それから数日。
戸部の仕事をこなしながら、は清雅にパシられる日々を送っていた。


「失礼します。
・・・くそ、いないじゃないのよ、あの蛾男・・・」

いないと分かっては早速毒づいた。
結局あの後清雅の雑用係に任命され、膨大な調べ物を任されてしまった。
嫌味を言われるのも癪なので仕事の合間にちょこちょこと調べてきてやったのに・・・・っ。
・・・奴は秀麗と楽しくデートか。

「ちっくしょー。・・・確かに私に御史台の仕事はできないけどさ・・・」

あまり深くまで関わると、自分の身まで危なくなってしまう。
クソ・・・昨日ちょっと頑張っちゃったのに・・・。
とりあえずその辺の衛士に清雅宛の資料を任せ、しぶしぶ御史台を去ろうとしたとき後ろから声が掛かった。

「あれ、じゃん。お疲れ〜」
「燕青!どうしたの?
・・・その恰好」

燕青の恰好はまるで農夫だ。

「あぁ、ちょっと姫さんに頼まれて今から囚人のみんなと稲刈り」
「へぇ〜私そういうの見たことないんだよね。いいなぁ〜」
「暇なら来るか?
・・・といってもは忙しいもんな〜」
「行く!」
「・・・・え?」

行くの?

「フッ・・・・。
一応嫌味は言ってるけど一人じゃ大変そうだし、可哀想だから手伝ってやろうと時間をわざわざ作った私が馬鹿だったわ!
今日ばかりはなんか戸部の仕事を手伝うのも馬鹿馬鹿しくなってきたし、久しぶりにお日様の下肉体労働してもいいわよ!
最近休んでないし!」
「なんだかんだいって、いいコンビじゃん。と清雅」
「・・・空気読めないのは秀麗ちゃんと蘇芳くらいにしてよー。
こちとら縁切りたくてお互い必死なのに」
「ふーん・・・。でもあいつきっと感謝してるよ。
すっきり寝たらしく、嫌味がさらに饒舌になっちゃってさ。
姫さんと漫才できるんじゃない?
・・・あ、これ静蘭に内緒だからな。清雅と二人きりで仕事してるとかも言っちゃ駄目だからな」
「・・・あれ?駄目だった?」
「え、言ったのっ!?」

カラーンと燕青の持っていた鎌が落ちる。
今の瞬間にその鎌で首を掻っ切られそうな幻覚さえ見えた。

「あはは、うそうそ。嘘。
・・・あれ?燕青・・・ゴメン・・・大丈夫?」
「・・・ですよね。そうじゃないと・・・今頃、俺死んでるから」
「はは・・・」

も乾いた笑いしかできなかった。燕青の怯えようを見る限り静蘭も本気だろう。
はすっかりテンションの下がってしまった燕青をなんとか慰めながら囚人のいる牢へ向かった。


黄色く穂のついた稲はまさに狩り時だ。
囚人達はすぐにもくもくと作業をし始めた。

燕青も一緒に作業に入る。
は武官達としばらくその様子を見ていた。
この様子なら問題なく作業は終わるだろう。

「あー、凄い気持ちいい天気・・・。まさに稲刈り日和よね」

日の光があまりにも気持ちよくてはうとうとしてきた。
・・・いかんいかん、まだ勤務時間帯・・・。

、眠いの?」

燕青がこちらに気付いたのか遠くから話しかけてみる。
もそれに答えた。

「・・・うぅ、ちょっと徹夜が効いたみたい・・・。
私も働くわ。・・・といってもこっちの分野はとんと無知で・・・何をすればいいか・・・」
「へぇ、にも出来ないことってあるんだな。なんか意外」
「私にできないことなんてたくさんあるわよ。・・・これ運べばいい?」
「うん、そこの代車に乗せて。これを乾して、乾いたら叩いて米になる」
「ふーん・・・」
「・・・知らなかった?」
「引きこもりが長かったから・・・。
町人の暮らしはなんとなく理解したつもりでいるんだけど農家の生活は全然。
官吏って難しいわね」
「何事も勉強だ。
暇な時は姫さんにいってここに来るといい。他の野菜も育ててるし・・・」
「そうする」

