恋愛指南争奪戦
〜戦の勝利は知力、体力、時の運!?〜



とある年末年始。
忙しさを極めていた朝廷内にある噂が広がった。

『この度、黒州州牧の櫂楡殿が直接恋愛指南をしてくださる』

朝廷内はこの騒ぎで持ちきりだった。特に武官の中での広まりようは尋常ではなかった。
連日稽古場には躍起になった武官達が必死になって訓練に打ちこんでいた。
そして、来たる歳末羽林軍武術試合当日。
正午、大きく太鼓が鳴り響いた。
そして野郎共の雄たけびは場内に響き渡った。


そんな盛り上がりを見せる中、変わりない日常を迎えているのが文官であった。
武官とは違い、片付けても溜まっていく書簡の山に日々おわれる毎日だ。
これが終わらなければ無事に年を越せたものではない。自然にストレスも溜まりに溜まってくる。
その中、仕事を邪魔された日にゃ切れるより他はない。

その余波をまともに食らったのが何を隠そう戸部尚書、黄奇人。
よく分からないが武官が仮面を取りに来て仕事が進まないは、仕事の山は高くなるは・・・。
そういえば、主上から正午までに仕事を片付けておく事。とか言われたような気がしたがそんなこともう記憶の彼方だ。
こんなの正午までに片付けられていたら誰も連日徹夜なんぞしていない。
五人程地に沈めるところまでは上手くいっていた。しかし、流石羽林軍といったところか、同じ手は通用しなくなっていた。
やってきた武官五人と対峙している奇人。
流石に現役羽林軍の武官五人相手は辛くなった。
戦い始めてから時間も結構経っている。時間が経つほどこちらには不利だ。
とっとと決着をつけなければ、と考え始めたところに扉を叩く音が聞こえた。

「失礼します。黄尚書、仕事を運んでまいりました」

下っ端の雑用官吏が持ってきた書簡を山の上に積んだ。
・・・また山が高くなった。
奇人の理性もここまでが限界だった。
さっきからあの山がどれだけ高くなっていると思っているんだ、この阿呆武官共が。

ブチン

頭の中で何かが盛大に切れた。

「そろそろ、その仮面を頂くぜ!!」

それぞれの武器を構えた武官達が鳳珠を襲う。
鳳珠は躊躇いもなく仮面に手を触れた。

「・・・そんなに欲しけりゃ・・・仮面の一つや二つくれてやるっっ!!」
「いけません、鳳珠!!」

かなり苛つきの溜まっている上司を見るに見かねて、先ほどから柚梨はお茶の用意をしていた。
とりあえず、糖分でもとって頭を冷やしてもらわないとこの室で大惨事が起こりそうな気がしていたかだ。
しかし、彼は後一歩の所で間に合わなかった。
彼が戻ってきた時には上司は仮面に手をつけていた。

「・・・ごめんなさいっ!でもこれも貴方の未来の為ですっっ」
「・・・・へっ!?景侍・・・・へぶっ」

柚梨は少しでも被害を食い止める為、入り口近くにいた判定員の武官の顔に持っていた菓子をぶち当てた。聞けば彼は新婚らしい。そんな幸せな日々を早々ぶち壊すわけにはいかない。

・・・この世で一番美しい男の顔なんかで・・・・。

鳳珠の放り投げた仮面は真正面にいた武官のこめかみに、すこーん、と良い音をたてて当たった。
当の武官は身動き一つせず鳳珠の顔に魅了され、石になっている。
勿論他の武官達も時が止まったかのように動かない。
鳳珠はふん、と鼻をならした。

