は劉輝達から離れて先に、貴陽についた。
なんとなく、嫌な予感がしたから、早く行って朝廷の様子を掴んでおきたかった。
早く行ったからといって何かが変わるわけでもないが・・・それでも焦る気持ちは抑えられない。

貴陽の城門をくぐり、朝廷に向かう。
その道中、後ろから自分を呼ぶ声があった。

「お帰りなさい、殿。
初めての藍州はいかがでしたか?」

微かな記憶のうちに、聞き覚えのある声。
は振り返った。
そこには見覚えのない一人の少女が立っていた。

「・・・誰?」

黒髪の整った顔を持った少女はににこりと微笑みかけた。

「今まで貴方の代わりをやっていた者よ。
契約は貴方が貴陽に戻るまでだったから・・・」

龍蓮に拉致された時のことを思い出した。
あそこに立っていた自分にそっくりの少女が彼女・・・

「黄鳳珠以外、私の正体を見破ったものはいないわ。・・・さすがね。
朝廷ではこれといって変わりはないわ。
貴方はいつもと同じように出仕すればいい」
「・・・変わりはないってことはないでしょう」
「えぇ・・・。
貴方の周囲のことを述べたまでよ。
朝廷全体では貴方にとって厄介なことになっているはず」

は俯いた。
悠舜殿と・・・静蘭・・・兄上はどこまで頑張ってくれているだろう。
これから自分も頑張らなければ・・・

「分かった。今までありがとう。
龍蓮なら秀麗ちゃんたちとあとから来るから・・・」

は少女に礼をいって歩き出した。
一刻も早く朝廷に・・・いやその前に鳳珠様のところに顔を出した方がいいのか・・・?

「ちょっと待ちなさいよ」

腕をつかまれ、は立ち止まった。
相手の少女はきっとの顔を睨みつけている。
は何か悪い空気を感じ取った。

「・・・・何?」
「私が貴方の前に現れたのは現状報告が目的じゃないのよ」
「・・・それじゃなんなのよ」

早く行きたい焦りからの口調も強くなる。

「貴方、鳳珠殿とはどういう関係なの?」
「・・・・え?」

突然何を言われるかと思えば・・・。
予想外の問いには固まった。
侍女?確かに昔は侍女だった。
恋人?明らかに違うだろう。
答えないに少女は続けた。

「・・・邪魔なのよ。
いつまでもあの方の好意に甘えまくってるんじゃないわ。
侍女でも恋人でもないくせに」
「・・・・・。」

いや、まぁそれはそうなのだが・・・。

「確かに、そうだけれど・・・でも鳳珠様がいいって言ってるし・・・。
私も申し訳ないと思ってるけど、居ろといわれているうちはお言葉に甘えておこうかと思って・・・
・・・てか、貴方にそんなこと関係ないじゃない。
何?私がいない間に鳳珠様がそんなこと言っていたの?」

意味が分からない。
何でであってすぐの相手にそんなこと言われなくてはならないのだ。
腹が立ってきた。
の剣幕に少女はうろたえた。
まさかがここまで強く出るとは予想していなかったのだろう。

「・・・それは・・・」
「ならなによ。
貴方は龍蓮と契約してて私の代わりをしていたんじゃないの?
貴方に私の生活に文句をつける筋合いないと思うのだけれど」
「・・・ッ」
「言っておくけど。貴方みたいな影の仕事をしている者は仕事が 終わったら何事もなかったように消えるのが鉄則。
まして身代わりの生活にケチをつけるなんて・・・そんな身代わり聞いた事無いわ。
悪い事をしているわけじゃあるまいし・・・」

少女はぎゅっと拳を握った。

「・・・どうして・・・。
貴方は気付かないの・・・。
報われすぎて零れ落ちるほどの幸福を持っていることに・・・」
「・・・?」

搾り出すように出てきた声には少し罪悪感をもった。
何か悪いことをいっただろうか?確かに・・・苛立っていて、口調はきつかったが。

「貴方は・・・鳳珠殿のこと・・・どう思っているの?」
「・・・え?
鳳珠様は・・・尊敬できる・・・方で・・・」
「それだけ?好きじゃないのっ!?」
「勿論、好きよ」

