糸が切れたように龍蓮はずっと眠っていた。
しかも、大人パンダに抱きかかえられている。相当気持ち良さそうだ。
は龍蓮の心のパンダ其の四の家、もとい土の穴の中に居心地悪そうに座っていた。
案内されたのは嬉しいが少し狭い上に、自分とパンダは面識がない。
どう非言語的会話をパンダとしたらいいか分からない。

がいてもパンダも怒る様子はないのではとりあえず一晩ここで休ませてもらうことにした。
外で寝るより幾分かはマシだろう。子パンダもいて風邪をひくことはなさそうだし・・・。
親パンダの方は龍蓮から離れることはなくじっとしている。
まるで龍蓮の親のようだ。

・・・しかし、龍蓮がここまで無防備に眠っているなんて・・・
ここまで来るのに相当の神経を使っていたのだろう。
九彩紅に来るまで追手にも会った。
何とか撃破してきたが・・・

膝に子パンダが乗ってきて、心地よい温かさがを包む。
そのままは壁に寄りかかりながら眠ってしまった。



穴の中は暗い。
が目覚め、外に出た時には太陽が昇っているようだった。
九彩紅は木が多い茂っていて日が昇っていても薄暗い。

「なんだか・・・妙なところね・・・」

は周囲を見渡した。
同じ景色が広がり、元いた場所が分からなくなりそうだ。
風が水の匂いを運んできた。
この近くにあるらしい。

は一応のため木に印をつけながら道を進んだ。
一緒に寝ていた子パンダがついてきてくれる。
何の気配も感じない森の中、一人で進むよりも心強かった。


「・・・湯気?」

茂みを抜けたところに泉があった。
しかし、その泉からは湯気が上がっている。はおそるおそる指を入れてみた。

「・・・温かい・・・これ、温泉なんだー」

は自分を見下ろした。
思い切り暴れて、水も被って、土の穴の中で一泊したので気持ち悪い。

「龍蓮も寝てるしな・・・。
少し温泉に入っていこうか。確か荷物の中に着替えあったし・・・」

服も汚れているし、このまま入ろうかな・・・。
まぁ誰も見てないと思うけど・・・。

は温泉に足をつけた。

「・・・?」

何か違和感がある。
はじっとお湯を見た。
入って良いのだろうか。水の中には生き物は見られない。いや、生き物が住むにはちょっと熱すぎるか・・・。
子パンダを見ると、子パンダが思い切りお湯に飛び込んだ。
そして器用にに泳ぎながらこちらを見る。入っても大丈夫といってくれているのであろう。
もパンダを見習い思い切り飛び込んでみた。

全身が温かいお湯で包まれる。
それと同時にの体内で、奇妙な力がゆっくりと動き出した。
力に反応し、お湯が揺れる。

「・・・っ!」

違和感の正体には気付いた。
・・・もしかしなくても・・・ここの水は。
子パンダが異変に気付き、泉から飛び出した。

それでいい。
は全身の力を解放した。
一拍の後、水が思い切り波を打った。



「・・・っ、なんだ・・・!?」

空気の揺れに龍蓮が目を覚ました。
心のパンダ其の四に礼をいって、そのまま穴を飛び出す。
がいない。そして、木に印がついている。

「・・・やはりか・・・しかしこの揺れは・・・」

九彩紅全体がの力に反応している。
力の解放は確かに大切だ。
しかし、こんなにも急激に行うと、気付かれてしまう。

龍蓮は笛を抜いた。
そして、息を吸い、笛を鳴らした。


「・・・この音・・・龍蓮?」

は水面に顔を出した。
いつ聞いても不快な音はどんどんこちらに近付いてくる。
は顔をしかめた。
そして茂みから笛を吹いている龍蓮が表れた。
・・・服、脱がなくて良かった・・・

「龍蓮、起きたの?」
「・・・・・・」

少しずつ揺れが収まっている。
龍蓮は泉をみた。
自体は今何もしていない、だが、しっかり泉は波紋を打っている。

「・・・この辺は色々温泉が湧いている・・・。
しばらく浸かっていると良い。
・・・だが、むやみな力の解放はやめた方がいい。
ここは神域だが貴陽ではない・・・」
「・・・うっ、うん・・・ごめん・・・」