は燕青達が狩った稲を運ぼうと持ち上げた。
囚人達の歓声が起こる。

「・・・あはは、本気出しすぎちゃったかしら?」
「流石・・・といいたいところだが、官服汚れるぜ?いいのか」
「・・・先にいってくれた方が良かったかも。
・・・もういいわよ、最後まで手伝うわ」


昼ご飯を食べて、午後からも作業に移る。
最初は緊張していた武官も農作業体験者が多いらしく午後からは半分が参加してきた。
作業がぐっと早くなる。
・・・こういうのも悪くない。

が大量の稲を運び終えた時だ。
キーーーンと耳鳴りが聞こえた。

「・・・・?」

頭の中で警鐘がなる。
どこかで縹家の力を感じた。
方角は紅姓貴族がよく家を連ねている・・・。
・・・ていうか、本格的黎深様の・・・。

「燕青、秀麗ちゃんと清雅今日どこにデートに行ってるのっ!?」
「・・・デート・・・。
確か絳攸様んち行くって・・・」
「・・・燕青、休養を思い出したからちょっと馬借りるわね!!」
「・・・は?」

はそのまま駆け出した。
嫌な予感がする。

木に繋いでいた馬を解放しそれにのる。

「あとで返すわ!」

近くの武官にそう言い放ちはそのまま馬で華麗にその場を去った。

「え、ちょ・・・・」
「何があったかしらねーけど、かっけぇ〜」


幸い街中を通らなくても気配があるところまで人通りの少ない裏道を使うことができた。
狙うおそらく場所は町外れ黎深の家はまだ人通りが多いからしばらくは安全だろう。
兇手達は朝廷とは別方向に集まっているようだ。
運がいい事に、田んぼと兇手の集まっているところは近かった。

・・・間に合え・・・ッ!

道の途中で腱を切られてもがいている馬と既に事切れた馭者がいた。
は舌打ちした。遅かったようだ。
兇手の人数も増えている。早くしないと二人が・・・。

その時、どこかで凄まじい音が聞こえた。
も堪えたが、馬の方はそれ以上らしい。は叩き落とされる前に馬から飛び降り徒歩で駆けつけることにした。
きっと秀麗の護身用の道具だろう。
あまり吹かないでくれると、としてもありがたいのだが・・・。
十字路が目の前に見える。そしてそこを全速力で秀麗が駆けていくのが見えた。

「・・・見つけたっ!!」

馬をあげればいいのだが、今の様子じゃ使えそうにもない。
清雅はどこにいるんだろう。
庇っているのなら、それはそれでいいのだが・・・。
が十字路に出たところで秀麗のところへ向かう兇手と鉢合わせた。

「させるかっ!!」

は反射的に身体を捻って、兇手の腹に回し蹴りを食らわせた。
あまり効いていないようだがそれでも足止めくらいにはなっただろう。
短剣と扇を構える。
清雅は奥で数人の兇手と対峙していた。

「清雅、変わってあげるからあんたは秀麗ちゃんと逃げて!」
「チッ、なんでお前が出て来るんだよ・・・」
「遅れて登場するのがヒーローってもんでしょ!
惚れてくれて構わないわよ!」

清雅は呆れながらも秀麗の後を追う様に走る。
は兇手を手刀で相手を気絶させた。

「はいはい、惚れた惚れた。
盾程度にはなってくれよ」
「・・・盾どころか最強の矛になってやるわよ」

は逆に清雅向かって走り出す。
清雅とすれ違い様、は呟いた。

「・・・秀麗ちゃんは護りなさいよ」
「言われなくても分かってる」

は横目で清雅をみてふっと笑った。
分かってるじゃない。
清雅を追ってきた兇手を四人に飛び道具を投げる。
足止めになればいいが・・・。あとは一人ひとり沈めていくしか・・・

「・・・そういえば、こいつら縹家の・・・」

どうせなら後ろについている縹家の力をはいでただの雑魚にすれば清雅も戦えるはずだ。
は闇姫の記憶をかき集める。
洗脳の解除方法は・・・

は額の布を取り額の印に指を当てた。

「解除」

兇手の目に光が戻ってきた。
・・・成功。

「よしこのまま・・・」

を越えていこうとする兇手の布を無理矢理掴み、剥いで次々解除していく。
襲い掛かってくる兇手には蹴りをいれるだけで先程よりは足止めが効いた。
四人をなんとか縹家の力から解放したところで新しい兇手が清雅達の後を追うのが見えた。