「・・・その仮面はくれてやる。これで満足か?」

武官五人を石にして鳳珠は満足気に不敵な笑みをもらした。
鳳珠は棚の中から予備の仮面を取りだしさっさとつけて室を出ていこうと扉に手をかける。

「・・・えっと・・・どちらへ?」
「主催者に一言物申してくる。
そこの五人を私が戻ってくるまで片付けておけ」

明らかに怒気の入った声音だった。いけません、と喉まで出かかったがあまりの迫力に柚梨は何も言えなかった。
・・・・まぁ、久しぶりの気晴らしに身体を動かすのも悪い事ではないだろう。
彼の強さを知っているし、まぁ・・・今ので大半の理性は戻ってきているだろう。
主のいなくなった室では動けないまま固まった五人と生クリームまみれになった新婚ほやほやの武官がもがいているだけだった。
柚梨はその光景をみて、なんとも言えない悲しさが込みあげてきた。
石にされた五人は彼女を作るどころか、普通の人とも付き合っていけるかどうかも怪しい。
・・・あんなに頑張っていたのに・・・。
柚梨は心の中でそっと涙を拭った。

「・・・ぷはっ・・・。
一体なんなんですか!?景侍郎・・・。
・・・・・あれ?」

判定員の武官は目の前の光景に首を傾げた。

「・・・これは一体・・・黄尚書は・・・?」
「先ほど出ていかれました。
・・・この方達は・・・医務室にでも連れていって差し上げてください。
・・・申し訳ないですが、回復の見込みは・・・」
「ちなみに、このような菓子を始めて見ましたね・・・」
「あぁ、これはいつも頭をフルに使っている黄尚書の為に遠い西の国から伝えられた『しょーとけーき』という菓子です。
甘いでしょう?皆さんで分けて頭を冷やしてもらおうかと思ったのですが・・・少々遅かったようですね」

武官は石になった武官達が戦えない状態になったのを確認後、医務室へと連れていった。


「・・・・これは・・・・一体・・・・」

鳳珠は変わり果てた内朝をみて絶句した。
その辺にいる武官にとりあえず黒白大将軍の居場所を尋ね、後宮にいることを聞いた。
後宮に行くには内朝を通らなくてはいけないのだが・・・だが・・・。
そこはもう王の住まう煌びやかな場所とは遥か縁の遠い場所となっていた。
まるで戦時中、王朝に攻めこむ敵を倒すため張り巡らされた罠のよう。
進もうか進まずにおこうか悩んでいたところ、入り口に立っていた武官から声がかかった。

「これは、黄戸部尚書お疲れ様です。只今内朝は危険でありますゆえ、今は通行禁止と・・・」

ビシリと敬礼した武官だが黄尚書の仮面を見るなり、はっ、とした。
仮面=顔が原因で彼女にふられた=未だに独身=参加者
武官の中でこのような方程式が一瞬で成り立った。
文官からの参加者は聞いていないが、しかし黄尚書ともあろう方ならなるほど参加しても良さそうなものだ。
体つきも悪くないし・・・。

「これは失礼しました。
こちらが地図になります。尚書は流石に文官でありますゆえ、砂袋は無しという事で・・・」
「・・・は?」
「検討を祈っております!!」
「・・・一応聞いておくが・・・この先に黒白大将軍がおられるのか?」
「えぇ、勿論!!桃仙亭の前の桃林でお待ちです」
「・・・そうか・・・」

たしか桃仙亭というのは後宮のかなり奥の方ではなかったか?
では、行くしかないのか?・・・この道を・・・?

せっかく地図まで貰ったし、鳳珠は進む事にした。
後悔したのは内朝に入り十歩進んだか進んでないかのところだった。

「・・・な・・・っ!?」

足元には緻密な敵を追い込む罠が所狭しとはってあった。
そして、次に彼襲うのは矢の雨。
・・・・聞いていないぞ、こんなの・・・っ。
すぐに綾布を取りだし、広げる。仮面はその辺に投げ捨てる。
この状態ではなりふり構ってはいられない。仮面をつけたままでは視界が狭くてどうしようもない。
相手は羽林軍で毎日鍛えられた武官。大してこっちは何も武具を装備していない文官。

本気で殺す気か。

鳳珠は綾布を器用に使い、降りかかる矢を叩き落した。
そして長居は不要と走り出す。
華麗な舞のようなその回避の様子に武官達も尊敬の視線を送らずにはいられなかった。
これが、蝶のように舞い・・・
鳳珠はふわりと着地しそして、奥の繁みを睨みつけた。
蜂のように刺す。

