難は去った・・・かに思われた。
崩壊はとまらぬまま、加速する。

また、大きな崩壊が始まった。


紫と藍と霞む色


「・・・っ」

最近、誰かにつけられている。
そんな気がしてならない。自意識過剰なのであろうか。
それでも、はここ一月ほど毎日のように移動の時、道を変更している。
・・・会いたく無い人がいるのだ。

しかし今日ははめられた。
道は一本道。前方から彼は来る。
避けるためには戻るしかない。
あまり時間を割きたくないが仕方ない。
は回れ右をした。

・・・がその背後にいたのは・・・

「ハーイ、お嬢さん。
ご機嫌いかが」
「・・・なっ」

兵部尚書、孫凌王。
挟まれた。
もう少しで彼がここに来てしまう。
マズい、マズすぎる。
しかもこの二人が揃うってことは・・・どう考えても計算してある。
はギリッっと歯噛みした。
・・・負けた。
は跪拝をとった。

「・・・先を急ぐので失礼します」
「ちょっとつめたいじゃない?
黄鳳珠にはあんなに懐いてるのに悔しいねぇ・・・。
お近づきの印におじさんとお茶しない?」

ポン、と肩に手を置かれる。
は無理にでも一歩踏み出そうとした。

「申し訳ありません・・・仕事が・・・」
「やっと姿を見せたか。
・・・紫。探したぞ」

背後から聞こえた声に背筋が震えた。
今最も会いたく無い男。
門下省長官、旺季

・・・前まではこんな事なかったのに・・・。
世界がどんどん崩れ始めている。
そういえば、不思議だった。何故今まで気付かなかったのだろうというほどに。
先王、紫戩華が死んでから、自分と母の記憶は世間から忽然と消えたみたいだ。
皆が忘れている。だからは怪しまれずに今こうして官吏として働けている。
氷が解けるように、徐々に自分と母の記憶が世間に広がっていくようだ。

は跪拝をとった。
そして答える。

「・・・おっしゃる意味がわかりかねま・・・」
「それで誤魔化しているつもりか。
あの氷姫の娘とあろう者が落ちたものだな」
「・・・・。」

その言葉に流石のもその言葉にはムッとした。
にだってそれなりの矜持はある。
昔なら何と答えようが、一発殴ろうが問題にはならなかった。
別に旺季ごとき敵に回しても怖くは無い。
しかし・・・
今の彼を敵に回すことでどれだけの厄災が周囲に掛かるか、今は分かる。
・・・そう考えれば少しは自分も成長したものだ。

「・・・何故お前がここにいる」
「・・・王を助けるために・・・」

旺季が目を細めた。

「ほぅ・・・」
「・・・いえ、現王劉輝陛下をお助けするためにここにいます」

旺季の考えていることが分かってしまった。
拳に力が入る。
・・・そんなに・・・兄上が気にいらないか?
そんなに、王位を望むか?

「・・・私が邪魔ですか?」
「朝廷に近付かないと約束できるなら命ばかりは助けてやろう。
または・・・『王』のために働くというのなら話は別だ」
「・・・・。」

殺される。・・・確実に。
は少し思案した。
『王』のために。
・・・この制約はなんなのだ?
それだけ自分に自信があるのか?それとも機会をくれたのか?
後者だったら明日槍でも降りそうだが・・・。

「・・・分かりました。
ただ、全力で抵抗します。
・・・負けた時は諦めます。ご自由にお使いください」
「よく言った。
・・・こき使ってやる」
「・・・お手柔らかに」

旺季はフッと笑っての隣を歩いていった。

「ふぅ・・・まさかお嬢さんが簡単に折れるとは思わなかったけどねぇ」
「あの方があれだけ甘いとは思いませんでしたけど」

・・・もう、戻れない。
これは、大きな賭けだ。

「・・・では、失礼します」
「えっ、お茶・・・」
「仕事がありますので。
・・・えっと・・・どちら様でしたっけ?
衛兵さんにつきだしたほうがいいですか?」

凌王は苦笑した。
ツカツカ歩き出すの隣に並んで歩く。

「今回は私の負けですネェ・・・。
諦めませんよ、お嬢さん」
「留守なら留守で自主軟禁くらいする勢いでないと・・・
今しか休めないんじゃないですか」
「確かに。明日からそうしようかなぁ・・・。
あっ、お嬢さん明日から兵部に来ない?
頑張ってくれたらおじさん、特別にたんまりお小遣いあげちゃうよ」
「・・・仕事は黄尚書を通じてお願いします」
「君から黄尚書にお願いしてくれない?
おじさん黄尚書に物凄い嫌われてるみたいだから。
あとついでに兵部の予算増やしてくれるとありがたいなーなんて・・・。
はい、賄賂」

