鳳珠の家を出て、は朝廷向けて駆け出した。
道なんて通っている場合ではなく、猿顔負けの身軽さで、家の屋根から屋根を伝って走る。
朝廷の高い塀は目の前だ。

・・・絳攸様、どうか無事で・・・

昔使っていた裏道を思い出しは御史台の牢へ向かった。

絳攸の知らせを聞いてか先客があった。
・・・この声は・・・秀麗ちゃんと清雅・・・?

二人の様子から絳攸が変だということは分かった。

・・・やはり縹家が・・・

自分にもその血が流れているということを感じると強く罪悪感にさいなまれる。
関係ないと思いつつも、自分の便利な力は縹家の血のお陰だ。
はグッと手を握り締めた。

正式な手続きもなしに入ってきたので人がいる時はのこのこ出て行けなかったのではしばらくその場にとどまることにした。
静蘭が縹家の存在に気付いてくれてよかった。
このまま突然の精神異常で終わらせてしまえば絳攸は一生このまま・・・かもしれない。
リオウか、羽羽ならなんとか解決の道を見つけてくれるはずだ。
後で自分が申し出ても良い。

何が何でも、絳攸様を助けないと・・・。


最後にリオウと羽羽が残った。
はそっと門番に暗示をかける。
そして二人の前に姿を見せた。

「・・・お前・・・」

突然のの登場にリオウと羽羽も驚いたようだ。
は二人を無視して眠ったままの絳攸に触れる。
・・・完璧に眠っている・・・。

「先程の話で大体分かったわ。
私がする」
「・・・様・・・しかし・・・」

羽羽がの手に触れた。
から藍州のことが羽羽に伝わる。

「・・・様、貴方は・・・」
「最強の術氏は王の味方よ・・・。
絶対・・・縹家なんかに負けてやんないんだからっ」

は羽羽に微笑んだ。

「・・・様・・・」

久しぶりに見た羽羽は前に見たときよりも一回り小さく見えた。
は胸をぐっとつかまれる思いになる。
守らなくてはいけない人は、多い。

「・・・しかし様。
ここは仙洞省の管轄。我らに任せてはいただけませんでしょうか。
それに無断でこちらに来たのでしょう・・・。
術を私事に多用すると必ず自分に害となりふりかかります。
貴方には、劉輝様の傍にいて欲しいのです」
「でも・・・」

これ以上羽羽に負担をかけるわけにはいかない。
そのときリオウが口を出した。

、お前術の掛け方は知っているのか?」
「えぇ」
「では、羽羽にしかできないことをやってくれ。
あとは俺が引き受ける」
「・・・リオウくん・・・」

リオウも戦っているのだ。
は頷いた。

「分かったわ・・・。
羽羽様はそこで見ててください。何か問題があれば指摘お願いします」
「・・・様にそこまで手を煩わせるなど・・・」

いつの間にか自分は羽羽にとって敬われる存在となっているらしい。
確かに当主の血を受けているし、先王の娘だ。

「私は、羽羽様に兄上の傍にいて欲しいのです」

そして、またあの追いかけっこを微笑ましく見られる日々がどうかきますように。
は集中した。

「リオウくん、行くわよ」


そこは長閑な畑の広がる風景であった。
遠くで絳攸が文鳥相手に格闘していた。
・・・良かったそんなに深くまではいってない。

「・・・オイ、

歩き始めたの後ろから声がかかった。
振り返っても声の主はいない。

「リオウくん?」
「ここだ」

リオウは可愛らしい桜文鳥になっていた。

「・・・ふぉぉぉ・・・・可愛い!!
どうやったの、リオウくん」
「知るか!こっちが聞きたい・・・・ていうかなんでお前が普通に人型なんだ・・・」
「力の差じゃないかしら。
私無駄に溢れてるから・・・」

そんな他愛ない会話をしている間に絳攸の姿が近くなっていく。

「・・・お久しぶり、絳攸様」
「・・・え、?」

向こうで、黎深と百合と昔の自分の声が聞こえた。
夢の中のような世界ではっきりとが存在している。
何か不自然な感じがした。

「どうしたんだ?・・・」
「とにかく時間がないわ。
休ませてあげたいけれど、それでも時間がないの。
こうしてる間にも貴方のクビはどんどん締められていくわよ」

は絳攸の腕を掴み歩き出した。
絳攸もにされるがまま歩き出した。
後ろから聞こえる、黎深と百合の声が絳攸の足を遅くする。

「絳攸様、戻りたいですか」

それでもは歩みを止めない。
絳攸にとってはとても素敵な過去なのであろう。

「・・・え?」
「絳攸様をみていて分かります。
黎深様のこと大好きなんですね。私も鳳珠様大好きですから気持ちは分かります。
・・・まぁ私と貴方の気持ちの差なんて全然違うのかもしれないけれど・・・
それでも大切な気持ちは変わりません」

