それは、まだまだ女人試験が導入される前のこと。
勉強段階の 達がまだ知らない朝廷での朝。


見合い騒動


「・・・では、これで朝議会を終了します」

司会役の侍郎の言葉で今朝の朝議は終了した。
出席者の幹部達はそろって礼をし、持ち場に戻ろうと席を立ち始める。
その中に戸部尚書、黄鳳珠と戸部侍郎、景柚梨の姿もあった。
戸部に戻ろうとする二人をある侍僮が呼び止めた。

「黄尚書、お客様が来ておいでです」

鳳珠は侍僮を見つめ、しばらく沈黙を保った。
そして思い当たる事があったのか、分かる人にしか分からない絶対零度の空気を出し始めた。
それをみて柚梨は口を引きつらせる。

「・・・・・・・・。
・・・・・分かった。下がってよい」

鳳珠がみるみる機嫌が悪くなっていることを気付きもしない侍僮は一礼をし、仕事に戻っていった。

柚梨は、鳳珠の心境を読み取って少しだけ同情した。

「・・・どんどん・・・周期が短くなっていきますね・・・」
「・・・チッ・・・。
余計な世話だ・・・」

流石にこればかりは柚梨がどんなに尽力をつくしても無理な問題だった。
訪ねて来た人物達にも同情する。
とりあえず、このまま仕事に戻ろうとする鳳珠に釘を刺しておいた。

「では、私は戸部で指示をしておきますので、貴方はお客様と・・・ごゆっくり・・・」
「いい、すぐ戻る」
「しかし、いちいち断るのもいかがなものかと・・・。
そろそろ・・・・鳳珠も良い年齢なんですし・・・。
・・・いえ、何でも無いです」

仮面の内からギロリと睨まれて柚梨は口をつぐむ。
触らぬ上司に祟りなし・・・っと。

その会話を密かに聞いていた吏部尚書、紅黎深は薄く笑った。
その笑顔を見て固まったのは隣にいた吏部侍郎、李絳攸。
・・・この人が笑うとろくな事がおきない。
長年付き添ってきた勘が瞬間的にに働いた。

何事かは知らないが、あまり良い予感がしない。
絳攸は黎深に一礼してから大人しく王のところへ戻ることにした。
きっと何かが起こるだろう。自分に被害が回ってこなければいいが・・


「・・・あぁ・・・余はもう今日の精神全てを使い切ったみたいだ・・・」
「んなことで、王が勤まるか。もう少ししゃきしゃき歩いたらどうだ」

外で待っていた楸瑛も交えて王宮の廊下を歩く。

「うぅ・・・もう朝議会で発言したくない・・・
「仕方ないだろう。
王ならもっと堂々として発言する。
・・・と言うか、女人受験導入の時よりも状況は遥かにマシになっただろう?
あの時のことを思えば全く問題無い」
「確かにそうだが・・・・」

女人試験発案以来、朝議での発言がトラウマになってしまった劉輝はがっくり肩を落してしまった。
うっかり口を滑らせれば、冷たい視線がこちらに刺さる。
しかし、発言しなければ経験値も増えないのでここは、慣れるしかない。
的外れなことも言わなくなったし、大分成長していると傍目では感じるが・・・
少し褒めてやろうと、絳攸が口を開いた瞬間、楸瑛が足を止めた。

「・・・あれ?
あそこにいるのは景侍郎じゃないか?」

その言葉に三人の視線は前方で壁の向こうを除いている柚梨を見た。
絳攸は朝のことを思いだした。

「・・・そういや・・・黄尚書に客がきているらしい。
・・・そんなことを朝聞いた」
「黄尚書に客・・・ねぇ・・・」

少し興味の沸いてきた劉輝と双花一同は柚梨に突撃してみることにした。

「おい、・・・」

「うわっっ・・・
・・・あっ、主上っっ!?!?
・・・っと・・・」

肩を叩かれて柚梨は文字通り飛び上がるほど驚いたようだ。
しかし、すぐに口を押さえて壁にもぐりこむ。
三人は柚梨の覗いていた壁の奥を見る。

そこには簡単な庭になっており、鳳珠と男女二人が話しているようだった。
鳳珠は、珍しく仮面をはずしており、手に持っているのが見える。
彼顔は見えないが、向かい合って話し合っている人たちの顔は覗えた。
どちらも整った顔立ちで女の方はかなりの美人、男の方も綺麗。という言葉がついてもおかしくない人達だった。
それなりに年齢は食っているようだが、実年齢よりはかるく十年若く見えそうだ。

