長い長い眠りについた。
瞼が重くて、体が重くて
懇々と眠り続けるのも、なにか疲る。
そのまま永遠と時が流れていくのかと思った。


年明けは騒動の始まり
〜年明けも過ぎて〜


目が覚めたら仮眠室の寝台に寝かされていた。
そのままぼーっと周りの景色を見る。部屋が赤く染まっている。明け方か夕方か・・・
まだ働いていない頭のまま、とりあえず寝返りを打ってみる。ずっとこの態勢だったのか体が痛い。

「・・・うぅ・・・」

思いっきり背伸びして起き上がってみる。凄い眠ったような気がする。
首より下は暑いくらいの布団の中にいたので、外の冷たい空気に身震いする。
頭も覚めてきた。

『・・・・・・・・・』

たっぷり十拍。今までのことを思い出した。
・・・そう、戸部で倒れてから記憶がない。
私・・・どうなったの?
とりあえずあの寒い中倒れていて死ぬどころか風邪も引いていないらしい。
良かった・・・ととりあえず息をついた。体を壊しては他に迷惑がかかるだけだ。
奥の方ではどたどたしている。きっと仕事が始まっているのだろう。
そうだ・・・仕事・・・。

は寝台から降りて、すぐに扉を開いた。
目の前にあるのはいつもの戸部の光景。
勢い良く開いた扉にその場にいた全員が目を向けた。はその視線に固まってしまう。
・・・何か悪いことでもしたのだろうか。
しーんと室全体が静まった。は反応に困る。
このまま扉を閉めてなかったことにしようか。それとも一発ギャグでボケればいいのだろうか。
・・・いやいや、流石に後者はキャラじゃない。

「・・・あの・・・少し出仕時間に遅れてしまい申し訳ありません・・・」

っていうか、今何時だ?
その時尚書室の扉が開いた。中から出てきたのは尚書と侍郎といつもの二人。

「・・・あっ・・・」
『・・・・・』

何故お前がここにいる?という視線で見られた。何か怒りも含めたような視線にはたじろいだ。
何か・・・悪いことしたのだろうか。
色んな思考を働かせていたら、鳳珠がと目線を合わせるようにしゃがんでおもむろに頬に手を当てた。
予想外の鳳珠の行動にその場一同固まる。
・・・大丈夫そうか。

「顔色はいいようだな。気分は?」
「・・・大丈夫です・・・。
すいません、今から仕事しますので!!」

その台詞に仮面の下から大きくため息を疲れたような気がした。

「・・・お前の今の状態・・・分かっていないだろう」
「・・・はい?」

は首を傾げて仮面を見つめる。流石に柚梨のように仮面の下の表情を読むことは出来ない。

「後で少し説教が必要か・・・。
とりあえず、厨房に行って何か食べて来い。そろそろ仕事が終わるから迎えに行く」

周りに聞こえない声量で鳳珠は呟く。

「・・・え?」

・・・・説教?

「・・・?官吏。今日はもう帰って良い」
「はい」

そういって、鳳珠はまた尚書室に戻っていった。彼は何のために室から出てきたのであろう。
の顔色を見て柚梨も安心したようににっこり笑って鳳珠の後についていった。
おそらく日中、ぐっすり眠ってしまったらしい。日はもう西に沈みかかっている。
は、鳳珠に言われたとおり厨房に行き、何か食べるものを貰う。
しばらくすると銅鑼がなった。これで基本的に今日の仕事が終わりだ。
・・・終わりか・・・。
なんか、長くて短かった三日間だったと思う。あれだけ忙しかったのがこうお茶を飲んでいると嘘みたいだ。
あの時は食事する時間も惜しいくらいに一気に掛け込んでお茶で流していたもんだ。しみじみと食事のありがたさを痛感した。
これからはちゃんと味わって食べよう。
そして、しみじみと思う。鳳珠様の仮面久しぶりにみた。
というか・・・彼自身にあったのが久しぶりだ。

「?官吏」
「・・・黄尚書・・・」

約束通り銅鑼がなってから直ぐに鳳珠は厨房へ向かってくれたらしい。
彼にしては珍しいというか何というか、どうしてここまで?
これから戸部に帰って説教だろうか・・・。
色んな思考が脳内を巡る。しかし、鳳珠には怒ってそうな雰囲気は感じられない。

「・・・少し物は食べたか?」
「えぇ・・・」
「では、帰るぞ」
「・・・え?仕事は・・・」
「・・・お前の方が大事だ」
「・・・・・・・・え?」

鳳珠が顔を上げると中にいた食官長と目が合った。
鳳珠は軽く会釈をした。それに対して食官長あからさまにギクリとした表情を見せる。

「・・・こっ・・・こここ黄尚書・・・っっ。
・・・おっお久しぶりで・・・」
「えぇ、進士の時はお世話になりました」
「こっ・・・こちらこそ・・・」

凄い動揺している様が伺えた。鳳珠様、一体何をしたのだろうか。
そしてこの人・・・。さては彼の素顔を知っているな。
その他古株の料理人達の手も心なしかぎこちない。ついには皿まで割れだした。

