「、戻りました!」
印の入った任命書を片手には戸部尚書室へ入った。
「鳳珠様、印と佩玉入手してきました」
「・・・ご苦労」
任命書を見て鳳珠は仮面の下でかすかに笑った。
楊修の名前も入っている。流石。抜け目がない。
「柚梨が前任の室を片付けているはずだが・・・今日からそこがお前の仕事場となる。
頑張れよ」
「はい」
は一礼をして戸部尚書室を出た。
「・・・これで少し助けになればいいのだが・・・」
は新しく入る室の扉を開けた。
「失礼しま・・・」
「え、くん・・・ッ!?ちょ・・・まっ・・・」
「・・・・え?」
柚梨の焦る声が中から聞こえた。
扉の隙間から書翰が漏れてきた。嫌な予感がする。
本の重みで扉が開いていく。
「・・・嘘・・・でしょ?」
本と書翰、書類の雪崩がを襲った。
「すいません、少しでも綺麗にしようと思って本をどかしたら扉の前で・・・。
まさかくんがこんなに早く帰ってくるとは思わなくて・・・」
「いえ・・・片付けしてくださってありがとうございます。
私あとやりますので、景侍郎はお仕事に・・・」
「片付けておけと唐官吏に言わなかった私の責任もありますし・・・」
「大丈夫です、こういうの慣れてます!」
断言したに柚梨は悲しくなった。
八割方修羅場の戸部尚書室を指しているに違いない。
または・・・噂でしか聞いたことないが吏部尚書室。
「景侍郎、お客様が・・・」
どこかで柚梨を呼ぶ声がした。
「え・・・」
「いってください。あとは私がやりますので」
「そうですか・・・また手伝いにくるので無理はしないでくださいね」
柚梨の優しさに感動しながら、は室の中を見回しため息をついた。
どうすればこんな汚い仕事場になるんだ。
そもそも欲しい書類がどこにあるか分からなくなるのではないか・・・
は近くにあった書翰を見ながら、適当に種類ごとに分けていった。
しばらくするとある法則がみえてきた。
どうやらこの汚い室は散らかしてあるのではなく、種類ごとに書類をまとめておいてあったらしい。
むしろ動かさない方が仕事がはかどりそうだ。
奥の開いたところに今の状態を崩さずに書類を詰め込み、机案を書類から掘り出し、とりあえず仕事に必要な物品を机案の周囲にそろえた。
これだけ書類や書翰に囲まれていると修羅場のような気分になる。
・・・事実、明日から吏部に行かなければいけないので修羅場同然なのだが・・・。
これから仕事も覚えないといけないのに・・・。
は墨をする手を止めた。
・・・仕事の内容って・・・誰に聞けばいいのかしら・・・。
前任はいないんだし・・・この仕事ってこの朝廷で私しか・・・いないんだよね。
なにか仕事の内容書いてある本とかあるのかしら・・・
そのとき、扉が開いた。
「はい、どちらさ・・・」
は入ってきた人物を見て、盛大に固まった。
「・・・相変らず・・・汚い室だな。
主もどうやら小汚いようだが・・・」
「・・・き・・・葵長官・・・」
突然の皇毅の登場にの頭は混乱した。
何故、御史台の長官がこんなところにーっ!?
それに・・・私の恰好そんなに小汚いっ!?
