「・・・あ、楸瑛殿」
「おや、殿。手伝いましょうか?」

自分の持っている書翰に埋もれそうになっているに楸瑛は苦笑した。
楸瑛はの持ってる書翰を半分持つ。

「・・・半分ですか。
男なら全部持つべきでは・・・?」
「・・・すいません、私にはこれで限界です。前見えませんしね」
「まぁ、良しとしましょう。
・・・あの、主上はどうですか?」
「・・・あぁ、寝る間も惜しんで頑張っているようですよ。
『ありがとう』と伝えておいてほしいと伝言されております。
しかし・・・修羅場に乗じて吏部に忍び込んでこっそり資料を持ってくるとは・・・。
流石といいますか・・・」

は苦笑した。
・・・確かに吏部の資料だ。しかしそれは吏部のものではない。

「・・・使いまわしでしたから・・・。
このように使われてあの資料たちも喜んでいるのではないでしょうか」

の意味深な発言に楸瑛は目を細めた。

「・・・前に私のところにとある方が紅姓官吏の資料を求めてやってきました。
きっともういらないと思ってそっちをくすねてきました」
「・・・・。
殿・・・それは・・・」
「・・・・・。
口止めをされてました。このようになる前に誰かに言えばよかったかもしれませんが・・・。
まぁ結果的には私は良かったと思いますよ。
絳攸様もギリギリ官吏を辞めなくてすみましたしね」

・・・的には、”良かった”のか・・・。
変わりに劉輝の立場がさらに危うくなったが・・・。

「もしも、というところで裏切られては困りますから。
多分、それが一番痛いと思う。
・・・さて、こちら側ばかり痛い目に合うのもそろそろ止めにしたいですよね」
「はは、止めにできたら一番いいんですけどねぇ・・・」
「同感。
はぁ・・・上と直接戦えるのが主上と悠舜様しかいないのが痛すぎる・・・。
秀麗ちゃんもいるけど、直接とはいかないし・・・。
噂では管尚書や黄尚書もこっちらしいですが・・・」
「・・・黄尚書もこちらに?」
「仕事中途半端にほっておけないし、朝廷がこんなことになっているのに戻れないですって!
あー、マジ惚れる」
「・・・・はは、そうですか。確かに彼らしい」
「でも二人共どっちかというと『悠舜』派なんですよねー。
・・・これでもし悠舜様が外れると・・・大変なことになりません?」
「そうですね、まぁあの方が簡単にやられるとは思いませんが・・・。
そういえば紅姓官吏の件なんですけど・・・悠舜殿は『紅姓官吏を即行クビに』といったそうで・・・」
「おお、これまた凄いことを・・・。そんな時代なんですかねぇ・・・」
「ですかねぇ・・・」

・・・が引きこもっている最中、朝廷はかなり動いているらしい。
その動きに乗れ切れてないのが悔しいが・・・戸部の覆面じゃしょうがない。
今後のためにも新しい人事くらいは目を通しておかねば・・・。

「さて、楸瑛殿はそれを工部まで。
私の分は持ち帰る分なのでここでお別れです。
これからも私の室に来てくださって構いませんよ。
中央の情報の変わりにお茶とお菓子くらいは用意します」
「そのお招き受けましょう」


物事には良い面と悪い面がある。
劉輝の行動が良い面に働いてくれればいいのだが・・・。


戸部に戻ると柚梨がを見つけて駆け寄ってきた。

「あ、お帰りなさいくん。
今から御史台にこの前陸御史と調べた資料についての話し合いがあるそうで行ってきてもらえませんか」
「・・・御史台にですか?」

微かに嫌な顔をしたに柚梨が苦笑した。

「・・・本当が私がいけばいいんですけど・・・」
「あ、いえ、行ってきます!」

本当に優しい人だ。こんな人の頼みを聞かないわけには行かない。

「任せてください。戸部の出来る人っぷりを発揮してきますので!」

清雅の評価はただ落ちだが。
っていうか、もうこれで縁は切れたと思っていたのに何故今更・・・。
紅家の経済封鎖はまだ解けてないみたいだし・・・

「それは頼もしい。
では、気をつけて」

柚梨の見送りを受けて、は御史台へと歩き出した。
・・・・物凄い、行きたくないが。

御史台の扉をくぐり、御史大夫室まで案内される。
うわ、やっぱり彼の室だ。
その室の前で清雅が待っていた。うわー、今一番会いたくない人ぶっちぎりNo1.
秀麗ちゃんこんなところよく毎日出仕してるわよ。
私なら引きこもる。仕事室に。