真面目に龍蓮に言われると、頷くしかない。
しかし、龍蓮は何故こんなに詳しいのだろうか?
自分の知らないこともなんでも知っている。
これが真性の天才?・・・でもそれとこれとは・・・

「・・・ねぇ、龍蓮。
そういえば、玉龍で九彩紅も神域って言っていたわよね。
この水も関係あるの?」
「あぁ、これは禁池と同じ水だ。
の力を解放するのに適している」

龍蓮は、お湯に足だけ浸した。

「うむ、やはり温泉は九彩紅が一番だな」
「え、そうなの??」
「あぁ、疲労回復にも効くのだ。
あと血行が良くなったり、肌がつるつるになったり・・・」
「マジでっ!?ちょっと泳いでくる!!」

潜るに龍蓮は苦笑した。
そして足だけお湯につけたまま龍蓮はその場に倒れ目を閉じた。
・・・まだ疲れている。
兄達がいる社に辿りつくには二日いる。
倒れた龍蓮に子パンダが近付いてきた。
龍蓮は軽く頭を撫でてやった。の力の解放に驚いたのだろう。泉に近付こうとしない。

「・・・は少しやりすぎたのだ。
大丈夫・・・」

・・・だが、大丈夫ではすまないこともある。
あれだけ、盛大に力を解放し九彩紅を揺らせば・・・
あと少し、体が持てばいいが・・・

水と違い、お湯の中で動いていると体が熱くなる。
は水面に顔を出し陸に戻った。
龍蓮がお湯に足をつけながら眠っている。

「・・・全く・・・。
眠いなら寝てれば良いのに・・・」

・・・もしかして、私が起こしてしまったのかしら・・・。

子パンダが離れたところからを見ている。
先程は驚かせてしまったらしい。は苦笑して手を伸ばした。

「ごめんね。つい懐かしい気分になってしまってね・・・。
あとで美味しい果物あげるから許してくれないかな?」

そういって、は泉から出た。

――ミツケタ


「・・・・!?」

・・・何今の声は・・・?
龍蓮がパチっと目を開いた。

「・・・・・・クッ、まずいな・・・。
山を登る体力は残っているか?」
「うん、私は大丈夫。
・・・龍蓮は・・・無理そうね。
私は、先に行った方が良い?」

龍蓮は迷った。
この山は藍家直系の血がないと確実に登れない。
遭難した者も過去に五萬といる。
ここでを先に行かせて、無事に龍眠山の藍本邸に辿り着ける確率は五割を切る。
むしろ、隣の山の縹家の社に行く可能性の方が高い。
どうやら向こうにも居場所は見つかってしまったらしいし・・・。

は黙って龍蓮の顔を見た。
ここに来た理由もいまいち分からない。
ここがどこだかも分からない。どこに行けば良いかも分からない。
龍蓮の指示を仰いだ方が賢明だ。

「・・・、今から、無意味だと思うが藍本邸までの道のりを描いた地図を渡す。
あと一日休んだら私もすぐに向かうから先に行ってくれ・・・。
藍家の刺客はないが縹家の刺客が来るかもしれないから・・・気をつけて・・・」

そういって龍蓮は荷物からボロボロの書翰をに手渡した。
はその書翰を開く。

「・・・藍本邸って・・・山の上にあるの?」
「あぁ・・・この山を登ればつく。・・・がこの森は人を狂わせる。
は紫家の血を引いているから尚更かもしれない・・・」

は知らないだろう。
この山は『彩八仙に試される山』

王たる資格のあるものだけがあの宝鏡山の上にある縹家の社にたどり着ける。

・・・ちょっとまて。
これでが宝鏡山の社についてしまったら・・・。
むしろ瑠花に見つかってしまった以上、そちらの方に導かれる可能性が高い。

「・・・やはりもう一日・・・」
「大丈夫、行くわ。かならず藍本邸にたどり着いてみせる。
なんか試されているような気がするし・・・」
「・・・試されているだろうな・・・。
、分からないかもしれないが、一応言っておく・・・。
隣の宝鏡山にの社だけには絶対行くな。必ずだ」
「・・・何があるの?」
「・・・縹家の社だ」

縹家の・・・
ドクンと心臓が跳ねた。
冬に一度会った、璃桜を思い出す。そしてその息子のリオウも・・・
私の中に流れるもう一つの一族の血。
そして、この不思議な力を操る神祇の一族。

