暗い地下室に寝かせられているのは一人の青年。
少女はニタリ、と笑みを浮かべた。
長年、殺し続けてきた憎き敵・・・。

「・・・王・・・」

いつみても変わらぬその面影。
脈々と受け継がれてきた憎しみの連鎖。

「・・・さぁ、妾にあの方を渡しや・・・
あの方は私の・・・」


カツン、と地下室に靴の音が響いた。
先に来ていた瑠璃が瞠目する。

「闇姫っ・・・そなた何故ここに・・・」
「なめるな。そなたと妾では格が違うわ」

冷ややかに放たれた言葉。
瑠花は歯噛みした。
何故、闇姫ごときに自分を貶されなくてはいけない?
所詮幽閉の身であるのに・・・
王を殺す意外に使い道がないのに・・・

地下室にいた楸瑛も突然のの登場に驚いていた。
何故がここに・・・。しかも何か様子がおかしい。

闇姫は、もはや縹家にも興味がないらしい。
隼は外部の目で冷静に状況を見ていた。
どうやらあの嬢ちゃんは”闇姫”にのっとられたらしいな。
そして、闇姫は王を殺そうとしている。

「・・・都合がいいんじゃねぇか。
ほっておいても・・・王を殺してくれるんだろ。
わざわざ俺や珠翠が手を下すまでもねぇんじゃない?」

瑠璃は歯噛みした。
悔しいが今は闇姫より優先したいことがある。

「・・・チッ。
闇姫っ次生まれ変わる時は存分に後悔させてやるわっ」
「・・・闇姫は縹家から放たれた・・・。
後悔するのは妾を幽閉した貴様らよ・・・」
「減らず口を・・・っ。
隼、珠翠とともにこの子どもと闇姫の首を取って参れ、よいなっ!」

