ただ、ひたすら馬を進めていく。
一日に一度、手ごろな街や村に立ち寄りその日の食料と馬を調達していく。
茶州に行く時のような余裕はまるでなかった。
あの時とは比べ物にならないような緊張感がある。

とにかく龍蓮についていくしかないは深くは尋ねなかった。


ほとんど休む間もなく藍州へと入った。
藍州に入ると馬ではなく船を使って移動する事になった。
二人用の舟に乗り川を下る。
生まれて始めてみる大河には疲れも忘れて感激した。

「・・・これ本当に川?湖じゃないくて?」

向こう岸が見えない。
一応流れはあるが、とても穏やかだ。
はまた自分の世界が広がった。

「あぁ、藍州の中央を流れていく」

龍蓮は器用に櫂をとっている。
最近の彼は何を聞いてもまともな返事を返してくれる。
変な言動も笛を吹くこともなくなった。
あの理解不能な衣装を着ることもないし、変なものを頭に飾ったりはしない。
嬉しいはずなのに、不安ばかりが募って仕方ない。
無くしてから大切な物に気付く、そういうのとはまた違う気もするが今回は特に心配だ。
自分以上に疲れているはずなのにそのそぶりをみせないところも・・・。

「龍蓮・・・ここ一月ほとんど休まずにここまできたけれど・・・。
体、大丈夫なの?
ほとんど寝てないんでしょう?」

藍龍蓮をそこまでさせるなんて、一体何があったのだろうか。
貴陽を出て以来襲撃された事は数回あったが軽く乗り切ってきた。
軽く乗り切れたのも龍蓮が最新の注意を払ってくれたからである。

「・・・
「・・・何?
・・・あっ、その櫂の使い方教えてよ。
私が出来るようになれば少し龍蓮も休めるでしょう?」
「・・・少し休め。
陸に着いたら馬で一日ほど走るから・・・」

・・・無視か。
は大人しく龍蓮の指示に従った。
体が疲労しているのも、眠気を感じているのも事実だ。
もし無理矢理起きていたとして、後に足手まといなんて勘弁だ。
そのままごろんと転がる。清潔不潔は半月ほどで気にならなくなった。
水浴びできれば良い方だし、布団の上で一刻でも寝れれば最高だ。
寝心地は悪かったが舟の揺れが眠気を誘う。

「・・・ねぇ、龍蓮。
九彩紅・・・だっけ?あとどれくらいでつくの?」
「七日、だな」
「・・・そう・・・それくらいなら、多分私は大丈夫だよ」

・・・心配するな。といいたい。
私は、そこまで弱くないし、守ってもらえなくても生きていける。
燕青まで胸を張っていえるわけではないが、体力が底なしなのが自分の売りだ。
最近辛くはなってきたがあと七日くらいなら大丈夫。

「・・・少し肩の力を抜きなよ、龍蓮。
・・・そうしていると徒の人に見える」

そう呟いては目を閉じた。
龍蓮は振り返っての顔を見た。
・・・久しぶりに泣きそうになったかもしれない。
少し風が出てきた。
龍蓮は自分の衣を脱ぎにかけた。
そしての眠りを妨げない程度に笛を吹いた。
彼女が悪夢に悩まされないように・・・

「・・・私のせいで・・・すまないことをした。

夢の片隅で変な笛の音と龍蓮の謝罪が聞こえた気がした。



「黄尚書、全ての書類を片付けてきました」
「・・・今日の仕事は以上だ。
下がって良い」
「はい」

は礼をとった。そして室を出て行こうとする。
鳳珠は息をついて仮面を取った。
そして尚書室の扉に触れた瞬間、鳳珠が後ろから尋ねた。

「・・・はいつ戻ってくるのだ?」

は最近朝廷に泊まったり、朝廷内にある自分の家に帰ったりしていて、鳳珠の家には行っていない。
は振り返り苦笑した。

「流石に寂しくなりました?鳳珠様。
少し家を散らかしてきたので明日からまた鳳珠様の家に厄介になります」
「・・・寂しいというか・・・違和感があるな。
最近は暇だから別にいいのだが・・・」
「・・・鳳珠様?」

