藍家本家でたっぷり休息をとり、旅支度を整え、龍蓮とは再び舟に乗った。
次はとても危険な船旅となるとなるらしく頑丈な舟を龍蓮は手配した。

「さて、行くか」
「了解。・・・・で?九彩紅にはあとどれだけでつくの?」
「半日だ」
「・・・半日?」

前聞いた時は七日だって言っていたが・・・。
もしや玉龍経由の方が早くついたのだろうか。
・・・もしかしたら龍蓮なりに安全な道を進んでいくつもりだったのかもしれない。

「今から半日・・・っていったら・・・夜になるわよ」
「九彩紅付近までは暗くなる前に着く。
そこまで行ってしまえば後は問題ない」

そういって龍蓮は舟を漕ぎ出した。
はじっと玉龍の景色を目に焼き付けた。

・・・皆が幸せに暮らせる世界・・・。

「・・・龍蓮・・・」
「なんだ?」
「・・・なんかかなり無理矢理だったけれど・・・・
私をここまで連れてきてくれてありがとう」

お陰でまた何か新しいものを学べた気がした。

「今度はゆっくり来るといい・・・。
藍州は素晴らしいところがたくさんある。
色んなところを案内してやろう」

まともな恰好でまともな台詞を吐き爽やかに微笑する龍蓮は本当にただの美青年だ。
は雰囲気に流されぬよう、龍蓮の懐から見えている笛をじっとみて、あの怪音を思い出そうとした。



玉龍を出て半刻後。はおかしな景色を見た。
河が途中で途切れている。

「・・・あれ、龍蓮行き止まりじゃない?」
「いや、進めるぞ」

どんどん行き止まりに近付くにつれては自分の今後の運命を悟った。
ドドドドド・・・・と地響きが聞こえる。
・・・これはもしかしなくても・・・。
龍蓮の目が楽しそうに輝いているのが見えた。
・・・ちょっ、楽しんでやがるコイツッ・・・。

「さぁ、逝くぞ!
いざ、鳥の世界へ!!」
「・・・ちょっ、嘘っ本当にマジでっ!?
・・・ゲッ・・・」

龍蓮に近付いて滝のそこを覗いてしまったのが運の尽き。
予想以上に大きな滝だった。
舟は数拍宙を飛んだ。鳥のように。
そして、そのまま落下する。
は必死に舟にしがみついた。

『っていうか変換がぁぁぁああああーー!!!』

の叫びは滝壺の中へ消えていった。



「・・・はぁ・・・はぁ・・・
死ぬかと思ったぁぁぁぁぁーーー・・・っていうか死んだぁぁああーー・・・」

九死に一生の体験の後、は悟りを開いていた。
絶対人生五回くらい死んで生き返られる。
・・・この旅で私は仙人になれるかもしれない。
もう何が起きても驚くもんか。

藍州一の滝を眺めながらは船べりにしがみついたまま荒い息を繰り返していた。
叫びすぎて変な声しか出ない。
龍蓮は何事もなかったように舟を進めていく。
本当に彼の(特に頭の)構造はどうなっているのだろうか。
彼自身は仙人になる事を望んでいるらしい。確かに一緒にいると仙人になれそうだ。

「・・・せっかく新しい着物だったのに濡れちゃった・・・。
・・・!」

大河が狭くなってきた。
岸が近くなる。
は岸から幾つかの気配を感じた。
これが・・・龍蓮のいう追っ手。
今まで襲ってきた敵の数や、強さとは比べ物にならない。
統制もしっかり出来ているし、何より気配が読みにくい。
は着物の帯を解いた。

「龍蓮、何があっても後ろを向いちゃ駄目よ」
「・・・・ん?・・・あぁ・・・」

こんな水に濡れた重い着物を纏っていたらいざ戦いの時に動けない。
・・・もっと動きやすいものに・・・。

危ないっ!」
「こっち向くなって言ったでしょう!
着替え中よ、馬鹿ぁぁ!!」
「ぐはっ」

せっかく注意してあげたのに・・・。
その辺にある果物を投げつけられ、龍蓮は久しぶりに泣きたくなった。
敵の遠距離攻撃も華麗にかわし、はきゅっと帯を締めた。
夏でよかった、薄着でも寒くない。