の話の意図が分からず絳攸はついに立ち止まった。

「どこへ行くんだ」
「・・・絳攸様、選んでください。
幸せな過去を選びますか、それとも・・・辛い未来を選びますか」

絳攸はハッと目を見開いた。

「そういえば、・・・俺・・・」
「主上がお待ちです、絳攸様。
そして、黎深様もきっと貴方のことをお待ちです」
「朝廷はどうなった!?
黎深様はちゃんと仕事にきているか?
あの馬鹿王はどうしている?楸瑛は・・・?」

は真っ直ぐに絳攸を見据えた。

「知りたいのならご自分でどうぞ。
夢の中でまで迷子にならないでくださいよ」
「夢の・・・中・・・」
「先程も言いましたが・・・帰るのが遅ければ遅いほど貴方のクビは締まっていきますよ。
完全に締められる前に現実に戻るんです。
リオウくん」
「おう」

上からボテ、と縄梯子一式が落ちてきた。

「・・・これは・・・」
「これでこの崖を降りてまた登って向こうの道まで行ってください。
勿論、私は手伝いませんしリオウくんは手伝えませんね。その身体じゃ・・・」
「崖・・・」

絳攸は目の前に広がる崖をみて絶望した。
・・・これを降りて・・・また、登れと・・・?

「絳攸様、後悔したくないのなら振り返ることなく出来るだけ早く戻ってきてください。
最優先は主上です。
・・・私は楸瑛殿や主上のように優しくはありませんから・・・。
もし、幸せな過去を選ぶようなら・・・」

の目が冷たく光った。

「問答無用でこの影から突き落とします。
そのつもりで死ぬ気で頑張ってください」
「・・・・・・」

こんな恐ろしい見たことがない。
何か静蘭と被る。
なんなんだ、この違和感。
それに・・・何故ここにが・・・?
リオウとの組み合わせも何か新鮮で、繋がりが分からない。
何かが見えそうで見えてこない。

「・・・・・・」
「なんですか、話しかける暇があったらさっさと作業してください」

・・・・凄く、冷たい。
絳攸は凹みながらも作業を開始した。
・・・吏部に雑用にきていたときとか、もっと優しくて良い子だったような気がするんだが・・・。
気のせいか?気のせいじゃないような気がする。

、お前俺を助けに来てくれたんだよな」
「えぇ、・・・まぁどっちかというと、貴方を助けないと主上が危ないので助けているに過ぎませんが・・・」

・・・・。
本当に静蘭のような物の言い方だ。
同じ劉輝の絶対的な味方の秀麗とはまた別の主上の守り方。

「・・・、お前なんか焦ってないか。
いつもの笑顔はどこにおいてきた」
「焦りもしますよ、絳攸様がこんな状態になってしまったのですから・・・。
それに他にも問題がたくさん残っているのは貴方も知っているでしょう。
時間が経てば経つほどこちらは不利になるんです・・・」
「そうだな・・・。
俺も早く帰って・・・主上に花を・・・」

「・・・・・」

絳攸はの顔を見た。
柄にもなく落ち込んでいるようだ。
このような・・・あぁ、前に見たか。
まだ彼女が進士だったころ。あの頃から彼女は一群抜けていた。

絳攸の視線を感じ、は首を振った。

「・・・楸瑛殿も絳攸様に私は物凄く期待していたのですよ。
本当に今回のことで私はカンカンに怒っているんです。
もう絶対に容赦しません」

・・・期待していた・・・?
が劉輝に物凄い強い思いを持っていることは理解できた。

、こいつは何者だ?

