「・・・、今日は藍鴨をとりに行こう!
あと久しぶりに来たのだ。
心のパンダ達に会いに行かねば」
「・・・すっかり元気になったわね・・・龍蓮」

はぐったりした様子で龍蓮についていった。
数日すれば龍蓮は笛は吹くは、変なことは口走るはの精神力は徐々に減っていった。
そろそろ貴陽の都が恋しくなってきた。
帰りたい・・・ていうかなんでこんなところに来たんだっけ?
いつの間にか、龍蓮の別荘にお泊りにきているような形になっている。
はうんざりしながら龍蓮をみた。

「いや、玉華さんのお手伝いしないといけないから・・・」
「こっちは良いのよ。ちゃん。
いってらっしゃい」

・・・くっ・・・空気読んでぇぇーっっ。
はガクッと肩を落とした。
今日も、龍蓮に付き合い食材探しか・・・。自給自足の生活というものの大変だ。
玉華の言葉に龍蓮の目がさらに輝いた。
・・・断る術をは持っていない。

「・・・分かったわ。
少し準備してくるから前で待ってて」

が室に戻る。途中から耳に痛い、龍蓮の笛の音が聞こえてきた。



「・・・楸兄上、きたのか」
「ただいま、龍蓮」

龍蓮はこの季節に九彩紅に帰ってくることが多い。
ここまでは楸瑛も想定の範囲内だった。

「・・・龍蓮、お待たせー。
・・・あれ・・・藍将軍・・・?」

なんでこんなところに・・・。
はどんな表情でいればいいか迷った。
最後に話した記憶が思い切り殴りつけた時なので何となく居心地が悪い。

分かっている。分かっているが、どうしても納得できなかった。
自分には関係ない話だとしても。

・・・殿?」

楸瑛も驚いたようにを凝視する。
自分は朝廷を辞してから、できる限りの早さでここに向かったはずだ。
は自分が辞める直前まで朝廷で働いていた。確かにこの目で書翰を運んでいるところを見た・・・はずだ。

「何故、殿がここに・・・」

龍蓮が楸瑛をみる。
楸瑛は大方の予想はついた。龍蓮でも、動かなければいけない事態になったのだろう。

「・・・・」

は黙ったまま楸瑛を睨みつけるしかなかった。
全て終わってしまったこと。今から・・・どうなるわけでもない。
それでもやはり悔しいのは変わらない。
『寂しいし、悲しいし、苦しい・・・』
劉輝の言葉を、その表情をみてしまったら、許すことはできない。
楸瑛はの様子をみて苦笑した。

「・・・殴りたければどうぞ?
私はそれだけのことをあの方にした」

劉輝は優しいから諌めもしなれければ責めもしない。
最小限に引きとめはしたが、強く反対はしなかった。
最後・・・まともに目が見られなかった自分が情けなかった。
ここで殴ってもらえれば・・・少しは楽になるだろうか。

は楸瑛の前までツカツカと歩み寄った。

「では遠慮なく・・・」

真っ直ぐに自分を見つめる目線からそらしたくなった。
あぁ、自分は逃げている。そう思い、楸瑛は目を閉じた。
逃げないと・・・決めたはずなのにな。

の腕が素早く動いた。
しかし乾いた音が響く前にの手は止められた。

、今の愚兄は殴る価値もない。
それより私との約束、守ってくれるのだろう」
「・・・」

は龍蓮の言葉に力を緩めた。
・・・楸瑛も、それなりの覚悟があってここにきたのだろう。
自分が口を出すことではない、それはわかっている。頭では分かっているが・・・。
どうしても、諦められなかった。
もう一度・・・劉輝と楸瑛と絳攸の笑顔が見たかったのに・・・

「ごめんなさい」
「・・・いいえ・・・」

は龍蓮の手を解いて先に歩き出した。
龍蓮は目でを見ながら楸瑛に話しかけた。

「雪兄上に会いにきたのか」
「・・・あぁ・・・」
「雪兄上はいないぞ。玉華義姉上ならいる」

龍蓮は横目で楸瑛の表情を見た。
完全に固まっている。

「・・・・・・・・・・え」

楸瑛は三拍ほど固まった。
そして、回れ右をして歩き出した。

「二百年後に出直してく・・・」
「大自然が私とを呼んでいる」
「そう、急がなくてもいいじゃないの。せっかくお弁当作ったのに・・・」

楸瑛の肩がビクッと震えた。そこには笑顔の玉華がいた。
玉華は龍蓮に弁当を渡し、楸瑛をみて、にこりと笑んだ。

「・・・帰ってしまうの?楸瑛さん。
朝ごはんにせっかく楸瑛さんの好きなものを作って待っていたのに・・・」
「夕方には戻る」
「はい、いってらっしゃい」


森に入ると方向がすぐに分からなくなる。
龍蓮とはぐれたら終わりだ。
は森の入り口で龍蓮を待った。
玉華がなにやら楸瑛と話している。龍蓮はこちらへ向かって歩いてきた。

