残暑も過ぎ過ごしやすい季節になった。
彩雲国では作物は大いに実り秋には大豊作となる。
そして、毎年の恒例行事、豊穣御礼大祭典が行われた。

・・・・その予告は悪夢の始まり・・・


豊穣御礼大祭典!!
〜美形有効活用術〜


「・・・何これ?」

人々が賑わう午後。
は朝廷の前に立っている看板の前で足を止めた。
手には色んな食料を持っている。
今日は秀麗の家での夕飯の日。
も客として迎えられるにあたって、絳攸や楸瑛のように料理の材料を持参することにした。
秀麗にも静蘭にも悪いからは別に持ってこなくてもいいといわれたのだが美味しい料理を無料で食べさせてもらうのでこれくらいはさせてくれと申し出た。

は朝廷の前の看板に書いてある文字を追った。

豊穣祭恒例女装評議大会(コンテスト)
優勝商品米俵百俵。

「・・・なっ女装・・・・評議会・・・・?」

とある事情で引きこもりがちだったは街の行事なんてほとんど知らなかった。
まさか、こんなに面白い祭典があるとは・・・。
は目を輝かせた。
見たい、聞きたい、遊びたい!!

・・・何をして今まで生きてきたんだろ・・・人生無駄にしてたわ!!

最近、顔と頭はいいが微妙なところへ変な人たちと関わってきたため、の思考もいささか並とは少し外れてきているのかもしれない。
他から見ればは今までの人生、本当に無駄なしで生きてきている。
詳しい事を聞き出すため、は秀麗の家へ向かう足を早めた。

「こんにちはー」
「あぁ、?いらっしゃい。」

縫い物をしていたらしい秀麗がを迎えてくれた。
何か繕っているようである。
机の上には綺麗な着物がのせられていた。

「お邪魔しまーす。
・・・秀麗ちゃん、それ着物よね?
秀麗ちゃんのにしては大きいような気がするけど・・・」

は買ってきたばかりの旬の素材を秀麗に渡し、机の上にある着物を眺めた。
秀麗は庖厨からお茶とお菓子を手に、戻ってくる。
の問いに、あぁ、と答えた。

「豊穣際があるでしょ?
そのときの衣装よ」
「豊穣際っ!?
あっ、そうそう・・・さっき朝廷の前で看板みたんだけど女装評議会って何?」
「・・・そう、女装評議会!!」

秀麗は目を輝かせて机をバンと叩いた。
はいきなり豹変した秀麗に一歩引く。
女装で何をそんなに目を輝かせる必要があるのだろうか。

「もう、本当に朝廷の役人様は太っ腹よね★
女装させて優勝すれば米俵百俵ですもの!!
準優勝でも野菜一月分、三位と四位は彩七区全商店共通お米半額お買い物券っっ・・・・」

くぅぅぅ・・・・と握り拳作って語ってくれる秀麗に、は首振り人形と化した。
自分より楽しみにしている人がこの世の中にはいるのだ。
あまり良く分かっていなかったはこの評議会での犠牲者の事を考えもしなかった。

「へぇ・・・確かに今年は大量に作物が実ったっていうからね」
「そうなの!市場に出ても野菜が安いっ!!
本当猛暑のお陰で賃仕事もできたし良い事尽くめよ。
見てよ、ッッ!!私の日々の成果をっっ!!」

一応この人国司試験を控えている身である。〈勿論、自分も〉
勉強のことかと思いきやとりだしたのは、素敵な女物の衣装。
素敵な宝石、髪飾り、化粧品。

ここまで出されて飲み込めなかったが、そういえばこれ女装だっけ。
ようするに頑張らなくてはいけないのは秀麗ではなくて・・・
考えてみればこの家には生き別れた素敵な兄様が家人として住んでいるではないか。

