助っ人の振りをしながら はなれないながらも覆面の仕事をしていた。
回廊を歩きながらふと御史台の建物が目に入る。

・・・絳攸様は・・・あそこにいるのよね。

闇姫の知識を受け継いで以来、人の捜索がさらに簡単になった。
早く助けないと・・・。
噂によると清雅と秀麗が検察と弁護の二面に渡って争う・・・らしい。

「相手が清雅なのよね・・・」

元々絳攸のクビは決定したようなものだ。
秀麗の弁護力にかかっているが・・・どれだけ完璧なものを作ったとしても絳攸の非は明らかであるし、あの清雅が手加減してくれるとも思わない。
自分ができることといえば、絳攸がいかに有能かをしめす財政面の記録を御史台に横流しするくらいしかできることはなさそうだ。
絳攸のことだ、探せばいい仕事は出てくるはずだが・・・。
脳内で今後の仕事を組み立てながら、空き時間を検索する。
ヒットなし。日付変更時間以降の残業確定。

・・・ですよね。

「・・・あ」

前方から見知った二人がこちらに向かって歩いてきた。
の顔が一気に明るくなる。

「静蘭殿っ!!・・・と楸瑛殿?」

なんで無職がこんなところに?とも言いたげな口調に楸瑛は泣きたくなった。
・・・扱いの差が・・・とても、悲しい。
静蘭が綺麗な笑顔でいった。

「あぁ、 殿。
本日付で私の配下になりました、下っ端の」
「・・・そういうことだから、よろしく、 殿」
「よろしくお願いします、でしょう?
これだから全く元ボンボンは・・・。
そういうわけで、下っ端すぎて私は特に頼む用事もないですし、 殿が忙しい時は思う存分こきつかってやってもいいですよ。
こんなもんをふらふらさせておくのは給金の無駄ですし」

・・・静蘭の言葉が胸をえぐる。
本当、この兄弟心に傷つけるの上手いよな・・・。
新しい職について早々胃が荒れそう。

「では、早速一緒にお仕事しましょうか。藍将軍。
今猫の手も借りたいところだったんですよ。
よろしいですか?静蘭殿」
「えぇ、かまいませんよ。
では、楸瑛。 殿の方が身分は高いのですから控えめな顔でついていくように」
「・・・・・・・・・・・はい」

・・・なんか・・・人身売買されている気分だ。


勿論怖くて突込みなどいれられず、楸瑛はショボンとした顔で のあとについていった。

「・・・なんか・・・静蘭殿の下っ端って大変ですね」
「今まで、楽してきた分のツケだと思うと本当に頑張ればよかったと思ったよ」
「そうですね。
では早くそのツケをはらうためにも・・・」

は自分の持っていた書翰を全て楸瑛に渡した。

「頑張って働きましょうね!とりあえずその書翰全部各部署に配ってきたください。
私は先に工部に戻っていますので!」

・・・笑顔が可愛い分、まだいいかな・・・。
そんなことを思いながら、足取り軽く歩き出す を見送った。


「いやー、本当に助かりました、藍将軍。
毎日お願いしたいくらいです。
最近本当に忙しくて・・・」
「・・・数刻一緒にいて黄尚書の元で働いていたのが、よく分かったよ」

ぐったりしながら の入れたお茶に楸瑛は口をつけた。
戸部に戻り の執務室が新しくできていたのは驚いた。
前は部屋の隅にいたのに。

「少しは出世したのかな」
「えぇ、なんか楸瑛殿の分をもらってしまった感じで申し訳ないです」
「・・・・」
「冗談です。はい、お菓子でもどうぞ。
少しは疲労回復に繋がりますよ」

菓子はとても甘くて美味しかったが、楸瑛の傷ついた心までは癒されなかった。
・・・この兄妹、怖い。

「でも、なんかこの部屋書翰とか本とか多いよね・・・。
何の仕事?」
「何の仕事といわれても・・・雑用から正式な官吏に任命されたくらいの差ですよ。
といっても今日も雑用に駆り出されましたしね。
少し責任が重くなったので書類の書類も私の判子でなんとかなるし・・・。
・・・・。
・・・・なんか出世するのも大変ですよねー」
「・・・そうだね。
でも 殿頑張っていたし、素直におめでとうといえるよ。
・・・その卵型のものはなんだい?」