「へぶあっ!!」

兵士達は魅了されてしまい、その場で戦意喪失してしまった。
そこに立っていたのは世にも美しい・・・男の姿。
矢の雨がやんだことを確認した鳳珠は足早にその場を立ち去った。

・・・なんで、自分はこのような事をしているのだろう。

そう、後悔したのは罠地域を抜けた後であった。今更戻るわけにも行かない。
乱れた息を整え、鳳珠は地図を見た。
・・・この先は後宮か・・・。
流石に後宮にこのような危険な罠はしかけてないだろう。女官がいるわけだし。
鳳珠は嘆息した。

っていうか・・・誰がなんのためにこのようなものを開催したのだ・・・?

未だに鳳珠は主催の意図を分かっていなかった。

「そこの方!!剣の手合わせお願いします!!」
「・・・は?」

そこにいたのは十六衛と思われる武官の姿。鳳珠の高価な服を見て上官だと思ったらしい。
武装していない武官がどこにいる、と問いたかったが、もはや彼らにとってここにいる人は全員敵。
綾布を被っていたので少しくらいは人と対峙しても大丈夫であろう。そう思って鳳珠はふりかえった。
断ろうと口を開いたが、彼の方はやる気満々のようだ。
しかし、剣の勝負を挑まれても・・・
・・・自分は武官でもないし、ましてや剣ももっていない。
・・・持っていないというか・・・・。

鳳珠は返答に激しく困った。
対して武官はやる気満々でその辺に転がっていた武官の剣を鳳珠に投げ渡した。
反射的に受け取った鳳珠だが後悔した。

「では、いざ参る!!」
「・・・なっ、待て!!」

相手は剣をすらりと抜き放った。鳳珠も一応剣に手をかけるが・・・。
・・・思ったより重いな・・・ってか・・・鞘から抜けない・・・
実は生まれてここまで、剣に関しては何の心得もない。
一応、護身術として気功は習っておいたが、その他の武術においては専門外だ。
もともとこの顔のせいで引き篭もっていた鳳珠にとって、剣といえば舞いの時にしか使った事がない。
中々剣を抜かない鳳珠に相手も不審に思ったらしい。
しかし、彼は予想以上にポジティブだった。

「・・・むっ、抜かない・・・!?
・・・まさか!それが東の島国での妙技『居合』でありますかっ!?」
「・・・・・は??」
「初めて見るな・・・。
いざ尋常に・・・・勝負ー!!」

・・・っていうか居合って何だ。
鳳珠は本気で攻めてきた武官の剣を受けようと、剣を鞘から抜こうとする。
思ったよりコツがいるらしい。鳳珠は紙一重で攻撃をさけ、間合いを取る。

「・・・まだ抜かないのか・・・」

・・・・抜けないんだ、クソッ。

やっと抜けた剣だが刀身はぼろぼろだ。これは素人の鳳珠がみても明らかだった。
こんな剣でどう戦えと?
鳳珠は大きく縦に振りかぶるのを見た。
・・・少々剣の試合とは異なるが・・・。
鳳珠は縦に振り下ろされた剣を避け、剣を相手の胴に打ちこんだ・・・・ように見せかけた。
すっと刀身に手をそえ、気功を加えた。
男は軽がる後方にふっとび壁に盛大にぶち当たった。
鳳珠は大きく息をはいた。
・・・とりあえず、怪我がなくて何よりだ。(勿論自分に)
鳳珠が行こうとすると、後ろから声がかかった。

「俺、貴方に惚れました!!
是非貴方の元で働きたいと思いますっ!!
お名前と所属部署を教えていただけませんか・・・すぐに稽古して羽林軍に・・・」

鳳珠は目を見張った。そしてふっと笑む。

「私は武官ではなく文官だ。
黄鳳珠、戸部尚書だ。私の元で働く気があれば国試に受かって戸部来い。
望み通りつかってやる」

男は絶句した。良く見れば確かに文官のようだ。そして結っていないその漆黒の髪に仮面・・・
・・・・仮面は?
しかも、先ほど黄奇人ではなく・・・。

「・・・黄尚書・・・」
「なんだ?」

先へ進もうとした鳳珠が振りかえる。光がさし、彼の素顔がよく見えない。
しかしそこに映る顔の容は、美しいと形容するしかないほど整っている。
男は絶句した。
そして彼の仮面の意味を悟る。
鳳珠はまた歩みを進めた。
その背中に男は叫んだ。