「・・・あにうえ・・・」

自分は今こんなところにいていいのだろうか。
本当は劉輝の傍にいて、足元を固めないといけないのではないか。
どんどん足場が崩れていく。
楸瑛の欠けた部分は大きい。絳攸が動けない状態は今も変わらないだろう。

・・・清苑・・・兄上・・・

はしゃがみこんだ。

・・・早く、帰らなければ・・・

闇が・・・包んでいく。
私の、光を・・・

、行くぞ」

龍蓮がいつの間にか追いついてきていた。

「・・・龍蓮、私・・・」
「・・・時の流れを読め、
風を感じて、自然の息吹を感じて、人の流れを感じて、
すべてを感じ、その流れに身を任せる」

龍蓮は笛に口をつけた。
そしてまた変な音色の曲を吹きはじめる。
ざわざわ、と森が騒ぎ出したような気がした。
は龍蓮についていった。

「・・・視野はなるだけ広い方が良い。
世界の全てを見渡せる視野を・・・
、そなたにも流れを読むことはできるはずだ」

詠うように龍蓮は歩いていく。
相変らずな笛の音であるが、嫌な気分はしなかった。
この森がその衝撃を和らげてくれるのであろうか。


森を抜け、視野が広がった。

「・・・す・・・ごい・・・」

目の前に広がるのは大山脈、そしてその向こうは藍州。さらに向こうに海が見える。
大自然に圧倒される。
この景色を見ていると朝廷でのいざこざが小さいものに感じる。
龍蓮は・・・この景色を見て何を感じているのだろうか。
ずっと今までこのような感動を繰り返し、生きてきたのであろうか。
朝廷、貴陽という狭い籠の中で生きていた自分は・・・本当に世界を知らなかった。

「・・・あと・・・少しだけ時間が欲しい。
そうだな、半月」
「え?」
「あと半月。
私に時間をくれ、
「・・・半月で、決着がつくの?」

・・・龍蓮は目を閉じた。

「分からない。
何もなければそのまま貴陽に戻るだけだ」
「・・・分かった。半月ね。
劉輝兄上さえ生きていてくれればそれでいいわ。
静蘭兄上も、悠舜殿もそんなに弱くないわよ。なんとかもたせてくれるわ。
この景色を見てたら、そんなことどうでもよくなってくるわね・・・。
負けたわ、龍蓮・・・」

は崖の淵に座った。
まるで空を飛んでいるみたいだ。飛び降りたら・・・死ぬかな?
が楽しんでいるように見えたので龍蓮はその場に残していくことにした。

「・・・私は心のパンダ達に会いに行ってくる。
は・・・」
「ここにいるわ。藍鴨よろしくね。
あ、日がくれる前には迎えに来て欲しい。置き去りはやめてね」



は時を忘れずっと壮大な景色を見ていた。
ぼんやりしていたら飲み込まれそうだ。同じ景色なのに次の瞬間変わってみえる。
飽きが、こない・・・。

世界は広い。
人は小さすぎる。なのに、何故朝廷ではあんなに人が大きく見えるのだろう。
たった一人を守るのが何故こんなに難しい?

太陽が、紅くなってきた。
そろそろ夕方だ。
龍蓮がそろそろ迎えに来てくれるはずだが・・・。
また明日も強請ればこの場所に連れてきてもらえるだろうか。
それともまた別の素敵な場所に連れていってもらおうか。
何か・・・答えがみえてきそうな気がするのだが・・・。

そういえば、以前龍蓮からもらった、この山の見取り図・・・。
あれの通りなら、向かいが宝鏡山。

――やみ、ひめ・・・

「・・・・ッ!」

何か、物凄い視線を感じた。周囲から人の気配は感じない。
背後や横じゃない。その視線は自分を正面から見据えていた。
体が震える。

・・・宝鏡山・・・縹家の社がある・・・
・・・誰か・・・いるの?