は机案の上に置きっぱなしにしていた“鳳凰の卵”を見た。
そういえば、もらって食べてなかった。そろそろ食べないと悪くなるだろうか。

「これは出世祝いにとある方からいただいたのですよ。
うふふ、絶対あげませんからね。」
「別に、とって食べたりは・・・って・・・」

の手のものをみて楸瑛は目を丸くした。
元藍家直系の四男である。その菓子を見たことないはずがない。

「ほっ、“鳳凰の卵”っ!?
くれたって・・・誰がそんなもの・・・私も成人の祝いでしか口にしたことがないのにっ!」
「私だって今まで遠くで眺めるしかしたことないですよ」

遠慮なく包みをあけ、 は一口食べた。
上品な甘さが口の中に広がる。
無意識に頬が緩む。いまだかつて体験したことのない甘さに は言葉が出なかった。
私ですらこれなのだ。葵長官が食べた時果たしてどうなるのか・・・。
自分の前で食べてもらえばよかったと は心の底で後悔した。


たっぷりと至福の時間をとってから、 はお茶を飲み干した。
こんなことなら高級茶葉を使えばよかった。残念。

「藍将軍あとは私の仕事ですから帰っていいですよ。
お疲れ様でした」
「・・・えっと、戸部に来た意味はないんだね」
「はい、お茶とお菓子をあげようかと」
「ありがとう、今日は疲れたけど楽しかったよ」

楸瑛は自然に笑った。
もそれに返す。

「いつでも歓迎しますよ、藍将軍」

・・・・素直に喜べないのは、何故だろう。



楸瑛のお陰で今日は定刻通りの帰宅となった。
鳳珠の家の中を歩いていると、 に声がかかった。

「お館様に黄家から文が届いているのですが・・・」

この邸の中でも が一番鳳珠に近しい。
使用人として働いていたときもそうだった。
職場も一緒であるし毎日顔を合わせているので、鳳珠に関する用は全て に回されるようになってきた。
は特に考えもなく文箱を受け取った。
またお見合いとかそんな内容・・・

「・・・・!」

いつもと違う文箱に は背筋が震えた。
文箱には見事な金の細工が施してあり、上には黄家の”鴛鴦彩花”。
ただごとではない。

・・・というか今の朝廷の様子考えれば思い当たることは一つしかない。
黄本家から鳳珠への帰還命令。
鳳珠は黄家直系の希代の星。そして将来黄家当主にもなる存在。
鳳珠の選択の有無はないであろう。
ほとぼりが冷めれば鳳珠ならばすぐにでも朝廷に戻りそれなりの地位につけるだろうし、そのまま黄家にいてもなんら問題はない。

悠舜のお陰で鳳珠はまだこちら側の陣営にいる。
黄家というだけで鳳珠の存在は大きいのに、彼が抜けたらまた劉輝の足場は・・・。

引き止めるべきであろうか。
朝廷にいながら今の状態を知らない鳳珠ではない。
そして自分がいること、抜けることで朝廷に与える影響も。

鳳珠の気持ちを選ぶか・・・
劉輝の味方を増やすか・・・

頭の中で二人の顔がぐるぐる回る。
どちらも大切だ。
・・・どうする、一応残るように説得してみるか?
説得したところで自分が与える影響などないに等しい。
残るにしても、帰るにしても、それは鳳珠の考えが全てであるから。


は混乱のまま鳳珠の室へと足を進める。
どうすればいいか分からない。すべきことは分かっているけれど・・・。
劉輝は大切だ。でも、・・・鳳珠の意思を尊重したい気持ちも譲れない。
鳳珠の室に入る。
主のいない室はシンとして灯りもなく暗かった。

先日の鳳珠の会話が自然と思い出された。

『ずっといます!!
出て行きたくないくらいの住み心地の良さです!』

・・・ずっとこの場所にはいられるかもしれない。
そのくらいの配慮、鳳珠なら必ずしてくれる。
でも、そこには鳳珠はいない。
どうしてここにいる意味があるだろうか・・・。

同じ問いかけだけが頭の中をぐるぐる回っていた。


退出時間を一刻ほど過ぎたころ、鳳珠は帰宅した。
新しい雑用は迎えたものの、 の抜けた穴は大きかった。
の仕事上、あまり戸部の雑用は押し付けたくないし困ったものだ。

鳳珠は自分の室のある棟をチラリと見た。灯りはついていない。
の室も見たがそこにも灯りはなかった。
が先に退出していったのは見たのだが・・・

は戻っているか?」
「えぇ、一刻前ほどに・・・・。
・・・あれ、灯りついてませんね、おかしいな」

そもそも が先に帰っているときは、出迎えがあるはずなのに、何かおかしい。
最近 に無茶している様子もみられないし、今日は藍楸瑛も雑用に迎えそれなりに楽に仕事を進めていたように見えたが・・・。
鳳珠は足を速めた。

