神域だというのに の力の強さは絶大だった。
元からの飲み込みの早さもあるのだろうが目に見えて は変わっていった。


「へー、こりゃスゲェ」
「中途半端は嫌いなんでな。
徹底的に修行した」

夜、霄と の修行は毎日行われた。
葉はたまにひょこっと現れて酒を持ってきてくれる。
それが日常となりかけた。

、いい。
戻って来い」


水の波紋が収まり中央にいた の目が開く。
水に浮かんでいた体はそのまま水の中に沈んだ。

バシャンと景気の良い音が静かな森の中に響く。

「どうでしたか?霄殿ー」

見事な泳ぎで はすぐに岸に戻ってきた。
徐々に戻ってくる速度が速くなっているのは、泳ぐのに慣れたわけではないだろう。

・・・確実にこの禁池で体力作りしてやがる・・・。

その事実に気付いてしまった葉は遠い目をした。
一応・・・これ凄い神聖な池なんですけど・・・。
しかし、霄が何も言わないあたりのことを汲んで葉も黙っていることにした。
池もほおっておかれるより、若い女の子が泳いでくれた方が嬉しいであろう。

「・・・どう・・・ですか・・・?」

肌がかなり透けて見えるのだが、 はお構い無しに霄の目の前にたった。
おぉ、と葉が感心する。
男よりも男らしい。
霄はふん、と鼻をならした。

「まぁ・・・大方及第点だ。
あとはお前の修行次第だ。
やり方を掴めば応用くらいできるだろう。
危ないと思えばここに来い。私が許可をする」
「・・・本当に・・・これでいいのですか?」
「・・・これだけやって・・・まだ何も掴めてないというのか・・・?
お前はバカか?」

ズバッといわれて は答えに困った。
別にコツを掴めていないといえば嘘になる。
しかし・・・完成度でいえばまだ三割程にしか満たないのではないだろうか。

の考えを表情だけで読んだのか呆れた顔をして霄は立ち上がった。

「教えられるだけのことは教えた。
あとどうするかはお前の勝手だ。自滅するのもな」

・・・ は霄の目をじっと見た。
教えられることは何もない・・・ということは・・・
あとは努力に努力を重ね、あとの七割を埋めろということか。

は膝を折った。

「・・・ご指導ありがとうございました」
「ふん」

そういって霄は戻っていった。
一体この人たちはどこに住んでいるのだろう。

はもう一泳ぎしようと振り返ると後ろで葉が石に座りながら手を振っていた。

「・・・葉殿・・・」
「お疲れ。
こんなに早く及第点もらうたぁ、見直したぜ。
まだやるのか?」
「えぇ・・・まだ疲れてませんので・・・」

葉は目を細めた。

「・・・そっか・・・。
なら終わるまで付き合う。
そのあと褒美をやるよ」
「・・・褒美・・・ですか?」


は首を傾げたが、考えるのは止めて池の中に入っていった。
お楽しみは後にとっておくのがいい。

しかし、違和感のある葉の視線を感じた。

「あー・・・。この恰好凄い肌透けるんであまり見ないでくださいね!」
「えー、凄いいいと思うけど。
っていうか見ないでとかいったくせに思いっきり霄の前に立ってたよね」
「別に霄殿はそういうの気にしないと思いましてー」

葉はケケッと笑った。
・・・気にしない・・・ねぇ・・・。

「あーいうのは、むっつりっていうんだよ。
気をつけなー」
「そーですね。葉殿の次に気をつけます」

なんかもう順位的に霄より下らしい。
やっぱり自分が教えれば良かったかなぁ、と葉はちょっと後悔した。


異能の力を抑えるだけでなく、半刻程本気で泳いだ はやっと池から出た。
既に日付はとっくに変わっている。

「頑張るねぇ・・・」
「まぁ・・・それは・・・。
守りたいものがありますから。基本は体です」
「そうだな、基本は体だ。
正解だが・・・お前の場合少し無理をしすぎだ」