・・・軽い。

「愛してるっ!?将来を考えるくらい」
「・・・それは・・・」

どうなんだろう、確かに鳳珠様と一緒にいる未来。
今はどう考えても上司と部下以外に考えられない。
少女の問いに上手く答えられない。
考えられるほど自分の未来に確かな自身がもてない。

言葉は言霊。
口に出すと、それが重みとなって自分にのしかかる。

「そんな中途半端な気持ちで鳳珠様の好意に甘えているのは・・・見ていてイライラする」
「・・・何が・・・言いたいのよ」

少女は真正面からを睨みつけた。

「私は今から後宮に入るわ。女官として」
「・・・うん・・・」

はこの会話の意図がつかめないでいた。
この少女は何をいいたいのだ?

「私、貴方を認めない。
鳳珠様の隣に並ぶのは私よっ」
「・・・それなら・・・官吏になった方がいいんじゃ・・・。
私の影が勤まるのなら、その方が鳳珠様もよろこ・・・」

少女はの鈍さを疑った。

「わたしは・・・
彼女してあの方に認められたいのっ」
「・・・へぇ、彼女・・・。
・・・・彼女っ!?。」
「何驚いているのよ」
「・・・いや・・・別に・・・」

彼女は鳳珠の良さを知っている。だが玉とは違う。
・・・自分とは相容れない。直感でそう思った。

「ずっとあの方の傍にいられると思ったら大間違いよ!
私が貴方の座を奪ってみせる」
「・・・奪ってって・・・」

・・・そもそも立ってる場が違うではないか。
どれだけ不利な状態で自分に立ち向かうつもりなのだこの子は。

の心の突っ込みを無視して少女はびしっと指をに突きつけた。

「宿敵宣言よっ!!」

あまりの迫力には一歩引いてしまった。
・・・もしかして、この時点で迫力負け?
・・・いやいやそんなはずは・・・

「では、私はこれで失礼するわ」
「・・・えぇ・・・」

人混みの中に消えていく少女を見送ってからはため息をついた。
・・・どうしてこう・・・問題は次から次へとやってくるのだろう。
軽い頭痛を覚えて、は頭を抑えた。
・・・あと・・・この動揺は何だろう・・・。
ちょっとヤバいと思ってしまうって、どういうこと?
確かに前まで普通に鳳珠の嫁を探していたが・・・このような形でできてしまうのは何か嫌だ。

なんとか気を持ち直しては歩き始めた。
周囲も暗くなってきたのでとりあえず鳳珠に顔を見せてこようと黄邸に向かう。



「・・・えっと・・・」

家の前まで着てみたはいいものも、は躊躇っていた。
どうやって入ればいいんだっけ?否、どうやって入っていたんだっけ?
しばらく見なければ、変わっていないはずなのに、新鮮にみえる。

