「・・・はー・・・最悪」

やっと楊修に解放されは戸部の仕事場に戻った。
まだまだ汚いがここが一番落ち着く。
何の恨みか、楊修の人使いの荒さは鳳珠を超えた。
使えない官吏と思われるのも癪なので、ムキになっていたのもある。
もう少し手を抜いてもよかったかもしれない。
二日分の疲労をかかえたままは机案に向かった。

は新しい紙を机案の上に置き、筆を取った。
・・・まさか始めての仕事が楊修の給金の監査なんて・・・。

色々な文献を見ながら検討していく。
最後は個人の感覚に任されるのだとは思うが・・・。
資料を見ていくうちに個々の給金が分かっていくのが何か気まずい。

「基本給+残業代に・・・うーん・・・何これ難しい・・・」

せめてもう一人監査する人が欲しいところだ。

「この仕事一人でやっちゃ駄目よねー」
「なら手伝ってやろうか?」
「え、本と・・・」

いきなり聞こえた神の声には笑顔で振り返ったが、扉の前に立っている人物に固まった。
露骨に嫌な表情に変わる。
その表情の変化をみて、扉の前に立っている人物はフッと笑った。

「・・・もっと違う人よこしてよ・・・
あー、疲労が倍増えた」
「俺ほど優秀な監査人材はいないと思うぜ」

の隣に座りの持っている本を覗き込む。

「相性の問題よ」

は本を閉じた。机案の上にある紙には何も書いていない。
情報の漏れなし。

「何してるんだ?」
「給金の監査よ。
・・・で清雅こそ何の用?忙しいし疲れているから手短にね」
「戸部の覆面が就任したって聞いたから顔を拝みにきた。
・・・労力の無駄だったがな」
「十分見てるからもう飽きたでしょ・・・それだけなら帰っ・・・」

清雅はの顎を掴み、自分の方に向かせた。
視界にいきなり清雅の顔がうつり、は焦った
・・・ちょっ、近・・・っ!!

「振り向いた時の笑顔がよかったぜ?」
「・・・誰がそんな・・・離しなさいよ」

は清雅の手首を掴んだ。

「目を逸らすんだな」
「悪い?
あんたと見つめ合うなんて、金十両つまれても嫌よ」
「金百両ならいいのか?」
「そういう問題じゃない」

清雅の手を離しては顔を背けた。
どうして、こいつはこんな試すような・・・
とりあえず心臓を落ち着ける。

部屋に本と書翰と書類が詰め込まれているので座れる範囲が少ないことが逆に仇になったかもしれない。
体の距離が近い。
こんなことなら昨日徹底的に掃除しておくんだった・・・。

清雅はつまらなさそうにを眺めてから言った。

「・・・紅秀麗の方が燃えてくるんだけど」
「なら秀麗ちゃんの方に・・・。
・・・え・・・?
・・・・・・・・・。
・・・・清雅・・・秀麗ちゃんのこと好きなの?
ふーん・・・へぇ・・・」

相変らず性質の悪い男に好かれるな・・・そう思いつつも自分の周囲を見ると人の事はいえないである。

「馬鹿か。
潰し甲斐があるだけだ。一人で勝手な妄想を膨らませるな」
「・・・まぁせいぜいその嫌味な性格直して頑張りなさい。顔だけは合格だからねぇ。
秀麗ちゃんは・・・もう予約が入ってるから無理だと思うけどね」
「・・・だから・・・」

清雅は何か言おうとしてやめた。息をついて本題に移る。

「・・・もういい。
ここにある紅黎深と絳攸の資料を渡せ」

その言葉にの目が細くなる。それを清雅は見逃さなかった。

「・・・気になるか?」
「まぁ・・・ね」
「そうだな・・・あと一月とちょっと、紅家および李絳攸に関わらないと約束できるなら教えてやってもいいぜ?
気になるだろ?」
「・・・李侍郎の・・・拘束こと?」

清雅がニヤリと笑った。

・・・気になる。
どう考えても拘束に追い込んだのは目の前にいる清雅。
おそらく御史台の中でも一番詳しいのではないだろうか。
聞けたらきっと絳攸を助ける鍵が見つかるかもしれない。
・・・しかし条件が・・・