葉は濡れた をそのまま肩に担いだ。

「さーて・・・褒美の時間だぜ。
とりあえず空いてる仮眠室は・・・ッと」
「・・・はぁっ!?
ちょっと何するつもりですか。どー考えても貴方の方が危険人物じゃないですかーっ!!
拉致らないでください。せめて服着させて」
「あぁ、もしかしてヤラシイ想像しちゃってる、俺としてはそっち方向でも大歓迎なんだけどvv」

歓迎だけど・・・
・・・流石に手ぇだしたら霄にボコられるよな・・・確実に。

葉は苦笑して の着替え片手に仙洞宮を後にした。


朝廷の適当な仮眠室へ入れられた はポイッと寝台の上に捨てられた。
あとは適当な寝間着も投げられる。

「とりあえず体拭いて、それに着替えてて。
俺はその間準備してくるから〜」

・・・何のっ!?

とりあえず は風邪をひく前に乾いた寝間着に着替えた。
一応身の安全を守るため短剣と扇は枕元においておく。
最近物凄く力が強くなった気がするので・・・実力行使でもいけるだろう。多分。


は窓から空を見上げた。
もうすぐ・・・新月か・・・。

「終わったか、 ちゃん」
「え、あぁまぁ・・・。
・・・なんですか?それ?」

お湯が入った桶を持って葉は入ってきた。

「まぁいいからそこにうつ伏せで寝て」
「・・・・?」

寝台の下に桶を置いて葉は熱そうなお湯に大きな手巾を浸し、そのまま絞った。

「・・・熱くないですか?」
「あー・・・俺はなれてるから大丈夫」

確かに普通の人間では熱いかもしれない。
適当な事を言って葉は手巾を広げ温度を下げる。

「ほら、寝る」
「・・・?・・・はぁ・・・」

葉のやろうとしていることは分からないが害がないとみた はそのまま寝転がった。
葉は丁度いい温度になったタオルを の肩に当てた。

「・・・うわぁ・・・暖かい」
「あの水は冷たいからなー。少しはあったまるだろ。
今から血行をよくして、少し筋肉ほぐすから」
「・・・へぇ・・・葉さんそんなことできるんですか・・・」
「まぁな・・・見直してくれた?」

まさか医者ですなんていえないだろう。
霄も素で名乗った手前あまりボロを出すと自分の正体もバレかれない。
てか、霄はバレていないことが謎なのだが・・・。
やっぱり・・・顔か?ジジイのときから想像もつかねーもんな。

「今から揉んでくけど・・・・やりやすいから脱いでくれた方が嬉しいな」
「嫌です」
「ですよねー。知ってる」

葉が諦めたとき がむくっと起き上がった。

「・・・嫌ですけどそっちの方が効果あるなら脱ぎます」
「・・・マジで?」
「朝廷の仕事もありますし、色々体を酷使している自覚はあるので・・・
少しでもいい事してあげないと・・・」

そういいながらいっそ清々しいほど堂々と はばっと上半身をはだけさせた。
おぉ、と葉は内心感激した。
さらしは巻いているがそれでも完璧な肉体美・・・。
・・・いや・・・綺麗だけど。凄い綺麗だけど・・・
・・・腹筋が綺麗に割れてるんですけど・・・。
どんだけ。

「・・・何見てるんですか」

の視線に葉が気まずそうに目をそらした。

「え、いやすげー筋肉だな・・・と。俺も見習お」
「・・・やっぱり引きますか?」

気にしていたらしく は顔を伏せた。

「あ?弛んでるよりいいんじゃね?
あっでも抱くなら柔らかい方が・・・
・・・申し訳ない。全力でごめんなさい。もう言わない」

の氷のような視線に葉も態度を改めた。

「んじゃ、適当にやってくから〜。
気持ちよかったら寝てもいいよ」
「はーい」

体の方も疲れていたのか、 はすぐに眠りにおちた。
葉はニッと笑んだ。

「・・・おやおや・・・元暗殺者にも匹敵するほどの姫様が無防備なこと。
しかし・・・恐ろしくコってるなぁ・・・
異能の力も大分封じられたとはいえ、体に負担もかかりすぎてる・・・。
やっぱり俺が来て正解だったかも・・・」