「・・・・・・・・・まさか・・・静え・・・じゃなくて静蘭殿に?」
「勿論よっっ!!
あの顔なら優勝間違いなしじゃない?」

尊敬する兄が女装・・・。
確かに似合うとは思うがあまり考えた事がない。
自尊心高そうな方だが秀麗の頼みなら、聞いてくれるだろう。
・・・正直見たい気持ちと見たくない気持ちがあるが・・・
あっ、でもやっぱり見てみたい。

一応、秀麗でも静蘭の美形さには気づいているらしい。
確かに静蘭を出せば優勝も間違いないかも知れない。
あれだけ顔の整っている彼なら大丈夫だろう。

・・・まぁ・・・うちのご主人様には負けますがねぇ・・・。
は苦笑しながら仮面をつけて仕事をしている雇い主を思い浮かべた。
・・・女装してなくても米俵は確実だ。

「静蘭殿がでるんなら私も行ってみようかなー?
元々興味あったし。」
「うん、じゃ一緒に静蘭の雄姿を見に行きましょう!
さっき衣装出来あがったばかりなのvv
早く豊穣祭来ないかしらvv」

今にも踊り出しそうな秀麗をみて自分も楽しくなってきた。
そろそろ日が暮れる時間だ。
秀麗は立ち上がった。

「お茶飲んでて。
夕飯の支度するから」

は秀麗の淹れたお茶を一気に飲む。

「手伝うよ。
皿洗いくらいしか出来ないかもしれないけど・・・」


運命とは本当に残酷なものである。
楽しくなるはずの晩餐に一人の少女の悲鳴から悲劇に代わった。

『なんですって!?勅命ーーーっっ!?』

帰ってきた家人、静蘭の胸倉を掴んで揺さぶりそうな勢いの秀麗を、を始め客人たちが同情の視線を送る。
・・・というか逃げたな静蘭。
この時まだ劉輝の思惑などまだ誰も知らない。
申し訳無さそうにお嬢様に断っているこの男以外は。

「・・・申し訳ありません、お嬢様・・・」
「よりによって、豊穣祭の警護要員・・・・。
何の嫌がらせよ、あの頓珍漢男・・・・っっ」

秀麗の肩がフルフル震える。

「せっせと縫ってきた衣装とか、アルバイト先から借りてきた宝石とか化粧道具とかの立場はどうするのよっ!!
っていうか、米俵百俵はどーしてくれるのよーーーっっ!!
もう、いっその事あんたがでなさいよっっ、この馬鹿王ーーーっっ!!!」


その発言が本物になる事は今の時点で約一名以外知る事はなかった。
泣き叫ぶ秀麗をなだめるように静蘭が秀麗の肩に手を置いた。
優しい顔の裏には何か裏がある微笑を湛えながら静蘭は言った。

「お嬢様、私が出なくとも、もしかしたらどこからか米俵が舞い込むかもしれませんよ?」

秀麗にとっては慈母のような笑みであった。

「・・・え・・・・
・・・・・・・・・・・。」

しばらく静蘭を眺めていた秀麗だが、視線を少し横にずらすと、面白そうにこっちを眺めている楸瑛と美味しそうに自分の作ったご飯を食べている絳攸の姿が目に映る。
そういえば(と言っては失礼だが)彼らもかなりの美形である。
秀麗の長年の友である節約術のためにある脳が高速で回転し始めた。

静蘭無理 → 他に美形探せばいいじゃん → ご飯食べてる”双花菖蒲”→ 美形 →

・・・・静蘭の代役!!