「よぉ、せっかく覆面してるのに雑用に逆戻りか?
お前には書翰運んでいるのがお似合いだぜ?いっそ武官に転職したらどうだ?
うっかり大将になれるんじゃないか」

体格も何もかも違うあの大将二人に自分が勝てると思っているのか。
勿論冗談とは分かっているが真剣に考えてしまった。
・・・女の大将か・・・ちょっとかっこいいじゃないの!

「おい、まさか本当に考えてるわけじゃないだろうな?
本気なら推薦書くらい書いてやってもいいぞ」
「か、考えるわけないじゃないの、馬鹿」
「・・・ふーん・・・」

衛士に呼ばれて二人は室に入る。
皇毅がいつもの無表情で座っていた。

そして、隣の室に案内される。
そこには先日まで清雅と調べていた資料が並べられていた。

「・・・まさかこの件を調べたのがお前だったとはな・・・」
「はい、有り難く勤めさせて頂きました」

棒読みでは答えた。皇毅の方も感情がまるでこもってないからおあいこだ。
皇毅は無視して続けた。

「紅州からの供給量は変わらず一定か・・・」
「はい、今はなんとか少しの値上げでしのいでますが・・・。
市場からは少しの不満はあるものの、これといった問題はまだありません」

少し気になっていたので仕事帰りに市と全商連に寄るようにはしていた。
どんどん減る在庫量。
商人達の顔は日に日に険しくなっていく。

「・・・まだ不安は商人にしか伝播していません・・・。
が、民にまでこの事実がしれれば大きな混乱を招きます」
「・・・お前の方は?」

皇毅の視線が清雅に移る。

「今のところまだ怪しい人物はつかめていませんが・・・これが出来る人物といえば・・・」
「最近までここにいた紅尚書・・・いや前吏部尚書じゃ無理なわけですよね」
「・・・では、今紅州にいる名代紅玖琅・・・か・・・」

・・・・ないな。

「昨日までいた引きこもりが今になって外に行くなんて・・・相変らず使えないな」
「・・・昨日まで?」

やっぱり仕事室に引きこもる人っていたのか・・・。
その時衛士が入ってきた。

「・・・あの長官・・・」
「・・・・通せ。二人共そこで待っていろ」

皇毅が御史大夫室に入ってくる。
緊張が解けた。

「・・・あー、息が詰まる。
なんであの人あんなに無表情なのよ。
感情どっかに落っことしてきてるんじゃない?」
「・・・あの仮面尚書よりましだろ」
「馬鹿ね。あの仮面も何度も見れば愛嬌よ。
気分も分かるし、葵大夫よりは表情豊かよ」
「仮面よりも表情が乏しい顔ってなんだ。
失礼にも程があるだろ・・・」

・・・しかし感情の区別が怒りくらいしか見分けつかない皇毅より何種類もの仮面を使い分ける黄尚書の方が確かに感情豊かかもしれない。
うっかり考えてしまった清雅はそこで考えを消す。

「実際そうじゃない」

・・・ていうか、あの仮面の下に潜む素顔のと美声のギャップがたまんないんだろー!
と声高々にしていえないのが残念で仕方がない。
今なら彼の魅力を三日三晩話し続けられる自信がある。