珠翠の体が崩れ落ちた。

「・・・フン、逃げたか・・・。
・・・まぁよい。妾の目的はここにある・・・」

の目線は寝ている劉輝に移った。

「・・・今回は意外に近くにいたのにな・・・」

抜き身の短剣をもったまま、はゆらりと劉輝に近寄る。
ただならぬ気配を感じた楸瑛は反射的にと劉輝の前に立ちふさがった。
いつものと違う。

「・・・殿・・・?」
「どきや、藍家の」
「・・・どちら様・・・ですか?」

は笑わずにいった。

「・・・貴様から死ぬか?
そういえば、この娘とも知り合いであったな・・・。
そなたに・・・この娘を傷つけられるか・・・」
「・・・なっ」

の腕が動く。
間一髪、楸瑛は剣で止めた。

「・・・どうした?
こんなものではないだろう・・・?」
「・・・・・・殿」

非常にまずい。
どうやらに誰かが憑依しているらしい。
隼だけでも王を守りきれるか危ういというのにと・・・それに珠翠も。

は相変らず強い。
素早さや斬撃の数もそうだが、女性とは思えない力。
何より、傷つけられないという気遣いから楸瑛の反応は鈍る。

数回打ち合っては楸瑛から距離を置いた。

「・・・ふむ・・・。
予想以上にやりおるな」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」

楸瑛はにこりと微笑んだ。
どうしても女性が相手となれば、笑ってしまう悪い癖だ。
もにこりと笑んだ。いつも朝廷で見かける可愛らしい笑み。

「・・・運動には丁度良かった。・・・が、時間がかかるのでの。
邪魔者が入らぬうちに片付けてしまわないと・・・」

の笑みに影が入る。

「・・・王を殺したあともう一度し合おうか・・・。
・・・フフッ、そなたが憎しみに染まるのが楽しみじゃ・・・」

愕然とした。
劉輝のことになると我を忘れて怒り出すのいう言葉ではなかった。
彼女にとってこの世で一番大切な人であろうに・・・

劉輝の血に染まるなんて見ていられない。
なんとかしようと楸瑛が一歩踏み出したところ、体が固まった。

『・・・動くな』
「・・・少し動きを止めさせてもらうぞ。
・・・さて・・・」

が楸瑛の脇を通り過ぎて劉輝の元へ向かった。
うっすらと劉輝の目が開いている。

「・・・・・・?」
「・・・フフ・・・会いたかったぞ?王・・・」

はそっと劉輝の胸に手を置く。
そして短剣を振り上げた。

「「止めなさいっ!!」」

の体は止まった。

「「・・・ふざけてんじゃないわよ、闇姫・・・。
兄上から離れなさい。
その人だけは・・・絶対に手出しさせないっ」」
「・・・この娘っ」
『藍将軍っ!助けてっ』

言霊が楸瑛の耳に届く。
急に体が軽くなった。

殿・・・っ」

楸瑛はから短剣をとり地面に投げた。

「大丈夫ですか・・・?」

瞬間、の体の力が抜ける。
楸瑛はなんとかそれを支えた。

「・・・ありがとう・・・ございます・・・」

どうやら、””に戻ったらしい。
肩で息をしているが・・・大丈夫であろう。多分。

「・・・ッ、クソッ・・・」
「立てますか?」
「・・・その辺に捨てておいて・・・。
あとは自分でなんとかする」

自己嫌悪で吐き気がする。
最愛の人に刃を向ける。あってはならないことだ。

「兄上・・・っ」

はその場に崩れ落ちた。
自分の中の大事な何かにヒビが入り、壊れそうだ。

「・・・殿・・・」
「・・・やっぱり人に頼るっちゃいい結果にはならないな」

壁から隼が背を離した。
軽く体を動かし、槍を持つ。

「・・・悪いけど、そこの坊ちゃんと嬢ちゃんの首いただいていくぜ
事情の違いだ。恨みはないけれど」
「・・・迅・・・」

珠翠もむくりとおきだした。
瞳に光はない。
楸瑛はチッと舌打ちした。
はなんとかなったが・・・次は珠翠だ。
迅とは違い、話すら聞いてもらえない。

珠翠は真っ直ぐに劉輝の元へ向かって跳躍した。
珠翠の武器を手から離し、
楸瑛は劉輝を担ぎ上げた。珠翠が目覚めた以上長居は無用。
しかし、ここで逃げるということはを見捨てるということだ。
瑠花の命は劉輝との首。
優先度を考えると劉輝なのだが・・・

「・・・藍将軍・・・。行って!!」
殿っ!?」
「・・・兄上に傷をつけようものなら・・・。
五体満足でこの山を降りられるとは思わぬことね!!」

それよりも自分から早く劉輝を離して欲しかった。
次に何をするか分からない。
それでも躊躇う楸瑛には精一杯の笑顔を見せた。

「私なら大丈夫。だから行って」
「必ず、迎えに来ます・・・」
「・・・えぇ・・・」

のろのろろ起き上がり短剣を掴んだ。
楸瑛が行ったあとは立ち上がる。

「嬢ちゃんのみで俺達の相手か?」
「えぇ・・・」

隼は苦笑した。

「そんな体でどうするつもりだ」
「問題ない」

は珠翠を見た。
・・・今度こそ・・・。
『あの姉ちゃんはここに来たがってたんだぜ』
隼の言葉を聞くと少しお節介なのかもしれない。自分の力がどこまで通用するかも分からない。
・・・珠翠の気持ちを聞くだけくらいは、許してもらえるだろうか。
真っ直ぐ向かってくる珠翠には向き直った。
短剣を鞘にしまう。

「・・・さぁ、貴方に私は殺せるかしら・・・」

一種の賭けのようであるその行為。
隼も無抵抗のに目を見開いた。

静寂が室内におりる。

そんな、馬鹿な・・・
珠翠の刃がの首すれすれで止まっている。
はそのまま珠翠を抱きしめた。

「・・・まだ自我があってよかった」
「・・・・・・様・・・」
「案外、憑依なんてすぐに解けそうね。
むしろ・・・抵抗力みたいなものがついたりして」

崩れ落ちる珠翠。瞳からは涙が流れている。
が短い呪を唱えた。
珠翠の瞳に光が戻った。

「・・・様・・・っ、申し訳・・・」
「いいのよ、私もさっき兄上に刃を向けた」

その意味を珠翠は悟りまた涙を流した。
の中で劉輝の存在はあまりにも多い。
自分にとっての邵可であるように・・・。

「・・・珠翠、貴方が自分の意思でここにきたのは聞いた。
・・・紫州に戻る気は・・・ないの?
私は闇姫に知識をもらった。
・・・貴方が紫州にいても普通に暮らせるくらいのことはできると思うの」

