掃除を終え、握り飯とお茶を飲み、私達は大堂へ走って向かった。
これはの予想以上に遅れてしまった。
「大丈夫?秀麗ちゃん・・・」
「えぇ・・・
あぁっっ!!鐘が・・・っっ」
七時を告げる鐘が朝廷内に鳴り響く。
達は走る速度を上げた。
バンと最後の鐘と共に大堂に入る。目立つも何も一同の視線がこちらに集まった。
でも、既に限界点にきている私達にはもはや嫌味も頭まで届かない。
精神だけで前の席にたどり着き座ろうとしたたちの腕がガシッとつかまれる。
「・・・魯官吏、この三人は連日の徹夜で疲れが極限まで達しています」
ふとつかんだ腕の主を見ると、自分の次に及第した碧珀明。
宿舎も一緒だったので、彼のことは良く知っている。
中々真面目な青年で、彩家の人物。将来有望である。
「・・・貴方・・・。
私は大丈夫よ。秀麗ちゃんたちだけでいいわ」
の呟きにも応じず彼は上官と対決中だ。
それも頭に入ってくるのは単語だけ。
このまま、戸部の方へいけば絶対といっていいほど鳳珠に怒られるだろう。
でも・・・
負けるわけにはいかなかった。
私は常人とは違う。根をあげてはいけない。
「・・・では失礼します」
腕が後ろにひっぱられる。
しかしは気力だけでとどまった。
「・・・茈進士?」
「私は・・・いいです」
しかし、体力もほとんどない。
簡単に珀明に連れて行かれた。
仮眠室について大人しく眠ろうとする二人を尻目に、は寝台に座っていた。
どうしてもここで寝るつもりはなかった。
後宮で培った高い矜持が許さない。
王室で完璧を装ってきたにとって挫折は自分が許さなかった。
「・・・お前、さっさと寝ろ。
この中で一番酷い顔してるぞ」
「・・・嫌です。私は戻ります」
一番この三人の中で休まなくてはいけないのは彼女である。
珀明はを無理矢理ベッドに押し倒した。
「・・・ちょっといろんな意味でこの体勢はヤバいんでないですか?」
「別にいやしいことをしようとしているわけじゃない。
大人しくしていろよ。もし起き上がって戸部で仕事していたら今度こそ本当に無理矢理寝かすぞ」
「・・・・・・」
未だに不服そうなに珀明はため息をついた。
『茈』という家名は聞いたこともないが、自体は相当な教育を受けているだろう。
官吏達からあまり評判は良くないが珀明はに正直共感を持っている。
実力がありまくり、官吏達の嫌がらせを見事な手腕でさばき、被害をほとんどこうむってない。
・・・しかもこの顔付きからして、どこかの彩家の血が混じっている。
珀明の目は的確に見抜いていた。
「・・・どこの家の者だ?」
「・・・え?」
「彩家のどこかの家から追い出されたのだろう?
でないと、お前の才の理由が分からない」
・・・は少し黙った。
射ているところは合っている。
でも、恐らく彼の思っている色は出てこないだろう。
・・・すいません、紫家出身・・・。
「・・・良いとこついてるわね・・・。
少しそれについては黙秘させてもらうわ。いつか分かるから」
は寝台の上の心地よさには勝てなかったらしい。
目がとろんとしてきてそのまま眠りの世界に入ってきてしまった。
珀明はこの謎の少女にため息をついた。
起きたのはたっぷり正午を過ぎてからであった。
はとんでもないことをしてしまったと頭を抱えた。
しかし、過ぎてしまった時間は戻せない。
「・・・どうしよう・・・。
鳳珠様に冷たい目で見られちゃうよぅ・・・」
「鳳珠様・・・・?どちらですか?」
「・・・・・っ!?
影月君っ!?!?」
天幕をはさんで影月の顔がある。
・・・・というか、聞かれたーっっ!!
は、すぐに寝台から降りて影月の肩をつかむ。
幸い秀麗は起きていない。
「・・・ねぇ、今・・・何も聞いてないわよね?」
「・・・えっ・・・あ〜・・・えぇ・・・」
汗だくになりながら影月はうなづく。
は、兄譲りの笑顔で影月を見る。
「・・・どちら様なんですか?」
は一瞬躊躇いがちに迷ったが、影月に言っても何の影響もないはずだ。
「・・・私の・・・元主様です」
「・・・元?
