は久しぶりにすっきりとした朝を迎えた。
こうやってまともに寝台で寝たのはいつ振りであろうか。
官服に着替えて髪を括る。

「さて、今日も頑張りますか!」

問題は山積みだが気分を入れ替え、は自分に気合を入れなおした。


加速する時の流れ


はいつもどおり仕事をこなし、たまにのところへ資料を借りに来る楸瑛の手伝いをしながら四日が過ぎた。

「資料はできそう?」
「絳攸と秀麗殿と燕青と私ができる限りの手を尽くして仕事をしてるんだ。
出来ないわけがないだろう」
「確かに。・・・考えれば凄い面子ですね。
御史台官吏に吏部侍郎、元茶州州牧に元羽林軍将軍」

任期を満了した燕青に対し、中途半端に辞めた自分・・・。
同じ”元”でも聞こえ方が全然違う。心に痛い。

「・・・はは。あと殿の力も加わればさらに心強いよ。
ありがとう」
「みんなに比べてさして役にも立ててないわよ。
本当はそっちにいければ良いのかもしれないけど今の状況を考えてあまり私が接触するのも問題かと思ってね」

は作成し終えた資料を楸瑛に渡す。

「上の方まだ墨が乾いていないかもしれないから気をつけて」
「・・・分かった、本当に助かるよ。
それと殿・・・」
「はい?」
「黄尚書と上手く行ったんですか?最近調子良さそうですが・・・」
「・・・・・・・・別に・・・・・・・」

・・・本当に気付くのが上手いというか何というか・・・。
ほっとけ!!
そっけないの対応に満足して楸瑛は手を振り出て行った。


楸瑛を追い払ってからは外を見た。
夜も結構遅い時間になっている。
そろそろ帰ろうかと思ったところ、どこからか琴の音が聞こえてきた。
どこかからか琴の音が聞こえる。
は立ち止まった。
どこかで聞いたことのある音色、この曲は・・・なんだったか・・・。
遠い昔、母が引いていた気がする。
新しい記憶から古い記憶まで振り返る。闇姫の記憶にも少しお邪魔した。
・・・・この曲は・・・・

曲とその意味その背景に気付いたは全身に寒気が走った。

「・・・しまった・・・」

何もないから気付けないでいた。それでも前兆はあった。
絳攸のことに気をとられすぎていたのかもしれない。
羽羽の体調の悪さは身体の酷使と加齢だと思っていた。
・・・その理由は、それだけではなく・・・


は琴の音のする方へとかけた。
貴族の家が立ち並ぶ一角でその家を見つける。・・・かなり大きい。

・・・ていうか、この家・・・

は口を引きつらせた。
彼こそ今自分達が対峙しているラスボス、旺季。
彼が引いているのか。確かに紫の血を受け継いでいるが・・・。

・・・うー様わざわざ琴の琴をコイツに頼まなくても!!
私がいくらでも完璧に弾いてあげるわよ!!
絳攸の件以来あまり自分に迷惑をかけたくないと思っているのだろうか。
そんな遠慮しなくていいのに・・・・。

はしばらく琴の音を聴き、朝廷に向かった。
・・・悔しいが、音は、悪くない。


はそっと仙洞省に顔をだした。
用もないのにここに来るのは問題がある・・・。
自分がここをうろついていることがバレればなにかしら目がつけられるだろう。
流石に道に迷ったなど絳攸じゃあるまいし言い訳にならない。
リオウか羽羽あたりが気付いてくれればいいのだが、残念ながらその気配もない。

「・・・参ったな・・・。
二人共中にはいるんだけど・・・」

は諦めて仙洞宮に行った。
建物自体は変わらないが、中で何かが動いている。
は目を細めた。
封印が、とけかかっている。

改めて封印しなおすには自分の力だけでは足りないだろう。
やるからにはそれなりの準備も必要である。
とりあえず変わりになる何かがあればいいのだが・・・。
このままでは羽羽の負担も増す一方だ。

やはり仙洞宮に戻って何か占具でもなんでも核となるものを持ってこなくては・・・
全身にとり肌がたった。
急にの中で感情が荒れ狂う。
・・・何・・・これ・・・?
が振り返るといつぞや出会った青年が立っていた。

「・・・霄・・・殿?」
「お前はやっと気付いたのか。仙洞宮の異変に」
「・・・・・。」

確かに、気付けなかったのは自分の未熟さ。
関係ないといえば関係ないのだが・・・やはりこの身に流れているのは縹家の血か。
なんとかしなければいけないと焦燥感が募る。

よく分からない感情を押し込めながら、は霄と対峙した。

「ここで一つお前に言わなければいけないことがある」
「・・・紅秀麗のことだ」
「・・・秀麗ちゃん?」

彼と秀麗にどんな関係があるのだろう。しかも今伝えることなのだろうか。

「羽羽と仙洞宮をなんとかしたいと思うのなら、お前は選ばなくてはならない」

秀麗の身体のこと、に教えておいた方がいいだろう。
勝手に力を使われて秀麗に強くあたることは避けたい。

「紅秀麗とお前の状況は似ていて真逆だ。
どちらも大きな力を人間の身に宿しているため、身体の方が力に耐え切れずに疲弊していく。
違うのはその力の質。
お前はこの清浄な紫州の空気の中術を使わずにその宝珠を身に付け暮らしていけば長く生きることができるだろう。
紅秀麗は逆にこの清浄なる空気の中では生きていけない。
琴の琴や藍龍蓮の竜笛も禁忌だ」

