のなだめで秀麗もやっと鞘に収まった。
その手腕に燕青は感心する。多分、彼女を収められるのは彼しかいない。そしてまた逆も然り。


昨日まで殺刃賊に乗っ取られていた金華の全商連本部も一夜で元の姿に戻っていた。
彰が入ると商人達皆礼をする。

「おはようございます、彰さん。
例の荷物の件なんですが・・・」
「物流の被害総額が出ました。
早速目を通していただききたく・・・」

直ぐに人々が彰の回りに群がってくる。その光景を後ろで見ていたは朝廷を思い出した。
そういえば、戸部でもこんな光景あったわね。
全ての言葉を聞き逃さず的確に彰は一人一人に指示を与えていった。
数分も立たないうちに人だかりは消えた。

「・・・素晴らしい手腕です。少し驚きました」
「まぁ、慣れれば誰でも出来ますがね」

眼鏡を押し上げて、彰は早速被害状況の帳簿に目を通す。
その顔は真剣だ。

「うちの上司もそんな感じなんですよ。
その指示の内容は半端ないですがね」
「例えば?」
「あの方個人の能力を判断する能力がずば抜けて高いんですよ。
だから、個人が出来るギリギリのところまで指示を出すんです。
できない事もないけど、凄い大変なんですよー」
「・・・なるほど・・・。
うちは確実性重視でいきますから・・・。
伝票の一桁のくるいも許しません」

そう言って、彰はバンと帳簿を閉じた。心なしか機嫌が悪そうだ。
そして、辺りに視線を配らせて舌打ちする。

「”殺刃賊”め・・・勝手に荒らしてくれて・・・。
これで貴重品までに手をつけてくれたら軍を動かすところだった。
、計算が出来るといっていましたよね」
「はい」

彰はニコリと笑った。何か試されているようだ。
そして、とある一室に案内された。
は久しぶりの見なれた光景に目を丸くした。
部屋の中には書物や書簡や書類が散乱し算盤の音が鳴り響いている。
そして、その中にいる人々は忙しそうに机案に向かったり物を運んだり大変そうだった。

「・・・午前中いっぱい、ここで書類処理してくれませんか?
大丈夫、計算だけですから。
仮にも戸部官吏が出来ないなんて言わせませんよ」

彰はきっと声も出せず驚いているだろうの顔を想像していた。
しかし、彼女の顔は驚いているというより、懐かしそうに、そしてやる気に満ちた目をしていた。

「この雰囲気懐かしい・・・。丁度朝廷もこんな感じなんだよね。
ただ、人が違うだけで寸分の狂いもないわ。
やってやろうじゃないの」

久しぶりに戸部に戻ってきた感じだ。ここには仮面の尚書さんも癒し系の侍郎さんもいないけど。
彰はふと微笑して手を叩いた。室にいる全員が注目する。

「今日一日とある事情で手伝ってくれる事になった、です。
現戸部官吏なので多分ほとんど教える事も足手まといになることもないでしょう。
分からないと言われたら教えてあげてください」
「あっ、よろしくお願いします」
「では、正午に迎えに来ます。頑張ってください」

室に一人残されては案内された机案についた。
そして手当たり次第、書類を片付けに入った。


『・・・・・』

しばらく室は静かになった。
は集中モードに入ってそれも気づかない。
誰もが手を止めてしまうほど、の計算処理能力は素晴らしかった。
流石朝廷の官吏・・・いや、彼女自信の特異な能力だろう。
算盤はほとんど使わず、筆の動きは止まらない。
そして、時間が経つに連れてその筆の早さは増していった。

半刻が経った頃には彼女の机案の回りは綺麗に整頓されていた。

「・・・ふぅ。やっぱり半月やってないと鈍るものね・・・。
戻った時に何か言われないかしら・・・」

朝のクビ発言が脳裏を過る。
いやいや・・・それはない。絶対ない・・・と思いたい。

綺麗に積み上げられた書類をは運ぼうと腰を挙げた。

「えっと、これはどちらに持っていけば宜しいでしょうか?」

隣に座っている商人の青年に聞いてみた。顔を上げた彼はの机案の周りを見て固まった。

「・・・えっ・・・あのもう済んだんですか?それ全部」
「えぇ・・・。
いやー、本当に半月の空白って困りますよね。
もう少し早かったんだけどな・・・」
『・・・・・・・・・。』

そんな事を軽々と言ってのけるが恐ろしい。
青年は近くの動いている人を呼びつけての処理したものを運ばせるように指示をした。

「すぐになくなっていくと思うので・・・
あっ、君。彼女に仕事追加してあげて」

一応これでも追加してきたつもりだが、は一般の人より更に上回るらしい。
こんなに綺麗に片付いた机案の周りは久しぶりに見た。
すぐに新しい仕事が追加されては直ぐにその処理に入った。