の前に飴が差し出された。

「いりません。
嫌われてるのも予算減らされたのも自業自得じゃないんですか」
「・・・いや、ホントおじさん悪くないから。
悪いのは大将軍含めその他色々・・・。
ほら、ここでおじさんに恩売っておいた方がいいんじゃない?
おじさん本気出しちゃうよ?」

ニコ、と微笑む凌王に対しても微笑み返した。

「・・・恩を売っておいた方がいいのは貴方の方なんじゃないですか?
残念ながら六部の中で兵部の仕事環境はダントツで最悪でした。
・・・実は黄尚書に『もう兵部には行きたくない。何があっても拝み倒されても断ってください』とか言っちゃったんですよねー。
いや、まさか野郎共の字が汚いという理由だけですべての書類を書き直しさせられるなんてどうかと思いますよ。
しかもあの修羅場の時に・・・」
「・・・マジで?」
「マジで。
せいぜい兵部の恨み言全身に受けながら自主軟禁していればいいですねー。
結構血の気多い人達が多かったから戻ってきたときに八つ裂きにされないようにせいぜい注意しておく事ですね。
では、私はこれで」

は一礼して歩き出した。
凌王は一瞬考えてからため息をついた。

「困りましたネェ・・・。
こんなくだらないことで死んだらあの世で旺季に地獄でイジメ抜かれそう・・・」

そして絶賛修羅場中の兵部に戻るのも怖かったので凌王はしばらく自主的軟禁をすることに決めた。



・・・最近、兄上の様子がおかしい。
いや、おかしいのは前からだ。
今までずっと一緒にいた”花”がいなくなったから。
いや・・・それだけでない。
何か、壊れ始めている。

「・・・戸部から書翰をお持ちしました。主上」
「・・・ん?あぁ・・・
お疲れ様。・・・」
「いえ、兄上こそお疲れのようで・・・」
「・・・うむ・・・」
「・・・悩み事ですか・・・」
「悩み、といえばそうかもしれない。
でも何かもやもやして良く分からないのだ。
寂しいし、悲しいし、苦しい・・・」

・・・やはり・・・『王の真似』では限界がある・・・か。
いつものような笑顔が見られない。
劉輝、らしくない。
いや、その表現は間違っている。
・・・自分の知っている劉輝ではない。

「・・・楸瑛が欲しい」

は静かに目を閉じた。

「行きますか、藍州に」
「行く」
「・・・行ってらっしゃいませ。
こちらは悠舜様や・・・私達が支えます」
「・・・頼む」

は微笑した。

「人は支えあって進んでいくものです。
悠舜様がいらっしゃったとき、それを学ばれましたよね。
安心していってらっしゃいませ」
「うむ、・・・頼りにしている」
「はい、お任せくださいませ」

久しぶりに見た劉輝の微笑。
なんとかの笑顔を守りたい。


しかし・・・私はそのは思いもしなかった。
まさか、自分が劉輝よりも先に藍州につくことになろうとは・・・



「黄尚書、兵部から何か来ていましたか?」
「・・・あぁ、来ていたかもしれないが捨てた」

凌王の言っていたことは本当らしい。
確かに資料を見ていて兵部の予算が少ないように感じてはいたが、本当に仲が悪かったとは。
この調子ならほとんどの兵部からの要請は斜め読みだろう。

「別に必要ないだろう。
・・・何か言われたか?」
「・・・来て欲しいと言われましたが、断りました」
「それで良い。・・・・・・」
「なんですか?」

鳳珠は口を開いたが、やめた。
変わりに別の事を言った。

「そこにある本全て府庫に返してこい」
「御意に」

・・・色んな噂が流れている。
しかしその中に紛れ込んでいるのは紛れもなく真実。
鳳珠はを見送ったあと目を閉じた。
・・・均衡が保てなくなっている。
ごく当たり前にあった日常が、当たり前ではなくなる日も近いかもしれない。

「柚梨・・・お前はどうする?」
「何がですか?」
「・・・ここが壊れたら」

その言葉に柚梨は苦笑した。

「どうしてもついてきて欲しいなら鳳珠についていきますよ。
くんもいなくなるし寂しいですもんねぇ・・・」
「そうか、なら・・・もしもの時は頼む」
「はい」
「・・・悠舜を」

ポツリと呟かれた言葉に柚梨はため息をついた。

「分かりました。
他ならぬ、貴方の頼みなら受けましょう・・・鳳珠」



「・・・府庫か・・・こっちからの方が近いのよね」

背中で隠し扉を押し、は隠し通路に入った。
そこはほとんど窓が無く微かな光の中を進まなくてはいけない通路になっている。
この通路を知るものはこの朝廷でも自分と兄くらいだと思っていたが意外にそうではなかった。
扉が閉まった瞬間人の気配を感じた。