は眉を潜めた。
琴の琴や竜笛は悪しきものを鎮めるためのもの。
それが禁忌ということは、まるで秀麗が・・・

「・・・もしかして・・・秀麗ちゃん・・・人じゃ・・・ないんですか?」

そういえば、いつか璃桜が秀麗が『薔薇姫』と呼んでいた。

「賢くなったな、
その知識どこで手に入れた?」
「・・・・・・。」
「いえないか、まぁないよりあった方がいいだろう。
いちいち教えるのも面倒くさいからな。
・・・ついでにその知識の中に『闇姫』を何とかする方法があったらいいんだがな」
「・・・あったら既になんとかしています」

それもそうだ。

「・・・多分秀麗はお前の考えているので正しいだろう。
こうしている間にも彼女の命は徐々に消えていく」
「・・・・・どうするのが正しいのですか?」
「それは自分で考えろ」

羽羽をとるか、秀麗をとるか。
ほっておけば二人とも時間は長くないだろう。
実は自分もその立場にあるのだが、人の事になると焦りを感じる。

「・・・その場しのぎですが・・・仙洞宮の封印だけでも少しでも強くしようと思ってます・・・。
秀麗ちゃんに影響は・・・」
「それくらいなら問題ないだろう」
「何か・・・核となるものがあれば、いただきたいかなぁ・・・なんて・・・」

霄は冷たく言い放った。

「私は便利屋じゃない。欲しけりゃ仙洞省行ってもらってこい」

ですよねー!
は霄に礼をした。

「・・・秀麗ちゃんのこと教えてくださってありがとうございます。
危うく・・・友達を殺しかけたかもしれません」

霄はの背を見送った。
もこの場所で術を使うには大変な負担になる。
誰が大切か、今の霄には選べない。
自分も、守れるものを守るだけだ。

霄から離れると調子も良くなってきた。
・・・さっきのは一体。・・・というか彼は一体・・・?
変なことを知っているし、もしかしたら彼も異形の者なのかもしれない。
闇姫の力を使うようになってからは小さなことでも過敏に反応する体質になってきたし、きっとそのせいだろう。
・・・次会うとき困るよなー。



光のついている窓を除くと丁度そこにはリオウと羽羽の姿があった。
は窓を叩く。
リオウが驚いてこちらを見た。

「なんだ、こんな時間に、こんなところから!」
「ごめん、仙洞省って真正面から入りにくくて・・・。
今から仙洞宮の封印を軽く強化しようと思うんだけど適した占具とかなんかそっち系のものが欲しいんだけど・・・」
「・・・お前・・・気付いたのか・・・」
「あと琴の琴!私も引けるから羽羽様は無理せず私に言うこと!
あのおじさまより華麗に弾いてあげるわよ!」

羽羽は苦笑した。
こんなたくさんの者に心配されて幸せ者だと、心の隅で思った。

「・・・そうですな・・・。
倉庫に鏡があったはずじゃ。リオウ殿持ってきてもらえるか」
「ああ・・・しかし、お前封印の掛けなおしなんてできるのか?」
「今は本当に簡単なものだけどね。
本格的にやるとなれば私一ヶ月くらい引きこもって禊しないといけないし・・・。
この騒ぎが終わったら一ヶ月休みもらって頑張ってもいいけど・・・」

姫」

リオウが倉庫に行くと羽羽はの元へ向かった。

「羽羽様休んでいなくても・・・」
「今私も秀麗殿も辛いのは分かります。でもそれは貴方様も同じこと。
その膨大な力と宝珠で体を支えていることをお忘れにならぬよう。
力を使えば使うほど貴方様の首を絞めることになりまする。
けして、私にかかるこの力を変わりに受けようなどと思わないこと。いいですね」
「しかし・・・っ!」
「これは私のやるべきことです。
貴方には貴方のやるべきことがある。
気高く美しい姫、貴方にはもっと生きていただきたい。
生きて、劉輝様を傍で支えてあげてください。
羽羽からのお願いでございます」
「・・・羽羽様・・・」
「お自身を大切にしてください、姫。
貴方は愛されるために生まれてきたのだから・・・。
戦う覚悟、死ぬ覚悟など貴方には似合いませぬ」
「・・・・。」

リオウが鏡を持ってきたようだ。

「羽羽、急に歩いて倒れたら大変だろう。
今日はもう寝ろ!
俺がに付き合うから・・・」
「でもリオウ殿は成長期ゆえ・・・夜更かしなどさせては・・・」
「二人共休んでていいですよ。私一人でもなんとかなりますし・・・。
もしかしたら見ていてくれる人捕まるかもしれませんし・・・。」
「・・・なにか合ったら困るからな。
仙洞省の関係者として俺が行く」

