次の日。
戸部の資料室の前ではぼやいていた。
今日と明日でこれを仕上げなくてはいけない。
昨日は仙洞宮の封印を見に行ったり琴の琴を弾いていたら力を使ってしまったらしく、夜はぐっすり眠ってしまった。

「・・・さーて・・・あー、やっぱり無駄な意地なんて張らなきゃ良かったかなぁ、全く終わる気配がしない・・・」
「へぇ・・・あれだけいっておいてできないとはいわせないぜ?
相変らずつるつるな肌してんじゃねーか。
目の下には隈もなし。今日も綺麗だな」
「・・・お陰サマで・・・。あんたは目の下に隈できてるわよ。
もう少し寝た方がいいんじゃなくて?男前が台無しよ」

どこから聞いていたのが気付けば後ろに清雅がいた。
こいつのセクハラまがいの台詞なんとかならないだろうか。訴えるぞ。

「昨日は出掛けていたみたいだな?
俺に飯奢らせておいて他の男とお楽しみか?いいご身分だな。
俺との約束をポカして会いたい奴ってどんなやつだ?」
「あんたと約束したのは仕事の期限だけよ。
その間の時間は何しようが私の自由。何?そんなに私とお仕事したかったの?」
「それはない。
が、仕事に手を抜かれちゃ俺が困るんでね。
で、昨夜は本当に何をしていた」
「黙秘権発動。あんたにはこれっぽっちも関係ないわよ」
「・・・・・。
お前本当に何者だ?」

だけは本当に何も分からなかった。
後をつけさせても撒かれることがたまにある。

「・・・ったく、あんたどんだけ私の事好きなのよ!
ストーカーもいい加減にしないと犯罪だからね!」
「いいじゃねぇか、これまでしつこく愛してくれる男も中々いないぞ」

うざそうに振り払うの手首を清雅は掴んだ。
至近距離で二人は見詰め合う。

「お前のこと、全て知りたい」
「・・・な・・・っ」

が帰す言葉を探しあぐねているとカツンと靴の音が後ろから響いた。
二人の動きが止まる。

「・・・で、お前達はいつになったらここを出て行くつもりなんだ?」

仮面の下から聞こえる声が明らかに怒りを帯びている。

『すいません』

そういえば、尚書室の隣の書庫であり・・・今の会話が筒抜けだったかもしれない。
超恥ずかしいんですけど!

は必要な本を片っ端から本棚から抜いていった。持ちきれない分は清雅に渡す。

「ちょ・・・」
「男なんだからもう少し持てるでしょ」

どっさり二人分持っては尚書室から出た。

「・・・あー・・・・凄い恥かいた・・・。
ちょっと、清雅。どういう喧嘩の売り方よ、黄尚書の目の届かないとこで買ってあげるわよ。倍で」
「そりゃ楽しみだ」

清雅がニヤリと笑ったのを感じたは心の中で舌打ちをした。
誰かこいつの攻略法を教えてください。



「・・・できたー!!!」

目の下に隈を作りながら気合では約束どおり資料を完成させた。
清雅がひょこと出来た書類を眺めた。

「提出期限が一刻ほどすぎてるが?」
「とりあえず夜のうちに完成できたってことで許して・・・もう限界」
「寝るな」

その辺にあった書翰での頭をガツンと叩く。

「うー・・・今ので数個大切な物が消えた気がする・・・」
「明日まで全商連に提出するための資料を作らないといけないんだ」
「えー・・・」
「勿論交渉はお前の上司と話し合ってからするもんだからな。
ちゃんとしておけよ」
「え、それ、私の仕事なの?」
「当然だろ。値段の管理は戸部の仕事。手伝ってやってる俺がいることに感謝しろよ」

・・・確かにそうだ。
はむくりと起き上がった。
頭が上手く働いていないようで、清雅の嫌味にいちいち反応できない。
もう言わせておけ。

は清雅の持ってきた資料と見比べて、提出用の資料作成に写る。
清雅の方が仕事量が少ない、ように感じる。
こいつのことだから器用に、他の仕事もこなしているのだろう。
も他に仕事がないわけではないが・・・残念ながら清雅のように同時進行はできない。
・・・ていうか・・・

