久しぶりに帰った我が家のような、そんな懐かしい面影を残す家。
適当な旬な食材を買ってその門をくぐった。
そこにはいつも温かい笑みが宿る場所。


年明けは騒動の始まり
〜光が集う家〜


「こんばんは」

が門をくぐると外にいた邵可が迎えてくれた。
この顔をみると無条件でほっとする。

「よくいらっしゃいました、 殿」
「邵可様・・・。
突然の訪問申し訳ないです。
あっ、これ・・・つまらないものですが、今晩秀麗ちゃんに使ってもらってください」

旬の大根と株だ。あと秀麗が、蜜柑が好きだといっていたので蜜柑を。
しかしそれを見たとき場にいた人たちは苦笑した。
・・・後に蜜柑で泣くことになることを邵可はこのとき予想した。
そして庭隅でちょこんと座って何かブツブツ呟いている青年を見つけた。
なんか壁に向かって話をしている。

「・・・あれ?克洵さん・・・ですよね?
お久しぶりです」
「・・・へっ!?
あっ、あぁ、 さん・・・。
その・・・お久しぶりです。あの・・・茶州ではどうも・・・」

何かとても怯えているように見える。
額の汗も尋常ではなかった。

「・・・大丈夫ですか?
なんか・・・気分悪そうですが」
「だだだっ・・・大丈夫です。
少し・・・凄い人とお話して・・・」
「・・・凄い人?(龍蓮のことかしら?)
まぁ・・・じき慣れるから。大丈夫よ。
そんなに悪い人じゃないから・・・ね。
そういえば、春姫さんと英姫様はお元気で?」
「はいっ。それはもう・・・
えっと・・・その・・・ 様・・・」
「それは良かった」

にこりと は自分の正体が割れていることに気づき人差し指を口元に持っていった。

「あのことは忘れてください」
「・・・えっ・・・」

克洵の耳元で囁き、にこりと笑む。 はそれ以上何も言わなかった。

殿、中へどうですか?
少し客がきてますがお構いなく」
「・・・いえ、こちらこそ突然・・・」

扉をくぐればそこにはなんか凄い人がいた。
克洵の言っているのは龍蓮ではなく明らかにこの人だと瞬時に悟った。
誰か分からないがなんか凄い威圧を持っている。
紅を身につけているので紅家の人だというのが分かる。

・・・しかし・・・誰?邵可様の知り合い?

向こうもこちらに気づいたのか会釈をしてきた。 も丁寧に礼をする。
きっと偉い人なんだ。

「初にお目にかかります。
と申します。」
「こちらこそ、紅玖琅だ」
「・・・紅・・・」

玖琅ーっ!?
それって・・・その方って今紅家当主サボり中の黎深に代わって紅家を仕切っている裏の当主。
イコール、邵可と黎深の弟。
・・・ここまで似てない兄弟もなかなかいないだろう。
いや、まてよ。
清苑、劉輝、私。三つ子、楸瑛、龍蓮。草洵、朔洵、克洵。そして邵可、黎深、玖琅。
そこそこの兄弟図を並べて は考える。
・・・案外違うもんだ。
自分達が一番似ている路線を辿っている事自体に驚きだ。
玖琅は、外見からすると黎深と同じくらいの歳に見える。
しかし、その厳格な雰囲気、鋭い視線。 は思わずじっと見つめてしまう。
・・・うわー、少しかっこいいかもしれない。
惚れ惚れ玖琅を認めていた矢先、 の肩をポンと叩かれた。

「おや、 殿ではないか。
我が未来の義妹」

その凛々しい声には思わず呻き声をあげてしまう。

「・・・げげっ、凛さん・・・。
何故ここに・・・?悠舜さんと一緒に朝廷に泊まっているのでは・・・?」

もうこの人はこりごりだった。っていうか義妹っていうのやめてください。

「あぁ、旦那様なら今日は秀麗殿と一緒に朝廷にこもるらしいのでな。
寂しいのでお邪魔させてもらったところだ」
「秀麗ちゃんいないんですかっ!?」

久しぶりに腹決めて話そうと思っていたのに・・・。
一気に体の力が抜けた。

「すいません・・・ 殿。あらかじめいっておけば・・・」

邵可が奥から茶を入れてやってきた。
その場にいた全員が固まった。玖琅ですら苦笑を浮かべている。
父茶登場だ。
はすぐに動いた。

「・・・いっ・・・いえ、突然来た私が悪いんです。
そんな、邵可様じきじきに・・・。お構いなく。
あっ、お茶は私がいれますので、邵可様はゆっくりおくつろぎくださいませ」

さっと、機転を利かせて父茶回避。

「秀麗の代わりに及ばずながら私が晩御飯お作りいたしましょうか?」
「・・・殿のご飯も久しぶりだね。
玖琅、手伝ってあげたらどうだい?」
「言われなくてもそのつもりです」