「俺、絶対国試受かりますから!!
一生貴方についていきますから!!」
「・・・期待せずに待っている」

数年後、彼が戸部で元気に働く姿が見られたとか・・・


そして鳳珠は第三関門の扉を開いた。そして絶句した。
・・・ここは・・・・後宮?
それとも・・・妓楼か何かか?

そこにある光景と言ったら後宮女官や妓女達と武官の男達との宴会騒ぎだった。
予想もしなかった光景に絶句した鳳珠だがすぐに我を取り戻した。
きゃーっ、という黄色い歓声が周囲から沸き起こる。
仮面をとって綾布をかけているだけの鳳珠を女達がほって置くわけがなかっからだ。たちまち周りを囲まれる。

「・・・まぁ素敵な殿方・・・。
私と一緒にあちらでお話しませんか?」
「いえ、私と一緒にあちらでお酒をお飲みになりませんか?」

流石に自分の顔に見なれている鳳珠に彼女達の色香に引っかかるわけもなし・・・。そして元々興味い。
鳳珠は女達の猛攻に一瞬怯んだが、すぐに思考を巡らせた。
そして、これは好都合と鳳珠は適当な女官の手を取った。

「・・・黒白将軍と話がしたいのだが、どちらにおられるかご存知ではありませんか?」

男でも失神させる威力をもつ美声、整った唇。
顔があまり見えていなくても、それだけで女官を魅了させるのには十分過ぎる威力であった。
女官も鳳珠の目的は例の優勝商品ということに気づき、頷いた。

「・・・わっ私でよろしければご案内いたします。良い道を知っておりますので」
「それは助かる」

・・・・これでやっと文句の一つも言える。
そう思い、鳳珠は案内された室の扉を開いた。

・・・が、その室も予想を反する人物が鎮座していたのである。

「・・・・・・?」

まさか、普通の通路から入ってくる人がいるとは思いもせず、中にいた珠翠は目を丸くした。
鳳珠は絶対この案内された室は自分の望んだものではないと瞬時に悟った。
・・・確か・・・あそこにいるのは邵可殿と親しい・・・珠翠殿と、あの方は胡蝶殿か?
・・・そして・・・

「・・・秀・・・・」

鳳珠は名前を言いかけてやめた。秀麗も驚いているようだ。

「貴方は・・・確か夏にお世話になった親切なお方・・・。
・・・あっ、これですね」

秀麗は大将軍達から預かったモノを鳳珠に渡した。
鳳珠は突然渡された帳面に首を傾げる。

「えーっと・・・お持ち帰りになって、後日副賞と併せ、お役立て下さい。
清く正しいお付き合いは交換日記から。
相手の心がわからないときも、それを読み返せばお悩み解決。
栄えある優勝、おめでとうございます」
「・・・交換日記?」

鳳珠は状況が飲みこめず、帳面を手に固まった。
っていうか・・・黒白大将軍はどこに??

「・・・まさか、黄の旦那が当たるとはねぇ・・・
噂に聞く美麗なお顔だねぇ。羨ましい」

胡蝶は面白そうにその様子を眺めた。珠翠は首を捻る。

「・・・文官からの出場なんてありましたっけ・・・?
・・・まぁ良いですか・・・ねぇ。
彼も、中々大変な道を通られてきていましたし・・・」

しかし、彼の悪いところは中身ではなくその良すぎる容姿であると言うのに・・・。
珠翠は心の中で今まで頑張ってきていた武官を憐れに思った。
やはり、神は最後に容姿を選ぶらしい。

戦の勝利は、知力、体力、時の運・・・・と容姿??


後に年末の仕事を終えた鳳珠の元に櫂楡が訪ね、それはそれは有意義な時間を送ったそうな。。

   

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