「黄尚書・・・一体何をやっておるのだ・・・?」

劉輝が首を傾げた。特に変わった様子も無い。
ただ、黄尚書の素顔が気になるところだが・・・。
柚梨は覗かれていることに気づき、無礼を承知で三人を壁からはがす。

「ちょっと三人とも・・・。
あぁ、主上ご無礼をお許しください。
今、大事なところなんですから邪魔はしてやらないでください」

小声だが切羽つまった状況の柚梨に三人は首をかしげる。
まだ奥では取り込み中だ。こちらに気付いている様子は無い。

「・・・で、何をしておいでなのです?」
「・・・それがですね・・・・。
黄尚書の両親がおいでになっているのです」
「・・・黄尚書の両親って・・・黄家の・・・」

劉輝は驚いた。
そんな大物がきているのなら、謁見の予定でもいれなくてはいけないのではないのだろうか。
まだ何の準備もしていない。・・・心とか・・・。

「いえ、今回はいたって個人的な用件で・・・
その・・・結婚のことで・・・・」
『・・・・・・・・・・。』

黄奇人と言えば、『醜さ故に仮面をかぶっている男』として名が高い。
確かに、結婚するのは難しそうだ。
しかし・・・

「黄尚書ならば顔がどうであれ、相手はそれなりにいると思うのだが・・・
男は顔じゃない」

劉輝はそういうがあまり説得力がない。
そう思いながら柚梨は苦笑した。

「そう・・・・なんですけど・・・。あの方の場合は特殊で・・・・。
良い縁談も片っ端から断っているようなんです」
「何故、断る理由がある?」
「・・・多分、見合いでも向こうからふってくる可能性が高いからだと・・・。
やはり、トラウマというものは怖いものですね・・・」

柚梨も涙ながらに語っている。
相当深刻なようだ。
コツ、コツ・・・靴の音がこちらに向かっている。
四人はビクリと肩を振るわせ、急いでその場から立ち去った。
見られていると分かったら流石の主上でも得意の気功術で吹っ飛ばされるであろう。

なんとか見えないところまで走ってきた三人は息を整えて、また元のように廊下を歩く。
途中で鳳珠とすれ違ったが、やはり表情はわからなかった。

「・・・そうえいば、両親とかいっていたな・・・。
・・・となれば、あの二人から生まれたのが黄尚書・・・?」
「・・・ちょっとまて、奥方の方はかなりの美人だったぞ・・・。
三十代としてもおかしくないな」
「・・・噂と・・・矛盾する点がいくつかあるのかもな・・・」

無駄な推理に打ち込む三人。
こういうときは妙に気になるもんで、本当に黄尚書の素顔が気になった。
どうして、あの超美形夫婦から醜い子供が生まれるのであろうか。

「八年前の争いで傷を負ったとか・・・」
「しかし、その前に黄尚書は仮面をつけないか?」

あまりにも熱中しすぎたので周りに気にする余裕も無かった。
最近真面目になってきた王に、若くして能吏の李侍郎、そして同じく才能があるのに武官となった藍楸瑛。
その三名が深刻な表情で熱く語りあっていたので、また新しい案か何かを練っているようだと、微妙な噂が立った。


「・・・・さて、そろそろ時間ね」

は分厚い本をバタンと閉じた。
今は、国試に向けて勉強をしなければいけないので一日のほとんどは家で本を読んだり書物をしていた。
賃仕事の申し出も涙流しながら断った。
今しているのは、黄鳳珠の自宅での侍女。ついでに、勉強の方も見てもらっている。
この頃特に勉強熱心になっていたので家事の方がすっかり疎かになっていた。
洗濯物をためたままここ十数日過ごしてきたので洗濯物がたまりにたまり、箪笥をみれば普段着がすっかりなくなっていた。
それに気がついたのもついさっき。
は頭を抱えた。

「・・・・どうしようか・・・。
後はもう余所行きしかないよう・・・」

ちなみに彼女の『余所行き』とは彩家の貴妃や娘並に上等な物ばかりある。
母の物合わせ、先王には有り余るほど豪華な着物が献上された。
綺麗にそれしか残ってない。
絶対、こんな豪華なもの来ていけば鳳珠様呆れられるだろうな・・・と心の中で思いながら自分の家の家事をしていなかったことを心底後悔する。
元から本や勉強が嫌いじゃなかったので、いったん集中してしまうと周りが見えなくなるのが悪い癖である。
とにかく今日は時間が無い。
出来るだけ目立たないようにして服を着替え、 は鳳珠の家に向かった。

