まだ正月雰囲気が抜けない新年三日目。
は朝廷内でやっと鳳珠の居場所の手がかりを得た。

「・・・そういえば、黄尚書なら宿屋の前まで見かけたぞ・・・・」

そうか、宿屋を転々としていたのか・・・。あぁ、なんで今まで気づかなかったんだろう・・・っっ。
しかし、そこまで分かれば、 の情報網を甘く見てはいけない。
『高級』と名のつく料亭、旅館は の箱庭だ。女将さんに話をしておけば彼の居場所が分かる。
そして、ここで面会しないとなれば・・・。

午前中聞きまわって、情報を回してもらえるように頼んでおいた。
次は少し離れた旅館。
は上がっている息を整える。そして中に入った。

「あぁ、 ちゃん。
あけましておめでとう。
・・・どうしたの?」

笑顔で女将さんが出迎えてくれる。

「あけましておめでとうございます。今年もなにとぞ・・・じゃなくて。
・・・すいません、仮面被った偉い人、こちらにおいでてませんか・・・?」
「悪いけど ちゃんでもお客様の情報はねぇ」
「うちの上司なんです〜っっ。
どうしても伝えたいことがありまして、ここ五日間ずーっと探していたんです。
お願いしますっっ」

あまりにも必死な の姿に女将は苦笑した。

「仮面の尚書さんなら今三階の部屋においでるよ」
「ありがとうございますっっ。。
・・・やっと見つけた・・・っっ。失礼しますっっ」

はそのまま早足で中に入っていった。
女将は制止しようと手を伸ばしたがその手は行き場を失った。

「・・・あー、お客様を尋ねにいらっしゃったんだけど・・・」



「鳳珠様っ!!」

人の気配がありそうな部屋は限られていてそこでそれらしき部屋にたどり着く。
は躊躇わず扉を開けた。

・・・が、その中には鳳珠もいたが予想外に他の人がいた。

「・・・あっ・・・」

自分としたことがやってしまった。
変な汗がたらりと流れる。
久しぶりに、官吏クビ。という危機感を覚えた。

「・・・ ・・・?」

何故ここに・・・?
部屋の中にいた人たちも唖然としていた。
何か重要な話をしていたらしく、机の上にはなにか紙が置いてある。
室の中をよくみれば、柚梨と悠舜と・・・?

「・・・彰っ!?・・・じゃない・・・」

ぱっと見、眼鏡をかけていない柴彰かと思った。
が、良く見ると女性でしかも、とても美しい。

・・・・誰・・・?いや、もしかして・・・

その綺麗な女性は隣に座っている悠舜に話しかけた。

「・・・旦那様。
この方が彰の言っていた方か?」
「えぇ、 さんですよ。
鳳珠と景侍郎と一緒に戸部で働いているんです」
「もしかして・・・彰のお姉さんっ!?」

何とか現状が飲みこめた。
そういえば、彰には双子の姉がいてしかも悠舜と昨年結婚したという・・・
可愛いというより美しいという言葉の似合うその美貌に見とれてしまっている に凛は目を輝かせて近づいてきた。
そしてガシッと手を握る。

「貴方が 殿か。
可愛いな。秀麗殿とまた別の気品が・・・」

より少し背の高い彼女は少し屈んで と目線を合わせる。あまりの綺麗さに一歩後退る。
凛は一人納得して頷いた。

「うんうん、彰が気になるのもわかるな。
ふふっ、 殿が義妹か・・・嬉しいものだな」

・・・はい?

「・・・ちょ・・・ちょっとお姉さん?
今何と・・・」

凛の問題発言に は思わず突っ込んだ。が。

「お義姉さんなんて照れるじゃないか。
いや良いぞ。これからそう呼ぶが良い」

・・・いやいやいや・・・。

『彰のお姉さん』を略したつもりだったが、なんか変なところで勘違いされているらしい。
将来は彰の儲けの分で立派な新居を建てるのもいいな。新たな柴家の幕開けだ。と凛は未来への明るい妄想をどんどん脳内で繰り広げる。

「・・・えっと・・・悠舜さん・・・。
どうなっているのですか・・・?」

事情がさっぱり飲みこめないのですが・・・。
はとりあえず、事情を知っていそうな悠舜に助けの視線を求めた。

「あぁ・・・・悪いね・・・
凛は自分が結婚したもんだから、次は彰くんの方に・・・という事で東奔西走していましてね。
丁度 さんが茶州に着た時全商連のお手伝いをしたでしょう?
その時に彰くんと仲良くしていたもんだから一時期噂になってしまいまして・・・。
そこに凛は・・・」
「ちょっ・・・私一日しか働いてないしーっ!?
燕青でも誰でもいいから否定しておいてよっ!!
っていうか彰もどういうつもりっ!?」
「・・・ちなみに彰くんもこの事知らないよ。多分」
「えぇっ!?」