・・・気になることはたくさんある。
けれど、今は・・・

、藍家本邸に行けば兄上達が良くしてくれるだろう・・・。
もし、四日経って迷うようであれば今のように泉の中に入り力を解放してくれ。
大体居場所が分かるから・・・」
「分かった。ありがとう・・・頑張ってみる」

後ろの茂みが動き、親パンダ、もとい心のパンダ其の四が顔を出した。
龍蓮を迎えに来たらしい。

「えっと・・・私なら心のパンダ其の一になるのかしら・・・?
龍蓮をよろしくね」

親パンダの目が頷いている。
は先程驚かせてしまった子パンダの頭を撫でて荷物を持った。

「じゃ、龍蓮、先に行くね。
あとで藍本邸で会いましょう」
「・・・うむ。に幸あれ」


の気配がどんどん遠ざかっている。
玉龍で休んだこともあり、体力が有り余っているのだろう。
最初から飛ばすことはないのに・・・。
龍蓮は苦笑して笛に口をつけた。

居場所くらいは紛らわすことができるだろう。



「・・・うむむ・・・。
山登りって結構大変なのね」

龍蓮と別れて一刻。
は早速迷ってみた。先程現在地くらい聞いておけばよかったかもしれない。
聞いてもどこまで進んだか分からないだろうが・・・。
目印はないし、あるものといえば木と泉のみ。
気付けば山を降りているし、なんという不思議空間なのだここは。

とりあえずひたすら登れば何とかなると思っていた自分が甘かったか・・・。

地図を無意味に眺めながらは首を傾げた。
宝鏡山の縹家の社か・・・。
ここに縹家の人がいるのだろうか。

「ここは藍家の領地なのに・・・。・・・あれ、縹家の人ってどこにいるんだっけ?」

世界に目を向けることの大切さを痛感した。
紫州事情しか知らないのは中央官吏としてまずいだろう。
世界の流れが読めなければ政は出来ない。

「さて、とりあえず進みますか。
適当にいけば何とかなるかもしれないし・・・」

藍本邸には二日掛かるといっていた。多分道のりはまだ長いだろう。
は良い考えも浮かばないのでひたすら登ることを決めた。



「・・・そういえば、龍蓮がここに来るんだったかな?」
「そうみたいね。しかも可愛い女の子連れてくるんでしょ?」
「・・・可愛い女の子っていうか・・・。
いつやら貴陽で楸瑛の連れてきた琴の上手い子でしょう?」

藍本邸。
同じ顔をした青年達が一つの室で自分達の思うままにくつろいでいた。
やることは違っていても個性がない。
お茶を持ってきた玉華に雪那が目を向ける。

「・・・ねぇ、玉華。龍蓮達は今どの辺」
「昨日龍眠山に入って・・・どうやら殿が縹家に見つかったようです。
龍蓮さんは入り口のところで休んでいて、殿を先に行かせたみたいですけれど・・・」
「ふーん、確実に迷うね」

一人が玉華の持ってきたお菓子に手を伸ばした。

「てか、やばいんじゃないの?
ちゃんだっけ?縹家に見つかっちゃったんでしょう・・・
そのまま宝鏡山まで連れて行かれちゃうよ」
「別にその子には興味はないけど、龍蓮がそこまで固執する理由は気になるなぁ。
縹家でどう扱われるかとかはどうでもいいけど、少し話してみたいかも」
「さすがの龍蓮も縹家には敵わないからね・・・。
こちらとしても、龍蓮を危ない目に合わせるのは本意でない」

さて、どうするか。

一考した後、藍家の当主のとった行動は同じだった。

『さて、可愛い弟の彼女を拝みに行きますか』
「・・・玉華、留守を頼んだよ」

庭を散歩するような感覚で三人は龍眠山を下っていった。



一晩が過ぎた。
流石に登れば登るほど野宿は厳しくなってきた。
太陽が昇る前には目が覚めた。標高が高くなってきたのか朝は寒い。
は適当に温泉を見つけ、寒くなったら浸かるようにしていた。
ついでに力を少し解放できるので体が楽になるような気がする。

