が彰の元を離れてから一刻後。
馬車の前で待っていた彰の前にが戻ってきた。

「お待たせしました。
全て完璧に買い付けてきましたよ」
「時間的にも、まぁまぁですかね」

懐中時計を見て彰はいった。
そして、から受け取った帳簿を見て彰は目を見張った。
一年仕入れ作業を続ければもしかしたら自分と張れるくらいの値段の数々。
品物は大体見なくても質の良さは値段で目に見えた。
安すぎず高すぎず。どれも妥当なものだった。
彰は自然と笑みがこぼれていた。

「・・・及第点です。普通初心者がここまでしませんよ。
貴方金融関係になるとずば抜けて才能を発揮しますね。
商人なんかは天性じゃないですか?」
「・・・う〜ん、私も何かやってそう思った。
ギリギリの駆け引きがとても面白かったし・・・」
「全商連なら入会金無料ですし、国試みたいに莫大なお金要りませんし。
実力があれば上官以上の利益も得る事だって可能。
選ぶ道間違えましたね。
今からでもやり直しは十分に出来ますが。」

彰は眼鏡を押し上げた。

「・・・で、早速お尋ねしますが、なんなんです。欲しい物とは?
あまりにも貴重で高い宝石とか国宝級のものなんかは無理ですよ。」
「いや、そこまで貴重なものじゃないから・・・。
えっとですねぇ・・・結構あるんですけど」

は懐から紙を取り出して彰に渡す。直接口にするのは何か気が引けるから書いておいたのだ。
始めは少し目を通すだけだったが、文字を読み進めるごとに、彰の顔が険しくなった。

「・・・それが何か分からない、って事はないですよね。勿論」

が可愛く首を傾げながら訪ねてきた。
彰は苦笑するしかなかった。

「・・・えぇ、分かりますが・・・
可愛い顔してかなり恐ろしいですね。貴方。
流石にそこまでは見抜けませんでした」

彰はため息をついて紙を懐にしまった。
知らなくて良い事まで知ってしまったような気がする。

「猫被りも世間を渡っていく上での一つの道具ですよ。
・・・で懐に入れていただいたということは了承してくださるのですね」
「・・・まぁ素晴らしい仕事っぷりを見せられた上に、貴方の本性知ってしまったら断るってことも無理でしょうね。
私は命が惜しいので」
「大丈夫です。命までとろうとは思ってませんから」
「・・・その笑顔、今見ると末恐ろしいですよ。
しかし少し入手困難な物も数点含まれてますね。最低でも一月は見てもらわないと・・・・。
この件が終われば直ぐに紫州にお戻りになるのでしょう?届けましょうか。
それなら丁度紫州につく頃には全て揃っていると思いますが」
「あっ・・・そうそう紫州の方で注文はすませてきちゃいました。
そろそろ茶州に入ってきているか、もう入ってきちゃったかくらいなので使われてなければ全てこの茶州内にあるはずなんです。
それを探してきてください。
ちなみに私がしたいのは値段の交渉ですから。
・・・全部無料でいただけるのですよねvv」

彰は久しぶりに後悔した。
少し今回は遊びすぎたかもしれない。
しかし商人というものは相手との信頼関係が命。
今回は自分の完敗だった。

「分かりました。数日中には手に入ると思います。
琥lに入るまでには必ず」
「ありがとうございます。
いやー、ここに来てこんなに得できるとは思いませんでした。
思ったよりお金掛からなかったし、どうしようかこのお金・・・」
「・・・余っているのですか?」
「えぇ、紫州の賭場で一気に儲けて来て・・・
金百両はあったんじゃないかしら・・・・」
「・・・きっ金百・・・っ!?」

思わぬ金額に彰が声をあげる。
は思い出しながら続けた。

「その半分貴陽で落として来て・・・思ったより野宿が多かったから結構余っているんですよね・・・。
後は龍蓮の衣装代ということであげようかしら。
あっ、私の貴陽へ帰る時の分も残しておかないと・・・」

賭場で金百両とはかなり勝ちまくらないと無理なことである。
本当にお金が絡むと凄まじい力を発揮する人だ。
頭を押さえながら彰は思った。
倉庫から買った商品がどんどん馬車の中に積まれていく。

「さて・・・。なんかもう疲れたので帰りましょう。
無料となれば話は別です。
時間いっぱい働いてもらうので覚悟していてくださいね」
「ちょっ、それはないでしょうっ!?」

