舟でゆったりと水路を巡る。
ただ町並みを見て周るだけでも圧巻だった。
どこまで行っても綺麗な町並み。
全ての人が笑顔だ。

「凄いのねー。
あっ、龍蓮・・・私・・・」
「藍州の政の中心はあそこだ」

其の声には顔を上げた。
青い屋根が見える。
は歓声を上げた。

「あれが・・・州府・・・」

綺麗だ。
藍家の本家も凄いと聞くが州府だけでも本家と勘違いするくらいに壮大だ。

「凄いっ、龍蓮。
紫州とまた違う豪華さがあるわね」
「・・・あぁ、そうだな」

のはしゃぎっぷりに龍蓮は苦笑した。
ふと遠くをみて龍蓮は目を細めた。
・・・あれは・・・

「・・・うわぁ・・・舟もフル活用なのね。
州府の中にも河が流れているなんて・・・。
書翰を舟で運ぶって発想がなかった・・・。
確かに一気に運ばれるし・・・私みたいなのがいなくてもいいわね〜」

舟は丁度橋の下をくぐる直前だった。

「一ヶ月くらい働いてみたいっ。」
「なら働いてみるかね?」

上から声がした。

「・・・え?」

今の声は・・・
舟は橋をくぐった。
は舟から立って橋の上を見る。

「龍蓮・・・今の・・・」

橋の上にはこちらに礼をとっている二人の官吏の姿があった。
龍蓮は舟を止めた。

「お久しぶりです。藍龍蓮様。
そのような姿でお会いするのは初めてですね。
何の心境の変化でしょう?」
「・・・」

男が顔を上げた。
その陰鬱そうな表情には少し目を細めた。
・・・誰・・・?

――同期?
そういえば・・・死神みたいなやつがいたな・・・。今にも死にそうな奴。
今は藍州牧をしていて確か名前は・・・

「・・・姜・・・文仲・・・様」
「ほぅ・・・名前は知ってもらっていたか・・・。
光栄だ」
「・・・えぇ・・・黄尚書の同期さんですから・・・。
お会いできて光栄です」

は舟の上で跪拝を取った。

黄・・・尚書だと・・・。
文仲は物凄い嫌な顔をした。嬉しそうなと正反対だ。

・・・姜州牧・・・。暑いのかしら?
もしかしてずっとあの場所にいたから熱中症一歩手前っ!?

「龍蓮岸に移ることはできる?
いや、岸に近付くだけで良いわ」
「・・・ん?あぁ・・・」

舟が岸に近付いたところでは華麗に跳躍した。
そして岸に着地し、文仲のところまで駆け出した。
二人は首を傾げてを見た。

「あの、姜州牧大丈夫ですか。
気分とか悪くないですか?」
「・・・え?」

文仲はさらに気分の悪そうな顔になった。
隣にいた副官の州尹が噴出した。

「えっと・・・姜州牧は何かもう、常に死にそうな顔しているから大丈夫だと思いますよ。
心配しなくても元気ですから」
「・・・えっ・・・。
・・・そう・・・なんですか?」

がもう一度文仲の顔を覗き込んだ。
・・・ますます体調が悪くなっているようにしかみえないのだが・・・。

「そうなんです」
「少なくとも君が来る前は気分が良かったよ」
「・・・うっ、申し訳ありません」

そういえば、いつも死にそうな顔してるって言っていたっけ・・・。
確かにそうだけれど・・・慣れないと常に心配してしまいそうだ。
侮り難し悪夢の国試組・・・。

「そういえば、貴方は・・・」

は、はっとして正式な跪拝を取った。

「初にお目にかかります。
私・・・と申します」

そういえば、自分がここにいることを知られてはいけないのだった。
鳳珠の同期に会えたからといって、何たる失態。
チラリと文仲の顔を見た。

「・・・へぇ・・・、ねぇ・・・。あの無駄顔のところの・・・。
どんな娘さんと思っていたけれど・・・。
・・・ふーん・・・」
「・・・無駄顔って・・・」

さすが『悪夢』。鳳珠の顔を無駄顔と評価したか。
・・・確かに男からみればそうなのかもしれないが・・・。
完全に正体がバレてしまったが、彼の陰鬱な顔にうまい言葉がでない。
・・・くそっ、これも計算済みだというのか・・・っ。
手ごわい。

文仲はまじまじとの顔を見た。
どこかで似た顔、性格の女をみたと思ったら紅男の嫁にそっくりではないか。
なるほど、確かにこの娘なら後見くらいするかもな・・・。
その気持ち、残念ながら理解できない。