すっと の額に指をつけた。



夢を見た。

暗い、月のない夜
ずっと脳内を回り続ける暗示
きらめく刃
感情のない瞳
誰かの必死な声

そして、悲鳴が聞こえた。



「・・・・ッ!!」

は飛び起きた。
外はもう既に明るくなっている。
周囲を見た。昨日休んだ室であった。

「・・・今のは・・・」

嫌な予感がする。
リオウからもらった宝珠は枕の隣においてあった。
はその宝珠をぎゅっと握る。

大丈夫・・・。


寝台から降りて着替える。
後で適当な着物引っ張りだしてこないと・・・
そう思いながらふと机の上をみた。
何か紙が置いてある。

ちゃんvv
昨日は綺麗な体と寝顔拝ませてくれてありがとねvv
全身のコリはほぐしておいたから今日からバリバリ仕事していいよ。
また疲れたらすぐに飛んでいくから待ってるよ。
お代は体でよろしく

葉』

・・・ふざけたこと書きやがって・・・。
はぐしゃりと紙を握りつぶした。

しかし葉の腕は確かなものらしく体が軽い。
昨日まで錘をつけて歩いていたような感覚だ。
危険だが頼らなくてはいけない時がきそうだ・・・。
修羅場のときとか戸部専属になってくれれば最強なんだけど・・・。

それより気になるのはあの夢・・・。


あの悲鳴が、珠翠の声に聞こえたのは・・・気のせいではないかもしれない

暗い夜・・・新月は・・・。


が考え事をしながら歩いていると足にとんと、何かがぶつかった。
が下を見るとそれはもふもふの・・・

「うっ・・・羽羽仙洞令尹っ!?
申し訳ありません・・・」

すぐに は礼をとる。正直視界に入っていなかった。
羽羽は の謝罪も聞かず、じっと を見つめた。

「・・・なんです・・・か?」
「・・・最近ちょろちょろしていたのは主かっ!?
・・・んんっ?」
「・・・はい!?」

私が何か羽羽様にとって問題になることしました?
は頭の中を振り絞って考えた。
・・・劉輝が羽羽から逃げているところをかくまったところか?
いやあれはばれてないはずだし・・・。
・・・あ、禁池に入ったんだっけ?見つかってたのか・・・一応あれ仙洞省の管轄だもんな。
謝れば済むかな・・・いや・・・あとで賄賂でも贈っておくか。
普通にバレたらクビって事もありえるし・・・
羽羽様の好きな物なんだろう。

羽羽は相変らず の顔をじっと見ながらブツブツと呟いていた。
そして何か気付いたように体ごと振るわせた。
羽羽は周囲に人がいないか確認して の手を引いた

「少しお話がありますじゃ。
・・・様」

次に驚くのは の方であった。

・・・バレた?


羽羽の表情はヒゲに隠れていて見えない。
は平静を保ちつつ羽羽が口を開くのをまった。
何がバレているのだろう、どこまでバレているのだろう。
とにかく自分からは何も言わないのが得策だ。

仙洞省の一室に は案内された。
仙洞省なんて始めてきた。普通の官吏はあまり立ち寄らない場所だ。

羽羽は紅茶を の前においてくれた。

「ありがとうございます・・・」
「飲みなされ。
そんなに時間はとりませぬゆえ・・・」

は羽羽の言葉に従い、紅茶に口をつけた。

「・・・あの・・・話とは・・・」
「・・・何故、ここにいますじゃ? 姫」

は動揺をみせないよう冷静を務めた。
確かに・・・。 がまた内朝にいたとき羽羽はバリバリの朝廷官吏だ。
しかしこんなに簡単に見破られるとは、さすが仙洞省・・・。

「・・・おっしゃる意味が・・・分かりかねますが・・・」
「そこまで縹家の血を濃くし、力を解放していながら誤魔化されても困ります。
名前も変えずに朝廷に来るとは無謀な・・・」
「しかし誰も反対しませんでした」

それは がまだ目覚めていない時であったから。
秀麗も も朝廷に及ぼす影響は大きかった。
それでも王が無理矢理決行した女人受験。
口を出さなかった結果がこれだ。
秀麗はともかく・・・ くらいは反対しておくべきだった。
消えたと思っていた闇姫がこんなところに・・・

王に降りかかる不幸はこれか?