「・・・どうしよう、いつまで立っても入れないじゃない。
誰かいないかな・・・ってか・・・鳳珠様・・・帰って来てないんじゃない?」

重大なことに気付いてしまった。
別に影が外にいるってことは『』は退出してることにはなっているが・・・

「うぅ、どうしよう・・・」

鳳珠様が帰ってくるまで待とうか・・・。

そのとき、後ろから軒が来た。
が思わず振り返る。
軒が止まった。

「・・・・・・か?」
「鳳珠様!」

久しぶりに聞く美声に、思わず大きな声を出してしまった。
やはり一番聞いて落ち着く声だ。
・・・貴陽に、帰って来た気がした。

「・・・戻ってきたのか」
「あっ、分かります?」

そういえば、鳳珠だけ自分の身代わりに気付いていたそうだ。
どれだけ違和感があったか知らないが。
鳳珠は嬉しそうにしているをみて苦笑した。

「・・・まぁその反応を見れば誰でもな・・・」
「・・・あ。」

いつにもなく、はしゃいでいた自分が恥ずかしくなった。
鳳珠は御者に声をかけ、そして降りた。

「もう邸だ。歩く」
「そんな鳳珠様、遠慮なく」
「気にするな」

そういって、鳳珠は歩き出した。
も一緒に歩き出す。

「・・・藍州にいっていたそうだな」
「はい・・・。
勝手に消えて申し訳ありませんでした」

頭を下げるの頭を、鳳珠は軽く叩いた。

「・・・何か面白いことはあったか?」
「あぁ、姜文仲殿に会いました」

鳳珠は一瞬考えて、あぁ、と軽く手を打った。
彼もまた黎深と飛翔の被害者だ。
悪夢の一員であることには変わりないが・・・

「いたな、そういう奴も」
「・・・親しくないんですか?」
「・・・良くもなく、悪くもなく、だな」

向こうはどう思っているか知らないが。

「あっ明日から仕事大丈夫か?」
「お任せください。
誰よりもビシバシと働かせていただきますっ」

相変らず仕事に対するキラキラした目に鳳珠は苦笑するしかなかった。
・・・こんな仕事に対して楽しそうな顔をするのは世界中どこを探してもだけであろう。
影武者と分かるも何も・・・上司なら一発で気付く。

「・・・やっぱりここが一番安心するなぁ・・・」

久しぶりのやりとりに、は肩の力が抜けるのを感じた。
戻ってきた、という実感が沸く。

「・・・何かいったか?」
「いえ、何も・・・」

――いつまでもあの方の好意に甘えまくってるんじゃないわ。
侍女でも恋人でもないくせに

・・・・。
あ、なんか嫌なこと思い出した。
結局、本当のことは聞けなかったけど・・・。

「・・・鳳珠様」
「なんだ?」
「・・・私は・・・ここにいてもいいですよね?
邪魔では・・・ないですよね」

鳳珠は仮面の下で目を細めた。
・・・突然何を・・・

「・・・ずっとここにいてもいいんですよね?」
「・・・あぁ・・・。私が言い出したことだからな。
・・・なんだ?うちはもう飽きたのか・・・。
確かに藍家とは比べ物にはならないが・・・」
「いえ、ずっといます!!
出て行きたくないくらいの住み心地の良さです!」

思わず口に出てしまった。
室につき鳳珠は仮面をとった。

「・・・そうか」
「・・・・・・・・・・ッ」

・・・その笑顔、反則。
久しぶりの鳳珠の素顔+笑顔のコンボはにとって大打撃を与えた。効果は抜群だ。
直視できない。
それに気付いているのかいないのか、鳳珠はふわりと微笑んでの頭を撫でた。

「・・・何か欲しいものはあるか?用意しよう」
「・・・いっ、いえ・・・とりあえず今日は寝ようかと・・・」
「それがいい。
室は綺麗にしてある」
「ありがとうございますっ!!」

は逃げるように室に戻った。
とりあえず落ち着け心臓!!
・・・室に入るなり、寝台に突っ伏した。

何か・・・色々前途多難すぎる。
問題を頭の中で整理していくうちにの瞼は落ちていった。

明日からまた、仕事だ。


   


ーあとがきー

とりあえず、鳳珠は確信犯(ぉ)

・・・私は・・・どうも少女漫画的展開は苦手らしい。
書いてみようと思ったけど・・・恋のライバルってなんですか。
誰か・・・少女漫画的展開についてアドバイスくれたら嬉しいです。
『恋に積極的な女の子』がどんな行動をとるのか、ぶっちゃけその心理がわからねぇ(orz)
女の世界は恐ろしゅうございます。

あ、ライバルの女の子の名前考えてないや・・・(チョット・・・)

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析