「清雅、いつまで私の室に居座るつもり?
ここ狭いんだし明日までに提出用の書類仕上げておけばいいんでしょ。御史台に帰ったら?」
「ここの方が資料があってやりやすいんだよ」
「ふーん・・・一人の方が仕事が進むタイプだと思っていたけど・・・。
何?虐められるから帰りたくないの?
そういうわけなら仕方ない。いてもいいわよ」
「・・・効率を考えるとこっちの方が早いんだよ。
俺が虐められると思ってんのか」
「むしろ虐める側ですよね、知ってます」

口論を挟みながらも二人の仕事は続いていく。
分からないところはすぐに聞け、会話も挟むから眠くならない。
ちょっといいかもしれない。なんて思ったら負けだ。

空が少し明るくなってきた。
貫徹も二日続けばなんかもうどうでもよくなってくる。


「あたーらしい朝が来た」
「変な歌歌ってんじゃねぇよ。
仕上がったのか?」
「まぁ一応・・・」

清雅がの書いた書翰をチェックする。

「貫徹の頭で書いたにしてはぎりぎり及第点だろう。
直す時間もないしな」
「それはよかった」

は立ち上がって大きく伸びをした。
肩がバキバキいっている。凝りもひどいところまで来ている気がする。・・・まだ若いのに・・・。

「ちょっと大事なところで変なことを言わないように一刻ほど寝させてもらうわ」
「確かにその顔は酷いな」
「清雅も人の事いえないわよ。
・・・さて、この室閉めるから今度こそ御史台に帰って頂戴。
朝議終わった黄尚書捕まえておくからそのときにこれ見せるわよ」
「分かった」

清雅は自分の荷物だけまとめて立ち上がった。

「あんたと仕事するには身体幾つあっても足りないわね」
「一人でできると思っていたんだが、俺の買いかぶりすぎだったか・・・」
「最近は少し楽しようと手の抜き方を考えているから・・・かもしれないわね。
いつまでも若くはいられないかねぇ・・・」
「お前幾つだよ。俺より若いんだろ?」
「じゃ、お休み」

もう少し頑張れよ。
そういっては戸部の仮眠室へ入っていった。


仕事が始まる銅鑼の音で目が覚めた。
官吏として完全に遅刻だがを咎める人はいないだろう。・・・多分。
鳳珠に見つかったら多分怒られるが。
一刻どころか二刻ほど軽く寝てしまった気がする。
こっそり食堂で朝ご飯を調達して戸部へ戻れば朝議から鳳珠が帰ってくる時間になるだろう。
銅鑼の音で目覚めて本当によかった。
鳳珠の雑用から戸部の覆面になってからどうもけじめが緩くなっている気がする。
世の中には夜しか働かない官吏や、全然仕事しない官吏や、酒飲みながら仕事する官吏やら色々いるし・・・
まだ毎日全力で頑張っているだけ許してもらえるだろう。多分。
あー鳳珠に見つかったら本当に怒られそうだ。
それもこれもクソ清雅のせいだ。無茶苦茶な仕事押し付けやがって。
これが終わったら俺、規則正しい生活するんだ・・・。

身なりを整え仮眠室の扉を開けると目の前に最も会いたくない男がいた。

「今お目覚めか?本当に羨ましいなお前は・・・」
「げ、清雅・・・。何でいるのよ・・・」
「何でってお前・・・仕事始まる銅鑼なってんだろ・・・。
お前の室鍵閉まってるしまさかと思ったら・・・」
「はいはい、寝坊しましたよ。
今から全力で朝食もらってくるからもう少しそこで立ってて!」
「・・・寝坊した上に朝食・・・?
俺様はそんなに暇じゃないんだが・・・」