ここまでコンマ三秒。
長年貧乏生活をしてきたお嬢様の行動は素早かった。
思い立ったら即実行。

「・・・・藍将軍・・・・・」

涙をためたままの目で楸瑛を見つめる秀麗。
楸瑛もうっかりいつもの女性にたいする微笑で答えた。

「なんだい?秀麗殿」
「こうなったら静蘭の変わりに出ていただけませんか?」

『・・・・え?』

ぶっ、と隣でご飯を食べていた絳攸が思わず噴出した。
もその発言に持っていた茶碗を落としそうになる。
・・・そうきたか・・・。
今まで絶望のどん底にいた秀麗だが一筋の光が見えれば立ち直りは早かった。

「衣装はちょっとスソを直せば着られると思うんですっっ。
商品は折半で、いえ、二割でも構いませんっ。
準優勝の野菜一月分でもっっ!!」

今にも襲いかかってきそうな秀麗に流石に楸瑛も引く。

「・・・いや・・・私は別に商品は・・・。
米俵百俵くらいなら買ってあげてもいいし・・・」

彩七家でも紅家と同じ高い位置につく藍家にとって米俵百俵なんて着物を買うのと同じくらいたやすいものだった。
なんとか女装だけでは避けたい楸瑛は逃げ道を考えるがそれも、後を綺麗に立たれてしまった。

「私もそれは非常に良い案だと思います。
藍将軍にはいろいろ貸しがありますしこの辺でまとめて返してもらいましょう。(にこ)」

静蘭の追い討ち。
楸瑛の後者の台詞をなかったことにするらしい。
というか、嫌がらせだコレ。
ここで何を言っても勝てない事を知っている楸瑛は即座に負けを認めた。

「・・・分かった・・・」

藍家に生まれ何不自由なく、大分自分の好きなように生きてきた自分であるがまさか女装する羽目になるとは・・・・。
しかし、ここで小言を言おうものなら静蘭に更に追い討ちを掛けられてしまう。
負担はなるべく小さくしておきたいものだ。
事はこれで終わったかに見えたが楸瑛も馬鹿ではない。

「絳攸も出るなら出よう」
『ふざけんなっっ!!!』

は隣で口論する二人をほっておいてお茶をすすった。
何か関わってはいけない気がする。
秀麗の入れるお茶は心まで温かくなるようで美味しい。
後で入れ方を教わろうか・・・・。

鳳珠様も秀麗ちゃんのお茶は気に入っているようだし、いれてあげたら喜ばれるだろうか・・・・。
・・・・・・。
ふと、成り行きで女装評論会にでることになってしまった哀れな二人を見て思う。
少し可愛さが足りないんじゃないかと。
秀麗に『良かったですね』と笑顔で語り掛けている義兄をみていて思うんだが少し女装という点において静蘭には劣るような気がする。
可愛さを求めれば我が彩雲国国王が一番適任じゃないかと・・・。
あまりの秀麗の必死さにも同情してきた。
化粧や着付けくらいは手伝ってあげようか・・・

「・・・あっ・・・そうだ・・・・」

・・・保険くらいかけておいてもいいかもしれない。


「無理強いはいけないよ、秀麗」
「父さま・・・」

脇に本を抱えてこの家の主、邵可が帰ってきた。
外までこの争いが聞こえるのか〈全く恥ずかしいものである)邵可は事の内容を知っていた。

「お米ならまだ少し備蓄があるじゃないか。
それに、私も宛名書きの内職を見つけたんだよ」
「父さま・・・・助かるわ・・・・」

本当にこの人は神である。
楸瑛がなんとか出なくて済むな・・・と思い始めたところに今まで言い争っていた絳攸が口を開いた。

「・・・出ようじゃないか・・・・」

・・・尊敬する邵可様に内職をさせるなど・・・っっ。

楸瑛は口を引きつらせた。
まさか最後の逃げ道を自らの手で塞ぐというのかこの馬鹿は!!