・・・確かに・・・この室も汚いから埃もつくだろうけれど・・・。
の様子に皇毅が目を細めた。
「どうした、私がくると都合の悪いことでもあるのか」
「いえっ、ありませんっ」
皇毅は慣れたように書類の中から椅子を見つけ出し自分の座る分を開け、何事もないように座った。
居座るつもりなのだろうか。
時間が掛かるとみたはお茶を出そうと席を立つ。
とりあえず、落ち着いて考えたかった。
「どこへ行く」
「・・・お茶をお持ちしようかと・・・」
「いらん。
こちらも忙しい。一回しか言わんから一字一句逃さず覚えろ」
やっと、頭が回り始めた。
そういえば、御史台や吏部とも連携して仕事をすると鳳珠から聞いたことを思い出した。
戸部の覆面は御史台の管轄にも入るのだろう。
「も、もしかして・・・仕事を・・・教えてもらえるのですか?」
「くどい。始めるぞ」
「え・・・あ、はいっ」
は白い紙と筆をもった。
「・・・全て頭で記憶しろ。
できぬようなら辞めろ」
「・・・はい」
秀麗はいつもこんな上司と付き合っていっているのか・・・。
自分は無理だな、とは頭の隅で思いながら皇毅の話に耳を傾けた。
ずっと同じ声の調子で半刻。
皇毅の話は終わったようだ。
色んな言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
一字一句噛まずに、休むことなく言いのけた皇毅は全て覚えているのだろうか。
「以上だ。質問は?」
「・・・分からないことがありましたら、直接お伺いします」
「いいだろう」
皇毅は立ち上がった。
「お前には常に御史台がついていると思え。
ヘマを犯した瞬間、官吏を辞めてもらう」
・・・ついている、って助けてくれる意味ではなく監視的な意味なのですね。
心の中で突っ込みながらも立ち上がった。
やはり・・・ゴマくらいは少しでも擂っておくべきか・・・。逆効果になるかもしれないが・・・。
「あの・・・葵長官。やはりお茶くらい飲んでいってください。
たくさんお話されましたし喉も渇いているでしょう。お手間取らせないようにすぐに淹れますので!
それに今日は確かこの秋限定の菓子があるはずですし・・・。
甘いもの大丈夫ですよね!」
「・・・あぁ・・・」
の真っ直ぐで有無を言わせない言葉に思わず返事を返してしまった。
仕方なく皇毅は室の様子を観察した。
まだ埃があちこちに残っている。
書類や書翰を見ても以前のものばかりだ。
どれだけ物があったとしても、が二、三日仕事をしていれば少しは綺麗に見えるのだが、それがない。
机案の周りにもが書き物をした形跡がみられない。
この吏部が忙しい時期に楊修がわざわざ御史台に覆面の指導をかけろという指示が出たことが疑問だ。
この様子では、先程就任したばかりのようではないか。
それだけ奴がに目をかけているということか・・・?
「お待たせしました。
本当汚い室で申し訳ないです。さっききたばかりでどう片付けていいものかと・・・」
の持ってきたお茶の香りが狭い室内に広がった。
菓子は紅葉の形をしていてところどころの細工が美しい。
「さぁ、どうぞ」
御史台では見られない気配りに皇毅は黙って頷いた。
「景侍郎が苦労して買ってきてくださったものらしいですよ。
本当にこの店は並ばないと手に入りませんからねぇ・・・ちょっと無理いって予約してきたそうです。
運が良かったですね、葵長官」
はニコニコと皇毅が菓子を食べる様子をじっと見ていた。
物凄い食べたそうな雰囲気が伝わってくる。
皇毅は根負けした。
「・・・お前の分はないのか」
「え?」
「・・・お前の分も持ってきたらいいだろう・・・。
・・・食べにくいのだが・・・」
「・・・あぁ・・・」
そういえばそうなのだが、一緒に食べるのもなにか気まずいものがある。
それに・・・皇毅がまさに食べようとしている菓子が自分の分だとはいえない。
本当は、食べたかったのに・・・。楽しみにしていたのに・・・。
「・・・私は後で食べるのでいいですよ。
気にせず食べちゃってください。
・・・では私は、早速仕事に移りますので・・・」
心で涙を流しながら、は近くの本に目を通し始めた。
「・・・・・。」
お世辞でも字が上手いとは言えなかった。何だこの怪文章・・・
初めての仕事は文章の解読からかもしれない。
燕青の字とどっこいどっこいだ・・・。
「どうした?
分からぬことでも・・・」
の険しい表情に皇毅が声をかけた。
珍しい気配りだが、どうやらそれは甘味のお陰のようだ。
「いえ・・・しいていうなら・・・」
は言葉を止めた。
汚い字が少しずつ読めてきた。次は文章の方に既視感を感じる。
これは・・・
は他の本を開いた。
文字が全然違う。書いた人が違うのだろうか。
書類の方の字は多少差はあるが読める字ばかりだ。
「・・・いえ、少しこの本の字が汚くて・・・」
「そうか」
茶を飲む皇毅をみては無理矢理表情を作った。
・・・なんか・・・笑ってる・・・よね・・・?
