久しぶりに鳳珠の家に戻ってみた。
絳攸の気が戻ってきたので、何とか自力でこちらに戻ってこられたのだろう。
きっと秀麗あたりが今後のことをしきっていると思うし・・・。自分の渡したものが役に立っているといいのだが。
あとは言われたことを手伝うくらいでいいだろう。

久しぶりの鳳珠の室。まだ彼は帰ってきてないようだ。
自分の考えは、まだ断固とした答えはないが良く考えてみればあれから半月もたっているのだ。
鳳珠自身なにか答えを出しているだろう。
それを聞けばすべてが解決するだろうと思った。

一刻経っても鳳珠が戻ってくる気配がないので は家人に尋ねてみた。

「・・・え、鳳珠様あまり帰ってない?」
「えぇ・・・貴方も帰ってこないし二人共忙しいと思っていたのだが・・・」

・・・しまった。
自分のことを考えすぎて、鳳珠の身の回りのことを失念していた。
いつも無理矢理にでも休ませようとしていたのだが、それができる者はいなくなっている。
きっとまた調子に乗って朝廷に閉じこもっているに違いない。
完全自分の室に閉じこもっていた自分がいえる立場ではないが・・・。

同じ部署にいながら気付けない自分に少し腹が立った。
半月、顔を見ていない。

「・・・分かった。
私が連れ戻してくる」

といっても鳳珠が今どのような仕事をしているか分からないが・・・。
自分に手伝えることがあればさせてもらおう。

そしてそのあとに・・・
鳳珠の答えを聞かせてもらえれば・・・いいと思う。


はまた朝廷に足を戻した。
夜もいい時間になっている。 は真っ直ぐに戸部へ向かう。
退出時間はとっくにすぎており、すれ違う官吏も少なかった。
そして戸部の光も最低限のものになっていた。

尚書室には当然のように灯りがついている。
は扉の前で唾を飲み込んだ。
前は躊躇いもなく叩いて開けていた扉。
始めてここに仕事しに来た日でもこんなに緊張はしていなかったと思う。

震える手で扉を開いた。
中から鳳珠の声が微かに聞こえる。

「茈 です。失礼します」

久しぶりに入った戸部尚書室。
そこには見慣れた風景と、仮面をつけた鳳珠がいた。

「・・・どうした?」

とっくに退出していたと思ったが・・・。
尚書室には柚梨の姿もなかった。皆帰ったのであろう。

「いえ、家に帰っても鳳珠様の姿が見えなかったもので・・・」
「・・・・そうか・・・・」
「私の仕事は終わりました。
何か手伝うことがあればやらせてください」
「もう退出時間を過ぎている。
特に急ぎの仕事はない。 は帰って休め。
最近、戻ってないのだろう・・・」

は鳳珠の前まで進みでた。

「それは鳳珠様も同じです。
一緒に帰りましょう」

久しぶりに笑った気がした。
鳳珠の雑用をしていた頃が本当に懐かしく思える。

「・・・ ・・・。
お前の仕事は、もういいのか?」
「はい、休みも十分とらせてもらいました」
「・・・・休み?」

が休んだなどという報告は聞いていない。
彼女のことだ。公休日も出仕してきているはずなのだが・・・

「はい。
少しだけ、考える時間をいただけました」
「そうか、それは良かった」
「仕事にもなれました。
これから少しずつ他の仕事もやっていけそうです」
「・・・あぁ・・・・」
「きっとこれからまた忙しくなりますよね。
たまに、雑用をさせていただいてもいいですか?
座ってばかりでは身体がなまりそうなので・・・」
「それは助かる」

短い会話をしながら は尚書室を手馴れた手つきで片付けていった。

「誰か新しい侍僮が入られました?」
「あぁ、柚梨が探してきてくれた。
お前までとは言わないが・・・いないよりはマシになった」
「そうですか。
前任として言いたい事は山ほどありますね」

紙や墨を補充し筆も多めに用意する。そろそろお茶をいれてもいいだろうか。
当たり前のようにあった毎日がこんなに懐かしく、羨ましいなんて。
早く出世したかった。
劉輝の助けになりたかった。
でも、ずっと鳳珠の周囲でバタバタと働いているのも悪くないと思い始めていた。
こんな時なのに・・・。