玖琅がそう言って席をたった。 は口をへの字に曲げる。
あの方・・・料理作れるの?
秀麗の代わりに厨房にたつ 。その隣には玖琅がいた。
はっきり言って会話がない。というか出来ない。

「・・・えっと・・・あの、そこにある大根切っていただけますか?」
「あぁ・・・」
『・・・・・』

無言の間が痛い。
邵可なら何かと話しかけてくれるだろう。黎深なら自分から一方的に誰かの自慢を話してくるだろう。玖琅は・・・・。
心の中で『この兄弟はありえない』を連呼しながら はなべをかきまわす。
思ったよりいい感じで包丁の音が聞こえてくる。

「・・・料理・・・されるんですね」
「あぁ、たまに」
「えっと・・・味見てもらえます?」

小さな器に少し汁を盛る。
玖琅は難しい顔をしている。
・・・・怖。
なんか無駄に緊張してしまう。食べられない味ではないと思うのだが。秀麗には劣ると思うけど。

「美味いな。薄味か」
「はい・・・。もう少し濃い方がいいですか?」
「いや、私薄い方が好きだ」
「そうですか・・・。良かった」

は嬉しそうになべを火から放す。やはり、褒められると嬉しくなる。

「えっと玖琅様はずっと紅州のほうに?」
「・・・あぁ」
「紅州ですか・・・。
私ずっと紫州・・・しかも家からほとんど出なかったものですから・・・。
この前茶州にいったのが始めての外出って言うか・・・」

玖琅は を見た。そういえば秀麗と同じ女官の一人だった。
玖琅の調べたところ、身元不明の少女。
黄鳳珠の後見を持つというが、それだけで朝廷の審査を潜り抜けられるはずがない。
というかこの娘、今『紫州を出たことない』とか言った。黄鳳珠とはほとんど縁がないに近い。
朝廷で働いてから裏でこそこそ秀麗を手伝っていた。とかいうが・・・。
・・・この娘。何者?

「・・・玖琅様?」
「いや、すまない・・・」
「・・・・?」
「あぁ、来ていたのですか、 殿」

背後から懐かしい声が聞こえる。彼とも久しぶりに顔を合わせたような気がする。
静蘭は玖琅に会釈して に向き直った。

「静蘭殿・・・。
お久しぶりです。お元気ですかっ!?
お変わりないようで嬉しいです」
「あぁ、君も・・・凄い元気そうで」

思わぬ の興奮ぶりに静蘭が苦笑する。
劉輝と反応が大して変わらない。なんだか血のつながりを感じてしまう。

「・・・今日は、玖琅様と が料理を・・・?」
「はいっ、先ほど味を褒めていただいたのです」
「それは良かった。楽しみにしてますよ」

静蘭はにこりと笑って出ていった。それをほぅと が見つめる。
あぁ、久しぶりの兄上。相変わらずお美しい。

「・・・殿。
こちらの野菜はどうすれば?」

玖琅の言葉で は我に変える。

「・・・あっ、それは炒めるんです」
「そうか・・・。では」

手際よい玖琅に は目を輝かせた。
うわー、本当に庖丁人みたい。凄い、かっこいい。

「・・・殿」
「はい?」

そろそろ料理もしあがりなので は器に盛り付けているところだった。

「貴方は・・・一体何者ですか?」

玖琅には珍しい直球な問い。 は目を細めた。

「何者・・・と問われましても?私はただの・・・」
「ただの小娘が朝廷で働けると思うか?後見も大したことがない。
秀麗でさえあれだけ苦労したのだ。
お前は・・・」
「・・・その答えは・・・時がくれば分かります。
それに貴方はもう気づいているはずですよ。
大丈夫です。私は誰にも迷惑かけるつもりはありません。
勿論、紅家なんてとんでもない・・・」

そういって は玖琅の顔を見ることなく居間にいった。お互い表情をみることなく。
今夜の紅家の食卓は異色なものとなった。なんか・・・色々とつながりがない。
おそらく秀麗がいないせいだと思うが、各方向でほぼつながりがないのだ。
・・・相当気まずい晩餐となったのはいうまでもない。

「・・・え?龍蓮・・・いたんですか?ここに」
「はい、またいなくなっちゃったけどね」

邵可の言葉に は首を傾げた。
勝手に消えて言ったり、突然出てきたり。少し見かけないと思っていたらこんなところに・・・。
そんなにうちが気にいらなかったのか?そういうわけでもないと思うが、彼に何があったのだろう。
いまいち彼のものさしが見えない。

「凛さん、悠舜さんたちうまくやってますか?」
「どうだかね。流石に政の話はしてくれないから・・・。
でもなんかいつもにこにこしているよ。そうとう秀麗殿が気に入ったのか・・・」
「当然だ。それくらいしてもらわないと困る」

玖琅がひょんなところから姪馬鹿発揮。邵可も口元をゆるませた。

「・・・なんですか、兄上」
「別に・・・。君が秀麗を気にかけてくれるなんて・・・。やっぱり嬉しいなと思ってね」
「・・・ほっ本当に秀麗さんは凄いですよね。
僕なんて・・・」