の力は甚大。自分とは比べ物にならない。
自分は朝賀の時分、千里眼を使い瀕死に陥ったが、はそうはならないだろう。
頭も良く、器用な彼女ならすぐに縹家の力を使いこなせる。
・・・紫州の朝廷であっても。

「・・・珠翠、帰ろう?
兄上だって、秀麗ちゃんだって、藍将軍だって・・・貴方のこと待ってる」
「あの男には待っていて欲しくありません」

間入れず言われた言葉にさすがのも楸瑛に同情した。
どれだけ嫌われているのか・・・

珠翠は涙を流しきりの顔を見た。

「・・・もう逃げてはおれません。そして・・・誰にも迷惑をかけたくありません。
様、気に掛けてくださったこと、嬉しく思います。
珠翠はそれだけで幸せです」
「珠翠・・・」
「・・・どうか、劉輝様のお側であのお方を助けてあげてください。
私は縹家で・・・お役に立てることもあるかと思います」

劉輝様のお側で・・・
の心が微かに揺れた。

「・・・あの・・・お取り込み中のところワリィんだが・・・
そろそろいいかい?
早くしないと俺が怒られちまう。
・・・それに王も逃したしな。早いところいかないと・・・」
「・・・それは困る」

はすっと隼に手を伸ばした。

『・・・動くな』
「・・・えっ、ちょっ・・・嘘だろっ」
「・・・ここで死んどく?
どう考えても敵でしかないわ・・・貴方」

は珠翠から手を離し立ち上がった。

「・・・え、冗談・・・」

どんなに凄い相手でも、動きを封じてしまえば怖くない。

「・・・私の動きから分かるでしょう?私の武術は兇手仕込み・・・
物心つく前から血には染まっていたし、今まで手にかけてきた人の数は数えきれないくらい。
・・・兄上のためなら、鬼でも何でもなれるわよ・・・。
大丈夫、一発で首が飛ぶから怖くない」

可愛らしい顔から出る物騒な発言に隼は口元を引きつらせた。

「ちょっとまって」

背後から少女の声が聞こえた。

「蛍っ」
「・・・十三姫・・・」

は罰の悪そうに短剣を収めた。
十三姫も来ていたのか・・・

「そのバカと・・・話をしたいの・・・」
「・・・そう、分かったわ・・・」

は隼に欠けた術を解いた。

「・・・あとはごゆっくり・・・」

十三姫と隼がどんな関係にあるのか・・・予想はできるが興味はない。
怒ったような、そして少し泣きそうな目をした十三姫の前で隼を殺すわけにもいかない。
劉輝が逃げてくれればあとはどうにでもなる。

はその場から出ることにした。
そう、自分も逃げないとヤバイ。

社の周りは暗い。それでも外の風をうけるだけでも全然違っていた。
疲労がどっと押し寄せる。

「・・・っ」

・・・お願いよ、出てこないで闇姫・・・。
は柱に寄りかかりながらその場で座った。
頭がまた重くなる。

『劉輝様のお側に・・・』
すぐに返事できなかった自分が悔しかった。
なんとしても守ると誓ったはずなのに。
・・・今までも何回か聞いてきた。王を殺す力。王の害になる力。
それでも傍にいると誓った。

でも・・・
現実を知ると、そう上手くもいかないようだ。

「・・・あれ・・・?嬢ちゃん?」
「・・・・・。
・・・燕青?
何でこんなところに・・・」

意外な人物にすぐに名前が出てこなかった。
隼といい、珠翠といい、劉輝といい楸瑛といい、十三姫といい、燕青といい・・・
何故都合よくこんなところに集まっているのか。
あまりにもの顔が疲れて見えたか燕青がを覗きこんだ。

「大丈夫かー?
死にそうな顔してるぞ」
「あー・・・うん、大丈夫」
「どう考えてもその顔は大丈夫じゃねぇよ。
全く・・・姫さんの次は嬢ちゃんかよ・・・」

・・・何が?