を馬に乗せるのを手伝いながら彰は言った。

「あれだけのものを無料で手に入れられると思ったら大間違いですよ。
本当に半額払っていただきたい気分です。最初に聞いておくべきでした。
正直、貴方の今日の働き分ではそれの半額分にしかならないんですから」
「失礼ね、今日私が競り落としてきた商品の差額を見れば、かなりのそちらの儲けになってると思うけど?」
「私が落としていたらもう少し儲けになってました。
まだまだ甘いです」

あぁ言えばこう言う。二人の言い争いは全商連についてからも収まらなかった。
そして、暗くなるまでたっぷりと全商連版戸部に閉じ込められてやっとは開放された。
おかげで朝の半分は書物が減っている。
一応これでも外からまた新しく送られてくるものもあったので頑張った方だろう。
帰るときはかなり泣き付かれたが、明日からは金華城で働かなければいけないので残念だが今日でお別れだ。

「では、例の物は後日お届に。
供をつけますが、お気をつけて」
「貴方はまだ帰らないんですか?」
「今日復活してやっと機能開始し始めなりに、全ての事が終わると思いますか?
やらなくてはいけない事が山積みなのでしばらくはここで泊まろうかと。
何か私に用があるのでしたら手紙でこちらの方に送って下さるか、直接呼びに来てください。大抵はここにいますので。
そう新州牧の二人にお伝えください。
今日はお疲れ様でした」

はその後者の言伝に頷いたが、何か引っかかるものがある。

「・・・では、ありがとうございました。お先に・・・」

礼をしたは気づいた。
引っかかっていたものが何かわかった。
は先ほどの笑みとは逆にきっと真剣な眼差しで彰を見た。
のかわりように彰は一瞬何が起こったのかと怯む。

「貴方絶対今日は徹夜する気でしょう?
睡眠時間一刻とか」
「・・・えっ・・・まぁその予定ですか・・・。何か?」
「ちゃんと寝てください」
「・・・は?」

思い出した。ここは戸部と似ているのだ。
そしてこの切羽詰った状況は丁度決済時期と被る。
その時、うちの尚書と言ったら悪ければ三日間連続貫徹とかあったそうな。

「ここでぶっ倒れたりしたら後に響きますからちゃんと休んでください。
ここ数日”殺刃賊”とか新州牧のこととかでずっと悩んでいたんでしょう?
昨晩もここに来て復興の指示をしていたようだし・・・
疲れもたまりにたまれば恐ろしい害を成しますからちゃんと休息は取るように。
そして、供は要りません。一人で帰れますのでご心配なく」
「・・・本当ですか?
一応追い払ったとはいえ”殺刃賊”の方はやはり安心できるものでは・・・」
「大丈夫です。
何のためにこの短剣持っていると思うんですか?」

彰は彼女の腰に付いている短剣に視線をやった。すっかり忘れていた。

「あっ、例の物無料で差し上げますのでその短剣と扇も見せていただきたい・・・」
「・・・人こき使っておいて、そこまで言う・・・?」
「最初の約束は拝見させてもらえるお約束だったので」

確かに、五割どころか無料で貰えるのだ。
はため息を付いた。

「・・・分かりました。秀麗ちゃん達が無事州牧につけた暁には見せて差し上げましょう」
「ありがとうございます。
・・・もう一つ欲を言ってもいいですか?」

は胡乱気な目で彰を見た。

「やはり貴方は商人に向いている。天性といっても過言ではありません。
茶州とは言いません。
しかし全商連に入ってはくれませんか?」
「断ります。
官吏は私の夢でしたので。
今は国王を支える事しか頭に無いですから」

そのきっぱりとした言葉に彰はため息を付いた。
始めから確率の無い事を言ってみるものではない。

「藍紅州よりも茶州を発展させるのが私の夢です。
どうせ商人になるのならどこも同じなのでついでに茶州まで来てくれれば嬉しかったのですが、残念です。
姉も貴方なら気にいってくれると思ったんですけどね・・・」

多分、商人としての能力を極めた彼女なら姉はいくらでも特区長を譲るだろうに。

「ん〜、いいお誘いだけど無理ね。
朝廷クビになったら考えてあげる。っていうかその時はよろしく。
茶州でもどこにでも来てあげるわ」
「ではそれを心よりお祈り、お待ちしております」
「酷っ。それ私が朝廷止めるってことよ。
冗談じゃない。
そういえば早く帰らないと。
・・・では、また会いましょう。仕事頑張って」
「えぇ、お気をつけて」


