・・・やっぱり人間、流されちゃ駄目。
自分の確固たる信念と考えを持つべきである。
根拠があれば尚更いい。
は今日それを心に刻み込んだ。
本当、龍蓮に何ていったらいいのだろう、正直あわせる顔がない。
ここで兇手が出てこないだけ事態はマシというものだ。
周囲の音に龍蓮が目を覚ました。
そして、滅多に見られない戸惑いの表情を浮かべた。
「・・・・・・ここは・・・」
は心の底から頭を下げた。
「ごめんなさい、龍蓮。
途中で流されて・・・どうやら玉龍まで来ちゃった・・・みたい。
本当ごめん。わざとじゃないんだけれど・・・ごめん」
「玉龍・・・」
自分はどれほど寝ていたのだろう。
っていうか、玉龍って・・・。
そういえば・・・あの大河の分岐点、右側の方に流れが偏っているから九彩紅に入るには左の岸に近付きながら進まなくてはいけなかったのだ。
流石の龍蓮もそこまで考えてなかった。
というか予想以上に眠りすぎた。多分、あれから二日は経っている。
少しの食料は持参していたがそれだけでは二日凌ぐのには辛いだろう。
の顔にはありありと疲労が見えた。
何とか二日間一人で櫂を取り続けていたようだ。
「・・・何もなかったか?」
「え、うん・・・。
道を間違えた以外はおかげさまで・・・」
龍蓮はすぐに近くに舟を着け、そのまま直行で宿に向かった。
それもかなり高級な。
「・・・え、龍蓮・・・。
こんなところ入っていいの?」
明らかに今の自分達には場違いな場所だ。
周囲の門番も自分達に気付き声をかけてきた。
龍蓮は無言で”双龍蓮泉”の札を見せる。門番は声にならない叫びを上げた。
気持ちは分かる。
浮浪者一歩手前の若い男女二人がまさか藍家関係者なんて誰が思うものか。
「私は藍龍蓮だ。
今すぐ、最高級の部屋を手配しろ」
門番は逃げるように中に入っていった。
その後の宿の反応は見ていて面白いものだった。
従業員全員でお出迎え。
その宿の最重要責任者まで出てくる始末だ。
しかし、自分たちの恰好が浮浪者一歩手前なので全く絵にならない。
唯一面目が保てたのは、自分たちの容姿が良かったことであろうか・・・。
それも疲労によって大分酷い状態になっているが。
「お部屋は用意させていただきました」
「・・・分かった。
とりあえず湯を使わせて欲しい。あと適当な衣装を見繕ってくれ。
藍家と分かるものは避けてくれ。
あ、あと紙と筆」
「はっ」
「・・・は・・・」
「え、私もいいの?」
「当然だ」
寝たことによって少しは気分が良くなったのか久しぶりに龍蓮の笑顔を見た気がした。
「じゃ、私もとりあえず湯を使わせてください。
あとは・・・ぐっすり寝たいです」
流石に不眠不休で二日間舟の番は疲れた。
本当は今すぐにでも寝台に転がりたいのだが、この汚さでこのような宿に入るのですら恐縮だ。
龍蓮は持ってこられた紙にその場で何かを書き始めた。
「・・・は先に行ってくれ」
「あ、うん。分かった」
綺麗なお姉さん達に引き連れられては湯殿まで行くハメになった。
本当に・・・この差・・・。
穴があったら埋まりたい。
「何か必要な物はありますか?」
「えっと・・・すいません。この宿をうろついても違和感ない程度の着物を用意していただけたら助かります」
「かしこまりました」
「薔薇風呂などもございますが?」
「お背中お流ししましょうか?」
「長旅で疲れておられているようですし、お風呂上りにお体をおほぐししましょうか・・・」
「塩もみもございますよ」
次々出される注文内容に二日間休んでいないの頭は限界だった。
なんかもう全て投げ出したい。
「・・・お任せします・・・」
そういった自分を後悔したのはすぐ後のこと。
部屋に帰ったは宿に入ったときの倍疲れが増していた。
お任せなんてするんじゃなかった・・・。
藍家の姫、または龍蓮の恋人辺りと勘違いされたらしく、を待っていたのは王妃より豪華な待遇であった。
色とりどりの風呂の数々。
何種類もの石鹸、マッサージ、美容液。の周囲を取り囲む綺麗なお姉さん達。
あまりの気持ちよさにマッサージの途中には眠ってしまったが、それでも体だけは色んなところに回されまくったらしい。
室に帰ったら寝るだけのはずが、髪も衣装も化粧もばっちり整えられてしまった。
自分はどこから間違えてしまったのだろう。
多分、龍蓮に連れ去られてしまった時からだ。
いや、龍蓮に出会ってしまったときから?