「・・・清雅ーーーーっ!!!
ごめん、一人行ったわよーーー!!」

兇手の背中に変な網がついている。おそらく秀麗の護身道具に引っかかったのだろう。
そしてもこちらにいる兇手を全部のして清雅達の下へ走った。

飛び道具を投げても、この距離で当てるのは難しかった。
場所が悪ければ、清雅や秀麗に当たってしまう。

「・・・っ」

先程兇手から縹家の力を解放するのに少し力を使ってしまったため、身体も思うように動かなくなってきた。
貴陽じゃなければこれくらいどうってことないはずなのに・・・。
足に力が入らずその場で盛大に転んでしまった。

「・・・くっ、こんな時に・・・」

めまいや耳鳴りを無視しては起き上がる。
護るといった手前こんなところで倒れてはいられない。

あと一人なのに・・・

転んだ時にできた傷から血が滲む。
は飛び道具にその血を垂らした。
・・・あまり、使いたくなかったんだけれど。
はその飛び道具に言霊を授け術者に向けて投げた。
弱々しく投げられたものだが、それはまっすぐ術者に向けて飛んでいった。
そしてそれは兇手のうなじに刺さった。

それを見届けてはそのまま地面に突っ伏した。

「・・・駄目だ、身体に力はいらない・・・」

秀麗と清雅は大丈夫だろうか。
というかこれ以上兇手がきたら私も二人も危ないんだけれど・・・。
こんなことなら燕青もつれてこれば良かった。

「清雅っ!・・・っ!?」

秀麗の声が聞こえた。
霞む視界に秀麗と清雅が見える。
・・・そんなところで止まってないで逃げなさいよ・・・。
私がせっかく時間作ってあげたのに・・・。
遠くで秀麗の声が聞こえる。

「・・・まさか清雅までやられたって・・・。
まさか・・・この中で一番死にそうにないやつが・・・。
だって、あいつ秀麗ちゃんを盾にしてでも逃げそうじゃない」

まどろみの中は独り言を呟いてみた。
清雅が怪我をしていく。縹家の術の中には治癒を施すためのものもある。
早く行かないと手遅れに。

秀麗の声が聞こえなくなったと感じた瞬間、は全身に鳥肌が出た。
とてつもない大きな力が近くから溢れてくる。
世界が大きく揺れたように感じる。

・・・秀麗、ちゃん・・・?

霄の言葉を思い出した。
秀麗の命はわずかしかなくて、力を使うと・・・

先程まで動かなかった身体が急に軽くなった。頭も異常にすっきりしてきた。
は反射的に起き上がった。

駄目だ、ここで力を使ってしまうと・・・。

「秀麗ちゃん、待って・・・・」

ドン、と轟音と共に土砂降りの豪雨が降り注いだ。


雨に負けそうになりながらも、は秀麗と清雅に近付いた。

「秀麗ちゃんっ!」

秀麗も力を使い果たしたようで反応がない。
清雅を見ると肺に小柄が刺さっている。
秀麗の方は外傷はないらしい。はとりあえず清雅の小柄を掴んだ。
秀麗の力のお陰だろうか。今なら力をどれだけでも使える気がする。

「・・・清雅、ちょっと痛いけど我慢しなさいよ」

抜いた瞬間清雅が微かに呻いた。
・・・良かった、まだ生きている。

「・・・こんな美女二人に救われるなんてあんた凄い幸運の持ち主ね。
日頃の行い悪いくせに羨ましすぎるわ」

は清雅の傷口に手を当てた。
これを全て治すとなればこちらが危ない。
応急処置程度にはしておきたいが・・・

秀麗の力があっても、人の傷を摂理に逆らって治すのはとても力が必要になる。
せめて、血を止めれれば・・・
また頭にもやがてきたように、ぼうっとしてきた。
どこかから馬の蹄の音が聞こえた。