暗闇の中に消えるの背を見送って、彰は眼鏡を外してため息を付いた。

「・・・本当に自分としたことが情けない」

今までで目利きをした中で彼女は最高で最低のものだろう。
欲しかったが、でも手に入れられないことは目に見えていた。
欲しいものを手に入れられないなんて自分では許せなかった。
しかし、彼女は物ではないし、お金では買えない。
どんなに交渉したところで無駄であろう。
ここは諦めて引くしかないだろう。

彼女が朝廷をクビになるなんてこの茶州に来ている事実がばれていてもないだろう。
彼女は特異な存在。例え、朝廷に有能な人材が揃っていたとしても手放すには推し過ぎる。



昨日と大違いで綺麗な夜空の下は走って宿に向かった。
そんなに遅い時間でもないが、早く帰って皆を安心させた方がいいだろう。
誰もいない道を走るは前方から来る人陰に目を細めた。
そして、近づくにつれ目を丸くした。

「龍蓮っ!!」
「・・・か」
「その格好・・・
もう・・・行くの?」
「あぁ・・・。
心の友達からは温かい言葉をもらったのでな。
悔いるものは何もない」
「・・・そう・・・」

何だかんだいって彼にはここまで来るのに世話になった。
自分と一緒に事が終わるまで茶州にいると思っていたのだが、多分秀麗達が帰したのであろう。

「ここで会えて良かったわ。
結構・・・世話になっておいて一言もお礼言わないで帰られるのなんて悲しいから。
ここまで付き合ってくれてありがとう。
かなり迷惑・・・いや苦労したけど、楽しかったと言えば楽しかったから」

の目に偽りは無い。
秀麗達のように心にも無いことを言っているようにもみえなかった。

「・・・また、貴陽には来るんでしょ?」

その台詞に龍蓮は目を丸くした。
予想しなかった事を相手が言うのは初めてだった。
秀麗達の言葉に感激しすぎていたのか、の事が分かりきれていなかったのか。

「来るよね?藍将軍いるし・・・王にもたまには会いに来るんでしょう?
彼、貴方と会えるの結構楽しみにしてるのよ。
それに藍将軍もまんざらじゃなくてたまに貴方の事楽しそうに話してるし。
秀麗ちゃんたちはこれからもっと忙しくなると思うけど、私は朝廷の下官だしちゃんと休み貰えるし。
半日だったら有休もとれると思うし。
もし、貴陽に来る事があったらいつでも私の家に来ても良いわよ。
というか、もう宿代わりに使って頂戴。
使わないとただのボロ邸になっちゃうからむしろ使ってくれた方が嬉しいわ。笛は吹けないけどね。
私は家にいないと思うけど・・・朝廷の方にその羽でも送ってくれたら会いに行くから・・・」
「いい・・・のか?
行っても・・・」
「勿論。
私も国試受ける前は本当に友達って呼べる人が秀麗ちゃんしかいなくてね。
せっかく出来た友達と音信不通なんて寂しいじゃない」

秀麗達の心遣いにも感激したが、また出会う可能性がある分こちらの方が更に嬉しかった。
嘘でもいい。また会おう。そう一言言ってくれるだけで満足できたのに。
彼女は確実に会える道まで残してくれた。

「・・・龍蓮?」

記憶にある限りでは初めて流す涙だった。
今まで自分にかけられた僅かな希望へと繋がる言葉が涙と一緒に溢れてくる。
こんな感情は初めてだ。

「なっ・・・もしかして泣いてるっ!?
ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないし、本当に迷惑なんてしてないから。
むしろ、来て欲しいってちゃんと本心で思っているし。
・・・ただ普通に素敵衣装来て着てくれればもっと嬉しいかな・・・って思ってはいるけど。
また会えるんだし泣かないの。ね?」

生憎秀麗ではないのでこういう時の慰め方は全く心得てない。
静蘭や燕青みたいに器用でもないので、掛けるべき言葉も見つからない。
そういえば、我ながら涙とは無縁の生活を送ってきたと思う。
涙を流している暇があれば汗をかけ。という非常に男気のあるもっとうを持っていたからかもしれないが。

「何故・・・そう言ってくれた・・・?」
「・・・え?」
「そんな事を言われたら・・・ずっと貴陽にいたくなるではないか」
「いればいいじゃない。貴陽に。
誰も止めはしないわよ」