「鳳珠様・・・
私に、時間を少しくださいますか?」
「今か?」
「いつでもいいです。鳳珠様の手が空いたときに」

鳳珠が書類に最後の印を押した。

「今日はこれで終わることにする。
・・・話は家でいいか?」
「はい」

最後に片づけをする 。帰る支度をする鳳珠。
あ、と思い出したように鳳珠は言った。

、今日やり残したことは本当にないだろうな?」

その言葉に、最後に鳳珠と会話した時のことを思い出す。
あの時は、緊急のことであったので出てきてしまったが・・・。

「・・・えっと・・・ないです。・・・多分」
「多分?」

鳳珠の冷ややかな声に は肩を震わせた。

「ないですっ。
今日は鳳珠様のために使います!」
「よろしい」


久しぶりに一緒に軒に乗って帰る。
その中でも他愛ない世間話が主であった。
自身、どうやって話を切り出せばいいかわらからない。
時間が経ちすぎて、あの時ほどの気まずさはないが・・・。
・・・今更すぎて話題にも出しにくい。

家について夕飯を食べ一通りくつろいだところで、 は鳳珠と向かい合って座った。

「・・・鳳珠様。
その話ですが・・・・」
「聞こう」
「・・・先日は・・・話の途中に出て行ってしまい申し訳ありませんでした。
あの時は、どうしても確かめておきたくて・・・」
「李絳攸がどうとかいっていたな」
「・・・う、・・・はい。」
「で、どうであった?行って良かったか?」
「私のできたことは特別なわけではありませんでしたが・・・行って悪かったということはありません」

羽羽の負担を少しでも軽減できればそれでよかった。
絳攸を直接助けられるわけではなかったが。

「もう少し、冷静になることも必要だったとは、思います」
「そうか」

久しぶりに見る鳳珠の顔。
その美しさは変わらないが、少し憂いが見えてきているように感じる。

「・・・あのとき私は兄上が大事といいました」

鳳珠ははっと を見た。
そういえば、あのとき自分は物凄い恥ずかしいことをいってしまったような気がする。

・・・いや、そのことは忘れて欲しい・・・」
「いえ、何れは選ばなくてはいけないと思っておりました。
鳳珠様も彩七家、黄家の方。
私が紫家の誇りを大事に、家を大事に思うように、鳳珠様にも大事に思っている家があります。
・・・まぁ私が大事なのは紫家というより、劉輝兄上ですが・・・」

それでも最低限の家の誇りは持っている、つもりだ。
まだ公にはできないが、一部では完全に紫家扱いの重鎮も増えてきた。

「・・・それで、選んだのか・・・?
あのとき答えを聞いた気がしたが」
「・・・はい、兄上を選びます。
でも、近く選べなくなる日が来ると思います」

すべてに決着がつき、劉輝が安心して王でいられる基盤が作れるときが。

「そのとき、鳳珠様を選んでいいですか?」

その日は遠くない。
すべてが動き出している。
王の立場が危うくなった今、縹家が出てこないはずがない。
縹家は縹家で何かをたくらんでいるようであるし・・・。
闇姫の力も近く必要になるはずだ。

劉輝は、旺季達と王座をかけて。
は、璃桜達と王の命をかけて。

鳳珠は綺麗に微笑んだ。

「私でいいのか?」
「はい」
「・・・光栄なことだが・・・そのときが来たら改めて聞こうか。
お前は色々忙しそうだからな」
「・・・・そうですね。
絶対とはいえないかもしれないので・・・」

自分が負けたらそれで終わりだ。劉輝と一緒に自分も死んでしまう。
父と母のように。
自分が勝てば・・・
自分が勝てば、自分はどうなるのであろう?
闇姫の呪いが解け、この強い力はどこにいくのだろう?
普通の人間としていきていけるのだろうか?

勝っても最悪の事態にしかならないかもしれない。

「・・・鳳珠様・・・」

最悪が来た時のために、自分がいなくなったとき、誰かに真実を知ってもらいたかった。

「知ったことでもしかしたら危険な目に合うかもしれませんが・・・
私の話を聞いてくださいますか?」
「聞こう」

縹家のこと、異能の力のこと、闇姫のこと・・・
は知っている限りのこと、自分の立場を鳳珠に伝えた。

初めて聞く縹家のことに鳳珠は内心驚くことばかりであった。
は水面下で大変なことに巻き込まれているらしい。
そして、その縹家の異能の力、闇姫の力のせいで命が危うくなっていることも。
以前からの体調不良はそこからきていたらしい。