「お疲れ様です、殿」
「あっ、もうお昼ですか?」
「いえ、四半刻ほど過ぎてますが。
少しごたごたがありまして、遅れて申し訳ない」

笑顔で返した彰の言葉にの額に青筋が浮かぶ。

「ちょっと、絶対あんた確信犯でしょ!?絶対わざと遅れてきたでしょ!?
ここまで働いた給仕ちゃんと頂きますからね。
大体商人が時間に遅れてどうするのよ。
約束守るのは商人の常識でしょ?」
「失敬な。本当、昨日の今日で大変だったんですから。
しかし、助かりましたよ。
予想以上にかなりの量の書簡が減ってますね・・・。もう半日働いてみます?」
「結構です。
それで午後からは何を?」

彰は全員に休憩を取るように指示をしてからと一緒に室を出た。

「ちょっと物品の下見と買い付けに。
”殺刃賊”がいたので高級なものは他の州に移していたんですよ。
で、今日それが続々と届いてくるのです。
きっと珍しい物がありますよ。こんな機会も滅多にないので付き合せてあげようと思いまして。
貴方なら邪魔になりそうにないですし」
「へぇ・・・確かにそれは興味あるかも。
でも昨日までに”殺刃賊”に占拠されていたのよね。
もし一日でもずれていたらどうなるのよ」

彰の眼鏡が光る。

「商人として一番大事な能力は先読みの力。
茶朔洵が昨日ここにやってくることは予測できてましたので」

しかし、各州に手紙を送るだけでもかなりの時間がかかる。
そして、今日ぴったりに来るようにするには相当前から動いていたのだろう。
とんでもない能力だ。

「・・・で、お昼ご飯は?」
「その辺の飲食店で良いかと思ってますが・・・いかがでしょう」

全商連を出たところで彰は言った。

「その辺って・・・特区長のくせに、その辺の飲食店?」
「質素倹約。
ちなみに全商連には基本的に食堂はなくて、弁当持参です。
朝廷みたいに厨房もありません」
「・・・いや、別に朝廷に厨房があるのはそこにすんでる人達もいるからついでなわけで・・・。
そもそも今でも凄いお金持ちなんでしょう?貴方。
そこまで貯める理由は何?」

その言葉に彰の目が伏せられた。
は首を傾げる。
程よい飲食店を見つけ彰は笑顔で言った。

「・・・老後にちょいと贅沢しようと思いまして。
後は、個人的に珍しいものを買いあさりたいなーっと。」
「・・・ふーん・・・」

は少し違和感を持ったが、何も突っ込まないことにした。
人にも色々事情があるのだ。


昼食を簡単にすまし、それから馬で移動し、ついたところは城門の裏だった。
大きな倉庫には沢山の物品が積まれていた。
ここも昨日までは”殺刃賊”の支配化にあり、物の流通もここで止まっていたようだ。

彰は端から順に全てのものに目を通していった。
不良品や贋物を直ぐに見分け返品手続きをさせる。
その目利きの良さは眼鏡に何か仕掛けがあるのではないのかと思わせるほど。

「これは・・・珍しい。
他に渡る前に取ってしておきましょうか。丁度藍家が欲しがりそうだ。
値段もそんなに張らないようだし・・・。
直ぐに藍州に送って」

壷を近くの商人に渡し、帳簿に書きつける。そして直ぐに次の商品を見る。

「そんな事もするの?直接・・・」
「えぇ・・・彩雲国全土の大体の金持ちの趣味は頭に中に入ってますよ。
例えば貴方の上司、黄鳳珠殿はかなり趣味が良く、高級品の買い物であると直接黄家の方から仕入れてますね。
確実に良い品を・・・。良い心がけです。
輸送には私達全商連を経由されてます。今後もよろしくとお伝えください」

・・・当たっている。

「じゃ・・・紅黎深さんとかは・・・?」
「あぁ、紅家当主ですね。
あの方はとにかく質の良いものを好みます。
たまに良く分からない注文も来るんですけど・・・」
「・・・仮面とか・・・」
「あぁ、そう言うのもありましたね。
何に使うかさっぱりですけど・・・」

商品を鑑定しながら彰はそういう。
その真相を知っているは苦笑した。
倉庫の端から端まで来た時、彰はに一つの帳簿を渡した。

「二階にもこんなところがあるんですけど、この帳簿に書いてある商品を全て仕入れてきてもらえますか。
今まで見てきて大体手順はわかったと思いますから。
良い物をより安く、ですよ。貴方のこと八割信頼していますので期待させてくださいね」

は帳簿をざっと見てから頷いた。

「分かりました。頑張ってみます。
・・・あと、私の欲しい物なんですけど、ここで文句なしに買い付けられたら全て無料にしてください。
勿論禄は要りませんので」
「当たり前です。無料で差し上げた上に禄なんて上げられませんよ。
・・・そうですね。
初めての体験のようですし、良いでしょう。
勿論及第点をとれなかった場合は全額払ってもらいます。」
「分かったわ」

彰は周囲をみて商人を数人呼び寄せた。

「彼女が二階で仕入れてくるので補佐をしてくれ。
手出しは一切無用。彼女の指示に従ってください」
「・・・手出し一切無用って・・・酷くないですか」
「全額無料ということなら当たり前です」

彰は眼鏡を押し上げた。

「検討を祈ります」

久しぶりにこんなような賭けをしたような気がする。
今まで十程近い割合の話をしてきたのに。
彰は面白そうにの背中を見送った


   

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