「どうする?
・・・まぁ俺はどっちでもいいけどな。とりあえず資料をくれ」

は隣にあった本を清雅に渡した。
楊修の給金の目安にするために、丁度吏部の分を用意していたのだ。

適当な頁を見ると清雅が言った。

「仕事してなくてもこれだけもらえるなんて、いい身分だな」

黎深のことをさしているのだろう。
もその額を横目で見た。
うん、確かに・・・多いような気がする。
鳳珠が前から『給金泥棒』と称していたのが分かった気がする。
無言で頁を見ているに清雅が問いかけた。

「・・・どう思う?この尚書の給金。
吏部にもかなり行っていたしあの尚書のサボりっぷりは嫌というほど見てるだろう?」

試すように言われは言葉につまった。
確かに・・・理屈ではこの額はありえない。
専門的な知識の部分ではまだ甘いだが、・・・高く感じる。
は身を乗り出して最新の給金の頁を確認しながら言った。

「・・・紅尚書が・・・完璧に仕事しなくなって・・・。
ここ・・・。前任がここでやめているから・・・
・・・あ・・・」

最近のところは鳳珠の字で書かれていた。
尚書の権限で相当差し引かれている。・・・手厳しい。

「仕事をしないにしても尚書という位だけで基本がこれ・・・。
黄尚書は完全に差し引いているけれど・・・。
紅家の力を考えて覆面とは言え差し引けないのが本音ね・・・」
「そうだな。
で、お前ならどうする」
「黄尚書に直談判してこの辺まで引き落とす・・・かな?」

・・・流石に新米覆面が紅家の尚書の給料を独断で差し引くなぞ恐れ多いことはできない。

「まぁ半分合格といえば、合格だ。
・・・本当にそれができればできれな文句はないけどな」
「できる。
これが、覆面の仕事なら。権力かざしてやってやるわ」
「・・・え」

たまに仕事をしていて思う。
ただの会計監査だけでは国の財政はよくならない。
税を少なくできればそれに越したことはないし、他に回して民の暮らしがよくなるならそれでいい。

「・・・本当のところ裏金をすべて表に出してそれを惜しみなく使えばもっと世界の暮らしはよくなる。
でもそれをすれば・・・平衡が崩れるわ」
「ふーん」

は本を頁をめくりながら最近の給金の変化をみていた。
本当は滅多に変わるものではないが、黎深が仕事をしないことに拍車をかけて徐々に減っている気がする。
絳攸がその分上がっていたりするが・・・。
清雅は自分の顔と本の間に頭を割り込ませているを見下ろした。
・・・邪魔だが・・・悪い気はしない。

「おい」
「・・・何?」

が首を回した。
一気に顔の距離が近くなる。

「・・・うおっ」

はすぐに身を引いた。

「・・・自分で勝手に割り込んでおいて驚くな」
「・・・・別に・・・驚いてなんか・・・」

気まずくて離れたいが離れられる場所がない。

「・・・で、どうするんだ。
李絳攸のこと。俺はどちらでもいいぜ」
「・・・その様子だと話したそうね。
自分の見事な仕事っぷりを私に知ってもらいたいわけ?」
「・・・・」
「何・・・?」
「別に。
知りたくなきゃそれでいい」

あっさり引いた清雅の横顔をはじっと見つめた。
清雅がここまで突っかかってくるなど珍しい。
これでは自分が絳攸を拘束したと言っているようではないか。おそらくそうであろうが・・・
清雅が情報を漏らすのは最低限。
私にその事実を伝えて、清雅に何の得があるか・・・。

・・・、見極めろ。

清雅が答えなんて簡単に教えてくれるはずがない。

「なんだ?俺の顔がそんなにかっこいいか?」

の視線を感じて清雅が本から目を離す。

「・・・顔だけは良いって褒めてあげるわよ」
「お前も顔だけは良いぜ。泣かせたいくらいに・・・」
「気が合うわね。私もあんたの泣き顔拝んでみたいと思ってたの」

・・・考えても分からない。
清雅の顔を見ていても無駄な時間だけが過ぎていくだけだ。

「・・・降参よ。
その資料あげるから出て行って。忙しいの」
「へぇ・・・聞かないのか」
「別に良い・・・。
私が首を突っ込むべきことではないでしょう」

・・・関わらないままで終わるはずがない。
絳攸は劉輝の大事な側近。
劉輝の最も信頼した部下を欠けさせるわけにはいかない。
何のために藍州まで楸瑛を迎えにいったのだ。