「・・・燕青・・・?」

・・・遅いのよ、少しおかしいと思ってついてきなさいよ。
が顔を上げたらそこには予想外の人物がいた。

「・・・葵長官・・・」
「・・・三人でこの有様か・・・」

可愛い部下が二人と外部の人間がボロボロになっているのに相変らず表情、声音一つ変えない皇毅には苦笑した。
・・・まぁこの人らしいといえばこの人らしいが。
物凄いおろおろして心配されるよりマシか。そんな葵皇毅見たくない。

「褒めてくださいよ。兇手五人倒したんですよ。
・・・もしかして燕青の変わりって・・・こういう意味ですか?」

皇毅は何も言わなかった。

「・・・可愛らしい乙女を武官代わりとは葵長官も霄太師ビックリの人選をなさいますよね」
「兇手五人倒すような奴が、可愛らしい乙女とは初耳だ」
「・・・・・・・。
ヤバいのは清雅だけです。
・・・私と秀麗ちゃんは休めばなんとかなりそう・・・。
清雅だけ先にお願いします。・・・血は止まっていると思うのですが丁寧に運んでくださいね」
「・・・助けて、葵長官・・・っ!」

微かに意識を取り戻した秀麗が皇毅にしがみついた。
その後またパタリと意識を失ってしまったが。

「・・・あんなに虐められてるのに秀麗ちゃんって健気ですよねー。
どんだけ死の淵にあっても貴方だけにはすがらない気がします」
「・・・ほぅ、この雨の中わざわざ助けにきてくれた上司の優しさを無下に断るとは・・・。
・・・お前だけ自力で戻るか?それでも構わんぞ」
「・・・すいません、前言撤回します。助けてください、葵長官」

遠くから軒が着ているのがうっすら分かる。
皇毅は自分の着ていた雨避けの衣をにかけた。

「・・・え・・・?」
「・・・軒には二人しか乗せられないからな」

気を失っている二人を乗せるのでいっぱいなのだろう。
次の軒を待つまできっと時間がかかる。

「あぁ、いいですよ。馬で帰れます」

そういえば、先程の馬はどこへいったのだろう。
が立ち上がろうとしたとき、皇毅がの腕を押さえた。

「・・・どこへいく」
「そういえば、馬でここまで来たの思い出したのでそれで帰ろうと・・・。
葵長官から雨避けもらいましたし・・・」

容赦なく頭をはたかれた。
先程助けて欲しいといった口はどの口だ。

「・・・馬から落ちて自殺するつもりかお前は。
そうしたいならそれでも構わんが、お前には今の状況を話してもらわねば困る。
私と一緒に戻るぞ」
「・・・へ?一緒に・・・」

皇毅の後ろで立派な馬が控えていた。

「・・・あの、長官と一緒に馬乗っていいんですか」
「時間の短縮だ。乗ってきた馬なぞ離しておけ」

・・・いや、それは多分まずい・・・。
燕青かどこかの武官のせいにされてしまう・・・後々秀麗の責任になってしまう・・・。
あとで報告書くらいは書いてあげよう。

「・・・それとも私と一緒に乗るのが不満か?」
「え、・・・いや・・・・トテモ、光栄デス」

清雅と秀麗が軒へ運ばれていく。
それを見届け皇毅はを横抱きした。

「・・・ふえっ!?
いや、長官自分で歩けますって!!」
「ふらふらなくせに・・・。あとその酷い顔早く手当てした方がいいぞ」

をひょいと馬に乗せて皇毅も後に続く。
皇毅がの顔についた泥をぬぐった。ついでにボサボサになっていた髪をすく。

「・・・何かついてましたか・・・」
「・・・あまりにも酷かったからな。行くぞ」
「あ、はーい・・・あの長官・・・」
「なんだ」
「・・・少し疲れたので・・・申し訳ないのですが、寄りかかってもいいですか・・・なんて・・・」
「好きにしろ」

お言葉に甘えては皇毅に背中を預けた。馬の揺れで眠気も襲ってくる。
はそこで意識を失った。


   

ーあとがきー

VS兇手。
バトルシーンって好きなんですよね。文書きなのに。
状況はなんとなく雰囲気で味わってください。←
清雅は無傷で助けても良かったのですが、まぁ・・・原作はやられてるし、奴にも痛い目少しはあってもらおうかと・・・。
あと最後の長官・・・いいとことりですね、分かります。

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