鳳珠は目を細めた。

「それでいつ戻ってくるのだ?
・・・本物の、は」

の笑顔が固まった。

「というかお前はどこの者だ」

はフッと諦めたように笑った。

「・・・さすが黄尚書・・・。
いつか気付くと思っていましたが・・・」
「残念ながらバレバレだ。
は今どこにいる?」
「・・・藍州・・・に。多分今は向かっている途中です」

藍州・・・?
鳳珠は眉を潜めた。
そういえば王が藍楸瑛を追って藍州に行くとかほざいていたがそれについていくつもりだったのか・・・?
それにしては突然で、前触れもなしに消えていった。
茶州みたいに事後承諾な形ですら連絡がない。

「・・・藍楸瑛様や主上の件とは別件です。
行く場所は同じかもしれませんが・・・」

鳳珠の思考を読んだのか、が答えた。
そして鳳珠に礼をとる。

「私は藍龍蓮様に雇われ、紫殿の代わりをしております。
もし殿が無事に帰ってこられたのなら、私の仕事はそこで終わりです。
実質、殿は貴方の部下でも侍女でもあったようですから私もそのようにお使いくださいませ。
夜伽でも暗殺でも命じられればそのように動きます」

藍龍蓮・・・。
茶州の時から薄々感じていたがは厄介な人物と縁を持ってしまったらしい。
厄介なのは龍蓮だけではないが・・・。
とにかく他家、しかも藍家のお家事情に首を突っ込むのは得策ではない。
一応、彼女の話ではは戻ってくるらしいし。

「とりあえず仕事は今まで通りしてくれ。
私の家には来たければ来い。衣食住くらいならなんとかしてやる。
・・・は戻ってくるのだろうな?」
「・・・私も事情は聞いておりませんのでなんとも・・・。
ただ兇手に狙われていることだけは確かです」

・・・兇手・・・。
縹家といい、藍家といい・・・は物騒な事件を引き寄せる天性の運を持っているのだろうか。
藍龍蓮も一緒にいるし、もそれなりの使い手らしいし、八割帰ってこられる・・・
鳳珠はある問題に行き当たった。
・・・もし、が藍龍蓮と一緒になるとしたら・・・
ちょっとまて、流石に計算してないぞ。

そういえば、藍家の本邸がある九彩紅は縹家指定神域。
元々紫家の娘であり、縹家に送られる運命にあった
最近縹家当主も出てきたし、なにやらにも力があるみたいだし、なかったとしても各家の嫁に分配・・・。
その相手が藍家、しかも藍龍蓮ってこれ以上にない最強の組み合わせだ。

・・・どこが最強と聞かれたら、全て、と答えるしかないが。
どこぞの紅家夫妻の道を辿るしかなさそうだ。

鳳珠はそこまで考えて、考えるのをやめた。
余計にややこしくなる。

「・・・もし、が戻ってこなかったらお前はどうする?」
「私ですか?
とりあえず、龍蓮様との契約は『殿が戻ってくるまで彼女の代わりを務める事』となっております。
もし殿が戻ってこなかった、または亡くなった場合は事実が確認でき、落ち着いた時点で龍蓮様と話し合いということになります。
さらに雇い主の龍蓮様が亡くなった場合にはそこで契約終了となります」
「・・・分かった。
明日からも頼む」
「はい、こちらこそ。
・・・あっ、私に気を使っていただかなくても結構です。
この仕事は守秘義務が徹底しておりますのでこの仕事上見た秘密事項は他には漏らしません。
どんどん戸部の仕事を回していただいて結構です。
もし他の仕事で戸部の極秘情報が必要になったら、またこっそり忍び込みますのでその時はよろしくお願いします」

こんな事を堂々と言ってのける。
・・・確かにに似ているかもしれない。
高位の者も高位とは思っていない堂々とした態度。宣戦布告。
鳳珠はまた仮面をつけ立ち上がった。