「灯りは自分でつける。
ここでいい」
「・・・はぁ・・・」

使用人を廊下に取り残したまま鳳珠は室に向かった。
思い切り室の扉を開くとそこは闇であった。
光の先に着物の先が見える。

「・・・ ?」

彼女が立っているのは確かなようだ。
しかし暗闇に立ちっぱなしという状況が分からない。
いつからここに・・・・

鳳珠は廊下の蝋燭を持ち室に踏み入れた。
室に立っているのは官服の であることは間違いなかった。

「・・・ ?」

自分が室に入ってきたことも気付いていないらしく近付いても微動だにしない。

「・・・ ・・・大丈夫か?」

の顔を照らしてみる。
目の焦点があっていない。

「・・・・。
・・・・ギャーーーーッ!!
お化けーーッッ、幽霊ーーっっ!!」

目に光が入ると正気に戻ったのか は大きな叫び声をあげた。
よほど驚いたのか自分の顔を見るなり物凄い速度で後退する。何かに躓いてこける音もした。
そのとき何かの落下音が聞こえる。

・・・お化けって・・・幽霊って・・・・。
光の陰影の影響もあるし、この仮面も・・・確かに奇妙であるが・・・鳳珠は分かっていても虚しさを覚えた。

「・・・そのようだと、元気そうだな・・・」

仮面をとり、 に声をかける。

「・・・へ・・・・鳳珠様?
・・・・・・。
・・・・・・・うわーーーっっ、ご、ごごごごごめんなさい、申し訳ありません。
私とても失礼なことを・・・ッ」

はすぐに体制を整え、土下座した。
驚いたとはいえ、鳳珠に面と向かって・・・。

・・・明日から、朝廷来なくていいから。
ていうか、今すぐここ出て行って、とか言われたらどうしよう・・・。

泣きそうになりながら は頭を下げ続けた。
鳳珠は気にすることもなく、室に灯りを入れていく。

「・・・ 、何をしている?
気にしていないぞ。
・・・まぁ・・・傷つかなかったといえば嘘になるが・・・」

・・・ですよね!
顔を上げれば鳳珠が苦笑していた。
本当鳳珠でよかったと、 は心の底から思った。やっぱりこの人好きだ。

「・・・本当に、申し訳ありません。
室に灯りもつけずに・・・今食事を用意しようと思うのですがどうなさいますか?」
「いや食べてきた・・・。
それより 、ここで何をしていたんだ?」

の動きが止まった。

「・・・それは・・・その・・・。
・・・・あっ!!」

先程驚いた時に思わず、黄家からの文箱を落としてしまっていた。
は拾い、無駄だと知りながらも傷を確かめ埃を払ってから鳳珠に差し出した。

「・・・黄家からの、文が、届いております」

声が震えた。
鳳珠に差し出す手も震えている。

鳳珠は仕事の書翰のようにその文箱を受け取った。

「分かった、ありがとう」

を見やるとひどく複雑な表情をしていた。
先程とはまた違う涙が流れそうな目だ。
彼女の心境を思えば、自分がする決断は相当重いものになるだろう。

完全に劉輝側の
そして倒そうとしている旺季。
公平な視点でいけば旺季の方が安定株。味方の精鋭ばかりを取り揃えている。
国の将来を考えても悪い選択ではないだろう。
・・・ただ旺季の周囲に群がる者達が気に食わないだけで。仕えろといわれたら、仕えても良い。

今の王も悪くはない。
李絳攸が昔言ったように、評価をするのに三年待っても悪くはない。
単身で藍楸瑛を迎えにいったところも、悠舜のことを抜きにすれば悪くはない、と思う。
悠舜の元で何年かじっくり待てばきっと良い王にはなるだろう。
まだ褒めないが十年後話をする機会を作ってやらなくもない。

さて、どうするか・・・。
最近の黄家の噂、全商連の様子を見ている分には本家に問題はなさそうだ。
旺季も劉輝も王座争いに民を巻き込む気は本意ではないし・・・。
先のような混乱にはならないであろう。