さん・・・結婚していたのですか!?」
・・・・・『主様』を『夫』という意味でとられてしまいましたかっっ!!
は首が引きちぎれんばかりに横にふる。
鳳珠様が旦那なんて考えられない。むしろあの顔は奥さんだ。
「えっと・・・私が街で働いていた時、とある貴族さんの家で働いていたんですけど〜。
その親切な主さんが、私を推薦してくださったのです。
本当に助かりました」
「・・・黄・・・尚書ですか?」
墓穴堀まくり。
どうしようか・・・。
ここで関係に気づかれるわけにもいかない。彼に迷惑をかけることはしてはいけない。
「・・・影月君。土下座するから誰にも言わないで下さい」
「・・・いえいえ、そんなことする必要はないですよ〜。
別に他言しても僕は得するわけでもないですし。
・・・そうしたら、いい人ですね」
「・・・何故・・・そう思う?」
多分、影月は彼の姿も見たことないだろう。
なのに、何故そういうことができるのだろうか。
「だって、自分の元においてさんを守っているじゃないですか。
吏部と戸部は尚書さんが厳しくて絶対進士をいじめられないですし・・・
黄尚書は仕事熱心で、自分の仕事を邪魔されると大変なようで・・・。
さんの機転もありますが、仕事中にほとんど邪魔に合ったことはないでしょう?」
「・・・まぁ、そうね。
向こうでは徹底的無視されてるけど、邪魔されるよりはいいわよ。
でも、秀麗ちゃんのおかげで評判は微妙にだけど良くなっているから。
・・・私はただの生意気な女だけどね。
見ててつまんないと思うよ、嫌がらせやってる向こうは相当腹立てているようだし。
私は、それ見て面白がってるけどね」
それを聞いて流石の影月も返す言葉がなく苦笑い。
「・・・なんか、不思議な人ですね。さんは。
でも・・・もっと頼ってくれてもいいんですよ?」
「・・・?」
突然の影月の言葉にの方が首を傾げる方だった。
「さんはとても強いです。
誰の助けも借りずやっていけると思います。
・・・でも、支えあうのが人間ですよ」
「・・・そう・・・ねぇ・・・。
ありがとう、考えておくわ」
「考えておくんじゃなくて、頼ってください」
「そうね・・・。
では、私はその上司に声かけてくるから、秀麗ちゃん起きるまでいてあげて。
どうせ私の書類はたくさん積み重なってるから少しでも早く終わらせないと・・・。
じゃ、府庫でまってるから。」
「はい・・・分かりました。」
つかめない人、だと影月は思う。
龍蓮よりはまだ一般人だと思うが、それでもつかめない人。
風のように、物事に対してすり抜けていく。
でも、これだけは確実に分かった。彼女は上に行く。
は鳳珠に謝りに行ったが、何も言わず返してくれた。
その分の仕事が府庫に届いていることに気づいたのはその後のこと。
しかし、いつもこなしている量よりはるかに少なかった。
少し彼に感謝して、は府庫で黙々と仕事にかかった。
戸部の仕事を終えて、その分の書類を手初めに届けに行った。
奥からいかにも怪しげな集団がこちらを見ている。
私は、嫌な予感がしたが体力も回復しているのでそのまま歩いていった。
すると、五人が私の行く道を阻んだ。
・・・ゲッ・・・。
は内心叫んだ。
は頭二つ分大きい兵士を前に一歩引いてしまった。
顎にかかるくらいの大量の書類を抱えてきたわけで、とっさの動きに反応はできないだろう。
頭で色々めぐらすが、それより彼らの方が早かった。
「・・・何か御用ですか?」
とりあえず、無意味な単語を言ってみる。
おそらく、ここ数日自分に嫌がらせできなくてうっぷんもたまってきているのか・・・。
徹夜して仕事しなくていいのなら、夜に相手してあげても全く構わないのだが。
「・・・嬢ちゃん、俺達をなめるなよ」
「・・・何のことでしょう?」
ニコリと笑う。これも私の勝負道具。
「しらばっくれるのもいい加減にしろよっっ!!」
は首を横にかたげる。
ストと短剣が後ろの壁に刺さる。
はこの声には外見だけでビビッて内心危険信号を発していた。