また本人達の知らないところで変な噂が立ってしまった・・・。
とにかく断っておこうと必死に言葉を選ぶ。

「いやでも、私紫州で官吏生活続けようと思うんで流石に・・・」
「心配ない、彰もいずれ官吏になるから気にするな。
勿論、やるからには上を目指させるぞ」

その言葉に は本気で驚いた。
あの商人の鏡と例えても良いほどの彰が官吏に・・・?

「えっ・・・商人はどうするんですか?」
「もともと、彰は官吏志望だったんだよ。
茶州も落ちついたし、うちも懐はかなり膨らんでいる。
今では父と悠舜殿だけでも十分食べていけるくらいだしね。
・・・だから、私達が商人を続ける理由はもうないのさ」

凛はきっぱりと言った。
その言葉に 始め、鳳珠と柚梨の目も細められた。悠舜はそれに首を傾げる。

「・・・あのっ・・・それってやっぱり国試を受けるのですか?」
「あぁ、やるからにはそうだろうね。
次回あたりには多分受かると思うよ」

キランッと三人の目が光った。
凛の手をさっと離し、 は鳳珠の元に向かう。

「・・・全商連で高幹部か・・・。これはいい戦力になる」

鳳珠がふっと笑む。

「鳳珠様っ!!これは絶対キープですよ。」
「何が何でも紅尚書に訴えて柴彰殿を戸部に回せと頼んでおいてくださいね。
絶対ですよ」

『脱・魔の戸部』です!!(能吏が増える=仕事が減る、の方程式らしい)

「あーでも、彰は茶州に・・・」
「数年は中央においてくださっても良いでしょう?
基本は戸部でみっちり鍛えられますから」
「仮にこの案が通り、実現すれば茶州の方も安定するだろう・・・。
・・・協力するぞ。悠舜。
この案件。絶対通してみせよう」

さっきまで難しい顔をしていたのはどこへやら。
関係ないこの一言で針の穴に糸は通った。
流石の悠舜も唖然とした。

「・・・え・・・鳳珠?いいんですか?というか貴方の見解・・・本当に大丈夫何ですか?
・・・それに貴方、彰くん巻き込んで何を・・・」
「私も今現在苦労していてね・・・。
が入ってくれたから今年は新年三日前に年末の仕事が終わったものの・・・。
能吏一人でも逃すわけには行かないのだよ。
・・・言っちゃ悪いが茶州ほど根性ある能吏がたくさんいるわけでなし、黎深が送ってくる官吏は阿呆ばかり。
・・・くそっ、私の部署を使えない官吏の矯正養成所にするとは良い度胸・・・」

悠舜は苦笑した。中央は平和ながらも些細な問題がちらほら出ているらしい。
というか同期のささやかな嫌がらせだが。

「・・・聞けば、 くんまでこき使っているんですって?」
「別に。
皆と同じ仕事を振り分けているだけだ」

ただ下官ということで雑用が主になるから、体力と簡単な仕事が大量に回ってくる。
余計忙しく見えるのだろう。

「容赦ありませんね」
「お前ほどではない。
見ればこの案、相当急いで作られたと見えるが・・・?」
「今まで州牧達が頑張ってましたから・・・
少しくらい、私達も頑張らないと」

ちなみに今では朝廷の常識だが『悪夢の国試組』の使う『少し』『簡単』『すぐに』は現実とは掛け離れた意味で使われる。
凛と対話していた だがここに来た理由を思い出し、鳳珠に向き直った。

「あの〜、鳳珠様・・・。
・・・大変申し訳ないのですが・・・」
「どうした?」

は懐から一通の手紙を取り出し鳳珠に渡した。数日間彼を探しまわっていたのはこの為である。
鳳珠はその手紙に押してある”鴛鴦彩花”の印を見つけ固まった。
なんとなく何が書いてあるか読まなくてもわかる。