克洵が隅のほうでブツブツ何か言っていた。
後で聞いた話龍蓮と二月一緒にいたという。 はしみじみ彼の寛大さに敬服した。
自分も一ヶ月一緒にいたが正直苦しかった。

「茶家当主がその調子では後に潰れるぞ」

玖琅の言葉に克洵がびくりと肩を震わせる。
まさに蛇に睨まれた蛙の良い図だ。
克洵はあまりの緊張から水と酒を間違えてぐびっとあおった。
誰もが声に出さずも『あ』と思った。どう考えても酒に強いとは思えない。
そして克洵は期待を裏切らなかった。

「王がなんだーっっ!!鴛洵様が、英姫様がなんだーっっ!!」
「おっ、新当主その意気だな。
鴛洵殿の墓の前でそう叫んでやれ」

多分、酒なしでは無理だと思うが。
凛が面白そうにちょっかいを出す。 は苦笑しつつも、面白そうにみていた。
・・・酒かぁ・・・。久しく飲んでないかも・・・。
は昨日の記憶はさっぱりなかった。そして同時に飛翔と飲み比べした時のことを思い出す。
確か、あの時も記憶がなかったような・・・。

も酒飲むかい?」
「いえ、弱いわけじゃないですけど・・・。飲みすぎると記憶が途切れるらしくって・・・。
結構です」
「そうか、残念だな。
この機会に彰を売り込もうと思ったのにな」
「売り込むって・・・。
残念ですが、買う気ないので・・・」
「ほほぅ、ではあの仮面男か?
やめておけ。後で泣くぞ」
「・・・凛さん・・・もしかして酔ってますか?」
「私は断じて酔っていない。」

既に彼女の周りにはとっくりが転がっている。そして頬もほんのり赤くなっている。
・・・あぁ、でもその色気最高。

「柚梨殿の話によると相当の男に言い寄られているようだな。
のぅ、
「・・・え〜っと・・・その話題やめません?」
「たしか、碧官吏に、李侍郎に、藍将軍にその他もろもろ・・・だっけ?
確か龍蓮も何たら・・・」
「・・・李・・・侍郎?」

玖琅の視線がこちらに向く。
凛はその視線を挑戦的に受け止め、 は滝汗を流す。

「絳攸が・・・何か?」
「いえ、何もないですよ。ホント本当に」

はぶんぶんと手を振る。
怖い・・・怖すぎる。

「そうか・・・それならいいが・・・。
絳攸は渡さん」
「玖琅・・・別にそんなに真剣に・・・」
「兄上、そんなことを言って・・・。秀麗がもし他の男に取られたらどうするんですかっ!?」
「当然よ、 殿は彰の・・・」

そこで静かに聞いていた静蘭の目がきらりと光った。
妹の縁談はお兄ちゃんにとっては聞き捨てならないものだったらしい。

「・・・誰があんな腹黒商人・・・」

彼にも酔いが少し回ってきたようだ。邵可はここで最終手段に出た。
ゴソリと取り出したのが、茅炎白酒。人技ならぬ速さで酒を入れ替えた。そして各自の杯にさりげなく注ぐ。
何も気づかない人達はそのまま杯を口まで運んだ。
少しの酔いとテンションもあって誰もその強さに気づくことはなかった。

『・・・・・・』

しばらくの沈黙の後、各自の目がキランと光った。
多分、深いことを考える思考能力は残っていないだろう。勿論今からの記憶も。
邵可はここから傍観者にまわることにした。

「・・・ の相手候補はそれだけ上がっているのですね。凛殿」

冷ややかに静蘭黒光臨。それに対抗するように凛もその美しい瞳を光らせる。

「・・・確か・・・。あと複数の尚書とか面識が合ったような・・・
管飛翔殿とか・・・?」
「・・・ほぅ・・・」

静蘭はチッと内心舌打ちした。尚書レベルになると流石に自分でも手を出せない。
せめて絳攸と楸瑛だけなら手は打てたものの・・・。
これからまた茶州に行かなくてはならないというのに・・・。自分のいないうちにもし の縁談が進んでいたとなると・・・っ。
劉輝では絶対頼りにならなさそうだし・・・。クソッ。

「静蘭殿何を考えておりますか?」
「別に・・・?」
「そういえば 殿、絳攸とはどういう関係だ?」
「別に何も?
ただ・・・先日お世話になりましたね。
とても素晴らしい方でした。色々勉強させてもらっております」
「・・・本当にそれだけか?」
「流石に、この時期にスキャンダルはまずいでししょう?」

バチバチと散る火花。深いのか浅いのか分からない心理戦が切って落とされた。
あの伝説に匹敵する酒飲みトークVS腹黒祭。開幕。

邵可は眠ってしまった克洵に布団をかけながら苦笑した。

まだ誰も知らない。
茶州に魔の手が忍び寄っているという事を。



   

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