「・・・その縹家の力や闇姫の力を何とかすることはできないのか?
今のままでは・・・」
「はい、闇姫の力を差し引いてもこの有り余る力のせいで身体の方がもたないかもしれません。
なんとかしなければとは考えているのですが・・・」
「信じられぬな・・・」
「そうですね。こればかりは豊富な知識があってもどうなるか・・・。
私の見解では闇姫さえなんとかできれば、あとは何とかほそぼそと暮らしていけるとは思います・・・」
「そうか・・・
私にはできることはなさそうだな・・・
休めといってもお前はきかないし・・・」
「鳳珠様だって聞かないじゃないですか・・・」

二人は顔を見合わせて苦笑する。


「・・・あ、そういえば、鳳珠様の答えをきいておりませんでした」
「・・・答え?」
「はい、黄家を選ばれるのですか?それともこのまま朝廷に残られるのですか」

鳳珠は驚いて を見た。

「お前・・・私がどちらについたのか知らないのか?」

目立たないようにはしたつもりだが、有名にはなっていると思ったのに・・・。
生憎引きこもり中の の耳には入っていないようだ。

「・・・私はこのまま残ることにした。
今の王は正直どうでもいいが・・・悠舜の助けになればと・・・」
「え、いいんですかっ!?
無視なんてすると・・・」
「今の朝廷をこのままほっておいて黄州に戻ることこそ黄家の恥だ。
あとはなんとでもなるだろう。
黄家自体も先の大戦で色々懲りてるだろうから、馬鹿なことはしないと思うし・・・」
「・・・鳳珠様・・・」
「私がいることで も少しはやりやすくなればいいと思う」
「ありがとうございます。とても心強いです!」
「礼はいい。私が勝手に決めたことだ」

夜も深くなってきた。
は立ち上がった。

「・・・今夜は付き合っていただきありがとうございました。
明日からも頑張りましょう!」
「あぁ・・・そうだな」

いつもと変わらぬ仕草で室を出て行く

「まて・・・」

鳳珠は思わず を止めた。
の手をとる。
変わらず温かい。ちゃんと脈もある。
先程の話が信じられない。
本当に・・・近い未来彼女が死んでしまうなどということがあるのだろうか。
そして、それを知りながら何故こんなに明るくいられる。

「・・・鳳珠様・・・。
あの、あまり私に触れない方がいいかもしれません」
「・・・え?」
「闇姫の力は万能すぎて、なんとなく触れている人の感情も読めてしまうかも・・・」
「・・・なっ・・・」

とった手をどうすればいいのか。
今更遅いような気もするが。

「・・・心配してくださるのは嬉しいのですが・・・大丈夫です。
いくら近い未来に死ぬからといって実はあまり実感が沸かないんですよね。
確かに死にそうになったことは何度か経験してますが・・・。
闇姫の力が発動するその時まで私は諦めませんし、悲しみません。
だから・・・大丈夫。
・・・鳳珠様には、重いことを言ってしまいました・・・」
「いや、それを一人で抱え込むのは辛いだろう。
知らないままよりずっと良かった・・・」
「鳳珠様は・・・本当に優しいですね」

は鳳珠の手を放して礼をした。

「では、失礼します」
「あぁ、いい夢を・・・」


室に戻ってもしばらくは眠れず は月を眺めていた。
便利すぎる異能の力も時には困ったものである。

ほてった頬を冷やしながら は深く息をついた。

秀麗が頑張ってくれるから、多分絳攸は戻ってこられる。
脆くなったがそれでも劉輝を支える駒は揃いさえすればなんとかなる。
自分の明るい未来のためにも今は前を向いて頑張るしかない。

は覆面として認められた時に貰った佩玉を月明かりに照らしながら眺めた。
鳳珠と、黎深と、楊修と・・・皇毅や清雅にも認めてもらえた・・・・ということにしておこう。
この佩玉を武器に は明日からも戦うことを改めて誓った。


   

ーあとがきー

2話続く、絳攸なんたら〜いってましたが、『繋がる絆は時に弱く』これで完結といたします。
次の巻『黒蝶〜』は御史大獄から始まっていますし、彼との絡みはこちらで。。

もう鳳珠様に愛を囁きすぎてそろそろなんていったらいいか分からなくなります。←
そんな二人ですがこれからも応援してやってください。
ていうかここまできたらあれじゃね?
・・・分岐EDが作りにくくなった!!←

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