「さて・・・。
確実に上までは来た気がするのだけれど・・・。
それでもまだつかないのよね。進む速度は速いほうだと思うんだけれど・・・」

龍蓮は大丈夫であろうか。
九彩紅についた時は大分元に戻っていたのに昨日はまた普通の人に見えた。

おいてきたのは少し申し訳ない気もするが、それでも自分を守るために神経を使わせるよりは幾分かましだ。
自分だって、身くらいは守れる。
温泉から上がりさっぱりした頭のまま早い朝食を食べる。

「・・・さて、今日もいっちょ山登り行きますか!
・・・なっ!!」

足元に苦無が刺さった。
は紙一重で避ける。
仮面を被った兇手が三人。
予想以上に早いお出ましには苦笑した。

「・・・あまり会いたくなかったんだけどな・・・」

腰から扇と短剣を抜く。
どこか朝廷で操られていた珠翠を思わせるような動き。

「・・・縹家からのお出迎えありがとう」

は跳躍し近くの枝に飛び乗った。

「・・・一緒に山登りを楽しまない?
できれば、藍本邸まで連れて行ってくれれば嬉しいんだけどな?」

三人の兇手は同時にに襲い掛かった。


一刻ほどと兇手の追いかけっこは続いた。

「チッ、操られてでもいるのかしら・・・。動きが鈍らないってどういうことっ!?
こっちはかなり疲れてるって言うのに・・・」

それでも何とか攻撃を凌ぎ、山を登るように心がける。
しばらく、兇手と戦っていたら、どこかに誘うように攻撃を仕掛けているような節が見受けられた。
は無理矢理その誘いと逆の方向にいくように山を登る。

もし、目的地が縹家の社であったとしたら、そこへ行ってはならない。
運がよければ反対方向にある、藍本邸にいけるかもしれない・・・。
いちいち相手をするのも疲れたは、近付いてきた兇手の喉元に短剣を突きつけた。
肉を切り裂く感触。一拍おいて鮮血が噴出す。

「・・・ごめんなさいね、私だってやらなきゃいけないことがある」

二人目を片付けようと体勢を変えた瞬間、宙に浮いたを狙って二人の兇手が同時に向かってきた。

「・・・ゲッ・・・」

短剣と扇を兇手向かって構えるがニ対一じゃ分が悪い。
扇の方は攻撃を防ぐだけで殺傷能力はまるでないし・・・

一瞬早かった方の兇手を短剣で捌き、相打ち覚悟では扇を広げた。

「・・・・ッ!?!?」

何か別の方向から矢が飛んできた。
に兇手の刃が届く前に兇手の体が横に飛んでいく。

「・・・え?」

はそのまま着地した。
・・・今のは・・・?

「おー、見事命中だね。流石雪那」
「義妹になるかもしれない子を見殺しになんて出来ないからね・・・。
かなりおっかない子・・・みたいけど」

先程の緊迫感を吹き飛ばす会話。
は声の先を見て、目を丸くした。
・・・同じ顔が三つ・・・。

初めてではない。
以前、楸瑛に連れられて高級料亭に行った時に見た・・・

藍家・・・当主。

「お久しぶりだね、殿。
遅れたが藍州へようこそ。玉龍にも寄って来たみたいだしいいところだろう?
しかし、このような再会になるとは思ってもいなかったねぇ・・・。
どうやら君は楸瑛の嫁じゃなくて、龍蓮の嫁候補らしいし」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

藍家当主目の前に間の抜けた声になってしまった。
それほど最後の言葉の威力が凄かった。
もう一度言って欲しいくらいだ。

「・・・龍蓮の・・・嫁候補?」

それってどういうこと?

「うーん、とりあえず家まで行こうか?
その前に温泉にでも入る?
流石に気持ち悪いよね、そのままじゃ・・・」

返り血を正面から浴びたは悲惨な状態になっていた。

「・・・あ、はいすいません。
少し、お時間いただけると嬉しいです」

そういって、温泉を見つけ、ゆっくり浸かること数分。

・・・なんで、こんなところに藍家当主が?
そんな疑問が浮かんだ。


   


ーあとがきー

微長編も執筆自体も久しぶりすぎて、何を書けば良いか分からなくなった月城です。
小冊子でも雪那書いてるのでなんかもう、公式雪那がつかめない!(笑)←小冊子はかなりフリーダムでお送りしております。

・・・雪那より問題なのは龍蓮ですね。
無理矢理話を進めたら計算してない展開に・・・まだまだ続きそうです。

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