ピシピシと清雅のこめかみに青筋が浮かぶ。
これ終わったらこいつの体たらく振りを書翰にまとめて匿名で尚書に送りつけてやる・・・ッ。
何もかもやることが低すぎて辞めさせられないのが残念だ。
よくて一ヶ月の休職処分だろう。
・・・むしろ久しぶりの休みと喜ばれるんじゃ・・・こいつなら、ありえる。

「・・・分かったわよ。
今室あけるから・・・作戦会議ね」

は室に入り戸棚を空けた。
そしていくつかの食べ物とどこからかお茶をもってきた。

「はい、清雅」
「・・・結局、食うんだな・・・」
「だって、力でないし・・・。あんたの分もお茶汲んできてあげたんだから目瞑りなさいよ。
なんならこの茶菓子食べていいわよ」

嫌過ぎる賄賂である。
腹が立ったので清雅は食べてやった。奥にあったの分も。

「・・・ちょっ、それ私の今日のおやつ・・・ッ」
「だろうな」
「くっ・・・変なことチクったらぶっ飛ばすからね」
「そりゃ楽しみだ」

一瞬外が静かになったのをみては立ち上がった。

「・・・意外に早く終わったわね。
少し話しつけてくるわ」



全商連とも話がなんとか決着がつき、値段の方は一時的措置で若干値上がりすることになった。
明日から市場はそのようになるだろう。

「ねぇ、清雅。紅州の方は結局のところ何の解決もしてないのよね。
誰か裏で動いてないの?」
「そこは御史台の仕事だ。お前には関係ない」

はむっと来たが適材適所だ。確かに関係ない。
戸部はこれから市場に混乱が起きないように見張るのが今後の仕事だ。

「・・・それもあんたの仕事なんでしょ?
吏部侍郎の御史大獄も控えてるって言うじゃない。・・・大丈夫?」

今回の仕事一件だけでも相当な労力が必要だった。
楸瑛の話では絳攸の弁護をする秀麗は寝る間も惜しんで準備をしていたというのにこいつは・・・。

「なんだ?心配してくれるのか」
「社交辞令程度にはね。
うっかり面白いことをいって会場を爆笑の渦に陥れてくれないか、期待してるけど」
「それは紅秀麗の方に期待しろ」

朝廷についた。

「とりあえず、俺とお前でやらなきゃ仕事はこれで終わった。
また何かあれば言うから言うとおりに働けよ」
「はいはい。くそー、とんだ上司だったわ」
「それは俺の台詞だよ。こんだけ後悔したのは久しぶりだ。
黄尚書に今日のこと報告しておけ、分かったな」
「了解」



「・・・というわけで一時的措置として全商連の方に協力をしていただけると印をもらってきました」
「そうか、助かった。・・・陸清雅は?」
「あぁ、もうやる事無いみたいなんで、また何か合ったら指示しに来ると・・・」

先程の様子では清雅は相当疲れているようだ。
何かしたのか、

「ご苦労だった。
また仕事があったらまわしてもいいか?」
「はい、喜んで」



それから御史大獄が終わって次の日、紅姓官吏出仕拒否の知らせが朝廷内に伝わった。

「・・・・。
何かあるとは思っていましたが・・・ははっ」

の乾笑いに二人は苦笑するしかなかった。
確かに、自分達も初めてこの報告を受けた時は笑いたくなった。目までは、笑えなかったが。

「秀麗くんは流石に来てそうですが・・・それでも・・・」
「・・・全く、存在自体が周囲に嵐を巻き起こす存在だな、あいつは・・・」

はその言葉を聞いて全身凍りついた。
何故二人はそんなに悠長に構えていられるのだろうか、には理解できない。
今各部署の混乱振りが頭に浮かぶ。

「・・・ほっ鳳珠様、景侍郎・・・これは・・・完全に・・・」

紅姓官吏はそれなりに高い地位にある者ばかり。
それに、仕事もそれなりに出来る。藍家と違い朝廷に占めている重要度は高い。
周囲の出世を見越して機嫌取りをする官吏もそれに引き続き高いわけで・・・。