鳳珠の笑顔とは別の意味で直視できない。破壊力がありすぎる。
恐るべし・・・甘味。
「そういえば、何故葵長官がわざわざこのようなところまで・・・?
呼んでくだされば伺いますのに・・・」
「御史台にそう簡単に入れると思うな」
「・・・そう、ですよね」
・・・この前は無理矢理入れたくせに・・・あまり思い出したくはないが。
お偉い人の考えることは分からない。
皇毅は茶器を置き立ち上がった。
「就任祝いだ。くれてやる」
皇毅は手のひらに収まるくらいの丸いものをに投げた。
は反射的に受け取る。
「・・・ありがとうございます・・・。
・・・・え・・・っ!!」
・・・これぞ幻の限定菓子・・・っ!?”鳳凰の卵”
昔から存在するが一年に数個しか作れず、上流階級の上の上の貴族しか食べられないという超限定菓子。
製法は秘伝のもので一子相伝らしい・・・。
朝廷の姫であった頃でも一、二回ほどしか見たことがない。
「・・・葵長官・・・」
驚きと感動で目が潤んできた。
なんだかんだいってこの人やっぱりいい人なんじゃ・・・
そんなの期待も虚しく、皇毅は無表情で言い放った。
「それをやるから早く辞めてくれ。
やりづらくて仕方ない」
・・・・さいですか。
ちょっと感動してしまったじゃないか。涙返せ。
出て行く皇毅には頭を下げた。
「今後ともよろしくお願いします」
その声は皇毅には届いたのだろうか・・・。届いたとしても、心に留めてはくれなさそうだが。
皇毅が出て行ってからはもらった菓子を眺めた。
・・・本当に、本物・・・よね?
・・・どうしよう、勿体無くて食べれなくなりそうだ。・・・賞味期限とかあるのかな、これ・・・。
とりあえず卵を机案の上に飾り、は先程見つけた怪文章がつづってある本を開いた。
・・・もしかしなくても・・・これ、なにかの暗号、よね・・・。
見るからに古い本でところどころ破れている。紙も磨り減り字もかすれているところがある。
ただ文を読むだけなら意味が分からないが、読むうちになんとなく内容が予想できた。
・・・この本、戸部覆面についての仕事内容が書いてあるんじゃ・・・
一つの頁から紙が一つ落ちてきた。
まだ新しい紙であった。
「・・・これは・・・」
前任の唐官吏のものだった。
―この本にすべてが書いてある。
他人に何を言われても、この本に書いてあることが真実。
読めないものはこの職に就く資格なし
・・・そう、なんだ・・・。
朝廷にも古い本はたくさんあるが、ここまでボロボロで大切にされている本はみたことがない。
歴代の覆面官吏が読んできたのであろうか。
ところどころしみが出来ていたり、紙が新しくなっていたりする。
何かをこぼした跡もあった。
前任達の強い思いが伝わってきた。
最後に名前がつづられていた。そこには唐官吏の名前も最後にあった。
任期と名前のみが書かれているが、たまに任期に空白が出来ていた。
きっとこの本を読まずに任期を終えてきた官吏もいるのだろう。
は筆を取り自分の名前を書いた。
「・・・前任達に負けないように頑張らないと・・・」
この本を読むには、少し頭が痛くなるかもしれないが・・・仕事に誇りを持つには頑張るしかない。
ーあとがきー
2話目・・・ちょっと仕事について葵長官に教えてもらったり・・・実は意味がなかったり。
葵長官甘味好きー設定は勝手につくりました。
甘味を食べるとちょっとだけ優しくしてくれます。たまに笑顔が見られます。
さーて、そろそろ本編に・・・は沿えないな・・・。
分かった長くなる理由。本編に沿えない出来事が無駄に多いからだ。
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