・・・どう逃げようか。
傍から見れば、イジメ現場。
からみれば、立派なセクハラ。
・・・上官になった暁にはセクハラ禁止法を出そうと誓った。
もう一歩下がった瞬間、誰かの足に躓いた。
書類が一気に壁側にずれる。
それと一緒に体の体重がずれていく。
「・・・やべっ」
倒れ掛かった方向には超高級な壷が。自家金ン万両だろう。
それも自分と一緒に床に向かってまっしぐらである。
しかも、花が活けてあり水もたっぷり。これをかぶったら水浸し確実。
まわりの兵士達もこれには顔面蒼白。
・・・そして別のところに視線を移した瞬間余計に顔が青くなった。
は書類を足元に落とし、壷を抱えた。
「・・・うっ・・・わっっ、重いっっ」
は壺の重みに耐え切れずよろめいた。
そして、後ろにいた人にぶつかった。
その勢いで後ろの人ごと押し倒す。
思い切り水が床に広がる。
が必死に壷を抱えてそのまま蹲まっていた。
そして、壷をみて、かけてないことに気づきほっと安堵した。
体を起きあげると、ふと、見慣れた人が水浸しになっていた。
は主に胸から上の方が濡れているのだが、押し倒してしまった人はより状況が悪い。
冗談ではなく、泥団子より性質が悪かった。
は内心絶叫した。
兵士かと思ってぶつかった人は、なんと吏部侍朗様だったのである。
はすぐに避け、壷を元に戻し絳攸に駆け寄る。
もう兵士どころの話じゃない。
「・・・申し訳ありませんっっ!!吏部侍朗様っっ。」
頭を打ったらしく呻いている絳攸。
は激しく戸惑った。これで障害にでもなれば、彼の上司に命をとられてしまう。
「・・・いたた・・・」
思いきり頭をぶつけたらしく『鉄壁の理性』の仮面は付けていられない様子である。
は懐から手巾を出して絳攸に差し出す。
絳攸は驚いて、とりあえずハンカチを受け取る。
絳攸に何も言う間を与えず、は先手を言ってきた。
「大丈夫ですか?すぐに医務室に・・・。
・・・それより着替えですね。お待ちください」
は自分のことも構わず走り出した。
というか、服はどこから持ってくるつもりだろう。という疑問のほうが先に来た。
兵士のほうは顔を見られないうちにとっとと退散したらしい。
絳攸はため息をついた。
から借りた手巾で顔を拭く。
かばうつもりが、とんでもないことになってしまった。
しかし、未だにがつかめない。
あんな大男五人に囲まれても全くひるむ様子を見せないに絳攸はまた違和感を覚える。
・・・・彼女は何者だ。
しかし、秀麗以上に危ない状態でかばいに来たのはいいが、予想もしない事態になってしまった。
後ろで様子をこっそりみていた王様と楸瑛は開いた口が塞がらなかった。
「・・・押し倒されるのは羨ましいけど、これは私がでていかなくてよかった」
ふと、殺気を感じた楸瑛だが気のせいだろう。
そう思い絳攸の方をみたが、実はその前にいる劉輝から殺気が出ていたことは知るよしもない。
「・・・それにしても・・・あの態度は危険だね」
「うむ・・・しかしあれは元々あんな性格・・・」
元々上にいた立場の人なので、自分が決めた相手以外には、服従しようとしない。
これは、官吏として非常にまずい。
の姓は彩七家にも属していない。
「主上?」
『・・・・・・・・・・・・。』
やがて、は走りながらこちらにやってくる。
「申し訳ございません。これにお着替えください・・・。
風邪引いてしまえば元もこもありません。
ここは今すぐ片づけますので・・・。
・・・何か・・・?」
の顔をじっと見たまま何も言わない絳攸に疑問を持ったらしい。
絳攸は我に帰って返事をする。
「・・・いや、ありがとう・・・」
絳攸は短く、いって去っていった。
ふと思ったが、上官が進士に礼を言っていいものなのだろうか?
絳攸も少しは動揺も合ったようだが・・・彼にしてはかなりの失敗だ。
・・・もしかして頭ぶつけて少しヤバイのかも。
書類を拾っては首をかしげながら掃除道具を取りにその場を去った。
絳攸はぼーっとして廊下を歩んでいた。
「・・・絳攸?どうした・・・?