・・・あぁ・・・人目も気になるし・・・軒呼ぼうかしら・・・。

着飾った は昼の貴陽の中心で恐ろしく目立った。
道に迷ったどこかの貴族だと思われ、何度か話しかけられた。
しかし、『勿体無い』という言葉が頭を離れず、人目を気にしながら向かうことになった。


「こんにちはー」

もう、顔見知りになった門番さんたちに挨拶を交わす。
いつになく立派な衣装に皆が驚いた。

「今日は、どうしたんだい? ちゃん」
「いえ・・・たまたま着てくるものが無かったので・・・。
やはり、目立ちますか?」

そりゃもう、滅茶苦茶。
鳳珠の世話人をやっていて、いろんなところに賃仕事に行っていることを耳にしていた人々は本当に驚いたようだ。
そりゃ、賃仕事をたくさん入れて働きまくっているのだから、貧乏な家の娘だと思われるのも仕方ない。
これを行っては駄目なのかもしれないが、賃仕事なんて所詮暇つぶしだ。

が着ているものは、庶民には手が出しようがない一級品のもの。
各所に紫があしらわれているが、紫家のものだと思わないだろう。
というか、気づかないでくれ。

家の中に入っても、珍しがられるだけでいちいち説明するのに時間が掛かった。
掃除などいつもの仕事をしていると、遠くから を呼ぶ声が聞こえた。

っっ!! はいるかっっ!?!?」

この家の使用人をまとめているおじさんが必死の形相で私を探しにきた。
一応、『管理長』と呼ばれ親しまれている。
は、はい。と手を上げる。

「何かご用でしょうか?
・・・あぁ、こんな豪華なやつ今日だけにしますので許してください。
着てくるものがなかったので・・・っっ
あっ、もしかして鳳珠様のお帰りですか?いつもより・・・早いですね」
「いや、もっと悪い・・・というかなんというか・・・。
率直に言う。たった今、お館様の両親がおいでた」
「・・・はぁ?そんなこと一言も聞いてませんよ」
「私達も今みてビックリしたところだ・・・」
突然の来訪で何も用意が出来ていない。
勿論接待の侍女も・・・。
裏の方は俺らがなんとかしておくから、どうせその恰好だし、二人の接待を頼む。
まだ、鳳珠様も帰っていらっしゃらないし・・・」
「・・・・はぁ・・・・」

とりあえず、この衣装を着てきたことが今日に限っては吉とでたらしい。
私は、管理長についていき、黄尚書の両親を迎えるために、身だしなみを軽く整えた。

しかし・・・。まだ見た事はないが鳳珠様の両親ってどんな方たちなんだろう・・・。
綺麗である事は間違いないだろうが。


軒から降りてきたのは美しい男性と女性。
一見三十代に見える二人だが、これでも鳳珠の親。
実年齢は軽く四十を超えている。

「ようこそ、いらっしゃいました」

が深々とお辞儀する。
接待作法には自信があった。
秀麗と一緒に宴会の時季は宴会場荒らしにいったものだ。
そして、がっぽり収入を貰ってくるのが常であった。

「・・・・鳳珠は、まだ帰ってこないのかね?」
「はい、鳳珠様は、仕事熱心な方で・・・。
あと数刻経って戻ってくるかどうか・・・」
「そうですか・・・・。
では待たせて頂きましょう」

取次ぎは管理長に任せて は、脇で大人しく成り行きを見守っていた。
この親あって、この子あり。と言うのがぴったりあてはまるのが鳳珠である。
二人とも美しいのだが、二人を足してそのまま生まれて来たのが彼であろう。

、部屋まで案内してさしあげろ」
「かしこまりました。
では、こちらへ・・・」

完璧な身のこなし方で、結構好印象を与えた
気に入られたのか、二人と机を隔てて会話する機会を得た。
背中に冷や汗たらしながら差し障りのない答えを返す。
本当につらい。つらすぎる。