「・・・ムグッっ!?」

いきなり壁に押し付けられ口を塞がれた。
抱えていた本のせいで動きが取れなかったせいでもある。
は持っていた本を全て落とし反撃に出ようとする・・・が、闇の中から見知った声が聞こえた。
・・・あまりにも声に真剣みがあったので、一瞬誰か分からなかったが。

、騒ぐな」
「・・・ムッ・・・?」
「少し私と一緒に来て欲しい・・・今すぐだ」
「・・・龍蓮?」

何故こんなところに龍蓮が?
しかし、彼のこんなに真剣な声は初めてなような気がする。

「何があったの?」
「話はあとだ。
・・・後は任せたぞ『』」
「・・・龍蓮様、御意に」

暗闇から聞こえる女の声。
微かな光に照らされたその少女の影は・・・

自分だった。

全身に寒気が走った。
叫びそうになるのを必死にこらえる。

「・・・では、行くぞっ!」
「・・・えっ、ちょっ・・・担がないでよっ!!
っていうかあれは何っ!?あんなところに鏡なんて無いわよ!!
なんで私がっ」
「あれは、の影武者だ。
しばらくの代わりをしてくれる」

それだけいって龍蓮は隠し通路を駆け抜けた。
そして外に出てそのままつないであった馬に乗る。
龍蓮は以外にもまともな恰好であった。
これなら美形の一般人にみえる。
この数ヶ月彼に何の変化があったのだろうか。

「全力で行くぞ、つかまれ」
「・・・そういえば、どこ行くかまだ聞いてないんですけど。
私の代わりがいるって・・・どんだけ・・・」

反射的に龍蓮に掴まり、龍蓮は馬を加速させる。
龍蓮は周囲に気を配っていた。
事態がただならないことは分かる。

「・・・龍蓮?」

その時の髪を何かがかすった。

「・・・え・・・?」
「チッ、見つかったようだな・・・」
「・・・あの・・・龍蓮これ何なの?
私は何に巻き込まれたの?
っていうか本当に龍蓮よね」

別人過ぎて、信じられない。

よく分からないまま半刻馬は全速力で貴陽を走りぬけた。
そして、城門で下ろされる。
計算されたように城門兵が高級馬を二頭奥から引いてくるのが分かる。
龍蓮に手を引かれては歩く。
・・・何かおかしい。
ここまで無口な龍蓮も初めてだ。
途中誰かに狙われたし、意味が分からない。

「・・・龍蓮、いい加減に話しなさいよ。
何があったの?
っていうか、どこ行くかくらい教えなさいよ!」
「・・・雪兄上に会いに行く」
「・・・雪・・・兄上って・・・」

龍蓮の兄は楸瑛と、あと藍家当主の三つ子。
雪というのは藍家当主、藍雪那のことだろう。
その人に会いに行くって・・・。・・・まさか・・・

「・・・もしかして、藍州まで行くつもり?」
「無論。
全速力で行くからついてきて欲しい。
九彩江につくまでの我慢だ」
「・・・今じゃないと駄目なのっ!?」

今朝廷を離れるわけにはいかない。
劉輝は楸瑛を連れ戻すつもりで藍州にいく。
劉輝がいない間朝廷は荒れてはいけないのだ。
劉輝が戻ってくるまで今の均衡を保たなければ・・・
権力は無いに等しいが、それでも自分に出来ることはあるはずだ。

「今じゃないと駄目だ。
一人では危険すぎる」
「・・・危険?」
「・・・正直に言う。
は命を狙われている。
それを回避するためには、兄上に会いに行き、を認めてもらうしかない」
「命・・・?
・・・てか、私の何を藍家当主様に認めてもらうのよ。
別に藍家に喧嘩売った覚えは・・・」

・・・そういえば、藍将軍思い切りグーで殴ったんだったかしら・・・
いや、でもあの件はお互い様ってことで収まったんじゃ・・・

「・・・理由は、九彩江についたら話す」

そういって、龍蓮はに馬の手綱を渡した。
この馬に乗れということなのだろう。
は馬の頭を撫でてやった。
馬との相性は大切だ。・・・よく育てられている。

「・・・行くぞ、
「・・・ちょっ、待ってよ龍蓮っ!!」


こうして、何がどうなったのかは不明なまま、私は藍州へと旅立つことになってしまったのである。
・・・楸瑛よりも、劉輝よりも先に・・・。


   

ーあとがきー

「白虹編」手をつけてみました。
龍蓮全く書かないから口調が・・・いや、すべてのキャラにおいて口調が!!
原作、今後どうなっていくが予想不可能なので凄い手探りで書いていく予定です。
なるべく、違和感が無い感じに仕上げられたら良いなぁ、と思っているのですが・・・

頑張って、ギャグを増やせたらいいなぁと思っております。
っていうか凌王おじさまはセクハラ担当でFAですよね★答えは聞いてない。


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