「・・・は?」
『目指すは優勝だっっ!!』

『・・・・・・。』

馬鹿は馬鹿でも邵可馬鹿だった。
楸瑛は何もかも諦めた。
いつから自分は長いものに巻かれるようになったのだろう。

・・・・面白いなぁー・・・・この家。

残る手段は現実逃避しかない。
ちなみに絳攸は女装評議会経験者だったとかいう話はまた今度。



そして当日。

「・・・フフフ・・・ついにこの日が来たわね・・・」

は余所行きの着物を着てステージを眺めていた。
選考はどんどん終わっていき綺麗な人が徐々に絞られていく。

さんお願いします」
「はーい」

は鏡をみて笑顔を確認し、係員から受け取ったお茶とお茶菓子の乗ったお盆を受け取る。
そして、審査員席に運んだ。
ただ見にくるだけでは面白くない。
秀麗とは約束したが、一応裏で動いてしまったのでなんとなく一緒にいるのは気まずくなってきたのである。

どうせならと、は最高の席を用意した。自分用に。
コバンザメとでもなんとでも言ってくれ。
こういう祭りは最高の位置でみるものだ。
こうしてはちゃっかり審査員先にたった。

「どうですか?今年の女装評議会は?
・・・霄太師?宋太傅?」

面白くなさそうに見ている二人は、後ろから聞こえた声に、振り返った。

「なっ・・・・・・っ!?
何故ここに」
「お茶をどうぞ」

彼らはの全てを知っている。
紫家直系の長姫が本当はこんなところで茶菓子を配っている光景なんて見た事がない。
さらに王ですら介入不可能な国試を受けて堂々と朝廷に乗り込み、男と一緒に出世を目指す。
・・・世も末だな。
気を取りなおして霄太師は茶をすすった。
味も温度も文句がでないところがムカつく。

「紫家のご令嬢がなんの用だ。
また下らん小細工しおって・・・」
「ただの女装評議会の見物ですわよ、霄太師。
素敵なお方はおられまして?」

バチバチっと二人の間に火花が散った。

「全く進歩なしじゃ・・・。
・・・ったく・・・誰がこんな下らん事考えたんじゃ・・・」
「霄なー。お前まだ昔出たこと根に持ってんのか?」
「なっ・・・宋黙れ!!」

は扇を広げその下に笑みを作った。

「・・・へぇ・・・霄太師にそんなご趣味が・・・」
「ないっ!!
あれは英姫が勝手に・・・」

・・・勝手に登録させてださせられたのか・・・。
断れよ、と思ったが先日の秀麗の件といいやはり女は男より強く出来ているものらしい。
まぁいいや、からかうネタと弱みをまた一つ握れた。

「・・・ちなみに霄太師のご成績は?」
「あぁこいつ今はしわしわだが昔は顔だけいいやつでなー。
にこりともせずに優勝しやがったよ」
「・・・へぇ・・・是非見たかったですね」
「あぁその時記念に絵を書かせたやつが・・・確か宝物庫に・・・」
「マジですかっ!?!?」
「ふん、貴様如きが宝物庫に・・・」

・・・そういえばの後見って黄鳳珠だっけ・・・。
たしか宝物庫の鍵って戸部に・・・
霄太師の言葉とかぶるようにして、司会者の威勢の良い声が会場に響いた。

『さぁ盛り上がってまいりました〜、豊穣女装大会最終選考〜っっ!!!』

最後まで残った者の名前が書いた紙が審査員席にも回ってくる。
私もその紙を見た。


曰く、

『名無しの権兵衛 壱』
『名無しの権兵衛 弐』
『名無しの権兵衛 参』


『・・・・・。』

流石の自体に霄太師、宋太傅、そしては絶句した。
何?この意表を突く登録名。

「何じゃこれは・・・そんなに名前を知られては困る奴らかの・・・・ぶふぅっっ!!!」

がいれてくれた茶を飲みながら前を向いた霄太師は咳き込んだ。
それを隣にいた宋太傅が背中をさする。
しかし、彼自身も動揺は隠せない様である。
も予想以上の自体に驚いていた。
顔が引きつるのを隠せない。

舞台の上には見知った顔三人・・・というか朝廷に赴けば大抵この三人は一緒にいる。
右から藍楸瑛 紫劉輝 李絳攸

綺麗に並んでいるのである。
それがまた主上に限っては本当に可愛い。
確かに名前を知られてはいけない人達だ。
というか、本名で登録しようものなら本当に一大事になる。