修羅場フラグじゃないですかーっ!!!
幸い戸部は今のところ影響ないとは思いますが他の部署今頃混乱してますよ!!
早ければ今日の午後あたりからすべてがおかしくなってきます」
「いっそ紅性官吏出仕拒否くらいにしてくれれば可愛いものだったがな・・・。
こっちまでに火花飛ばすな」

鳳珠が舌打ちする勢いでぼやいた。
確かに・・・紅姓官吏出仕拒否と聞いてとりあえず大変なのは吏部だ。
・・・まさか・・・ついでに農作物の流通を止められるとは・・・ッ。
殴りかかりにいった恨みか。

はこの事態を巻き起こす一端に加担していた自分が嫌になった。
確かに、正しいことをしていたはずなのだが今後のことを考えるとちょっと後悔した。
なんて現金な私。

「とりあえず、今を乗り切るしかないですね!
幸い戸部には休みの人いないんですしここは何とかなると思います」
「問題は他の部署か・・・。
吏部は・・・黎深・・・は戦力外にしても李絳攸が抜けたのは痛いな・・・」
「・・・そう、ですね」

官吏は続けられるとしても、今即戦力となれないのは痛い。

「・・・あの、私吏部に・・・」
「駄目だ。
要請が来たらまた伝える。
・・・今回の件は・・・こうなる前に楊修だって何かしらできたはずだ」

・・・・。
鳳珠の中でも思うことがあるのだろう。
は黙って引き下がった。


朝廷が変わっている。
は久しぶりに日に当たろうと外で食事を食べていた。

「・・・兄上は・・・・大丈夫だろうか・・・」
「呼んだか?・・・・・・」
「兄上っ!?・・・いや、主上・・・」

久しぶりに会った王は少し疲れているような顔を見せたがには笑顔を見せた。

「・・・向こうの窓からがいるのが見えたのだ。
少し時間をもらって会いにきた」
「・・・そうですか、ありがとうございます。
あ、私の作った饅頭ですが食べますか?」
「おぉ、の手作りか。勿論食べるぞ」

流石に見つかってはまずいと茂みの奥にいって二人は昼ご飯を食べた。


「・・・なんだか・・・紅尚書に絳攸様・・・寂しくなりましたね」
「・・・うむ・・・。でも悲しんではおれんからな!」

そんな悲しそうな顔で明るいことを言わないでください。余計悲しくなります。

「・・・兄上・・・。ごめんなさい、私も少し顔を見に行けばよかった」
「大丈夫だ、余には悠舜や静蘭、楸瑛がいるからな。全然寂しくはないぞ!
にはの仕事があるのだろう?
余もそれなりに忙しいし・・・前みたいにちょこちょこと会うことはできなくなったな・・・」
「またちょこちょこ会えるような朝廷を作ればいいんですよ。
私も新しい仕事大分慣れてきたんですよ。・・・王だって少しずつ慣れていけばいい」

『少しずつ』が通用しない世界になりつつあるが、それでも。

「もしかしたら荒治療なのかもしれませんね。
兄上も、秀麗ちゃんも」
「・・・・え?」
「独り言です」

それから他愛ない話を少ししてから・・・

「そうだ、に官吏として頼みがある」
「なんでしょう?」
「吏部に頼めば一番早いと思ったのだが・・・も少しは分かると思って・・・」
「・・・・?」

「紅姓官吏の経歴や仕事っぷりを表す資料なんかないか?」

それを聞いて劉輝の真意をは知った。

「・・・兄上・・・」
「・・・どうだ?」
「・・・私が必ず見つけてきます。珀明に聞けば何か分かるかもしれないし・・・。
やっぱり、王に相応しいのは兄上しかいないと思います」

は立ち上がった。

「数日中に楸瑛殿あたりに資料を渡しておきます。
・・・早い方がいいですね。
丁度今暇してるんです。午後からちょっと探してきます」
「助かる!」

二人は微笑みあって別れた。


   

ーあとがきー

清雅のターン終了と同時に劉輝のターン。
何となく劉輝も王様として成長してますよね。親目線でうっかりみちゃいます。

さて・・・時間列の迷走も終わり、やっと通常の時間軸に乗って話が書けそうです。

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