「鳳珠っ!!大変です、ご両親が貴方の家に参られたとっ!!」
「・・・なんだと!?」

今日も大量の書類を前に、そつなくこなしていく鳳珠の前に柚梨が血相を変えて入ってきた。
鳳珠の機嫌はみるみる悪くなっていく。
積み上げられた書類はあと半刻では絶対に終わらない。
しかし、帰らなければ待った時間だけ嫌味を言われる。

「・・・柚梨・・・。
あとどれだけ人は残っている・・・?」
「まだ、全員帰っておりませんが・・・?」
「そうか・・・悪いが、大事な書類だけ終わらせて即刻帰らせてもらう。
残業でこの仕事全て終わらせてくれ。
後で私ツケで、騒いできても良い」

鳳珠は内心舌打ちをした。
柚梨は太っ腹な鳳珠に拍手をして、早速仕事の分担に入った。

「明日宴会ですね♪
早速会場予約しておかなくては・・・」
「・・・好きにしろ・・・」

鳳珠は重要な書類に素早く印を押し、立ち上がった。

「悪いが帰る」

柚梨はいつになく焦っている上司に苦笑した。

「はい、頑張ってくださいね。
・・・しかし、いい加減、腹くくってみたらどうです?
くんもいることですし・・・・。
こんな機会もうないですよ」
「・・・・・・。」

仮面の主は、何も言わず部屋を足早に去っていった。
柚梨は苦笑してその背中を見送った。
そして、鳳珠の書いた最後の書類を手にとり室を出ようとした時である。
鳳珠入れ違うかのように黎深が入ってきた。

「・・・こっ、これは、紅吏部尚書。
黄尚書なら先ほど退出されましたけど・・・何か御用でしたか?」
「いや、用が合ったのは彼じゃなくて君の方。
・・・鳳珠に何があった?
こんなに早く帰るとは、何か(面白いことが)あったに違いない」

いたずらを思いついた子供の顔で聞いてきた吏部尚書に苦笑して柚梨は言う。

「両親が今日朝廷に参られて縁談を申し付けてきたそうです。
それで、今日もきっぱりと断ったそうなのですが、そしたら、次は彼の家に訪ねてきたそうで・・・」
「なるほど・・・でさっさと帰ったと・・・」
「えぇ・・・・」

鳳珠の縁談話は黎深も聞いたことがある。
というか、もはや毎年恒例となっていた。
それは朝廷に入った時からのことであろうか。
年に一度は両親がきて縁談を持ちかけてくる。
その時既に百合姫にふられていた後なので全く女と付き合う気にはならなかった。

まだ若かった頃は良い。
しかし、ここ数年、その訪ねる周期は短くなり今では半年に一度とまでなってきている。
黎深は扇を開きその下でニヤリと笑んだ。
これは明日が楽しみだ・・・

柚梨に礼をいい、戸部を出た黎深はふと、あることに気がついた。
・・・もし。
もしも、仮にも奴が『秀麗』なんて言葉を出したらどうなるだろうか。
一応彼の証言では『抱き着いて中々離れてくれなかった。』『面と向かって会えなくて寂しいですと言われた』らしい。
未だに、黎深の中では政事含めて解決しなけらばならない上位三位には入る重要事。
今では本当に悩みの種だ。
故に、秀麗のため最近はあまり彼に極度のちょっかいを出していない。
自分で言うのも癪だが、奴が秀麗に『嫁に来い』なんて言った日にはもしかしたら、コロリといってしまうかも分からない。

・・・クッ・・・奴もとっとと嫁を貰ってしまえばこんなことにはならないのに・・・。
どこかで『貴様が言うな』という突っ込みが聞こえてきそうだった。

後日談。廊下で頭を抱えて唸っている紅吏部尚書は大変奇妙な光景として人の目に映っていたらしい。
勿論、高官なので誰も突っ込めずにはいられなかった。


「・・・そして、今に至るのですよ」
「・・・・はぁ・・・・」

あれから一刻。黄家の歴史を語られる羽目になった は相手が鳳珠の親だとはいえ、心底飽きてきた。
眠くなってきたが、欠伸はご法度なので絶対にしないように身体の神経全てを使って阻止している。
返事もどんどん曖昧な形になってきていた。
しかし、どの家もそうなのだろうか?
後継となる人間が少ないような気がする。
要するに小子化。
実際王家もそうであるように、後継ぎになるものがいないのである。
劉輝の場合、秀麗以外後宮に入れないと言い張っているし王家の方も大変である。
さぞかし霄太師の方もこれから苦労するであろう。
秀麗が官吏になりたいというなら尚更のこと。