「・・・あの・・・厨房大丈夫でしょうか?」
「・・・・・・・大した被害にはなるまい」

どこか遠い目をして鳳珠は過去を少し思い出す。あの時の皿の割れようといったら・・・。


いつもは別々に帰っているのだが、今日は鳳珠と一緒に軒で帰る。
彼と一緒に軒に乗るのはどれくらい前のことだろう。は少し緊張して背筋を伸ばす。
二人きりになったのも久しぶりだ。
軒に乗って戸口一番鳳珠が切り出した。

「・・・私が戸部を離れて三日間。何をしてた?」
「・・・仕事を・・・真面目に・・・」
「睡眠時間は?合計・・・」

その言葉には目をそらす。

「・・・二刻・・・」
「・・・ほぅ、私のことが言えたもんじゃないな・・・

鳳珠はおもむろに仮面をはずす。そして冷ややかな視線がを射る。
は言葉に詰まった。・・・怖い。

「すいません、ごめんなさい、もうしません。」
「・・・一応、覚えてなさそうなので現状を言っておくが。
お前、あの寒い中戸部の床に倒れていたんだぞ?
偶然柚梨が朝、目覚めて戸部に寄らなければ今頃どうなっていたか・・・」
「・・・反省しています、でも鳳珠様だって色々倒れたりするじゃないですか・・・」
「それはそれこれはこれだ。
どうして、そこまで無理をする必要があった?
他の者達はまだましな顔をしていたぞ」

はぐらかされたような気がして、は少し気に食わなかったが、ここは黙っておく。
口論で鳳珠に勝てるなんて、思えないからだ。

「どうも・・・仕事がたまっていたら片付けずにはいられないようで。
とにかく必死になってやっていたら周りが見えなくなって、・・・それで・・・」
「それで?」

逃げ道はくれないようだ。は諦めて本心を語る。

「必死に頑張っていると減らしていくのがどんどん楽しくなってきちゃって。
あと、鳳珠様達が戻ってきたときに部署が、綺麗になっていたら喜ばれるかな・・・って思って・・・。
頑張りすぎました。
逆にご迷惑掛けてしまい申し訳ありません・・・」

その言葉に鳳珠は目を見張った。しかしそれは一瞬。
また元の目つきに戻る。

「・・・基本は身体だ・・・。
そう、私はお前に聞いたが?違うか?」
「仰る通りです」
「今後このようなことはもうするな。
分かったな」
「・・・以後気をつけます」

すっかりしょげてしまったを鳳珠は横目でみる。
落胆させるほどまで言うつもりはなかったのだが、どうやら間に受けてしまったらしい。
やりすぎた・・・と鳳珠は胸の内で後悔した。

「・・・でも・・・正直助かった。
悠舜にこき使われたその後で、大量の書類片付けるのは難儀だからな。
まさか、仕事が全て片付いているとは思わなかった。
・・・大変だっただろう」
「えぇ・・・そりゃもう・・・苦労しました」
「・・・お疲れ、今日はゆっくり休め」

軽く頭を叩かれる。鳳珠に褒められたのなんて久しぶり・・・かもしれない。
鳳珠の横顔を見ると薄く微笑がある。はじっと見つめてしまった。
やっぱり・・・綺麗だなぁ。
外の景色をみると鳳珠の家に向かっているらしい。
はおずおずと尋ねてみた。

「・・・それにしても・・・。今鳳珠様の家に向かっているのですよね。
もう大丈夫なのですか?」
「あぁ・・・両親もやっと帰ったし・・・。
悪かったな・・・新年早々」

鳳珠は嫌な事でも思い出したように口元に手を当てて苦笑した。
本当に・・・いろんな意味も含め大変な正月だった。
はその姿に少し笑む。こっちもこっちで大変な正月だったのだが。

「・・・で鳳珠様、御両親方は何を・・・」
「愚問だ
出来れば忘れさせてくれ・・・」

口に出したくないほど嫌な思い出だったのだろうか。は内心ため息を付く。
・・・そんなに嫌なら早く結婚しちゃえば良いのに・・・。
それは、声に出される事はなかった。


久しぶりに入った鳳珠の家は予想以上に大きく感じられた。
自分の家、朝廷の仮眠室くらいでしか休憩をとっていなかったのでこんな大きな邸に入るのは久しぶりだった。
空から雪が落ちてきた。
そういえばそんな季節だ。三日間の間にも少し降っていたが外を見る時間などなかったのでこうしてみると新鮮味がある。
はしばらく渡り廊下から雪をじっくり眺めていた。
少し寒いがそんなことはたいして気にならなかった。
こんなに物事をゆっくり考えられる時間があるなんて・・・。