「・・・相変らずだな・・・。別にどうでもいいけど・・・」
「あの・・・何か?」

何か粗相でもしただろうか。
あ、さっきしたか。しかし特に恰好については問題ないはずだ。
たくさん寝て、たくさん食べて来たからとくに顔もやつれていないはずだし・・・。
副官に痛い目で見られ、文仲はコホンと咳払いをした。

「いや・・・黄尚書は元気かな?」
「はい、お陰さまで」
「・・・で、君は何をしに」
「・・・えっと・・・私用で藍州へ・・・。
今日は観光のつもりで・・・」
「私用・・・ね」

信用はできるわけではないが、鳳珠が放ったわけでもなさそうだ。
流石の彼も新米官吏を藍州へ持ってくるわけ無いか・・・。
藍龍蓮も一緒だ。

「どこかに行く予定でもあるのかな?
藍州はいいところでね、よければ舟を提供するよ。
州牧として、藍家のご子息に舟を漕がせるわけにはいかないのでね」
「どこでもいいだろう。貴様には関係ない」

船から下りてこちらに来た龍蓮がぴしゃりといった。
流石の文仲もピクッと顔の筋肉が反応した。
いつも頓珍漢な恰好と壊滅的な笛の音で全国を震撼させている迷惑の塊が・・・っ。
しかも今日に限って、まともな恰好とまともな言葉遣い。
おそらく笛もほとんど吹いていないのだろう。
一昨日”双龍蓮泉”を見たという報告があるまで藍龍蓮が藍州に来た事なんて分からなかった。
こちらがわざわざ期限とりに忙しい上暑い中待っていたというのに・・・。

「ですが・・・」
「行くぞ、

だから彩家な嫌なんだ。
特に藍と紅っ!!
藍家の三つ子と紅黎深に至ってはもう最悪な思い出しかない。

「・・・え・・・でももう少しお話したい・・・。
・・・あっ、でも姜州牧もお忙しいですよね。
すいません、お忙しい中時間をとっていただき・・・」
「いや・・・」

別にのために立っていたわけではないのだが。

「もし、貴陽にお立ち寄りになった際は是非色々なお話を聞かせていただきたいです。
鳳珠様、悠舜様や管尚書あたりも懐かしがっておられますし・・・」

管・・・尚書・・・。
黎深の名前が出てこなかったことが幸いした。
しかし飛翔も文仲にとっては天敵だった。
何故あの不良が官吏になれたのかが、今でも謎だ。

さらにげっそりとした顔になった文仲には心配した。

「あの・・・本当に大丈夫ですか?
そろそろ日陰に入られた方が・・・熱中症を侮ってはいけませんよ。
・・・三年前だっけ・・・?
貴陽で猛威をふるって大変なことになってましたから!」
「・・・あぁ、そういえばそんな事にもなってたねぇ・・・」
「鳳珠様ですら倒れかけてましたから・・・確かに酷かったけど・・・。
・・・あれ・・・あれは風邪だったっけ?」
「・・・・・。
ねぇ、興味本位で聞いてみるけど君と鳳珠の出会いってどんな感じだったのかな?」
「あぁ、その猛暑の酷かった三年前の夏、熱中症か風邪で暑い中歩いておられてぶっ倒れたところを助けたのが私です」

相変らずの運命の出会いだ。
向こうの方が少し若いがその歳で今でも青春できるのは羨ましいというか、いい年して恥ずかしいというか。
・・・っていうか、なんで暑い中わざわざ歩いてるんだ・・・。
まさかこの出会いを狙っていたのか!
・・・あー同期としてなんか恥ずかしくなってきた。
でも悠舜も確か若妻もらっていたしなー・・・。

「では、失礼します」
「あぁ・・・気をつけて・・・」
「よろしければ、文を送らせていただきますね」

・・・なんで?



龍蓮は舟に乗り込みすでに川をくだっていた。
は苦笑して、二人に礼をとった。

「では、またお会いできます事を」

龍蓮の舟は橋の下をくぐった。はそのまま助走をつけて走っていく。
文仲と州尹は目を見張った。
は細工の美しい橋の手すりを掴んで思い切り身を投げ出す。
二人はぎょっとした。
しかし水音は聞こえなかった。

は船の上でまた二人に跪拝をした。

文仲は苦笑した。
・・・あの身のこなし方もそっくりだ。

「・・・これから来る方々には、どうぞお手柔らかにお願いします」

最後の台詞に文仲はピクリと反応した。
この娘・・・。
中央からは何も話は来ていない。
しかし、あの話し方では、まるで大事な人が来るかのような予言だ。
藍楸瑛が花を返上し、将軍職を降りて藍家に帰ってくるという。
・・・しかし、今更藍楸瑛に気を使う必要がある?
もっと・・・別の・・・



