っ!!」
「嬢ちゃん」

揺れと雨が止んだあと、間をおかずに自分を呼ぶ声が聞こえた。
のろりと顔を上げると、燕青をはじめ、秀麗や楸瑛(担がれている珠翠)、龍蓮もいる。

「大丈夫か?
・・・相変らず顔色冴えねぇな・・・」
「・・・大丈夫」

燕青がの額に手を当てる。
熱はないようだが、大分衰弱している。

「とりあえず、移動だな。
船流されてないといいけど・・・」

燕青がを担ごうとするとその手を龍蓮がはじいた。

「・・・私が持つ」

燕青は一瞬動きを止めたが、そのあとすぐにニカッと笑った。

「・・・・ん?そうか・・・じゃ頼もうかな・・・」
「うむ」
「じゃ、代わりに姫さんでも運ぼうか?
早く行かないとタンタンと王様が流されてしまうからな・・・」

先程の雨で川が氾濫している。あの縄では長くはもたないだろう。
秀麗は燕青の肩に乗った。

「よっしゃ、撤退するぜ!」


視線を上げると、龍蓮の顔がある。

「・・・龍蓮・・・」

龍蓮が視線を下にした。目が合う。

「・・・簪。せっかくもらったのに・・・ごめんね。
本当に気に入ってたよ」
「知っている。ずっとつけていたからな」

木の陰から見える空が青い。先程の嵐はなんだったのか。




どうやら途中で寝てしまっていたらしく、気がついたら藍家の別宅にいた。
そういえば、龍蓮に運ばれてここまで来たんだっけ・・・?あまり覚えていない。
は起き上がった。

枕元に短剣と扇が置かれていた。

、・・・入るぞ」

言葉と共に扉は開いた。

「龍蓮・・・」
「む、起きていたのか・・・」
「うん、今起きた」

龍蓮は傍に置いてある水差しから水を汲み渡してくれた。

「妙に気を使ってくれるじゃない」
「気分は?」
「寝すぎたかな・・・頭が少しだけ痛い。」

は渡された水を飲んだ。
落ち着いたら今までの壮絶な出来事を思い出した。


「龍蓮・・・私紫州に戻って大丈夫かな・・・」
「・・・。」
「もし、あの時みたいに兄上をみて、殺そうと・・・」

王に刃を向けることは大罪。
そうでなくとも自分が嫌だ。
今この邸のどこかに劉輝がいる。それがとてつもない恐怖を感じる。

「ふむ、
やっと仙人になる時がきたか。
やはりそなたは遅かれ早かれそういう運命なのだ」
「・・・は?」
「私と一緒に仙人を目指そうではないかっ!」
「・・・・は?」

突然頓珍漢なことを言い出す龍蓮には開いた口が塞がらなかった。
しかし、それが彼なりの優しさだと気づく。

「私の居場所を作ってくれるのね」

自分は異端過ぎた。
縹家を拒み、内朝を追われ、名前と位を捨て・・・どこにも俗世ない形として生きている。
安定していない足場をつつくと簡単に崩れてしまう。
それがどんなに危険な状態か、気付いていないわけではない。

「前にも言った。
が望むなら藍家の総力をかけて全てからを守ってみせる。
そのために藍家の当主になることも厭わない」

前も・・・?そんな事は聞いた覚えがない。
でも、どこかで言っているのだろう。
は大きな恐怖を感じた。

「・・・龍蓮・・・」
「何だ?」
「・・・言葉は・・・重いのよ。
特に貴方の・・・」

当主は人柱。
莫大な権力と資金の代償としてその家に縛られる。
もう仙人修行のためといって容易に外には出られない。

龍蓮も理解していないわけではないだろう。それでも口に出てしまった。
不用意に龍蓮が藍家の当主になるなどとは言ってはいけない。
不適切な言葉の理解で、本人の思惑外の事態になってしまう。

「・・・あぁ・・・全てを受け入れた上の判断だ・・・。
私は覚悟ができている。
それに・・・がいるなら、それなりに楽しそうだしな」

真性の天才がこの道を選んだ未来を予想できないわけでもない。
当主になれば、龍蓮は人になる。
自分のために。

「・・・私のために・・・そこまでしてもらえない。してもらう価値なんてないっ。
いや、私のために龍蓮の全てを壊すわけにはいかないわ。
・・・気持ちはありがたいけれど・・・」
「・・・何を言っている。
私の全てはだ」

龍蓮は静かに語りだした。

「茶州で・・・私に目的をくれた。
一番欲しいものをくれた」

藍家に落ち着くわけにはいけない。
藍家以外に利用されるわけにもいかない。
国試を受け、始めて厄介者でもなくただの龍蓮としてみてくれる者達に会った。
そしては一番欲しかったものを与えてくれた。

宙に浮いているのは簡単そうで難しい。
常に不安定のまま生き続けなければならない。
何か繋ぎとめる約束が必要だった。

「心の友と助けるのは当然だ。
だが、のためなら私の全てをかけられる」

真っ直ぐな目で訴えてくる。
は目を逸らしたくなるのを必死にこらえていた。
目を逸らしてはいけない。いけないけど・・・重い。
それを受け止められるだけの覚悟もない。
そして・・・捨てる覚悟もない。

一人だったら、どんなに楽か・・・
・・・そう、これは自分の問題。

「・・・龍蓮・・・悪いけれどやっぱり貴方を巻き込むわけにはいかないわ」

今後、縹家が必ず絡んでくる。
もし、藍家が自分のせいで崩れてしまえばそれこそ申し訳が立たない。

・・・いつから一人で生きることを止めただろう。

「これは、私がなんとかしないといけないから」
「・・・できるのか?なんとか・・・」

・・・分からない。
闇姫の記憶をもらったとしても現在の縹家の力は未知数。
刺客もたくさん襲ってくるだろう。

、何かをなす時には何かが犠牲になる。
今、が敵対しているもの・・・いやでもそのうちに巻き込まれる。
仙人の加護を受けていれば必然的に」
「・・・」

龍蓮には・・・見えてるの?