とりあえずここまでしてくれた皆様には申し訳ないが、このまま寝るのも気兼ねなので、服は丁寧に脱ぎ、髪も解き、化粧も落とした。
なんか凄い勿体無い。
体は何とか軽い感じがする。これもマッサージのお陰だろう。
後は寝て食べるだけだ。
そのままは寝台に突っ伏し、動かなくなった。
窓から入る光では目覚めた。
清々しい朝だ。
頭がとてもすっきりしている。
体がずっしりと重いが、きっとよく眠った証拠であろう。
豪華な装飾の寝台に、藍州へ来ていることを思い出した。
そういえば、ここ一月くらいか・・・過酷な日々だった。
右手が妙に温かい。
はなんとなく右に視線を向けた。
「・・・・龍蓮?」
龍蓮がの手を握ったままじっとしている。
寝台の脇には彼の愛用の笛があった。
の声に龍蓮が微笑した。
「おはよう、。
清々しい朝だな。鳥達も喜んでいる。
ここで一曲・・・」
「吹かなくていい!!」
何とか龍蓮から笛を奪っては一息ついた。
龍蓮の様子が大分良くなっている。
なんとなく、安心した。
「・・・凄い良く寝たわ・・・。
あれからどれだけ寝てたの私は。」
「・・・一日半といったところだろう。
夢は・・・みなかったか?」
は首を傾げた。
見たかもしれないが特に記憶は無い。
「さぁ・・・覚えてない」
「そうか・・・。そうと決まれば朝食だ!
朝食を食べに行くぞ、!!」
「・・・え、うん・・・」
何故龍蓮が夢のことを聞いたのか分からないが・・・。
とりあえず空腹を感じたのでは龍蓮の言葉に頷いた。
この宿なら大層な朝食が食べられそうだ。
今までご飯と呼べるものを食べた覚えがてんでないので素直に嬉しい。
箪笥に常備されている着物を適当に選び身に付けていく。
鏡台の上に一つ、青い珠のついた綺麗な簪がおかれていた。
「・・・?
ねぇ龍蓮・・・これ何?」
隣の部屋にいる龍蓮に話しかけた。
龍蓮はもう着替えているらしく、普通の美青年に変身していて驚いた。
今まではかなり質素な恰好だったため、あまり気にならなかったが、やはり龍蓮は素材がいい。
龍蓮はの簪を取って、まとめ上げられた髪にすっと挿した。
「・・・よし、準備は出来たかっ!」
「・・・えっ!?・・・うん・・・」
今の簪は結局なんだったのだろう?
宿に常備してあったものかしら?それにしては高価すぎるような・・・。
そこまで尽くす必要があるかしら?
龍蓮はの手を握り歩き出した。
「ちょっ、龍蓮一人で歩けるって・・・」
「いいではないか」
ふわりと笑う龍蓮の笑顔には首を傾げた。
普通すぎる。本当に彼にどんな異変が起こったのだろう。
二人の食欲に宿の従業員および客が唖然とした。
大皿を次々に平らげている、金持ちらしき恋人が二人・・・。
食べ物の無くなる速さは尋常ではない。
「ん〜・・・やっぱり久しぶりの肉はいいわぁ・・・vv
生き返る」
「心の友其の一の菜には劣るがな」
「仕方ないわ、食べれるだけ幸せだと思わなくちゃ・・・」
頬を押さえ幸せそうな顔をしながらもの箸は止まることをしらなかった。
朝廷ではどんなに忙しくても食事だけはたっぷり食べられたから生きてこられたが、今回の旅はすべてが不足していた。
本当に死ぬかと思ったが・・・やはり道を間違えて正解だったかもしれない。
しかし超高級料亭に匹敵するほどの宿の朝食に文句をつけられるのもこの二人だけであろう。
「今更だけどいいの?こんなに食べちゃって・・・」
「問題ない。金は幾らでもあるからな」
いざとなれば二人で賭場に入れば問題ないだろう。
大皿を二人で軽く十皿ほど重ね二人は手を合わせた。
『ごちそうさまでした』
食後のお茶が淹れられる。
は周囲を見渡しながら龍蓮にいった。
「そういえば、何か人の気配が減ったように感じるけど・・・」
「あぁ、玉龍に入ってから護衛をつけた。
ここにいる間は少しくらい気を抜いても構わない」
「へぇ・・・。どうするの?このまま九彩紅まで?」
「それが望ましいが・・・」
は窓の外を見た。
貴陽や茶州とは別世界だ。
外には平和が溢れている。
長く朝廷にいて、近年初めて外の世界に触れ始めたはただ関心するしかなかった。
貴陽が普通だと思っていたが、このような国もあるのか・・・
どれほど藍家、藍州の統治能力が優れているか分かる。
急ぎのようなら二、三日ほど観光していきたい気分だ。
水の都なんて文章や簡略な絵でしかは知らない。
「・・・『揺りかごから墓場まで』ってやつ?