「・・・龍蓮、そういえば藍家本家ってここにあるのよね」
「あぁ、今から行こうと思っていたのだが・・・」
「お兄様たちはそこにいるのよね?
なんで九彩紅に・・・」
「雪兄達は九彩紅に避暑にいっているのだ」
「・・・あぁ・・・それで九彩紅・・・」

は上を見上げた。
・・・・なんか岩が見える。よく見ればその岩の上に建物がちょこんと乗っている。
の表情が固まった。

「・・・ねぇ・・・何あれ・・・?」

の指の先をみて龍蓮があぁ、と頷いた。

「あれが本家だ」
「・・・マジで・・・?」

信じられない。岩をも囲むほど広大な城・・・。
龍蓮だと顔パスで本家に入れる。

そのまま舟で本家を一周する。
どこをとってもその美しさは完璧であった。

「・・・こんなところに本当に人が住んでいるのね・・・」

綺麗な着物を着た女性達が庭でお茶会をしている。
そういえば、龍蓮の父はたくさん側室がいるってきいたし、彼女達だろうか。
後宮なほど華やかだ。

・・・すべてが紫州を上回っているように感じた。

「・・・龍蓮・・・」
「なんだ?」
「できれば早く紫州に戻りたいんだけれど・・・。
観光したいと言ったのは私だけれど・・・ごめん」

まだまだ難問はたくさんあるけれど、未来の想像図は膨らんできた。
やはり実際見聞することは大事だ。

「・・・では、あの岩の上で休んでから出立するか・・・」

兄上達の気に入りの場所だが、いないし別に構わないだろう。

「行けるのっ!?」
「あぁ・・・」


長い階段を上り最上階までついた。
藍州を一望できる圧巻の景色には言葉が出なかった。
こんなに高いところに昇ったのは初めてかもしれない。

「・・・あれが臥龍山脈・・・。
九彩紅のあるところだ」
「・・・あそこに行けばいいのね」

大きな大河が山に続いている。
は方角を確認した。もう間違えるものか。

二人は設置されている茶器で休憩をした。

「・・・そういえば、龍蓮ここに来てあんまり笛吹いてないんじゃない?
それに恰好も・・・・
本当になんの心変わり?」
「・・・九彩紅についてから話すといったが・・・。
・・・は今、藍家と縹家に狙われている」
「・・・え?」

いきなり物騒な話になった。
は持っていた茶器を落としそうになった。

「紫家の娘は生まれた後すぐに縹家に送られることは知っているか?」
「・・・えっ、そうなのっ!?」
は例外らしいな。多分誰かが隠したのだろう・・・
それが最近になってだんだん広まってきた」

確かに・・・。
縹璃桜が迎えに来たのは、そのためだったのか。
朝廷でも思ったが、旺季が今更自分に目をつけるのは不自然だ。
普通ならもっと先に消しに来るはずなのに・・・。

は力がありすぎる上に闇姫だからな。
縹家には喉から手が欲しいほど欲しい存在だ。
しかも・・・最近異能に目覚めたのだろう?」
「・・・何で知ってるの・・・?
真性の天才って・・・そんなに凄いの?」

・・・っていうかなんかもうストーカーの域・・・?
の言葉をさらりと龍蓮は流した。

「あと藍家だが・・・。
少し朝賀の時に口を滑らせてしまって・・・」
「・・・龍蓮が?」

珍しく口ごもっている。
は首を傾げた。

「・・・どうしたの?何を言ったわけ・・・?」
「いや、良い。
とにかく厄介な事になってしまったのだ。
それで、藍家からの追手もきている」

藍家からの追手って・・・相当の事では狙われないはずだ。
本当何を言ったのだ、この馬鹿は。

「・・・そんなに・・・私って邪魔なの?」
「いや、藍家については私が悪いっ!
・・・本当はに迷惑をかけるつもりはなかったのだが・・・。
標的がになってしまっては私でも防ぎようがないのだ・・・」

珍しく、といってはいけないかもしれないがかなり焦っている。
もしかして、まともな恰好も笛も・・・目立たないために気を使ってくれているため?

「・・・龍蓮・・・」
「・・・いや、でも認めてもらうと・・・。
・・・まぁいい。とりあえず九彩紅だ!」

何か彼自身の中でも自棄な感情が芽生えてきたらしい。
は少し口元を引きつらせた。

「・・・え、うん。じゃあ出発しましょうか」

何か不安が増強したのだけれど・・・。
ここまできたら当たってくだけろ・・・よね。


   


ーあとがきー

出せたっ!
最近は文仲さんが既婚者か未婚者か気になるところです。
いや多分既婚者だと思いますが・・・。
外見さえなんとかなれば彼も前向きでいい人ですしね!(あのそれ鳳珠様と同じ理由・・・)

・・・・そして未だに龍蓮の性格がつかめてない件について。
今はいいとして・・・ど う し よ う 。


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