どんどん、『鳳珠様早く帰ってきて〜』という思いが強くなってきていた。
しかし、彼のいつもの帰宅時間にはまだ数刻ある。
下手をすれば帰ってこない・・・
この人達の話をまだまだ聞いていなければいけないのであろうか。

すると、扉を叩く音が聞こえた。

「・・・お館様がお戻りになりました」

・・・あぁ管理長が天使に見える・・・(おっさんだけど)
は、会釈してすぐに鳳珠を迎えに行く。
とりあえず、座っていたままの身体を動かしたかった。

「鳳珠様に知らせてくれたの?」
「はい、一応は・・・・」

彼のほうも急いでいたらしく、早足で部屋に向かってきていた。
がいることに気づいて足を止める。

「お帰りなさいませ。鳳珠様」
「・・・奴らは・・・いつから来ていた?」
「・・・一刻前くらいでしょうか・・・?」

一刻・・・・。
鳳珠は頭が重くなった。微かに頭痛がする。
鳳珠は を見て少し考えてから言った。

「・・・えっ・・・と・・・。
今、なんと仰いましたか?」

これは、国試以来のびっくり発言だった。
焦っているのは、私だけで鳳珠の方はあっさりとしている・・・ように見える。
本当に、仮面をしていたら表情が読み取れなくて不便だ。

いや、はずしてもらうと困るんだけどね。

「形だけだ。
納得すれば奴らも帰るし、官吏になってしまえばうやむやになって消える」
「・・・では・・・お好きなように・・・」

鳳珠が『大丈夫だ』といったら大丈夫なのであろう。
そこまで彼の判断は正しいことが多い。

ここまできたら・・・当たって砕けろ。

心に覚悟を決めて鳳珠と一緒に客間へ向かった。
扉の前で仮面は無造作に取られていた。
鳳珠が来たことによって両親の目は輝く。

「お帰りなさい、鳳珠」
「何をしている・・・。
とっとと黄州に帰れといったはずだが・・・?」
「ここまできて、あっさり引き下がれるものですか。
貴方と結婚したいと言って下さる方が続々と来ているのに」

・・・それは顔を知らないからの意見であろう。
朝廷ではともかく、それ以外のところでは、黄鳳珠は、有能な能吏で時期宰相有力候補。
頭も良く、収入も良し、親も親なので容姿も良し。とされている。
全く噂は違ってはいないが、容姿はいろんな意味含め問題があると思われる。
多分、いくら醜い顔でも中身が彼であれば今ごろは既に結婚していただろう。

「流石にもう待ちきれません。
早く孫の顔を見せてください、鳳珠」

目的はそれか。

「こんな苦労はもうしたくないので女の子で頼む」

父の切実な願いである。
きっと、美しい奥さんだったら彩雲国一綺麗な人になるだろう。
彼が既にその座を奪い取っているが。

色々突っ込みどころが多いのだが、黙って様子を見ていると鳳珠の方から切り出した。

「縁談は、全て断れ」
「・・・鳳珠・・・」
「何だ?」

ふと、母が自分じゃなく をみていることに気づいた。

「後ろにいる さん・・・でしたっけ?
彼女は、貴方が仮面とっても見ていられる人ですのよね」
「・・・えぇ・・・」

たまの笑顔にやれますが一応は。

「なるほど、それはいい」

両親の間で何やら暗黙の了解がなされているそうだ。

さんは、どこのお生まれで?」
「・・・えっと・・・貴陽にずっといます」
「両親は?」
「二人とも、他界しております。」
「・・・・それは・・・・悪いことを・・・」
「いいえ」

両親は立ちあがって、鳳珠と の前に来て二人を見据えた。
鳳珠がいち早く嫌な予感を察知する。

・・・・まさか・・・・・。

この展開は、彼の予想範囲を超えていた。

殿。
鳳珠の世話人ではなく妻になってみないか?」
「大体することは同じですし・・・
ただ、生活が楽になる。というだけですから・・・」

『・・・・・・・・!?』

鳳珠が珍しく固まっていた。
の方は驚きまくって声も出ないようだ。
ただ口をパクパクさせている。

本当は、この話が進む前に鳳珠の方から『 と付き合っているから心配は要らない』と両親を帰す。
あとは適当に誤魔化しておけば勝手に彼女が朝廷に入りあやふやとなる。
という段取りを組んでいたのを見事にひっくり返された。
たしかに内容は同じだが、親に が気に入られたと言うのが誤算だった。
この様子だと、待ち時間全てほど と話しこんでいたに違いない。