「もう少しここにいられそうか」
「まぁ・・・気分がよくなるまで休むつもりだったけど・・・」
「大丈夫じゃねーじゃん。
うーん・・・姫さん回収してきたら一緒につれていくからそれまで待っててくれるか?」
「・・・姫さん?秀麗ちゃんのことよね・・・」
「ん?そうだけど・・・」
「なんで、秀麗ちゃんがここにいるの?」

・・・今更だが。
そしてきっと燕青も同じ疑問を持っているに違いない。

「まぁ話したら長くなりそうなんでそれはまたあとで。
ちゃっちゃと迎えにいってくるからそれまで動くんじゃねぇぞ」
「・・・うん」

思わず返事をしてしまった。
燕青は慣れたように社の中に入っていく。
頭が重い。
なんかよく分からないことになってきた。
考えるのも面倒くさい。

全てを放棄しようと目を閉じた瞬間、山が揺れた。
その反動では柱からずれ、床に倒れた。

「・・・なんなのよいきなり・・・」

この宝鏡山が揺れるなんて・・・。
闇姫に知識をもらったため、前まで分からないことも急に理解できる。

「・・・鏡か・・・ッ」

一番奥にある部屋のご神体の鏡。
おそらく瑠花がここに精神をとどまらせるために使っていたに違いない。
誰かがそれを割ったはずだ。
瑠花がそのような馬鹿なことをするわけ無いし・・・

「・・・あぁ、もう誰よっ!
ちったぁ私を休ませなさいよ!!」

反射的に素に戻り揺れの中は起き上がる。
そしていざ中に入ろうとしたら、次は腹にどすっと来る笛の音が聞こえ、また体制を崩した。
強い雨も降ってきて、すぐに服は濡れた。
寒いし、痛いし、気分も悪い。

・・・はもう泣きたくなった。
どこで間違ってしまったのだろうか。
・・・平和な貴陽が懐かしい。

自棄では社の中に入り水があたらない場所まで移動した。
崩壊を始めているこの社がどこまでもつか分からないが・・・。
は自分の指を切り血で呪を社の壁に書いた。

「・・・・静まりたまえ・・・」

巫女なんてやったことはないが・・・
曖昧な知識では呪を唱える。
揺れが少し収まるのを感じる。
・・・鏡の代わりに何か・・・。
生憎今何も持ち合わせていない。
・・・流石に短剣と扇は・・・。でも他に代わりになるものなんて・・・
・・・あった。
は一瞬躊躇ったが、髪に挿した簪を抜いた。
青い珠が綺麗に光る。

「・・・ごめんっ、龍蓮・・・」

宿にあった簪。・・・あんな高価な簪、いくら高級な宿でもおいてあるはずがない。
多分、龍蓮がおいてくれたものなのだろう。
藍州にいる間ずっとつけていたし、気に入っていたから使いたくはないが・・・背に腹は変えられない。

は壁に書いた呪の真ん中に簪をつきたてた。
・・・これで・・・少しは・・・
簪がはじけて消えると同時に揺れと豪雨は静まった。

龍蓮の笛の音がやんだ。

「・・・ごめん・・・」

静かになった室内にの呟きは消えた。


   


ーあとがきー

簪の伏線がここで立とうとは・・・っ。自分でも驚きです。
縹家の・・・言霊の術は・・・春姫専用な気もするのですが・・・。とか思いつつ・・・
なんか、色々本編とずれている気が・・・とか思いつつ・・・
本当に龍蓮、ごめん、本気でごめん・・・とか思いつつ・・・

進めていこうと思います。
これでも前半携帯で下書きしていたのだけれど・・・全く下書き通りには行かないのは何故。

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