はきっぱり言った。
そもそも藍将軍の話では龍蓮が旅に出たのは自分の意思だったそうではないか。
別に出ていけとも旅に出ろとかも言われていないのに勝手に出ていった。
ならば勝手に定住するのに誰が反対出来ようか。
家柄上、貴陽に大きな邸を立てても全く問題はないはずだ。事後問題は色々あるだろうが。

「全て自分で決めてきたんでしょ?
貴方には私と違って自由があるわ。
貴方を縛れるものは何もない」

母の言霊の鎖に繋がれて多分これからも生きていかなくてはならないだろう。
いくら自分の意志とはいえ、それも半分母に植え付けられたもの。
それに引き換え彼は自由だ。彼の兄が、周りの者達がそうさせてくれた。

「もし定住するんだったら連絡頂戴ね」
「・・・・非常に酷な事を言ってくれるな。
自由というものも案外辛い」

本当にそれが正しいのか。自分にとって、周りにとっていいことなのかわらなくなる時がある。
もし、彼女の言葉を受け入れて定住してしまった場合・・・
自分はどうなってしまうだろう。

龍蓮は自然にに歩み寄り軽い口付けをした。
の驚いた表情を見て、自分のした事に気づいた。
あまりにも自然過ぎて、自分でも何をしたのか分からなかった。

「・・・龍・・・蓮・・・」

人をここまで愛しいと思ったのは初めてだった。
そもそも愛しいと言う感情は、国試が始まる前まで気づきもしなかった。
龍蓮は動けないでいるを強く抱きしめた。

「本当は今すぐにでもどこかに攫ってしまいたい。
このまま一緒に旅を続けたい」

各地に行って自分の感動した風景をに見せたらきっと喜んでくれるだろう。その顔が目に浮かぶ。
それだけで幸福な気分になっている自分に気づいて、自分が変わっている事に気づく。

「無理よ。私にはしなければならないことがある」

やっぱり、彼女はこう答えた。
その確率は十割。・・・分かっていた。
もし、自分の予想が外れていたら本当に未来が見えなくなっていたかもしれない。

「分かっている・・・言ってみただけだ。
ここでどのような言葉を言ってみても無理矢理連れていってもは直ぐに元の場所に戻ってしまう。
多分、一生これを続けてみても無理だと言う事は分かっている」

彼女は誰の手にも染まらない。
何があっても。誰であっても。
彼女は周りに埋める事の不可能な深い深い溝を持っている。
彼女だけが羽を持ち、その溝を飛び越えて人と接しているのだ。
そして他人が近寄ってきた時その溝の奥にいき、そこから相手と接する。
だから近くて遠い存在になる。

「嫌われるのだけは嫌だ。
だから・・・それは避ける」
「龍蓮・・・」
「できない事は無いと思っていたが・・・不可能な事もこの世の中にはあるのだな」
「それが『真性の天才』の言う事かしら?」
「私はもう・・・真性の天才ではないと思う」

相変わらず世界の動きも読めるし、物の好みが変わってもいない。
この衣装は素晴らしいし、自分の横笛は最高だと思う。
人は一人では生きていけないと誰かは言う。
でも、一人でも生きていけるのが『真性の天才』
誰にも理解できないところに存在する、枠にはまらない者。
しかし、最近は自分の行動はかなりまともになってきているようだ。
茶州に近づくに連れてが口出しする回数が徐々に減ってきているのが何よりの証拠。

「何落ち込んでんのよ。
・・・私が変なこといったせいでもあるけど・・・
そんな称号欲しくて手にしたわけじゃないし、合ってもウザいだけじゃなない?
だったらない方がマシよ。
あんたが一般人っていうのも少し違和感あるけど、少し一般人なら皆少しは付き合いやすくなるわ。
人と話すのって凄い良い事なのよ」
「・・・そうか?」
「だって、秀麗ちゃんたちから良い言葉貰ったんでしょ?
その時凄い嬉しかったでしょ?
いい事じゃない」
「・・・・・・・そうかもしれない」
「・・・さて、宿に帰るの遅くなるから私はこれで行くわね。
絶対貴陽で会いましょう。約束よ」

・・・約束。

龍蓮は嬉しそうに微笑んだ。

「約束しよう。必ずに会いに行く」
「じゃ、これで。
言うまでもないけど、一応。気をつけてね」

はそれだけ言うと振りかえらずにそのまま走っていった。
龍蓮もまた歩みを進める。
ここで振りかえってはいけないような気がした。
彼女に手を伸ばせばまた未来が見えなくなる。

・・・これで良いのだ。

「・・・そなたに、幸あれ」

ポツリを呟かれた言葉は闇の中に消えていった。

   

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