負け惜しみでしかないけどね」
王都よりも優れている国が存在する。
多分、紅州も同じものだと考えていいだろう。
貴陽を、いや全ての国を藍州のように栄えさせるのが理想だ。
この国の歴史や政治手腕をみてもいいかもしれない。
・・・そういえば、ここの州牧ってあの『悪夢』の一人なのよね。
鳳珠様の同期なら少し会ってみたいかも。
どんな素晴らしい個性の持ち主なのだろう。(もはや常識人とは考えていない)
「龍蓮・・・急ぐ?」
「・・・観光か?一日くらいなら・・・。
、石を見せてくれ」
石?
リオウにもらったやつのことであろうか。
てか、なんで龍蓮がその事を・・・
そう思いながらは懐を探った。
「これのこと?」
小袋から石を出す。
出てきた石は黒く濁っていた。
珠翠に渡したものですら、軽く濁っていただけであるのに・・・。
龍蓮は顔をしかめただけで何もいわなかった。
「・・・なんで・・・」
「む、は知らないのか・・・」
「何を?」
龍蓮は愛用の笛の手入れをしながら言った。
「貴陽は都自体が『神域』なのだ。
そこでは縹家の術は使えない」
「え・・・そうなの?」
「だからもあの程度で済んでいる」
・・・あの程度って・・・。
はかつての体調不良の時期を思い出した。
あれでも死にそうだったのだが・・・。
そうなればこの石の濁り具合も分かる。
・・・あれ、これが最後。ってリオウ言ってなかったけ・・・。
なんかもう、これ・・・帰る頃には使い物にならなくなってそうなんですけど・・・。
「龍蓮・・・どうしよう・・・。
この石このままじゃ・・・」
「九彩紅もまた神域だ。
そこで何とか・・・なればいいな」
龍蓮には珍しく希望系の形だ。
「ちょっ・・・なればいいなって、人事のようにっ!
ということは九彩紅から出られないのっ!?
・・・何も言わずに出てきたからな・・・」
「代わりをおいてきたから大丈夫だろう」
「良くないわよっ!もしバレたら官吏なんて続けられないわよ・・・。
・・・確かに似ていたけど・・・それでも・・・」
「まぁ大丈夫だろう・・・」
龍蓮は立ち上がった。
「観光したいんだろう?
案内する」
「本当っ!?
・・・間に合うかな・・・」
は白い石を握った。
「間に合わなくても私が何とかする」
差し出された手を反射的に取ってしまった。
「では行くか」
「・・・うん・・・」
なんか、最近龍蓮くっついてくる気がするけど・・・。
気のせいか?
天気も見事な晴天であった。
少し暑いが我慢は出来る。
初めて貴陽を出たことを実感できたような気がする。
別世界の真ん中に立った気がした。
「・・・凄いわね、玉龍。
っていうか・・・貴方のお兄様?」
「時期会える・・・では行くぞ」
ーあとがきー
・・・こんなはずでは(orz)
玉龍は1話で終わらせるはずだったのに・・・。
玉龍まできて何がしたかったって?
・・・悪夢の5人目と絡ませたかったんだよ!(ただそれだけの理由)
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