「羽羽様」

何か考えている様子の羽羽に から口を開いた。

「・・・私が仕えるのは主上一人。それ以上でもそれ以下もありません。
劉輝様の下で平和な彩雲国を作るお手伝いをしたいと思っております」
「縹家に行くつもりはないのじゃな」
「はい」
「・・・・そのつもりなのじゃな」
「つもりではなく、行きません」

羽羽はため息をついた。

「ならば・・・ 殿・・・。
『お母様』にはお気をつけなされ」

『お母様』?それは誰の母を示しているわけではなかった。
羽羽は真っ直ぐに を見た。

「縹家当主縹璃桜殿の姉君。瑠花姫。
彼女が今の縹家を動かしていますじゃ。相当の術者。
闇姫を連れ戻すために躍起になっているのは必然・・・。
もし紫家の一員として生きるのであれば・・・瑠花姫に勝たなければその道はないのですじゃ」
「・・・なるほど、璃桜の後ろにいるのが・・・。
貴重な情報助かります」

ということは最後の砦は彼女となるのか・・・。
そして珠翠に暗示をかけ苦しめた・・・。

「・・・上等」

羽羽は少し笑った・・・気がした。
母君と良く似ておられる。
母君は、自分の運命には勝てなかったけれども・・・

「羽羽殿。
兄上を、主上をよろしく頼みます」

は改めて礼をとった。
羽羽はその言葉にちょこんと頷いた。

「最後の一人になろうとも、主上の盾になるつもりでおります。
姫も・・・あまり無茶はなさらぬよう・・・」

・・・可愛いくせに心意気は立派だ・・・
は羽羽を完全見直した。
少しだけ羽羽の話も聞いてやれ、と劉輝に言っておこう。

の去り際に羽羽は呟いた。

「王に・・・なろうと思う気はないのですかな?」

は苦笑した。それを今聞くか。
しかし、聞かれるということは が王でも仙洞省は を認めている証。

「えぇ、劉輝様が玉座にいる間は毛頭も。
・・・ただ・・・」

から笑みが消えた。

「もし、劉輝様が玉座から離れられた後、気に食わないものが現れたら・・・
私が座る予定です。
勿論・・・紫家の者として・・・」

ふっと先王の面影が と被る。
羽羽は目を丸くした。やはり・・・血は争えない。
では、と は羽羽に一礼をして出て行った。

「おっかない娘子でしたな・・・リオウ殿」
「まぁな。
禁池の件は多めに見てくれ。
あいつの力が暴走するよりよほどマシだ・・・」

・・・それに・・・
当の住人達がそれを認めているのだからこちらから口を出す問題でもないのかもしれない。


そしてその夜。
空に月の気配はなかった。

「・・・新月・・・」

外朝内に不審な動きはない。
・・・珠翠・・・

は後宮に向かった。
何かあるとしたらここしかない。

動きやすい着物に着替え は屋根の上まで跳躍した。


   


ーあとがきー

予想外に出張ってしまったジジイズ・・・。
というか仙人+羽羽様。
・・・まさか・・・ッ。。

ちょっと絳攸だそうかと思っていたのですが、ちょっと今はデリケートな時期なのでやめました。
次回ご期待。
白虹の次がでて絳攸がいい感じだったら絳攸につこうかなーとか思っていたりいなかったり。

まぁそんなわけでやっと次がラストです。
青嵐・・・中身がなかったような気がするが・・・そうでもない?
とりあえず思い出は楸瑛を思い切りぶん殴った事?(ぉ)



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