リオウの強い視線には負けた。

「・・・分かった。ちょっと禊行ってくるからそれまで休んでて。
また呼びに来くる」
「・・・姫・・・」



「・・・お前、封印の掛け方とか・・・前の李絳攸のあの術・・・どうしたんだ?」

禊も終わり、仙洞宮へ向かう。
おもむろにリオウが話しかけてきた。

「・・・一応、リオウくんにはいっておいた方がいいかもしれないわね。
藍州へ行った時、闇姫が一度復活しかかったの」
「・・・なっ!?」

闇姫が・・・復活!?
しかし、王もも生きている。これはどういうことなのだ。

「何がどうなったかは私も良く覚えてないんだけれど・・・瑠花が私の身体をのっとろうとしていたんだったかしら・・・。
その弾みで闇姫が出てきて、瑠花にこの身体渡したくないから私に知識をやるから追い出せとか何とか・・・。
だから私にある程度の縹家や術に関する知識が入ってるの」
「・・・・それは、本当か・・・」
「えぇ、縹家がどんなところか今ならなんとなく分かる。まぁ・・・昔の記憶で今はどうなっているか分からないけどね」
「・・・そうか・・・
・・・で闇姫はどうなったんだ!?」
「・・・さぁ・・・?あれから音沙汰ないんだけど、前みたいに私の中で寝てるんじゃないかしら」
「・・・そうか・・・」

もギリギリのところで生きているのは確かだ。
何も出来ない自分が嫌になる。
鏡を握る手に力が入る。


仙洞宮についた。
はじっと建物をみて、リオウから鏡を受け取った。
は仙洞宮の前に鏡を置く。

「・・・さて、ちょっくら封印術かけるから話しかけないでね」


リオウには分からないが、からなんらかの力が出ているのが感じられる。
全身にとり肌がたつ。これが闇姫の力・・・・。
清浄な貴陽、しかもその中心の朝廷でこれほどの力が出せるとは・・・。
縹家にいったらどれだけ凄いのか想像がつかない。
普通の術者なら数拍で倒れてしまうものだが、は集中力をかなり長く保てている。

キンと空気が凍ったような気がした。

「・・・終わったわ。
これで・・・うーん気休めにしかならないけど何とか大丈夫」
「そうか、助かる」
「定期的に見に来ないといけないかもしれない・・・。
面倒くさいけどしばらくはそうした方が・・・」

立とうとしたの身体がふらついた。

「大丈夫か!?」
「・・・う、ごめん・・・力入らない・・・」

このような清浄な場所であれだけ力を使って、まともに話せているだけでも凄いことである。
リオウは何とかを支えようと思ったが、の方が身体が大きく上手く運ぶことができない。
本当に自分は何もできない。
せめて劉輝くらい大きくなれればいいのだが・・・。

「ごめんね、リオウくん・・・
そのまま寝かせておいて。気分よくなったら勝手に戻るから」
「こんな外にかっ!?
風邪を引く!ただでさえ弱っているのに・・・」
「・・・だって人を呼ぶわけにも・・・
一部に私が紫家の姫だとはばれているけど縹家の者だとはばれてない・・・。
流石にそこまでばれたら・・・終わりでしょ。何が終わりなのかは良く分からないけど・・・」

もしかしたら霄がその辺にいるかもしれない。
しかし彼に会うのも今はあまりよろしくないし・・・

足に少しだけ力が入るようになってきた。

「・・・お、動けるかもしれない。
リオウくん、ちょっと肩貸して動けそう!」
「・・・そうか・・・無理するなよ。あと今日はしっかり休め」
「・・・うん・・・。
・・・うーん・・・・・・・うーん・・・・」
「・・・何か、あったのか?」
「明後日までに・・・仕上げなくちゃいけない仕事が・・・」
「お前な、仕事と自分の身体どっちが大事だ!
お前の場合命にまで関わってくるんだぞ。・・・あとで薬もってくるから・・・それ飲んで休め。
少しは楽になるだろう」
「・・・ありがとう・・・」
「・・・礼を言うのはこちらの方だ・・・」

物凄いリオウのくれた薬は物凄い苦かったけれど効果は抜群のようだ。
次の日目覚めたの体は軽く今なら何でも出来るような気がした。
そろそろ鳳珠からの仕事を何か請け負ってもいいかもしれない。

は一日の仕事が終わると戸部尚書室へ向かった。


   

ーあとがきー

・・・あげるあげる詐欺を2日ほどしてから今日に至りましたが・・・大変なことに気付きました。
・・・彩雲国の時間軸が自分の考えていたのとずれていたー!!
ということで最初から色々と清雅と絡ませていたのですが、その絡みも一部無駄になってしまいショボンとしてます。
本当は何も知らせないままUPしようと思った、皆様気付かないだろうーと思ってUPしようと思った・・・。
けどここで無駄なA型がでてしまったというわけです。
少しつけたり削ったりしているので変なところがあるかと思いますが許してください(orz)

それでは『黒蝶は檻にとらわれる』始まります!


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