「・・・なっ・・・なんで・・・兄上が・・・ここに・・・?」

というかその女物の衣装はどこから入手されたのでしょうか?
にはその点が気になって仕方がない。
しかし、楸瑛も絳攸もそれなりに美しいので誰が優勝か決められないでいた。
審査員の二人も頭を悩ます。
他人なら別にどうでもいいのだが、顔も知られた身内である。

「どうなさるのですか・・・・?」
「こうなったら仕方あるまい・・・あ・・・」

宋太傅がいいかけた瞬間、司会者が吉報を命じた。

『おーっとお待ちくださいっっ!!
まだお一人いらっしゃいましたっ!!
ギリギリ飛び込みですが良いでしょうっっ!!』
『・・・飛び込み?』

場の空気は稀に見ない綺麗な男性が舞台の上にいるとあって相当の盛り上がりである。
飛び込みでも何でも可だ。

『では登場していただきましょう!!
登録名、名無しの・・・・』

会場がしんと静まった。
落ちついたところでお茶を飲みなおした霄太師、そして宋太傅もお茶に口をつけたが。

『・・・・ゲフッッッ!!!!』

次の登場人物にまたお茶を噴出す羽目になってしまった。
こんな二人も中々お目に掛かれない。
二人のジジイとは正反対にの目は輝いた。

「・・・うわぁ・・・美人・・・vv」

ステージ上に立っているのは誰もが認める美人であった。
顔の全てのパーツ、睫毛の一本までも全てにおいて完璧なのである。
髪はさらさらのつやつや、肌は色白のつるつる。
指も細くて長く扇を持つ手ですら優美である。
彼の首にさがっている美しい宝石も彼の美貌の前では劣って見えた。

『・・・・黄・・・・鳳珠・・・・。』

二人は、げっそりとした顔でステージを見る。
見なれてはいるがやはり彼の美しい顔は健在である。
それに女装も加わりさらに美しさ倍増である。

「あぁ・・・本当に素敵だわ、鳳珠様・・・(うっとり)」

・・・・お前か。
にこにこと嬉しそうに見ているに霄太師は言った。

「・・・・まさか・・・・お前・・・・」
「あははvv
秀麗ちゃんがお米に困ってたから藍将軍や絳攸様じゃ何か心もとないと思って(失礼)呼んじゃいましたvv」
「っていうか、奴を出すのはいささか反則ではないだろうか?」

真面目にいう宋太傅の言葉は誰が聞いても納得できた。
しかし、それもは笑って返した。

「いや、でも。あの人一応男ですから。
反則もなにもちゃんと女装してるじゃないですか。
一応人々の混乱がないように扇も持たせて顔も半分隠れてますし、化粧もしてません。
飾りも最低限に押さえましたし。
それに微笑みもないですし。(いや、多分頼んでもしてくれない)

・・・・本当はもっといじりたかったんだけど・・・(ボソ)
一度も出てないから良いじゃないですか。今年だけですから。秀麗ちゃんを助けると思って」

彼女を助けたいのなら彼女の父の下がっていたお給金をまた元に戻してあげるのが良いんじゃないか・・・という突っ込みはなしにして。
流石に、否定したいところだが、観衆全員が鳳珠に釘付けになっている。
誰がどう言おうが、彼の優勝は決定したも同然だ。

同じ舞台に上がっている三人も後ろから少し見ているだけだがそれでも自分の負けは分かっていた。
というかなんなんだあの男は。反則だ。

「・・・・化粧もせず・・・」
「作り笑いのひとつもなし」
「それであの美しさとは・・・・」
『・・・負けた。』

そうえいば、彼らはこの顔を見るのは初めてであった。
まさか朝廷で必ず越えなければいけない壁の一人、黄戸部尚書が目の前にいる美人だとこの三人の誰が気づくであろうか。