「まぁ悪い奴ではないし、少し融通の利かないところがある馬鹿息子ですが、よろしくお願いします」
「いつか、黄州にも顔をおだしになってくださいね」

にこにこと微笑む鳳珠の両親にもはや反論できるほどおちついていれなかった。
とにかく一番良いのは、この状況を彼に全て任せ自分は黙っていた方が良いということだ。
とはいえ、流石の彼もこれには参っているらしい。
考えてはいるものの、これといった良い案が思いつかない。

「・・・では、ここに一泊して明日帰るとしましょうか?
晩御飯はまだですか?」

既に決定。となされているこの状況で奥方の方が扇子を広げ、ホホホ・・・と薄く笑い席につく。

「・・・今、お持ちいたします・・・・」

なんとか冷静につとめて、 はその部屋を出た。
鳳珠の方も反論の余地なし。と何も言わず一緒に出ていった。


『・・・・・はぁ・・・・・・』

廊下に大きなため息が重なった。



あれから、結局何も言えないまま二人は黄州に帰っていった。
こっちとしては嵐の後のしずけさ。といったところか。何もしてないのに精神的疲労が大きい。

は、出仕する鳳珠の身支度を手伝っていた。

「・・・そういえば、鳳珠様・・・」
「何だ?」
「何故、貴方のような方が今まで縁談がなかったのです?
素敵な方一人くらい話が持ちあがってきてもおかしくないでしょうに」
『・・・・・・。』

流石の彼にもこれには言葉が詰まった。
およそ、十年前。今の黎深の妻、百合姫に振られて以来、降るように持ちかけられた縁談を全て蹴散らせてきたことは は知らない。
親の訪問もこれが初めてと思っているに違いない。

「色々あってな・・・・。
忙しかったのもあるし・・・」
「なるほど・・・。
しかし、鳳珠様もそろそろ良いお歳なんですし、身を固めてみては如何でしょう?
真面目で良い方ですし、地位も高いし・・・・。
何よりも、美しいですし」

その美しさで振られていることを知らない は笑顔で言った。相手に悪気は無い。
かなり気にしている顔に触れられ鳳珠の動きもピクリと止まる。

「・・・まぁ良い人見つかりますよ」
「人のことを気にしている前に自分を気にしたらどうなんだ?」
「・・・はい?」

突然、自分に話がふられ は首をかしげる。

「今のままだとあの馬鹿親がいつこのことを公に発表するか分からん・・・。
不覚にもあの後何もしていないからな・・・」
「・・・・え・・・・。
何か言ってくださったのではないのですか?」
「・・・いや、特に良い方法も思いつかなかったので何も・・・」

考えてた矢先今朝の早朝二人は出ていった。
それを聞いた はバサリと書類を床に落とした。
・・・何も言ってないと言うことは否定もしてないって事ですか。鳳珠様。
彼もまさかこんなに早く出て行くとは思わなかったびで否定もする暇がなかった。

「・・・まぁ何とかする。
お前は必ず国試に受かれ。
そうしないと、この後、更に後にひけない事態になる」
「・・・はい」

密かに、これを狙ってさっさと帰ったんじゃないかと思わせる両親。
これは、国試以上に大変な問題になるかもしれない。


そして、朝議で。

「おはよう、鳳珠。
今日はなんだか疲れているようだね」
「貴様もな、黎深」

まだ人がまばらな会場。黎深が自ら早くにここにくるのだから、それなりに最悪な理由があるに違いない。
なるべく関わりたくなかったので鳳珠は作られていた書類に目を落した。

「昨日、両親が家に来たんだって?
縁談の方はどうだったんだい・・・・?」

からかいにきていることがあからさまに分かったので、鳳珠はフッと笑って言ってやった。

「あぁ・・・そのことなんだが・・・
紅家の姫と今文を交わしているといったら満足して帰っていったぞ」
「・・・何っっ!!!!」

・・・・なーんて。

ちらりと黎深を見るとこの世の終わりとでもいうような顔をしていた。
ざまーみろ。

落胆した黎深をよそに朝議は始められた。

   

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