大丈夫か?」
振り向くと王と楸瑛の姿があった。
「大変だったねぇ。
それにしても君に何も言わせないあの素早さと機転の良さ。
・・・あれは、かなりできるね」
「・・・あぁ・・・・。
本当に何者だ」
ちらりと王の目をみるが何故か王は目を合わせようとはしない。
彼女の存在は未だに謎のまま。
「・・・遅くなりました。」
戸部に入ってきたのは、濡れたままの。
その姿には流石に戸部官吏全員が驚いた。
流石に無視は出来なかった。
きっと嫌がらせをうけたことは容易にわかるが、これはかなり酷くないだろうか。
しかし、本人は何食わぬ顔で書類を置いていった。
「茈です。戸部への書類を置いておきます」
一応扉を叩いては尚書室に入っていった。
しかし、その部屋の中には誰もいない。
彼女の入っていった後、真面目で私語の少ない官吏たちもそれには話さずに入られなかった。
「・・・なぁ、あれは流石にやりすぎではないか?」
「上司が見るとただじゃすまされないぜ」
「茈官吏は俺達よりはるかに仕事速度が速い。
・・・あの子に入ってもらえば戸部も安泰なんだがなぁ」
「結構うちの上司も気に入っているようだしな」
上司といっても柚梨のほうだが。奇人は仮面を被っているゆえ分からない。
「正直いって、あの子なら入ってもいいと思うぜ」
「俺も俺も。
あの紅進士ってのも、探花ってのも納得がいく・・・・。
・・・ヤバ、上司・・・」
が扉を開けようとしたとき、向こうから扉が勝手に開いてきた。
一緒に戸部を留守にしていた奇人と柚梨が帰ってきたのである。
そこで、室は一気に静まり返った。
は突然入ってきた二人に驚き、二人もの格好に驚いた。
「・・・あ・・・・」
思わず、声を出しかけた柚梨を鳳珠は止める。
ここで心配してしまえば、彼女の立場が悪くなってしまう。
裏では、霄太師や王も関わっているが、表向きは黄尚書が後見をしている。
ここで親しく接してしまったら、自分が彼女に裏を回していると悟られてしまう。
既に酷く噂になっているというのに。
は、はっと我に返り急いで礼をしてその場をさった。
『・・・・・・。』
柚梨はピリピリしてきた上司の雰囲気に気づいた。
・・・怒っている・・・。いや、怒っているというより、切れているといったほうがいいかもしれない。
さっさと、鳳珠は尚書室に入って秀麗たちの元に回した資料を見る。
柚梨が続けて入ったときには、彼の怒りはこれまでほとんど体験したことないものとなっていた。
一緒にいるだけで正直怖い。
珍しく彼は仮面をとり、その怒気たっぷりの美しい顔をさらけ出す。
書類をぐしゃりと握りつぶして彼は言った。
「・・・あのクソハゲ・・・・。
・・・黎深が鬘引っ剥がすだけで許してやっていったが・・・
公資金・・・使うだけ使っておいた挙句に・・・」
一応、自分もあのアホのお陰で魯官吏の嫌味にも助けられたということで(魯官吏は尊敬はしているがやはり嫌味自体は許せなかったらしい)大目には見ていてやったが。
今回は、ほっておいたのが間違いだった。
「・・・潰す」
柚梨は生きた心地がしなかった。
夜、珀明も手伝ってくれたお陰で仕事もかなり速く終わった。
すぐに書類を届けて、残った時間休もうと思っていたは誰もいない朝廷の廊下を走っていた。
別に注意する人はいなく、気にすることもない。
ふと庭に月の光が当たっているのに気づく。
何年たってもこの庭は綺麗。
「・・・・あれ?」
庭にいる人影が一つ。
月明かりに照らされているのは、見知った顔だった。
というか、今日水をぶちまけてしまった人物。
とりあえず、謝罪は改めてしようと思っていたのでは絳攸の元に向かった。
さく、さくと草を踏み分ける音だけが静寂の中響く。
良くここは兄と一緒に走り回っていた思い出がある。
夜にあまり良い思いではないが、今日は見事に綺麗な月だった。
「・・・か・・・」
思わず名前で呼んでしまった。
相当自分もきているみたいだ。
は深く礼をした。
「先ほどは大変失礼いたしました。
深くお詫びをさせていただきます」
礼部が雇ったと思われる兵士はまだ何も言いにこない。
たいした奴だ。と思う。
少し生意気な面をもつが、礼儀はしっかりしている。
「・・・いかがなされましたか?」
絳攸は鉄壁の理性と称される顔がに向けられる。
それに臆することなくは微笑を浮かべる。
何を言われても、何をされてもその微笑は変わらない。
「・・・お前には関係のないことだ」
「・・・そうでございますね。失礼いたしました」
では、と退散しようとまた礼をしたところに絳攸から問いが投げかけられた。
「お前・・・何者だ」
「・・・その問いには・・・
・・・申し訳ないですが、吏部侍朗様といえど言うわけにはまいりません」
絳攸の眉が動く。
さらりと、銀の髪がさらり落ちる。
「・・・何故」
「何も考える必要はありません。
いずれ・・・分かります。というか明かすつもりですので」
「そうか・・・・」
「絳攸様」
「・・・・・・・・・。」
絳攸はを見る。
間。
「なんだ?」
「・・・無理はいけません。
たまにはその仮面・・・外してみてはいかがですか?