のしなければならないことは戦うことでも守ることでもない。
周囲に被害が出たとき、それに耐え、を支えてくれる者達を増やすことだ」

見えてなかった・・・
の目から自然に涙がこぼれた。

「気付けば、色んな人たちに支えられてきた。
一人で生きることをやめたんじゃない。
一人で生きていると思い込んでいただけだ・・・」

守っていたつもりだった。
むしろ、守られていた方が多かった。

秀麗はいつも手を貸してくれた。
影月は一緒に頑張ろうといってくれた。
珀明は無理にでも休ませてくれた。
柚梨は誰よりも気遣ってくれたし、鳳珠様は頼れ、といってくれた。
兄上はいつも優しく微笑んで大好きだといってくえた。

「私は・・・たくさん助けてもらっている」

龍蓮は、全てをかけて守ってくれている、と。

「・・・ごめん、龍蓮。
私気付けてなかったよ。ごめん・・・」
「気付けたではないか、今」

本当に・・・。
私の周りにいる人たちは馬鹿みたいに良い人たちばかりだ。
いっそ、皇毅や清雅みたいな人の方どんなに楽か・・・

・・・そういえば。
龍蓮がとんでもない条件で求婚・・・にあたるのだろう。を聞いては藍州につれてこられた理由が分かった。

「・・・もしかして龍蓮・・・今回私がここに連れて来られたのは・・・」
は、勘がいいな。
周囲が動く前に兄上達に真意を伝えにきた」
「・・・・。」
「・・・で・・・?」
「・・・好きにしろ、と」

はホッとした。
これで無理矢理龍蓮が当主になったら、強制的に龍蓮と結婚せねばいけないではないか。

「・・・もしかして、暗殺者に狙われていたのも・・・」
「強硬派だ。賛成、反対含め」

・・・藍家本家で言っていた口を滑らせたことがこのことなのだろう。
話が繋がった。

「なら話はついて、この件は終わったのね」
「・・・終わってない」
「・・・え?」
の答えを・・・聞いていない」
「・・・あぁ、約束だったわね」

あぁ・・・。
そういえば、あの崖の上で約束した。
今のことを含めて考えろってわけか。
あんな大きすぎる好条件に、先程の会話。
・・・これで落ちない女がいたら見てみたいほどだ。

・・・残念ながら異端になるかもしれない女其の一になりそうだが・・・。

「・・・龍蓮の申し出、前向きに検討してみるわ。
それが答え」
「・・・・うん」
「正面から却下されるよりマシでしょ?
しかも『前向きに』よ。兄上よりマシだと思って。
・・・どうせこのままじゃ・・・しばらく紫州に帰ろうなんて気もおこらないだろうし・・・」
「ならばもっと押すまで・・・」
「なっ、やめてよ。帰れなくなるじゃない!」
「いれば良いではないか」
「またそういう事を言う!!」

本当に油断も隙もない。

龍蓮はすっと背後に目をやった。

「・・・頭が痛いならもう少し休め。
しばらくしたら、なにか食べるものをもってこよう」
「・・・ありがとう」

龍蓮は室を出て行った。



「・・・で、盗み聞きとは我が兄ながら情けないな」

扉を閉めた後先に廊下を歩いている三つ子と楸瑛に龍蓮は冷ややかな声で話しかけた。
本来なら四人共こんなところにいるはずがない。

「私達もと話をしたかったんだよ。偶然だね」
「しかし見事な告白には驚いたな、龍蓮」
「・・・・・・。」

龍蓮は兄達の言葉を無視して歩き出した。
さすがの龍蓮も気を悪くしたらしい。
すれ違い様、龍蓮は口を開いた。

「鬼畜で強引な例も、ヘタレで相手にもされない例を見ているからな。
よい勉強になったぞ、兄上」

真面目な顔で言われ、四人の兄達は固まった。
言われたくない、思い出したくもないことを・・・ッ。
龍蓮は何事もなかったように笛を吹き始めた。
その音は兄達に更なる大打撃を追わせたのはいうまでもない。

   


ーあとがきー

今回短くなりましたけど龍蓮特集で是非(笑)
誰よりも先に正式に言っちゃった!!って感じですが。
遅れ気味のキャラ頑張って!(ぉ)

今回の微長編、龍蓮普通の人なんですが、かなり個人的には好感度が・・・っ。
頑張って他のキャラ!

そういえば5月に新作でますね!!
絶対タイムリーで微長編書けないっていうか5月の時点でまだこれ終わってない気が・・・(汗)

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