「・・・心配じゃないのか?
それなりに親しいんだろ」
「心配よ。
・・・でもそれとこれでは話が違う」
「・・・お前は・・・無駄に正直だな」
「・・・は?」
「いや、なんでもない」

清雅は本を掴み立ち上がった。

「少し借りていく。
次来る前にこの室もっとマシにしておけよ。
・・・そんなに俺とくっつきたかったか?なら別にこのままでも構わないが・・・」
「言われなくても片付けるわよ!」


清雅はフッと笑い室を出て行った。
そのまま御史台に戻る。

「・・・チッ・・・
妙なところで頭を使いやがって・・・」

そういえば、を見て気付いたことがある。
朝廷で紅秀麗を中心に起こしている事件に、何らかの形でが関わっている。
友人や知り合いが巻き込まれているから・・・?
ただの戸部官吏がそこまで偶然に関われるわけがない。
の持っている情報量も並みではない。
皇毅がに目を付けるのは間違っていないかもしれない。
・・・もし、自分の進む道に彼女がいるならば、きっと邪魔をされる。
秀麗よりも遠く、自分の手の届かないところで、誰も知らない方法で・・・

「動かれたら・・・厄介だな・・・」


「・・・関わるな・・・か・・・」

藍州に行く前の旺季の言葉を思い出す。
・・・もう足場は崩壊している。
自分がどれだけ朝廷の運命に影響するかは分からない。
しかし、動けば動くほどその運命は変わっていくだろう。
清雅が危険因子と気付き、自分を止めにきたのなら・・・ここは動くべきか・・・

「・・・絳攸様・・・」

黎深の様子もおかしかった。
以前とは明らかに違う。出会った頃は、もっと・・・人間味があったというか・・・。
そういえば、春頃から鳳珠の家にも来る回数が減っている。
昔は連日のように来ていたのに・・・。

変わらない、わけがない。人は成長する。

は白い紙に向かった。
とにかく今は仕事を覚えてきちんとこなせるようになることが先決だ。
まだ・・・大丈夫。・・・まだ・・・



室が明るくなって目が覚めた。

「・・・う・・・ん・・・。
・・・・・。」

はあたりを見回した。
外から光が漏れている。日が山から顔をだしているところだった。

「寝てたっ!?」

清雅が帰ってから仕事をした覚えがない。
寝てしまった自分を呪った。早いところ結果を出さなければ楊修に無能の印を押されてしまうのに!
ついでに室を片付けておきたかった・・・

は机案の上の紙に目をやった。
そこには文字が書いてあった。・・・昨日、何も書いた覚えがなかったけれど・・・

「・・・・。」

書いてある文字を読んでは口を引きつらせた。

「・・・くっそ・・・清雅あのヤローッ!!」

『寝るならもっと色気出して寝ろよ。
襲う気失せるだろ』

紙を丸めて書類の山に捨てる。
あぁ・・・腹立つぅぅ・・・来たなら起こしてくれればいいのにっ!
ただ優しさなのか肩に毛布が掛かっていた。
この無駄な優しさも何か癪に障る。本気で怒れない。
は息をついて立ち上がった。
同じ姿勢でいたので体が痛い。

顔を洗ってしなおそうか・・・。
今日も吏部に行かなければいけないと思うとぞっとする。

「・・・兄上達・・・そろそろ帰ってくるのよね」

朝日の向こうにまだ絳攸の事を知らない劉輝がいる。

「・・・まだ、大丈夫・・・よね」

祈るように朝日に呟いてみた。


   

ーあとがきー

・・・清雅は・・・なんとなく出してみたかったの・・・だよ!(何となくでサーセン)
いっそこの距離で襲わせてしまえと思ったのですがやめました。
この空間で暴れたらきっと二人まとめて書翰やら本やらに生き埋めになると思います。
過去の吏部尚書再び。

いや、清雅は鬼畜でかっこいいよね。鬼畜好きだよ鬼畜。
結構攻め発言してる割には襲ってこないよね、原作でも・・・。
・・・あっ、紐で拘束ネタとか使ってみればよかった・・・駄目だなんかもうR指定・・・。
いつか使って・・・あ、こいつ風邪気味だったんだっけ・・・しまった・・・秀麗と被るけど、オイしすぎる・・・。
覚えていたら・・・

・・・そんなこんな。反省点ばかり出てくるチクショー(orz)

次は・・・兄上達が帰ってきますね。頑張って話を進めたいと思います。

あとがきが・・・改めて読むと支離滅裂なのはいつものことです。

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