暗い森を抜け、導かれた先には階段があった。
は長い階段の頂上を見つめる。
ここの奥に・・・瑠花が・・・・
は躊躇いもなくその階段を登り始めた。


「あんたが、闇姫さんかい?」

聞き覚えのある声が上から聞こえた。
大きな体格に、人の良さそうな笑み。
はその人物に一度だけ会ったことがある。

「・・・あなた・・・隼、さんだっけ?」
「これで二度目だな。嬢ちゃん」

二人の間に風が吹く。

「まっさかこんなところで再会するとはなぁ・・・。
あんたが例の闇姫なんて思いもしなかったぜ。
女官吏ってそんなに特殊な奴がなれるのか?」
「・・・そういうわけではないと思うけれど・・・。
そんなことより」

は鉄の串をさっと投げた。
それは隼の髪をかすめ、背後へと飛んでいく。

「珠翠を任せたはずだけれど。」

隼は苦笑して両手を挙げた。

「ん〜・・・まぁそうだな。
でもあの姉ちゃんはここに来たがってたんだぜ。
俺はその意思を尊重したまでだ」

は目を細めた。

「珠翠が・・・?」
「あんただって、いつまでも逃げてられないからここにきたんだろう?
それと一緒さ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず・・・。」
「・・・そう・・・」

は残りの階段を登り終えた。

「・・・ここが・・・縹家の社・・・」

仙洞宮のような簡素な建物がそこにはあった。
荘厳な雰囲気がを圧倒する。
・・・中にいる人も相当な力の持ち主だろうとは思うが・・・。

「この中でお待ちかねだぜ・・・」

――入り、闇姫

は胸に溜まった空気を全て吐き、建物の中に踏み入れた。



隼の案内では社の中を進む。
隠し扉を開いた先に簡素な室があった。中には何もない。
灯りに照らされているのは一人の女。

「・・・縹・・・瑠花・・・?」

いや・・・

「珠翠っ!?」

珠翠がにっと笑う。
その冷たい笑みに、背筋が冷たくなった。珠翠はこんな笑い方、しない。
はキッと隼を睨んだ。

「・・・どういうことよ、説明してもらいましょうか!!」
「・・・え・・・なんで俺・・・?」
「貴方に決まっているでしょうっ!?
私は貴方に珠翠を任せるっていったのよっ!丁寧に扱うとまで聞いたわよ。
なのになんで・・・。意識乗っ取られてるの!!
話が違うじゃない!!」

胸倉を掴んで講義するに隼は焦った。

「・・・え・・・いや・・・でも・・・っていうか、お前全て分かっていっていたんじゃないのかよ・・・。
それにこれに関しては・・・そこの、おばちゃんが・・・」
「隼」

珠翠が絶対零度の視線を隼に向けた。
・・・女、怖ぇぇ・・・
この時ばかりは、手当たり次第に女を口説く楸瑛を立派に感じた。俺、マジ無理。

「それにしても、威勢のいい闇姫で困ったものよ・・・。
まぁ・・・仕事さえしてくればいいか・・・」
「・・・仕事・・・?」
「”闇姫”を解放せよ」

はその言葉のさす意味を感じ取り、拒んだ。

「死んでも嫌よ」

瑠花はを取り纏っている、力の強さに内心舌打ちしていた。
術は使えずとも全身を覆う力が、他からの術を相殺している。

「・・・そなたには小細工は聞かぬようだな・・・。
仕方ない私が少し手助けしてやろうか・・・」

珠翠の体がガクンと崩れた。
そしてそこには、透けた女性が立っていた。

「貴方が・・・縹瑠花・・・」
「そうじゃ・・・」
「悪いな、嬢ちゃん」

隼がの体をしっかりと固めた。

「・・・え、ちょっとまって・・・何を・・・」
「なんら恐れることはない。
少々そなたの体を借りるのみよ。
・・・まぁ・・・気づいた時にはあの世かもしれぬが・・・」
「じょっ・・・冗談じゃないわよ・・・」
「安心せい、苦痛も何も感じぬわ。
それに、一緒にそなたの兄もそこにはいるはずだ。
好きなのだろう、あの小僧のことが・・・。
いいではないか。
この世とは違い思う存分一緒にいられるぞ」

・・・さらに冗談じゃないわよー!!
抵抗しようにも、隼の力の方が大きすぎた。動けない。
せっかく鍛えた体もやはり体格差にはどうにもならない・・・。
に瑠花の指が伸びだ。

「・・・死ぬ前に少々仕事をしようか・・・。
この力、王を殺すためだけに使うのはあまりにも惜しい・・・」
「・・・ふざける・・・」

突然めまいがを襲った。意識も徐々に薄らいでいく。。
全身の力が抜けた。

「・・・あれ?」

動かなくなったの体を隼は不思議そうに眺めた。
いつもならすぐに瑠花に入れ替わるのに・・・。
隼が見ても、自我の強い娘だ。・・・もしかしたら意識が交代するのに手間取っているのかもしれない。
隼はとりあえずの体を横たえた。