自分を追い詰めてはいけません。
・・・今の貴方は脆く、そして崩れやすい」
天才というのにも二種類がある。
黎深や龍蓮といったような真性の天才。
そして影月のような努力をし尽くしてきた天才。
絳攸ももその部類に入る。
けして真性の天才ではない。只人である。
故に努力で作り上げてきた外の殻は金剛石よりも固いが中身はつけば一瞬にしてボロボロになってしまう。
「・・・それはお前もだろう」
無意識に彼女の髪に手を伸ばした。
水を素で被り、適当に拭いただけの彼女の髪は少しざらついている。
矜持の高そうなにとっては多分、耐え難い屈辱。
しかし彼女はそれを笑って見せる。
強い殻でも内面から侵食していけばいずれ割れる。
すっとの頬に一筋の涙が流れた。
絳攸はそれにぎょっとする。最近女に泣かれてばかりだ。
は絳攸の顔を見るまで泣いていることに気づかなかった。
すぐに下を向く。
物心ついたときから心に誓っていた。
母はどんなことがあってもけして涙を見せない人だった。
そして彼女は私にいつも言っていた。
『何があっても強く生きなさい』
涙を流さないことが強く生きることだとは思わない。
しかし、私は結局具体的なことが分からずそう決めた。
だから、最愛の兄と別れることになっても、母が死んだ時も泣かないできたのに。
こんなに簡単なことで・・・。
「・・・申し訳ありません・・・見苦しいところを・・・」
ふと手巾を探ろうとしたら絳攸に貸してしまったことを思い出す。
・・・最悪。
絳攸自身も焦ってとりあえず、を落ち着けようと考えるが、何も思いつかない。
こういうときに、某公子や楸瑛、この際王でも羨ましい。
思わずを抱きしめた。
「おっ・・・俺は何も見てない・・・から・・・」
「・・・・・・。」
絳攸の気持ちが凄く嬉しかった。
彼には悪いが、涙は止まる気配をみせない。
彼女には彼の涙は見えていなかった。
落ちついては絳攸にまた深く礼をした。
「・・・絳攸様。
・・・いつか貴方に追いつきます」
「・・・え・・・?」
「では、お休みなさいませ」
また同じ微笑では帰っていった。
李の花がはらりと落ちた。
そして絳攸は後ろを振り返る。
・・・殺気を感じたのは気のせいだろうか。
「・・・絳攸か・・・。
まぁ、少しくらいは・・・いいか」
『少しくらい』だが。
王室から実はバレバレだった朝廷の庭。
劉輝は中庭をみてフンと鼻を鳴らす。
可愛い妹に手を出され、かなりご立腹な王様である。
これが自分の知らない官吏だったら即行その場にいって邪魔していたところだ。
・・・嫌がらせも減ってきてはいるが内容はエスカレートしている。
また庭に目をやると動く人影を見た。
劉輝はその人物を見て少し目を丸くした。
そして、柔らかく笑った。
「・・・・兄上・・・・」
やはりシスコンはどこでも一緒であった。
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