「・・・いや・・・薄着すぎるだろう・・・それは・・・」
「うるさいっ!
準備する暇があれば勝負服持ってきたわよ!!」

・・・勝負服・・・。
龍蓮が目をそらしつつ、舟を操る。
旅支度をするとき、珍しくが着物が欲しいと真剣に選んでいたから、ツケで買ってあげたが・・・まさかこんなに改造されるとは。
腕の部分をおおう布は全て切り取られ、足には深い切込みが入っている。
風で彼女の足が見えたり、見えなかったりするが、これで戦闘をするつもりなら確実に見える。
さらにいえば胸元も結構開いていたりして、非常に目のやりどころに困る。
真性の天才も、には動揺した。

「・・・さぁ、どこからでもかかってきなさいよ。
ご飯も食べて元気十割!
この様が直々にお相手してあげようじゃないの!」
「・・・・・・この後急流になる」
「あー・・・んじゃ、岩とかも突き出てる?
足場とかあるのよね」
「・・・あぁ・・・」
「好都合じゃない!龍蓮はしっかり舵お願いね!」

兇手との戦闘は操られた珠翠以来であった。
あれからも少し体を鍛えるために毎日訓練をしてきた。
それを実践で試すいい機会だ。

舟が大きく揺れた。
急流地帯に差し掛かった。
タンと、岩の上を誰かが通ったような気がした。
は小刀を投げる。
一瞬敵の残像が見えた。

「まずは一人!」

は身近な岩に乗り勢いをつけ相手に斬りかかった。
水飛沫が飛ぶ。
は川をみて目を細めた。
流れが早い。一度落ちたら終わりだ。

「・・・さて、次は誰かしら?」

龍蓮の舟についていきながら、は敵を片付けていった。



ある一線を越えると周囲は一気に霧深くなった。
追手の気配が遠くなる。
ははぐれないように龍蓮の舟に戻った。

「・・・なんか視界が悪くなったわね・・・」
「九彩紅だ」
「ここが・・・」

目の前に見えるはずの山が霧で見れない。
は山頂に三人の気配を感じた。
・・・確かに・・・当主の三つ子は上にいる。

「これから登るのね・・・」
「・・・あぁ、もう少し楽をする」
「・・・楽?」

は少し肌寒くなって、新しい着物を羽織る。
ドドド・・・という地の底から響く音が遠くから聞こえてきた。
・・・滝?
しかし今度は違った。
目の前に滝がある。

「・・・あれここ滝壺・・・」

龍蓮は構わず滝壺へ向かっていった。
はまさかと思いつつ滝の頂上を見上げた。
よく見えないが物凄い高いのだろう。

「・・・龍蓮・・・あのもしかして・・・」

がみなまで言わないうちに龍蓮の目がかっと開いた。
舟は水の落下地点のすぐそばにいる。

、しかとその目に焼き付けろ!
秘技、龍の滝上り!」

は舟の縁にしがみついた。やっぱり〜っ!

しかし舟はそこから動かずかわりに龍蓮のはちゃめちゃな笛の音が周囲に響く。

「・・・え?」

一瞬にして空気が変わった。時間が止まったかのように静かだ。
揺れていた水面が静かになる。
そして水は滝を逆に映し出した。
これは・・・。
その時すっと舟が進み出した。
そして水に映る滝を昇り始める。
落ちているように見えて登っている不思議な感覚だ。

「・・・えっ」

気付けば滝を昇り終えていた。
龍蓮の笛が止む。

「何今の・・・」
「鏡界・・・という。ここは縹家の土地だからな。手を加えれば奇妙な事も起こるのだ」
「・・・そういうもんなの・・・?」

龍蓮は舟を岸につけて、大きく伸びをした。

「ここからは徒歩になる。追手もここまでは来ない」
「・・・そう・・・やっと気が抜けるわね〜」
「全くだ」

そう言いながら龍蓮は髪をほどいて改めて結い始めた。
懐から羽根を取り出して髪に挿す。
それからその辺に生えている草やキノコを頭に乗せ始め、瞬く間に藍龍蓮へと変身した。
髪型だけでその圧倒感・・・。
そのままで良かったのに・・・とは内心ため息をついた。
龍蓮はたちまちに本来の輝きを取り戻した。