「・・・ていうか・・・さっさと犯人見つけなさいよね。
言っとくけど玖琅様じゃないから」
「・・・まぁ可能性としては捨てきれないが多分そうだな」
「事情を知ってる全商連の方はかなり苦い顔してるわよ。
あの人達をどこまで黙らせることができるかねぇ・・・。これで一月続けば次は全商連の方が切れてくるわよ」
「それを止めるのがそっちの仕事だろ?」
「こっちの仕事だから言ってんじゃない。
わざわざ苦情受けなんてやってられないわよ。
お陰で一日一日彼らの表情がどう変わっていくかみるのが最近の楽しみになっていったじゃない。
絵に描いて見せてあげたいくらいだわ」
「ほぉ、是非爆発するまで続けてもらいたいものだな」

大夫室の方から賑やかな声が聞こえる。
秀麗だろうか。

「で、玖琅様以外には誰か犯人有力な人いないの?」
「・・・・お前にいってどうするんだ」
「いや、捜査状況がどれだけ進行しているかの確認。
言いたくなきゃいわなくていいけど・・・。私も厄介ごとには巻き込まれたくないしね」
「ふーん、それじゃあ、お前の見立てじゃ誰だと思うんだ。
ここまでヒントを出されて考えないお前じゃないだろう」
「・・・そうねぇ・・・」

紅一族全員に影響を与えられる人物。
・・・黎深、玖琅・・・。邵可は追い出されているし、でも黎深を介せばそれも可能となるだろう。
あぁそういえば、黎深様の奥様もいたんだっけ?
百合姫・・・?あの鳳珠様を振ったという物凄い女性。彼女でも・・・もしかしたら・・・。
うーん・・・どんな人か見たことないから分からないけど・・・。

「・・・うーん、分からないかな」
「チッ、本当つかえないな」
「うるさいわよ。
紅家にそんな影響を与えられる人物なんて直系以外にホイホイ思いつくわけないじゃない」

大体黎深を思いのまま動かせるのは邵可秀麗しかいないのだ。
そんな一族主義・・・もとい身内大好き紅家に影響を与えられる人なんて・・・。

「大体彩七家各家に影響を与えるものなんて・・・紫家と・・・」

そういえば、他の家は結構周りの影響受けてないのに紫家だけ他から影響受けているような気がする。
立場柄しょうがないことだが。

「・・・ねぇ、紅家にご意見番みたいなのいないの?
ほら、朝廷だったら霄太師とかどっかそんな感じの・・・」
「・・・さてな。いたらそいつの可能性も高いが・・・系譜上見つからなかったぜ」
「そうか・・・」

扉が開いた。

二人は姿勢を正す。
皇毅は秀麗をつれてきたようだ。

「あ・・・」

秀麗がを見て笑顔になる。
も笑顔で答えた。

「感動の再会は話の後にしろ。
さて、これを見ろ」

皇毅の対応にはほぅ、と眉を少し動かした。
秀麗相手だと少し言葉の表現が柔らかくなるみたいだ。
皇毅と目があった。はふいと、目を逸らした。

すいません、思わずじっと見つめてしまいました。相変らず素敵なお顔デスネ。

秀麗はすぐに現状に気付き原因まで突き止めた。
流石、御史台の荒波を乗り越えてきただけある。
は関心するばかりであった。これなら劉輝も安心して任せられる。

「・・・今日明日にでも朝議にこれを報告し、ギリギリまで戸部と朝廷と貴陽全商連で物価の高騰を抑える。
・・・できるな」
「仰せのとおりに」

は皇毅に礼をとる。

「清雅は引き続きこの件を徹底的に調べろ」
「わかりました」
「・・・お前はどうする?」

残された秀麗は三人の視線を受けて、キュッと唇を引き締めた。

「やります、私は紅一族である前に、官吏ですから」
「決まりだな。
・・・茈、お前も清雅と紅秀麗に極力協力すること」
「・・・え・・・?」

は眉を潜めて皇毅の顔を見た。

「浪燕青の変わりくらいにはなるだろう」
「・・・燕青の・・・かわりですか・・・」

評価されているのかいないのか微妙なところだ。

「雑用として朝廷を走り回っているより有効に使ってやろうという心優しい採用だ。
全商連の機嫌取りだけでは物足りないだろう。
有り難く受け取れ」

うわぁ・・・凄い嫌な笑顔で言われた。
この人はこれで笑っているつもりなんだろうか。
きっと戸部の方にも万全に手回ししてあるんだろうな。
・・・また清雅の雑用か・・・。