頭が重い。
色んなことが一気に頭の中に入ってきたようだ。
意識が途切れることだけは避けなければいけない。
瑠花にこの体を乗っ取られてしまえば、劉輝の命が危ない。

「・・・なっ、なんだこの娘は・・・」

脳内で瑠花の声が響いた。
は気だるさを抑えながら反発する。

「・・・煩いわよ。頭痛いんだからとっと出て行きなさいよ!!
私一人で既に定員越えしてんのよ!!」
「くっ、小癪な・・・」

の意思の強さと、力の強さが全力で瑠花の侵入を拒んでいる。
もともと闇姫付きなのだ。
この力のどこかに眠る闇姫の部分をあわせるとそれだけで定員は越えているはず・・・。

「・・・それに兄上を殺すなんてとんでもないわ。
そんなこと私が許さないっ!!」
「小娘風情が・・・生意気なことを・・・っ」
「うっさいわね。自分が老けてるからって他人の体に入るのは卑怯よ!!
自分で勝負しなさいよ」

論点がずれているような気がしたが、そこまで考えている余裕はにはなかった。
正直意識を保つだけでも精一杯だ。

「言わせておけば・・・ッ。私はまだ若いわっ!
諦めて私に体をよこし!!」

どれだけか、瑠花と言い争いをしていた時である。
さらに、頭が重くなった。何がなんだかもう分からない。

『・・・うるさい奴らじゃ・・・。
そんなに妾の邪魔をしたいのか・・・』

別の声が頭の中に響いてきた。
は眉を潜め、瑠花は笑みを浮かべた。

「・・・闇姫、か・・・」
「・・・闇姫・・・っ!?」

・・・要するに・・・自分の中には元々闇姫の精神との精神があって・・・
今は瑠花の精神も入ってきている。

・・・定員越えにもほどがある。

『・・・縹家の・・・か。
勝手に妾の器に移るでない』
「ふん、所詮王を殺すしか能がないのにその力の大きさ・・・。
ただ漏れしておくには勿体無すぎるであろうが」
『・・・貴様・・・』
「勝手にごちゃごちゃうるさいわよ!!
二人共出てってよ、これは私の体なんだからーっ!!」
『・・・ふむ、器の娘、妾が出ても意識はあるのか・・・』
「あったら悪いっ!?
・・・貴方、闇姫がいるからこんな面倒なことに・・・。
勝負ながら受けてあげるからとっとと私の体から出なさいよー!!
物凄く頭痛いのよっ!!」

追い出すにはどうしたらいいのだろう・・・。
今のには、叫ぶことしかできない。
フッと闇姫が笑った。

『・・・器の娘。
知識なら与えてやろうか・・・』
「・・・え・・・」
『欲しいのであろう?
妾は生きておった時代、縹家全てにおける術を知っている。
現在のものは改良をしてあろうが基本は同じだ・・・。
そなたは力が大きいゆえ、知識さえあれば容易く瑠花を退けることが出来る』

・・・闇姫は敵・・・。
だが・・・その知識はにとっては喉から手が出るほどほしかった。

「・・・なっ、闇姫・・・こやつは・・・」
『瑠花、貴様に潰される妾ではないわ。
・・・長年、器を幽閉しておってからに・・・
縹家が妾にしてきたこと・・・知らぬとは言わせぬぞっ!!』

・・・幽閉・・・?

『貴様と組むくらいなら、王にゆかりがあろうがこの娘の方がまだマシよ』
「・・・闇姫・・・そなた・・・」
『妾の一番はあのお方・・・縹家ではないわ・・・
あのようなところ・・・こちらから願い下げよ』

・・・闇姫の手を借りるのは危険・・・。そのまま劉輝の命を奪われようものなら・・・。
でも、その代わり瑠花を倒せる。
どうやら縹家と自分では闇姫にとっても縹家は敵であるようだし・・・。
・・・昨日の敵は今日の友!!