「ふっ、九彩紅、夏の特盛り大集合、だ!
さて迷いの山探索を始めるぞ」

・・・性格も戻った・・・。

はあまりの絶望感に膝をついた。

「む、どうしたのだ。何か悪い物でも食べたか?」
「・・・いや別に・・・。
そういえば・・・もう夕方・・・」

そろそろ晩ご飯の時間かも・・・。
この辺食べる物あるのかしら・・・?
がその辺に生えていたキノコを覗いたときだった。

ガサガサッ

いきなり目の前の茂みが動いた。
そしてぬっと大きなものが顔を出した。
初めて見た異性物には一瞬固まった。頭の中は真っ白だ。
と異性物は数秒見つめあった。
そして最初に動いたのは、思考能力を回復しただった。

「きゃ〜っ!何この突然変異のクマはっ!」

思わず龍蓮の後ろへ回る。
龍蓮は一瞬険し表情をみせたがすぐに笑顔になって白黒の熊に突進していった。
龍蓮に合わせて熊も両手を広げた。

「ちょっと、龍蓮危ない・・・」
「心のパンダ其の四〜っ!」
「・・・は?」

何よ心のパンダって・・・。
の動揺をよそに龍蓮と心のパンダ其の四は熱く抱擁を交わしている。

「久しいな・・・っ。
今年も豪雪だと聞いたがよく生き残ってくれたな。
ここで一曲・・・べふっ」

やっぱり動物といえど龍蓮の笛は嫌らしい。
殴り方が容赦ない。体格も立派なので相当痛いだろう。
たんこぶを作りながらも異性物との交流を続けている龍蓮に関心した。
すると、心のパンダ其の四の後ろから子どもらしき小さな黒白の熊が顔を出した。
丁度抱きかかえられるほどの大きさで、もふもふしていて、丸くて、動きも可愛い。
それらは瞬時にの心を鷲掴みにした。

「・・・何これ・・・っ。
超可愛い・・・」

恐る恐るは近付いていった。
龍蓮と親が仲が良いからといって私も仲良くなれるわけではないし・・・。
動物は人間以上に敏感だ。

「むっ・・・其の四にも子どもが・・・」
「・・・龍蓮・・・」

触りたい、の意志を龍蓮に送る。
龍蓮はその意志を親に送った。
一拍龍蓮と親パンダは見つめあった。

意思疎通完了。

「・・・大丈夫だ、
「・・・え・・・?うん・・・」

今の間はなんだ。
はそっと子パンダに手を伸ばした。
すると子パンダの方からの元へ寄ってきた。
・・・激可愛い・・・!!

「いやーんっ、何これ、凄いもふもふ〜。
連れて帰りたい、鳳珠様喜ぶかなぁ・・・?・・・いやでも鳳珠様に・・・パンダ?」

どっちかというと小動物の方が似合うかもしれない。
っていうかこれ成長したらあれだけ大きくなるんだし・・・。
・・・うわ・・・龍蓮気持ち良さそう。
えっと、これパンダっていうの?パンダに抱きついて寝たら最高だよな・・・。

・・・って・・・

「龍蓮?」

パンダに抱きついて離れないと思っていたら龍蓮はそのまま眠ってしまったようだ。
親パンダもそれを分かっているのかそのままそっと龍蓮を背中に乗せた。
そしてに目で合図をおくる。

「・・・ついてこいってことかしら?」

子パンダを抱えたままは親パンダについていった。


   


ーあとがきー

真性天才龍蓮復活ー!(ということにしておく)
パンダとの再会もできたことで次は九彩紅の攻略ですね。
・・・想像以上にペースが遅い事に泣けてくる。最近長編・・・話数多くね?

うん、きっと後半VS縹家が短いから大丈夫。(ちょっと、それ一番大切なところっ)

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