「・・・して、畏れながら黄尚書」
「なんだ?」
「・・・私が殿とは別人と分かった瞬間に態度変わりましたね」
「それはお互い様だろう・・・」

そういって鳳珠は先に尚書室から出て行った。

「・・・確かに」

は苦笑した。
今回は楽しい仕事になりそうだ。



「うー・・・・
・・・・うん?」

舟の大きな揺れでは目が覚めた。
起きようとした瞬間目の前に刃が刺さった。
・・・何事っ!?
は瞬時に頭を働かせ周囲の気配を読み取る。
取り囲まれている。

「・・・龍蓮・・・なにが・・・」

起き上がったは絶句した。
なんか馬鹿でかい舟が自分たちの乗っている小船を取り囲んでいる。
大型の舟には柄の悪い男達がたくさん乗り込んでいた。
どうやら今まで自分達を追ってきた暗殺集団ではない事は確かなようだ。
妙な気配が一つもない。
これが噂に聞く、水賊ってやつか・・・。

「・・・なにこの状況・・・。
龍蓮?」
「・・・、櫂を任せた」
「・・・任せた・・・って私自慢じゃないけど舟に乗ったの初めてなんですけど。
私いったわよね。あとで櫂取りの方法教えてって・・・。
・・・ねぇ、聞いてる?龍蓮・・・。
・・・って、え・・・笛?」

は嫌な予感がした。物凄い嫌な予感がした。
大きな船の上でお頭と思われる男が何かを叫んでいるが、はそれを聞いている場合ではなかった。
とりあえず龍蓮から渡された櫂を握る。
こうなったら自棄だ。
龍蓮のしていた事を見よう見まねで行うしかない。

「・・・奏でようぞ!
『藍州名物、水賊狩り』」

・・・名物?
は久しぶりに龍蓮にとってのまともな言葉を聞いた気がした。
しかし、懐かしんでいられるのも数秒であった。
これも懐かしい、内臓にズンとくる不協和音。
誰もが耳を塞いだのだが、は櫂を任せられたので耳を押さえられない。

「・・・ちょっ、ありえないでしょうっ!?」

頭痛がしてきた。
しかしこの場を逃げなくてはこの水賊とまともにやりあうことになってしまう。
この疲労の中それだけは避けたい。
とりあえず、櫂を動かしてみるが、櫂の使い方が全く分からない。
少し動かしただけで、舟は変なところへいってしまう。

「何これっ!?
全然上手く動かない」

しかし偶然川の流れを発見したは無理矢理その流れに小船を乗せた。
流れに沿って舟は向かっていく。

「・・・龍蓮・・・これでいい?」

舟はどんどん水賊の船と離れていく。
龍蓮はこくんと頷いた。
たった舟を少し動かすのになんて労力だ。
でも少し悔しいので水賊から逃げられた暁に龍蓮にいった。

「櫂の使い方教えて」



櫂の使い方は数刻で慣れたものとなっていた。
の手つきに安心したのか、気づけば龍蓮は居眠りしていた。
は苦笑して、今度は自分の上着を龍蓮にかけてあげた。
全く、無茶をしすぎなのだ。

さて・・・。

果てしなく続くかと思われた大河だが分かれ道に差し掛かったようだった。
龍蓮にどちらに進めばいいか聞こうかと思ったが、生憎彼は安眠中。
できることなら起こしたくない。

せめて地図があればいいのだけれど・・・。
地図があっても現在地が分からないという問題もあるのだがそこはまぁなんとかするとして・・・。

どっちにするか・・・。
悩んでいるうちにそろそろ方向を決めなくてはいけないところまで差し掛かっていた。
右、左、右、左・・・
延々との頭にその言葉が浮かぶ。

「・・・うむむ・・・どうしたものか・・・」

その時、舟が別の流れに乗った。
この流れは予想以上に強い。舟がいう事を聞かない。

「・・・しまっ・・・」

流れに乗ってはそのまま舟を右側へ下らせてしまった。



   

ーあとがきー

早速新しく得た知識(百合)を使ってみる(ぉ)
龍蓮が別人過ぎて泣けるのは今に始まった事じゃないので。
今はもう精神力だけで生きている状態なので。
回復したらまたいつもの調子に戻る・・・と思います!(戻れなかったらどうしよう)

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