「分かったわ、知識とやら頂戴」
『・・・よく言った・・・娘。』
「・・・なっ、やめろ、闇姫・・・」

頭が揺れた。
膨大な知識が流れ込んでくる。
色んな情景が次々に再生される。
自分が今何を考えているか分からない。頭が割れそうだ。

「・・・いや・・・何これ・・・っ」
『妾のの全てだ。縹家にまつわることだけではない。
妾の見たこと、感じたこと、長年の闇姫の記憶が全て入っている・・・』

何十人分の・・・記憶・・・。
気持ち悪い。止めたいのに、止まらない。
叫びたいのに叫べない。

『・・・やはり小娘では無理だったか・・・
まぁよい・・・妾がこの体使ってやろう・・・。
力も十分、体も健康そうだ。・・・何より忌々しい王がいる・・・』

闇姫の言葉には反応した。

「・・・劉輝兄上には・・・絶対手出しさせないわ・・・。
まずは・・・瑠花・・・貴方を追い出してからよっ!!」
「・・・嘘だ・・・」
「本体へ戻りなさいっ!!」

の強力な力が瑠花を襲った。


「・・・くそっ・・・忌々しい闇姫の分際でっ!!」
「・・・おい、何があった?」

急にの中から瑠花の魂魄が出てきて、隼は瑠花がに取り込むのは失敗したのだと悟った。
瑠花はすぐに珠翠の中に戻る。

「・・・非常に厄介じゃ・・・隼、その娘、闇姫とてもう要らぬわ。
殺せ。王の首なら今取れる」
「は?いいのか・・・?ここまで連れてきておいて・・・」
「さっさとせぬか、目覚めては分が悪い」

隼にはを殺す理由が分からない。
”闇姫”は貴重とされていて、だから呼んだのではないか。

始末するとなると、気を失っている時に始末しておいた方がいいのは確かだ。
朝廷での剣捌きを見ると隼でも確実にとどめをさすのは大変だ。
逃げられたらこちらに分がない。

「・・・うーん・・・無抵抗の女の子を殺すのはこっちとしてはねぇ・・・」
「ならば妾がやるわ。
本当に男は使えぬわ・・・」
「・・・不甲斐ないね・・・。
でも昔好きだった奴が、これくらいの年頃だったから・・・さらにな」
「・・・ふん、くだらぬ」

「・・・いいんじゃない?そういうの好きよ」

二人はを見た。
は隼の腕を抜けると、二人から距離をおく。

「チッ・・・・の方・・・か。」
「いかにも。闇姫にはまた少し眠ってもらったわ」

まだ頭が痛い。まだ思考が止まない。立っているのも正直辛い。
は短剣を抜いて構えた。
この状態で隼とまともに対峙するのは無理に等しい。
せめて気付かれないようにしないと・・・。
朝廷で剣の腕を見せておいてよかったかもしれない。

「・・・どうやら王が起きたみたいだな」
「・・・王・・・?兄上・・・」

よく気を探れば、劉輝の気配がある。

「・・・なんで兄上がここに・・・っ」
「では闇姫。しばらくここにいてもらおうか・・・。
暴れるんじゃないぞ」
「・・・え・・・」

瑠花が壁際の仕掛けを作動させる。

「・・・ちょっ、待ちなさい」
「隼」

の前に、隼が立ちはだかる。

「悪いね、嬢ちゃん。
すべてが終わったらここからだしてやるから・・・」
「ふざけるな・・・兄上に何をっ!」

重い音と一緒に瑠花と隼の姿は消えた。
壁には何も仕掛けられている形跡がない。

「・・・くそっ・・・」

何とかして抜け出さないと劉輝が危ない。

「・・・こういうときに闇姫の知識を・・・。
・・・っ」

知識が整理しきれていない時に何かを思い出すのも一苦労だ。
普段どおり動けるようになるまでには時間もかかる。
今のままでは助けにいっても足手まといだ。
せっかく闇姫に知識をもらったのに・・・。

「・・・兄上・・・」
『お困りのようだな・・・娘よ』
「うっさい。
出てこないでよ・・・。貴方にだけは兄上に触れさせないわ・・・」
『せっかく知識をやったのに、妾には何もくれぬのだな・・・』
「・・・・・。
落ち着いたら兄上の命以外に願いは聞いてあげるわよ。
今は待って・・・」

急に意識が沈み込む。
・・・闇姫・・・まさか・・・。

「・・・嗚呼・・・王の気配・・・」

自分でもおぞましい声に驚いた。
手足が思うように動かない。

「・・・やはり・・・王の命以外に妾の欲しいものはないようだ・・・。
この体・・・丁度良い」

は短剣をすらりと抜いた。

「さすが、紫家の名刀・・・。
この手で王を殺せると思うと笑いが止まらぬわ・・・」

は瑠花の消えていった扉の壁の前に立った。

「妾がこの社の構造を忘れたとでも思っていたのか?
これしきで監禁したと思い込んでもらっては困るわ・・・」

隠し扉が動いた。

「・・・さて・・・あの女に先を越される前に、王を殺っておくか・・・」

カツン、カツンと靴の音が地下に響く。
は凄絶な笑みを浮かべて、階段を下りていった。


   

ーあとがきー

・・・なんとか・・・原作にのったァァァ!!
時間軸もなんとか訂正してね。苦し紛れにね!
縹家の術については良く分からんのでまぁ・・・まぁ・・・大らかにみてやってください。
あと闇姫さん登場しました。(精神体のみ)これからもよろしくしてやってください。根は・・・良い子なので←ぉ


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