「・・・どこで・・・会った?」
「本当、申し訳ございません。
実は当主挨拶の際、丁度宿直で戸部まで出仕する途中でばったり出会ってしまいまして・・・」

朝廷に入る女なんて限られている。
しかも、こんな正月に正装してない者なんて と面識がなくても分かる。
鳳珠はこめかみを押さえた。今まで逃げまわってきたのが無駄となった。
おそらくこれで顔を出さずにいれば、 にまた被害が及んでしまう可能性も考えられなくもない。
またややこしい自体になりそうだ。

鳳珠は仕方なく封を切った。 は心配そうに、逆に悠舜は面白そうにその様子を眺める。
大きなため息一つ。
鳳珠は手紙を机の上にほうり投げた。

「どうしました?鳳珠」
「読みたいなら読め」

悠舜は手紙の中身を見て苦笑した。

「鳳珠・・・やっぱり変な仮面被ってないで新しいお嫁さん貰っておくべきじゃなかったんですか?
というか、同期では飛翔と貴方だけじゃないですか?独身・・・」
「そう思いますよね。鄭補佐。
私も何度それを言ったか・・・」
「・・・それ今更言っても遅いだろう・・・
チッ、仕方ない。今から帰るか・・・。
柚梨、 。この二人を戸部の資料室まで案内してあげろ。
許可は柚梨、適当に書いておいてくれ」
「了解です」
「うぅ・・・、本当に申し訳ありません」
「いずれこうなる事は分かっていた。気にするな」

そういうが、内心鬱だ。どうせ、見合い話と苦労話の連続。さて、どうやって切りぬけようか・・・。


「・・・黄尚書も大変なのだな」

凛が去っていった鳳珠の背を見て呟いた。

「一応彩七家の直系男子ですから。今まで結婚してない方がおかしいですって・・・。
でも噂では婚約者もいるとか聞いた事があるような・・・」
「あっ、いるらしいですよ。でもなんかそこでも訳ありらしくって色々・・・。
・・・さて、行きましょうか。早く行って早く終わらせましょう。
私軒の手配をしてきます」

が先に部屋を出ていった。

「・・・本当に さんは働きもので気が利きますね。
実は茶州に留めておきたいと思ったものですが」
「それは困りますよ。 くんがいないおかげであの三ヶ月戸部では地獄の日々を送ったんですから・・・」
「・・・しかし、鳳珠もまんざらではないようで・・・」

ふっ、と悠舜の口元に笑みが浮かぶ。
凛が彰との話を出した時に微妙に鳳珠の表情が強張ったのを覚えている。
しかも、今日初めて二人のやりとりをみたが親密度はかなり高い。

「・・・ さん、もてもてですね」
「駄目ですよ。彼女は鳳珠にあげるつもりですからね。
でないとあの人、本当に結婚の機会を逃してしまいますから」
「ん〜、でも茶州で見た時は龍蓮殿とも中々親しかったし、燕青・・・あー、あれは変わらないか・・・。
彰くんとも結構気が合ってましたね」
「やめてくださいよ。
ただでさえ、こっちには碧官吏に、李侍郎に、藍将軍にその他もろもろ。
・・・近頃、管尚書にまで飲み比べに誘われるようになって。
何か、主上にも縁があるらしく泣きたくなってきますよ。」
「げっ・・・飛翔にまで気に入られたのですか。
・・・というか、 さん飛翔の難問突破したのか・・・流石」

こう改めて並べてみると超大物人の顔がずらりと並んでいる。
多分誰とくっついても将来有望、左団扇確定だ。

「さて、鳳珠がどう話をつけてくるか見物ですね」
「いっそのこと、 くんと一緒になるって宣言しちゃえば良いのに」
「でも、密かに彰くん押しますから。私の義妹になりますからね」
「当たり前ですよ、旦那様
・・・しかし・・・そこまで大物候補が揃っているとは思わなかった・・・
作戦、たてなおさねばな・・・」

・・・作戦っ!?

誰もがそこで突っ込んだ。

そこへ が顔を出す。

「・・・あの〜、軒の用意が出来ました。
では、参りましょう。
・・・・・・・えっと・・・私の顔に何かついてますか?」

じっと三人に見つめられ は急に気恥ずかしくなる。
私なんか変なところあるっけ?

「いや、可愛いお顔につい見とれてしまってな。
さて、行きましょうか。旦那様」
「・・・なっ、凛さん・・・っっ」
「おや、『お義姉さん』とは呼んでくれぬのか?」
「・・・え?
いや、さっきは思わず言っただけで、別に他意は・・・」


凛の押しの強さは半端ではない。
柚梨はなんとなく、今回の件、この人なら全商連もクリアかな?と思わずにはいられなかった。

   

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