「・・・『闇姫』かぁ・・・」

突然現れた銀髪の縹家当主。龍蓮の話によると私は縹家の血が通っているらしい。にわかに信じ難い話だ。
だって、そうなればあの英姫や春姫と同じ血で・・・。
自分には不思議な力もないし・・・。
そういえば・・・。
自分の髪を見る。
光に当てればキラキラ輝く、それはあの当主と同じ白銀。
今まで髪質に気を取られすぎて色まで見ていなかった。
あれだけ自分もつやつやだったらどんなに良かっただろうか・・・。

・・・じゃなくて。

あの人は母上と似ていた。んで、私を欲しがっていた。
これから切っても切れなさそうな縁に思えてきて、はため息を付いた。

「・・・母上・・・。貴方には沢山の物を頂きました・・・。
けど・・・大切な事を言い忘れてはいませんか?」

・・・死ぬ前に・・・こう厄介なことがあるというのくらい伝えて欲しかった。
むしろ、何よりも先に教えておかなければいけないことではないか?
自分は無知識で得体の知れない縹家当主と戦わなければいけないことになる。
年明けはもううんざりだ。
沢山の事があって、そしてすぐに過ぎていく。
新年なんて祝う間もないほどに。

「・・・、こんなところで何をしている?」

静寂を破って響く玲瓏たる美声。
奥を見れば鳳珠がやってくるところだった。
は静かに微笑する。

「・・・いえ、雪が・・・綺麗だな・・・と。
積もればいいですね」
「不便なだけだ」

そういう鳳珠の顔は心底迷惑そうに。でも彼がそこまで嫌ってないのは分かる。
鳳珠はのところまできて足を止めた。

「室で見ていれば良いものの・・・
風邪を引くぞ」
「大丈夫です。身体強いですから」
「病み上がりが何を言う・・・」
「病み上がりじゃないですって!
ただの睡眠不足です」
「倒れてしまえば同じだ」

文句を言いながらも鳳珠は自分の掛けていた綾布をに掛けた。
冷えていた肩が少し温まる。

「・・・あっ、ありがとうございます。
鳳珠様は大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない」

鳳珠は飽きずにずっと外を見ているにため息をついた。
ふと目を落とせば、長くこの場所にいたことが彼女の白い手から伺える。
とっさに朝のことが思い出された。とっさに、膝を突いて思わずの手を掴んでしまう。
少し冷えていたが、朝ほどの冷たさはない。すぐにの手に温かさが戻ってくる。

安堵した。

「・・・鳳珠様?」

突然の行動には目を丸くした。

「・・・あぁ・・・すまない。
でも冷えているな」
「それはそうですよ。結構ここに座ってましたから。
・・・それが・・・何か?」
「・・・いや・・・お前を見つけたとき、本当に冷たかったから・・・。
一瞬・・・死んでいるのかと思った」

その台詞にはぎょっとする。
・・・死んで・・・。

「そんなにヤバイ状態だったのですかっ。
うわー、本当見つけてくださってありがとうございます」
「・・・今みたいに掴んでも直ぐに温かくならなかった・・・。
本当に血の気が引いたぞ」
「・・・ご迷惑を・・・」
「いや・・・。
さて、戻るぞ。今日はもう寝ろ」

そういって鳳珠は立ち上がった。

「えっ!?早いですよ。いつもならまだ朝廷で働いてますよ。
それにまだ寝られません」

その感覚もここ数日で麻痺してきたが・・・。
そういうを鳳珠が静かに睨む。

「寝ろ。
明日も朝廷を休む気なら別に構わないがな」
「えっ、嫌です!!」
「なら寝ろ。ほら」

鳳珠が立ち上がって、手を差し出す。はしぶしぶと鳳珠の手を借りて立ち上がった。

「分かりました・・・」

有無を言わさない口調で鳳珠は先に歩いていく。は仕方なく、後をついていった。


「・・・で。
鳳珠様、何故私の部屋に?」
「見張ってないと寝ないだろう」

確かにその通りだが・・・・。
の室においてある長椅子に座って、鳳珠は言った。その辺の本を手にとって開く。
は寝台の上でため息をついた。多分何を言っても諦めてくれそうに無いだろう。

「・・・分かりました。寝ます」
「そうしろ・・・」

鳳珠の意識の中は既に本の中にあるらしい。
は苦笑してそのまま布団の中に入った。
・・・でも・・・日中ずっと寝てたりするし・・・寝付けなさそう・・・。

しかし予想に反して瞼はすぐに重くなった。
そして、徐々に眠りの世界に入っていった。
数分もすれば寝息が聞こえてくる。
鳳珠はそこで本から目を放した。

「・・・寝た・・・か」

朝見た寝顔はまだ辛そうだったが、もうその心配はなさそうだ。
無意識のうちに笑みがこぼれる。

「・・・無駄な心配をさせて・・・」

鳳珠はすっとの前髪を書き上げ、額に軽く口付けをする。

「・・・いい夢を」

穏やかな微笑を残し鳳珠は部屋の明かりを消して、出て行った。

   

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