鳳珠は隠している口元で大きな息をついた。
なんで自分がこんなことを・・・
・・・いやそれより・・・
何故ここに王とその側近がいるのだろう、そこの方が気になる。
鳳珠は優勝が決まり次第さっさと舞台から降りていった。

こうして、飛び入りの謎の美人があっさり優勝をとり残りの三人がくじ引きで順位を決めることになり豊穣際は無事終焉となった。
後の豊穣際でこの美形の男の話は伝説となる。

もさっさと賃仕事を切り上げて鳳珠の元に向かった。

「おめでとうございます。鳳珠様」
「・・・・・・。」

彼自身もまさか舞台の上に知り合いが三人もいるとは知らず、少し動揺しているようだった。
流石に街中で仮面をつけるわけにもいかないので、透ける布で覆った傘を被っている。
そこからうっすら見える彼の顔もまた素敵だ。
彼の後ろには柚梨がいる。

「まさか鳳珠が出るとは思いませんでしたよ。また良いもの見せていただきました。
ありがとうございます、くん」
「いいえ〜。鳳珠様も国の活性化のために役立つことも必要だと思いまして〜。
平日ずっと朝廷にこもりっぱなしで、休日も家にずっと引きこもってばかりじゃ身体にも悪いですしね。
たまには外出しないと〜」

いい様にあしらわれているのは気のせいだろうか。
鳳珠はそう思いながらもたちを無視して軒に乗りこむ。

「・・・
「なんでしょう?鳳珠様」
「米俵は好きにしてくれ。
私は別に必要ない・・・」

は、クスリと笑って一礼した。

「かしこまりました。仰せのままに」

そして、鳳珠を乗せた軒は動いた。

「・・・あれ?さっき優勝した方は・・・・」

係員が鳳珠たちを探しにきたようだ。
はその係員に声を掛ける。

「私がその付き添い人なんですけど・・・。
何かご用でしたか?」
「米俵どこにお届けしたら良いでしょう?
突然おいでたので住所もなにも聞き出せず・・・」
「そうでしたか、では・・・・」

は頭の中でいろいろ考える。

そして

「主様がご友人の贈り物にしたいということで配って頂けますか?」
「えぇ、どうぞ。ではその宛先を・・・」


後日。

「・・・・やぁ、鳳珠。
豊穣祭では大活躍したそうじゃないか?」
「・・・黎深か・・・また何を・・・・」

努めて冷静に対応する鳳珠だが、いささか文字が震えた。
何故、こいつが知っている・・・?
絳攸は気付いていなかったはずだが・・・。
というか、彼自身女装評議会に出た事をいうはずがない。

「米俵のお裾分け、感謝するよ」
「・・・・・?」

『李 絳攸様へ

夏の紅秀麗、浪燕青の紹介誠に助かった。
特別手当として米俵十俵を出すのでもらってくれ。

黄奇人』

・・・か・・・(余計な事を・・・)


秀麗宅ではでは

「こんなに特別手当をくれる黄奇人様ってなんて太っ腹・・・vvv」

大量の米俵を目の前にして秀麗は泣かんばかりの勢いだった。
劉輝、楸瑛、絳攸の商品を丸々貰い大満足していたのだが、それに加え夏のご奉仕の特別手当までもらえるとは夢にも思わなかった。
女装評議大会優勝は出来なかったがまさか奇人から米俵五十俵が送られてくるなんて。
色んな意味で結果オーライ。
秋は本当に紅家にとって良い収穫となった。


そして、茶州。

「・・・へぇ、あの仮面尚書もいいところあるじゃねぇの」
「黄尚書からですか・・・。
あの人も気が回るようになりましたねぇ」

燕青のところにも残りの四十俵は届いていたとさ。


仮面の男・黄奇人
彼の素顔は誰も知らない・・・・わけでもない。


   

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