そういえば、藍家の当主達が出かけるといっていた。
先日、縹家の追手に狙われた。

――オイデ、闇姫

頭の中に響く、女の言葉。

「・・・嘘・・・でしょう」

耳を塞いでも頭に響く。知らない女の声。

――闇姫・・・オイデ・・・

脳裏に巫女の顔が浮かんだ。
凄絶な笑みを浮かべて。

は目を閉じた。
脳裏に浮かぶは優しい、彼女の笑顔。
彼女はいつでも強かった。

――・・・私を・・・殺して・・・

は扇と短剣を確認した。

「・・・半月・・・か。
ごめん、龍蓮・・・」

やっぱり半月、待てない。

・・・風を、時を、自然を、人を・・・
・・・流れを読む・・・

社に人が見えた。

――オイデ、闇姫

・・・呼ばれている。

「・・・今、行くわ・・・待ってなさい。
縹・・・瑠花・・・」
「行くのか?」

肩に温かくふわふわして重いものがのしかかった。

「・・・わ、パンダッ」
「心のパンダ其の十だ。先程友になった」
「・・・龍蓮」

どうやら、心のパンダ達に洗礼を受けたらしく、龍蓮の衣装が若干乱れている。
手には藍鴨がいる。

「・・・行くのだな・・・」
「行くわよ。
別に龍蓮がいなくたって私はやるわよ。
龍蓮は龍蓮で、藍将軍は藍将軍でやることがあるんでしょう?
私は一人で大丈夫・・・」

はギュッとパンダを抱きしめた。
震えが収まっていく。
・・・大丈夫。

「それに・・・危なくなったら誰かが助けに来てくれるわよ」 
「私が助けに行く」
「まぁ・・・期待せずに待ってるわよ」

は立ち上がった。

「・・・やっぱり・・・ここにきて良かったかもしれない。
また強くなれる気がする」

は扇と短剣を腰にしまい直した。
龍蓮を見るとまだ寂しそうな表情をしている。
苦笑するとそのまま抱きついてきた。

「・・・ちょっと、龍蓮」
「好きだ。愛している」
「・・・うん・・・知ってる」

でも、答えを出すのは今じゃない。

「・・・いってくる」
「・・・いかせたくない」
「行かせてよ!!
それに・・・龍蓮だって行かないと間に合わないんじゃないのっ!?」

むー。と龍蓮が頬を膨らませた。

「先を読める能力も辛いわね。
お預けなんて一番キツイでしょう」
「・・・全く其の通りだ」
「きっと、この大きな流れを越えた先に答えを伝えることができると思う。
・・・それまで待ってて」
「・・・いつまでも待てる。良い答えならばな」

・・・は苦笑した。

「・・・それまでじっくり考えておくわ。
龍蓮も・・・考えておきなさいよ」

は龍蓮から離れ、パンダをもう一度抱いた。
・・・また戻ってこれたら思いっきり抱きつきたい。

「・・・あ、そうだ。龍蓮・・・」
「・・・なんだ?」
「もし私が洗脳されて縹家なんかに行っちゃったら、殴ってでも連れ戻しに来て。
その役、龍蓮に任せたわ」
「あいわかった。
むしろそうなることを願おうか。
この華麗な笛の音での目を覚まさせてやろう」

プッとは噴出した。

「・・・うん・・・
一気に目が覚めそうだわ。是非そうして」

日が暮れる。
は宝鏡山を見た。

――・・・闇姫・・・

分かったわよ、せかさないでもすぐに行ってあげるわよ


「・・・じゃあね、龍蓮」
「また会おう」

はそのまま崖から飛び降りた。
龍蓮は心のパンダの頭を撫で歩き出した。
のいうとおり、自分にはやることがある。それが、を助けることにも繋がる・・・。

すべては、宝鏡山で・・・


   


ーあとがきー

・・・やっと・・・やっと本編に乗った・・・ッ!
ちょっと時系列が違うんですけど・・・まぁ・・・。
ちんたら書いているつもりでしたが、原作もお休み状態なので・・・それはそれで嬉しいのですがやっぱり気になる!
なんとか・・・書き上げられないかな・・・。
携帯に打ち込んでいたりもするのだけれど・・・この後も結構長いんだよね。(遠い目)

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