「・・・分かりました」
「話は以上だ、紅秀麗は残れ」


室から出たは、はぁぁぁ、と大きなため息をついた。

「・・・ちょっと清雅ーあんた長官になんて報告したのよ。
別に私の株上げてくれなくても全然良かったんだけど。そんな事一つも頼んでないわよ」
「ため息つきたいのは俺の方だ。
お前がいると思うだけでなんかもうやる気失せるんだが・・・。
それに俺が人の株、ましてやお前の株なんてあげるわけないだろ」
「はは、それもそうね。
あー、あんたの指示受けるくらいなら万年黄尚書の雑用でいいわよー」
「・・・俺はあの仮面尚書以下か?」
「黄尚書と並べると思ってることからして片腹痛いわよ。
十回ほど転生してその腹黒い性格直してからいらっしゃい」


大夫室から出てきた秀麗は首を振り、頬を両手でパンと叩いて気合をいれた。

「・・・さて、また長官からしっかり釘さされたところで・・・。
やってやろうじゃないの!」

清雅がニヤリと笑う。

「へぇ・・・予想以上に実家潰すのにやる気じゃねぇか。
任せろ、得意分野だ」
「どうしてそうなるのよ。
もういいわ、ちょっと燕青に話つけてくるから待ってて」
「あれ、やっぱり燕青もいるの?・・・私いらなくない?」

・・・確かに。

「清雅に御史裏行つけようっていう長官からの気遣いなんじゃない?」

先程の資料を見たが、大分調べこまれていた。
が細かい調べ物が得意だと知っていたが、短期間でこれまでとは・・・。
きっと自分と違って清雅との相性がいいのだろう。

秀麗の予想とは裏腹に、彼女の言葉で二人は鳥肌がたった。

あの長官が”気遣い”!?
あの長官の性格をきっと自分より知ってるのにどうしたら”気遣い”という言葉がでてくるのだ。

「”気遣い”を通り越して嫌がらせよ。
ていうか、人選最悪すぎない?
ここまで的確に嫌がるところをついてきてるなんて嫌がらせのプロよ!
なんでわざわざ部署を越えて私っ!?」
「この件を知っていたからじゃない?あまり広げていい話題じゃないし・・・」

しかも、秀麗といえばそれを当然としていっているようである。
あれ・・・秀麗も清雅の性格を嫌という程知っている・・・はず。
私ならコイツに合うとでも思ったのか。まさか。

「俺からも願いさげだぜ。凄い足手まとい」
「やることはキチッとしたじゃない」
「お前といるとやる気が失せるんだよ!」
「ふーん、秀麗ちゃんとならやる気出るんだ。・・・へぇ・・・。
いいわよ。私燕青と二人で雑用してるから・・・」
「ちょ、やめてよ。私だってこんな蛾男願い下げよ!」

・・・流石の清雅も敵が二人になると黙るしかなかった。
しかしなんだろう・・・。
・・・自分が一番仕事できるはずなのに自分の押し付け合いになっている。
確かにこの二人に良い事をしたことはないが・・・ここまであからさまに嫌がらないでも。
さらに凄いのは本人の前で堂々と悪口をネタが尽きもせず互いに披露しまくっているところだ。

「・・・ほぅ、そんなに私の人選が気に食わなかったか」

いつの間にか大夫室の扉が開き、そこの主が後ろに立っていた。

『・・・・。』
「こんなところで呑気にお喋りとは余裕だな、貴様ら・・・」
「・・・えと・・・」
「これで見つかりませんでしたとでもいってみろ。
全員まとめてクビだからな・・・」
『すいませんでした。』


   

ーあとがきー

清雅の押し付け合いは意外に書いてて面白かったといいますか・・・(笑)
なんだかんだで御史台面子は楽しいと思います。


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