殿、リオウ殿、一度戻ってきてくださいませ。
あぁ、良かった。絳攸殿をここまでお導きできたのですね」
「・・・羽羽様?」

文鳥になっている。
気付かなかったが、隣の文鳥はリオウらしい。
だけが実態なのが分からない。

「・・・分かったわ。
じゃ、絳攸様私はこれで帰るけどサボらないでくださいね。
監視はリオウくんが毎日きてくれると思うので・・・」
「・・・ちょ、ちょっとまて・・・」

消えるに絳攸は手を伸ばした。

「戻ったらお前にも話を聞きたい・・・
良いか?」

はいつもの笑顔で微笑んだ。

「・・・では、ごたごたが全て終わったときに・・・」



術は成功したようだ。
現実に戻り、は息を荒くしている羽羽から視線を逸らした。

・・・まさか呼びに来させてしまうとは・・・不覚・・・。

様、この度は本当にありがとうございます」
「いえ、これくらいはさせてください、羽羽様。
リオウくん、あとは大丈夫そうかな?」
「大丈夫だ」

リオウがこくんと頷く。
もよし、と頷きそして懐から石をだした。
藍州にいって生成したものの欠片だ。

「はい、お二人にどうぞ。
私の分は家にたんまりあるから・・・」
「これは・・・」
「羽羽様も気休めにはなるでしょう。私の力もつめてありますので、術の補助にでもお使いください。
あとリオウくんは前もらった分のお返し。
本当に助かったわ」
「・・・あぁ・・・」

は眠ったままの絳攸を見た。
あとは、絳攸次第だ。
そして握られている”双花菖蒲”を手放すのも絳攸自身。

「じゃ、私はこれで帰るわ。
しっかりと口裏合わせておいて・・・あ、あと絳攸様に私がいたことは口止めしておいて。
特に清雅に見つかると大変なことになるから・・・」



一仕事終え、は黄邸に戻らず朝廷に泊まることにした。
少しでも休む時間を確保したかったからだ。
前までは体力ギリギリまで働いていたのでお休み三拍で眠りにつけたのだが、最近はそういうこともできなくなってきた。
今日の悩みの種は先程別れてきた鳳珠こと。

「・・・そういえば・・・私ったら鳳珠様にとんでもないことを・・・ッ!!」

あの時は縹家の暗示のことしか頭になくて、こちらに来てしまったが・・・。
しかも色々濁してきたし・・・

『・・・私は、兄上を選びます』

あの時はそう答えられた。
状況がそうさせた。行かないと大変なことになると思ったから。
今は違う。また同じ問いが頭の中をぐるぐると回る。

『・・・、私と紫劉輝、どちらが大事だ』

答えられるはずがない。どっちも大事なのに・・・

「・・・まいったな・・・明日も明後日もそのまた次の日も顔を合わせるのに・・・」

どのような顔して会えばいいのだ。
そして答えも出るはずもなく、の眠れない夜は続く。





「・・・私としたことが・・・」

話を遮られて、イラッと来たのは本当だ。
を行かせたくなかったし、これ以上ごたごたに巻き込ませるのも嫌だった。
しかし、あの止め方とあの問いは反則だ。
の反応があまりに新鮮だったものだから試そうとした自分が間違っていた。
あれは、自分が悪い。
あのような答え返されても仕方ない。

あれからの帰りを待っているのだが、彼女は帰ってこない。
李絳攸の元にいくなら朝廷というのは間違っていないだろう。
きっと用事が済んだらそのまま朝廷に泊まるつもりだろう。

そうとは分かっても寝ようとはしない自分にイラついた。
・・・まぁ寝たところで寝付けるはずもないだろうが。

先程から何度も見た黄家からの文を箱にしまう。
黄家に帰るか、残るか、そのような問題がなんかもうどうでも良くなってきた。
・・・何度悩もうとも自分の答えは決まっているのに・・・。

鳳珠は暦を見た。
・・・李絳攸が拘束されてから何日たった?
鳳珠は立ち上がった。明日は少し骨が折れそうだ。
自分が動いてもきっと何も変わらない。
それでも変えていかなくてはならない。
忙しくても、怒ることしかなくても、それでも自分は、朝廷が好きだった。

鳳珠は寝ることに決めた。
のことは・・・まぁ自分が動くからには何かしら動きがあるだろう、と信じて。
・・・これで家にこられなくなったら凹むな・・・。
情けないと思いつつもなんとなく考えてしまわずにはいられなかった。


   


ーあとがきー

ついに絳攸様にも豹変編。です。
流石に絳攸様をぶん殴ったらたとえ夢の中であれ黎深様にフルボッコされそうなのでやめました。
全く静蘭のような鋼の精神が欲しいです。

・・・伏線を張ってみたので、忘れないように頑張りたいです!(ぉ)

あと鳳珠様がなんかヘタレていてすいません。
彼は常にかっこよくあるべきなのにーとか思いつつ・・・早くカッコイイ鳳珠様が書きたいです。


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