もう一度 を見た。
先程と様子は全く変わっていない。
が暗闇の中ずっと突っ立っていた理由が分かった。
もし、悩んでいたとしたら・・・
顔が緩むのを何とか抑える。

鳳珠はそのまま文箱の紐をといた。
中に入っていた紙をざっと読むが中身は予想していたものと同じであった。

はうっすら見える文字で確信した。
やはり・・・黄家からの・・・

「・・・あの・・・鳳珠様はどうなさるおつもりですか?」

声がかすれた。
なるべく平生と同じでなくてはいけないのに・・・

「それを聞くのか」

の肩がビクリと震えた。
相手が鳳珠でなければ、説得できるだろうか。
例えば楸瑛にしてみたように、強気でいけるのだろうか。
劉輝のために・・・その決意は鳳珠の前で軽く崩れてしまう。
良い言葉が見つからない。
何をいったら適切なのかわからない。

「・・・あの・・・」


―――カチン

頭の中で何かが止まった。

「・・・・?」

は反射的に振り返った。
は背後ではなく、それより奥、朝廷を見ている。

「・・・ ?」

急に雰囲気が変わった に鳳珠は目を細めた。

・・・何今の・・・珠翠と同じ感じ・・・。
この感じは・・・

集中しろ、意識を朝廷に・・・

・・・絳攸!!

劉輝の叫びが頭の隅から聞こえた。

「・・・絳攸様・・・」

まさか、まさかまさかまさか・・・・
縹家はどこまでも兄上を絶望へと落としたいらしい。
嫌な予感しかしない。
自分で確かめなければいけない。こんなところにいてはいけない。

「鳳珠様、申し訳ありません。
用事を思い出したので、失礼します」
っ」

今にも走り出す の腕を鳳珠は握った。

「・・・鳳珠様」
「・・・どこへいくつもりだ・・・」
「・・・朝廷へ・・・
大切な仕事が残っていることを思い出しました」

の目の光は強い。
有無を言わせない声音で は答えた。
いつも自分の前では笑顔しか見せないのに、敵にはこういう表情を見せるのか・・・。

・・・李、絳攸か。

が今不安定なことはなんとなく気付いていた。
それに加え、最近は は体調が優れないという印象が強い。
忙しい仕事の中でも、 にはある程度休んで欲しかった。
それだけは、譲れない。

鳳珠は の腕を強く引いた。
突然のことに はその力のまま鳳珠の胸にぶつかった。

「・・・明日にしろ。今日はもう遅い。
今行っても動くのは明日になるぞ。さほどかわらん」

そのまま抱きしめた。
は一瞬のことに呆気にとられていたが、そのあと強く抵抗しだした。
前もそれなりに抵抗はあったが、これほど強いのは初めてだ。

「離してくださいっ。
駄目なんです、今じゃないと・・・」
「・・・李絳攸か? の管轄外だ。
今は動くと都合の悪いのは も向こうも同じことであろう?
それにお前が行ってもできることはない」
「それでも・・・っ
この目で行って確かめないと・・・」
「状況を冷静に見極めろ。
もし まで罷免されることになったら・・・」

絳攸ならば珠翠のように暴れることは無さそうだが、もし向こう側の操り人形になってしまえば大変なことになる。
仕事をしない黎深などすぐに罷免できる。
黎深を罷免し、絳攸を吏部尚書にすえ、六部の動きを抑える。
血は繋がってないにしても絳攸の位置づけは紅家であるし、後見がいなくても十分にやっていける。

・・・今の絳攸の実績ならばそれは可能であるし、裏がとれれば御史台も見逃す。


「・・・ 、私と紫劉輝、どちらが大事だ」

先程まで頭でぐるぐる回っていた問い。
その言葉はスッと の頭の中に入ってきた。
は迷わなかった。
暴れていた身体をいったん止める。そして隙ができた瞬間、鳳珠から離れた。

は振り返って鳳珠を真っ直ぐ見据えた。

「・・・私は、兄上が大事です」

   

ーあとがきー

・・・て、展開は予想通りなのですが、ここまでひどくなるとは思いませんでした。
これは・・・ひどい。
初めての反抗期ですね、鳳珠様。

いや、一応弁解しておきますけど私も鳳珠様に反抗するのはとても心苦しいですよ。
楸瑛虐めるのに一ミリの心苦しさはないのですが・・・。←

・・・すいません、精神的にちくちくさしているのは書いててとても楽しかったです。
本当はこの間に悠舜さんとかも入れようかと思っていたのですが、さらにドロドロ感増しそうなんでやめました。

めっさ久しぶりに書いたんで話が繋がっていなければすいません。
毎回毎回、原作と自分の書いた物を読み直していたりします。これでも!



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